核情報

2007.8.23

安倍首相、米印原子力協力支持保留──地方9月議会での意見書の重要性

8月22日にインドのマンモハン・シン・インド首相と会談した安倍晋三首相が、米印原子力協力協定の支持を保留したと報じられています。しかし、協定に反対の立場を表明したわけではありません。インドの核実験実施の権利を実質的に認めた内容の協定が今秋ウイーンで予定されている「原子力供給国グループ(NSG)」の「協議グループ」会合で承認されてしまわないように、政府に働きかけて行くことが必要です。その意味で、各地の9月議会で「南アジアの核軍拡競争を防ぐため原子力供給国グループ(NSG)での慎重な議論を求める意見書」が多数採択されるかどうかは重要な鍵となります。

8月22日に両首脳の発表した「新次元における日印戦略的グローバル・パートナーシップのロードマップに関する共同声明」は、次のように述べています。

民生用原子力協力(外務省仮訳)

両首脳は、原子力エネルギーが地球規模で増大するエネルギー需要に対応するための安全かつ持続可能な汚染のないエネルギー源として重要な役割を果たしうるという認識を共有した。両首脳は、適切な国際原子力機関(IAEA)保障措置の下における、インドに関する国際的な民生用原子力協力の枠組みに関する、関連する国際的な場における建設的な議論への期待を表明した。

声明は、協定の支持表明はしていませんが、IAEAとの保障措置協定交渉さえ終われば、協定を支持するとも読める内容です。各地の協定批判の声を政府に届けてください。

2月議会用の意見書・陳情書案を9月議会用に修正した意見書陳情書案と「意見書背景説明」とを下に載せてありますので、ご活用ください。

これまで、以下の議会が意見書を採択しています。

参考:

南アジアの核軍拡競争を防ぐため原子力供給国グループ(NSG)での慎重な議論を求める意見書(案)


南アジアの核軍拡競争を防ぐため原子力供給国グループ(NSG)での慎重な議論を求める意見書(案)

米印両国が去る7月20日に合意した「米印原子力協力協定」は、核不拡散条約(NPT)に加盟せず、核実験を行い核兵器計画を進めているインドに対し米国が原子力関連輸出を行うことを宣言しています。しかも、協定文は、インドの将来の核実験が直ちに協力停止に繋がるとしておらず、実験が「安全保障環境の変化についての深刻な懸念から、あるいは、国家安全保障に影響を与える他の諸国の同様の行為への対応として、生じたものかどうかを考慮することに[両国は]同意する」と述べ、核実験を容認する内容となっています。

この協力が実施されると、印パの核軍拡競争に拍車がかかる可能性があると懸念されています。米印の協力が実施されるには、日本も加盟している原子力供給国グループ(45ヶ国)による規則の変更が必要ですから、国際的にも被爆国日本の立場が注目されています。

外務省のホームページの説明にあるとおり、NSGは、「1974年のインドの核実験(IAEA保障措置下にあるカナダ製研究用原子炉から得た使用済み燃料を再処理して得たプルトニウムを使用)を契機に設立された」ものです。NSGは、米国が中心になって設立されたグループですが、その決定は、コンセンサスで行われます。また、日本は原子力先進国であるとだけでなく、「我が国の在ウィーン国際機関日本政府代表部がNSGの事務局機能としてのポイント・オブ・コンタクト(Point of Contact: POC)役割を担っている」(外務省)ことからも、日本がどのような立場をとるかは重要な意味を持ちます。

国連安全保障理事会は、1998年に印パ両国が核実験を行った際、決議1172号(1998年6月6日)を全会一致で採択し、インド及びパキスタンに対し、「ただちにその核兵器開発計画を中止」するよう要求すると同時に「核兵器用の核分裂性物質のすべての生産を中止する」よう求めています。決議はまた、「すべての国に対し、インド及びパキスタンの核兵器計画に何らかの形で資する可能性のある設備、物質及び関連技術の輸出を防止するよう奨励」しています。

日本はこれまで核被爆国として核兵器の不拡散と廃絶を率先して求めてきました。そのような意味からも、NSGにおいて、その設立の主旨、1998年の国連安全保障理事会の決議などを考慮して、慎重な議論を主導することが日本の国際的な使命と言えます。

よって、○○議会は核廃絶をこれ以上困難なものにしないためにも、南アジアの核軍拡競争を防ぐべく、原子力供給国グループ(NSG)での慎重な議論を主導するよう求めます。

○○市(町・村・区)は「非核都市の宣言」を行っており、その意味から、日本の原子力関連産業も関わる可能性のある対インド原子力関連輸出について慎重を期すよう要請するのは当然の義務と考えます。

 以上、地方自治法第99条の規定に基づき意見書を提出する。

○○議会議長

 提出先 内閣総理大臣、外務大臣 あて



南アジアの核軍拡競争を防ぐため原子力供給国グループ(NSG)での慎重な議論を求める陳情

○○議会議長 様

2007年○月○日

 住所

 氏名

主旨

核不拡散条約(NPT)に加盟せず、核実験を行い核兵器計画を進めているインドに対する原子力関連輸出を認めるための議論が原子力供給国グループ(NSG)で予定されている件について、南アジアの核軍拡競争を防ぐためにグループ内での慎重な議論を求める意見書を国に提出してください。

理由

米印両国が去る7月20日に合意した「米印原子力協力協定」は、核不拡散条約(NPT)に加盟せず、核実験を行い核兵器計画を進めているインドに対し米国が原子力関連輸出を行うことを宣言しています。しかも、協定文は、インドの将来の核実験が直ちに協力停止に繋がるとしておらず、実験が「安全保障環境の変化についての深刻な懸念から、あるいは、国家安全保障に影響を与える他の諸国の同様の行為への対応として、生じたものかどうかを考慮することに[両国は]同意する」と述べ、核実験を容認する内容となっています。

この協力が実施されると、印パの核軍拡競争に拍車がかかる可能性があると懸念されています。米印の協力が実施されるには、日本も加盟している原子力供給国グループ(45ヶ国)による規則の変更が必要ですから、国際的にも被爆国日本の立場が注目されています。

外務省のホームページの説明にあるとおり、NSGは、「1974年のインドの核実験(IAEA保障措置下にあるカナダ製研究用原子炉から得た使用済み燃料を再処理して得たプルトニウムを使用)を契機に設立された」ものです。NSGは、米国が中心になって設立されたグループですが、その決定は、コンセンサスで行われます。また、日本は原子力先進国であるとだけでなく、「我が国の在ウィーン国際機関日本政府代表部がNSGの事務局機能としてのポイント・オブ・コンタクト(Point of Contact: POC)役割を担っている」(外務省)ことからも、日本がどのような立場をとるかは重要な意味を持ちます。

国連安全保障理事会は、1998年に印パ両国が核実験を行った際、決議1172号(1998年6月6日)を全会一致で採択し、インド及びパキスタンに対し、「ただちにその核兵器開発計画を中止」するよう要求すると同時に「核兵器用の核分裂性物質のすべての生産を中止する」よう求めています。決議はまた、「すべての国に対し、インド及びパキスタンの核兵器計画に何らかの形で資する可能性のある設備、物質及び関連技術の輸出を防止するよう奨励」しています。

日本はこれまで核被爆国として核兵器の不拡散と廃絶を率先して求めてきました。そのような意味からも、NSGにおいて、その設立の主旨、1998年の国連安全保障理事会の決議などを考慮して、慎重な議論を主導することが日本の国際的な使命と言えます。

よって、南アジアの核軍拡競争を防ぐため原子力供給国グループ(NSG)での慎重な議論を求める意見書を内閣総理大臣及び外務大臣あてに提出されるよう陳情いたします。



意見書背景説明

米印両政府は、8月3日、米印原子力協力協定の全文を発表しました。予想通り、インド側の主張に大幅に譲歩したもので、核実験・核爆発という言葉は登場しませんが、協定は、インドが核実験を行うことを認めるととれる内容となっています。これは昨年12月に議会が定めた米印原子力協力法の規定を無視するものです。

米国原子力法(AEA)」は、核不拡散条約(NPT)の規定する核保有国以外の国(=非核保有国)が、原子力活動全てを国際原子力機関(IAEA)の保障措置下に置いていない場合には、その国との原子力協力を許さないと定めています。2006年米印原子力協力法は、この輸出規制において、インドだけを例外扱いにしようというものです。その法律が、インドが次に核実験を行った場合には協力は終了するとしています。5月14日に米国の14人の専門家が米国の上下両院の議員に対し出した書簡は「いかなる誤解も残らないようにするために、米印原子力協力協定は、インドによる核実験の再開は、米国の原子力援助の終焉をもたらすと明確に述べなければならない。」と訴えていました。

ところが、発表された協定文では、核実験・核爆発という言葉を避けながら、協定を終了させるには1年前の通告が必要であり、終了を求める原因となる行為(核実験)が安全保障状況や他国(パキスタン・中国?)の行為(実験)に対する反応であるかどうかを考慮すべきであるとし、さらに、協力を終了させる行為は両国の関係に重要な影響を与えることを考慮すべきである強調する内容となっています。

協定文には、その上、核実験を行った結果として米国が核燃料供給を中止する措置をとった際には、米国は他の国に働きかけて燃料を供給するようにすると解釈できる文言も入っています。そして、核実験に対する制裁措置として燃料供給が途絶える場合に備えて、核燃料の戦略的備蓄措置をとることを米国が支持すると解釈できる文言もあります。

燃料供給などの面での米国の協力と引き替えにインドが3月2日に約束したのは、基本的に、22基の運転中及び建設中の原発のうち14基を国際原子力機関(IAEA)の保障措置下に置くということだけです。しかも、6基は外国製であるため元々保障措置が義務づけられているものです。つまり、国産原子炉16基のうち、半分の8基だけを2014年までに保障措置下に置くというのが、インドの「譲歩」の中身です。軍事用プルトニウム生産炉に加えて、国産の残りの8基は、保障措置の対象とせず、軍事用のプルトニウム生産に使う可能性を残し、新たに建設される原発については、保障措置下に置くかどうかインドが好きなように決める、高速増殖炉は、保障措置下に置かないということになっています。発電用のウランの供給について心配がなくなれば、インドは限界のある自国のウラン資源を核兵器用だけに使うことができるようになり、それが核兵器の増強を促すことになる恐れがあります。

協定は、インド限定の保障措置協定を結ぶとしていますが、その内容は不明です。インドが核実験をした結果、核燃料の供給が途絶えた際には、民生用原子炉を保障措置から外すことを認める内容の保障措置協定をインドは望んでいると伝えられています。そもそも、NPTに加盟せず、包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名もせず、核兵器用の核分裂性物資の生産を続けている国の一部の原発だけ保障措置下に置くということ自体がほとんど意味が無く、IAEAの労力・資金の無駄遣いとさえいえますが、インドの要求をそのまま認める保障措置となれば、保障措置という言葉にまったく値しないものとなるでしょう。CTBTの批准を拒否している米国としてはあまり大きなことは言えないでしょうが、自らもCTBTを批准すると共にインドにもCTBTの署名・批准、核兵器用核分裂性物質の生産中止を迫ることが先決でしょう。

協定が発効するには、インドと国際原子力機関(IAEA)の間の保障措置協定の締結、日本も含めた「原子力供給国グループ(NSG)」の規則の変更、米国上下両院での支持決議などが必要です。インドの側では、インドの核開発に反対する立場、米国との戦略的パートナーシップに反対し外交の独立性を求める立場から協定反対の声も上がっています。従って、今のままの協定文が短期間のうちにすんなり発効することになるというわけではありませんが、今秋にウイーンで予定されているNSG「協議グループ」の会合に向けて日本政府が正しい判断をするよう働きかけていく必要があります。


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