核情報

2019.10. 7

「仏高速炉死んだ」報道─日本の再処理・高速炉計画は?


アストリッド計画中止を伝えるル・モンド紙スクープ記事 (電子版)
(挿絵 「原子力庁:将来計画埋設処分場。立入禁止」)

仏ルモンド紙が8月29日付電子版で、仏原子力庁(CEA)、第4世代原子炉の高速炉ASTRID(アストリッド)計画放棄と報じました。現行の予備計画完成作業は年内継続も、建設は短中期的に予定しておらず、25名編成の計画統括室もこの春閉鎖されたとのことです。日本政府は2016年12月に、プルトニウムを燃やしながら使った以上のプルトニウムを燃えないウラン(ウラン238)から生み出すナトリウム冷却「高速増殖炉」の原型炉もんじゅの放棄を決定した際に、ASTRIDなどの「データ蓄積等により、今後もんじゅを再開した場合と同様の知見の獲得を図る」としていました。その頼みの綱が、「要するに、ASTRIDは死んだ。もう資金もエネルギーも使わないということだ」(CEA関係者)となると、日本の再処理・高速(増殖)炉計画はどうなるのでしょうか?

増やす夢から減らす夢へ

高速増殖炉は急速な原子力利用の伸びでウラン枯渇との想定の下、1967年には昭和60年代初期の経済性達成が期待されました。普通の原発の使用済み燃料の再処理は、増殖炉の初期装荷燃料を提供するためのものでした。ところが、枯渇が起きず、増殖炉計画は技術的にも難しくて頓挫。他国が増殖炉計画から撤退する中、日本は、英仏への再処理委託や国内での再処理を続けた結果、2018年末現在で約46トンのプルトニウムを抱えています。国際原子力機関(IAEA)の数え方で核兵器5750発分。ウランと混ぜて「混合酸化物(MOX)燃料」にし、これを軽水炉で燃やすという不経済なプルサーマル計画も遅れ続け、福島第一原発の事故後、再稼働された9基のうち、MOX利用許可を得ているのは4基だけで、その年間消費量は約2トン。一方、20年初頭に運転開始予定の六ヶ所再処理工場は、本格運転では年間約7トンのプルトニウムを分離する計画です。
 1995年のナトリム漏れ・火災事故以来まともな運転の出来ていないもんじゅの廃炉が議論される中、推進派は廃棄物の減容・無毒化のためにもんじゅが使えると強調し始めました。同炉の高速中性子は、プルトニウムなどの長寿命の超ウラン元素を核変換する(核分裂させて短寿命の核種に変える)のに都合がいいとの主張です。2014年2月のエネルギー基本計画では増殖の文字が消え「高速炉」となります。2015年11月2日、原子力規制委員会の更田豊志委員長代理(当時)は、プルトニウム以外の超ウラン元素を燃やすのはペレット1個作るだけでも大変で、すぐにもできそうなことを言うのは「誇大広告と呼ぶべき」と批判しました。同月13日、原子力規制委は、運転主体の原子力研究開機構はもんじゅの安全運転に必要な資質を有せずと宣告します。

再処理政策正当化に必要な高速炉計画続行の虚構

政府は、再処理で生じる高レベル廃棄物の方が、処分場にそのまま「直接処分」する使用済み燃料より体積が小さいと言いますが、処分場での必要な容積を規定するのは発熱量です。使用済みMOX燃料は発熱量が大きく、これを地下処分するとなると、再処理路線に必要な処分場の容積は直接処分と比べ減りません。それで経産省は使用済みMOX燃料を第二再処理工場で再処理し、分離したプルトニウムは高速炉で燃やすと主張しています。再処理継続には高速炉計画続行という虚構が必要という構造です。

減らす夢のホープASTRID?

ASTRID(工業的実証用改良型ナトリウム技術炉)の起源は、1991年の放射性廃棄物関連法にあります。同法は、長寿命放射性核種の「分離・核変換」について研究し、遅くとも2006年までに報告せよと定めています。これを受けた06年「放射性廃棄物等管理計画法」には、現在の軽水炉に変わる新[第4]世代の原子炉と、廃棄物核変換専用「加速器駆動炉」の工業的展望について12年に評価し、20年末までにプロトタイプ(原型)施設の運転を開始とあります。
 2010~12年にASTRIDの予備概念設計作業を進めたCEAは、期限の12年末、「工業用実証」用プロトタイプ(原型)として電気出力60万kWのASTRID建設を提唱しました(12年3月の計画では19年に建設可否を決定)。実用炉の一つ前の実証炉という触れ込みのスーパーフェニックス(電気出力120万kW)が技術的問題で1998年に運転終了となって以来巻き返しを狙っていたナトリウム冷却炉推進派が廃棄物対策への関心を利用した格好です。

増やすべきか減らすべきか、それが問題だ

この流れの中で、ASTRIDは、使用済み燃料から取り出したウランとプルトニウムを有効に使う炉として喧伝されます。再処理で取出したプルトニウムを燃やし、それと同じ量のプルトニウムを再処理で取出した燃えないウランから生み出す方式で運転する。これを繰り返しできるのだという主張です。そして、ナトリウム冷却高速炉は、将来の状況により、プルトニウムを増やす増殖炉としても、プルトニウムを減らす「燃焼炉」としても運転できる自由自在の炉だとされます。
 プルトニウム以外の長寿命放射性核種(超ウラン元素)の「分離・核変換」という当初の話は、将来の高速炉サイクルのための研究をするというだけのものになっていきました。更田委員長代理(現委員長)の言う通り誇大広告だったのです。
 そして、「枯渇が起きず、増殖炉計画は技術的にも難しくて頓挫」という前述の状況が新しいうたい文句で変わるわけもなく、ASTRIDも延期、縮小、死亡という運命をたどったというのが事の顛末です。

「すでに死んでいる!」状況で麻痺した感覚?

「死んだ」報道について、2013~19年度に累積300億円以上の様々な協力名目の費用を計上してきた日本での反応はぱっとしません。記者諸氏によると、経済産業省は、報道に新しい情報はないと主張しているようです。確かに日経は、昨年11月に仏政府はASTRID凍結方針を日本に伝えたと報じていました。同12月に発表された「高速炉開発戦略ロードマップ」もASTRID凍結・死亡を前提にした内容です。しかし、日経報道の翌日、菅義偉菅官房長官は承知していないと報道内容を否定しました。今になってすべて知っていたとする経産省。
 そもそも2019年までしかついていなかった仏予算、度重なる遅延・縮小など、以前から「ASTRID、お前はすでに死んでいる!」という状況でした。今さら死んだと言われても報道機関も、反核・反原発運動も、政治家も盛り上がらないということでしょうか。その一方で必要性・経済性からいうと「死んでいる」はずの六ヶ所再処理工場の運転を開始しようとする政府・電力業界の方針は不問にされたままになるのでしょうか。その論理的根拠をなすはずの高速炉の新しい「夢」の現実が突きつけられているにもかかわらず。

もんじゅがなければASTRIDがあるさ略年表


2016年10月
CEA側、日本の会議でASTRID運転開始は30年代予定と説明
12月
日本政府、ASTRID頼みの論理でもんじゅ廃炉を決定
2018年1月
仏経済紙、CEAがASTRIDの電気出力縮小(60万kWから10~20万kWに)を仏政府に伝え、政府は2018年中に予定延期を含め決定すると報じる。
6月
日本の会議でCEA側が同様の縮小内容を伝え、詳細設計に進むか否かは24年に確認、と説明。前年のフランス電力(EDF)よる60年以前にはナトリウム冷却高速炉に投資しないとの決定が背景にあり、ウラン市場の状況から「それほど緊急ではない」とも。
11月28日
日経、仏政府が2020年以降計画凍結の方針を日本側に伝えた、仏政府は20年以降は予算を付けない意向、と報道
11月29日
菅官房長官、承知していないと日経報道内容を否定
12月20日
電事連、12月4日付の現地紙によるとCEAが日経報道を否定との記事掲載
12月21日
日本政府「高速炉開発戦略ロードマップ」、もんじゅの後継炉はナトリム冷却炉以外も検討し、24年以降に選択肢を絞り込む方針示す。仏米との二国間協力言及もASTRIDは登場せず。ASTRIDがなければ米「多目的試験炉(VTR)」(概念設計段階)があるさ?
2019年2月
仏多年次エネルギー計画(EPP):「少なくとも21世紀後半まで、高速炉の実証炉及び実用化は有用ではない」
6月26日
日仏の高速炉協力に関する合意(2020~24年)、ASTRIDの建設に言及なし
8月29日
ルモンド紙の「ASTRIDは死んだ」報道
8月30日
CEA、ルモンドの記事内容を否定し「今年中に20年以降の第4世代原子炉の修正計画提示」と発表
9月
経産省来年度予算に日仏高速炉共同開発の概算要求なしとの報道

参考

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