核情報

2019. 5.28

政府、高速炉開発の10年計画発表―夢破れてなお

もんじゅ廃炉決定2周年の2018年12月21日

ナトリウム冷却高速増殖炉の原型炉もんじゅが約20年間ほとんど動かないまま廃炉決定となってから2年目の昨年末、高速炉開発会議(議長:世耕弘成経済産業大臣)が今後10年程度の高速炉開発作業についての「戦略ロードマップ」案を発表し、それが原子力関係閣僚会議で決定されました。まさに廃炉決定2周年の12月21日のことでした。いまだに高速炉?との驚きの声がありますが、実は廃炉決定は、もんじゅがなくてもこの型の炉の開発は続けられるとの結論を用意してのことでした。以下、流れを概観し、年表形式でまとめた後、関連資料集を載せておきます。

古い夢から新しい夢へ

普通の原子炉(軽水炉)の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、これを燃やしながら増やす「高速(中性子)増殖炉」は、急速な原子力利用の拡大によるウラン枯渇に備えるための夢でした。ところが、ウラン枯渇は起きそうにないし、もんじゅ廃炉を迫られる。それで、取り扱いの厄介なプルトニウムなどを効率よく燃やす高速炉として同じ技術が役立つ、仏「ASTRID(工業利用のための先進ナトリウム技術実証炉)」計画に加われば、もんじゅがなくとも原型炉の次の段階の「実証炉」建設に進めるとの結論が用意されます。

元の夢が破れても再処理を続ける計画の経産省は、六ヶ所再処理工場で取出したプルトニウムを軽水炉で利用した後の使用済み燃料を第二再処理工場で再処理し、そこで取り出したプルトニウムは高速炉で燃やす、と主張しています。だから、再処理政策継続の正当化のためには高速炉計画の話が必要なのです。

「増殖」を外した「開発計画」策定

2016年末に、もんじゅ廃炉を決定しても高速炉開発が可能との結論を用意した高速炉開発会議が、今回、「戦略ロードマップ」案を出したという流れです。同会議の設置を決めたのは原子力関係閣僚会議。2016年9月のことです。閣僚会議は、同年12月21日にもんじゅ廃炉の決定を行うに当たって、高速炉開発会議の下に「戦略ワーキングループ(WG)」を設置して、18年末までに10年計画を策定すると発表していました。

ただし、2018年になって仏側がASTRID縮小・延期を決定(2018年6月1日第10回戦略WG会合での仏説明)、さらに仏計画凍結との報道もあったため、12月3日に戦略WGが発表した「戦略ロードマップ骨子」案でも、12月21日に原子力関係閣僚会議が決定した「戦略ロードマップ」でも、ASTRIDは登場しません。「フランスや米国等との二国間及び多国間でのネットワークを活用した国際協力」が謳われているだけです。

また、もんじゅ・ASTRID型のナトリウム冷却炉の開発で決まり、という形にはならず、5年程度は多様な技術間競争をさせ、2024年以降に選択技術の絞り込みという計画となりました。このスケジュールの根拠は、高速炉の本格的利用が期待されるのが21世紀後半と予想すると、21世紀半ば頃現実的なスケールの高速炉運転開始が期待されるというものです。2025年頃にどの技術を選択するか決めればこの「期待」に間に合うというストーリーのようです。

これは、もんじゅの主要機器を製造した三菱重工業が2018年11月2日の第14回WGで示した「今後の進め方」に沿ったものです。下の資料集にあるように、同社は「2024年頃まで 柔軟性を持った対応」、その後(2025年頃?から)「設計・建設」、2040年頃「実証炉運転」、そして、「実用炉初期段階」、「商業炉導入」という絵を描いています。

釘を刺す河野外務大臣

なお、12月21日の閣僚会議では、河野太郎外務大臣が、「国際社会に対して説明していく立場から」「ロードマップの趣旨は、決して将来の高速炉の実用化等を予断することなく、当面10年程度は研究開発に徹するものと理解」するとし、「プルトニウムは削減する必要があること」、「多額の税金を投入した『もんじゅ』の反省を真摯に踏まえることが大前提」であると釘を刺しているのが特筆に値します。日本の市民がこれを活かせるかどうか、外国からも注目される点です。

略年表

2013年12月13日
「原子力関係閣僚会議」設置
2015年11月13日
原子力規制委が原子力研究開発機構はもんじゅ運転の資質がないと宣言
2016年 9月21日
原子力関係閣僚会議、もんじゅ決定年内、「高速炉開発会議」設置方針発表
2016年10月 7日
高速炉開発会議 第1回開催
2016年12月19日
高速炉開発会議、もんじゅ廃炉方針をASTRID協力などで正当化。
2016年12月21日
原子力関係閣僚会議、もんじゅ廃炉と高速炉開発「戦略ワーキンググループ(WG)」設置を決定
2018年12月 3日
戦略WG、「戦略ロードマップ骨子」案発表
2018年12月18日
戦略WG、「戦略ロードマップ」案発表。高速炉開発会議に提示へ
2018年12月20日
高速炉開発会議、「戦略ロードマップ」案正式とりまとめ。閣僚会議に提示へ
2018年12月21日
原子力関係閣僚会議「戦略ロードマップ」、案の通り決定

原子力関係閣僚会議の流れ

高速炉開発会議の流れ

2016年10月7日 第1回(上記閣僚会議で設置決定)
目的:「資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、核燃料サイクルの推進」との方針の下「高速炉開発方針案の検討・策定作業を行う。」
構成員:経済産業大臣、文部科学大臣、原子力研究開発機構理事長、電気事業連合会会長、三菱重工社長(すべて、もんじゅの失敗をもたらした当事者)
2016年10月27日 第2回
仏説明:「ASTRIDは工業規模(60万kW)の第4世代炉の実証炉(商用炉の前段階)であり、安全性能・運転性能における革新技術を実証。」
2016年12月19日 第4回
もんじゅ廃炉方針をASTRID協力などで正当化。「戦略ワーキンググループ」設置案。「『もんじゅ』再開に関わるハードルや不確実性が非常に大きいこと、および、新たな方策を持って代替しうるということ等が報告された。」

高速炉開発会議「戦略ワーキンググループ」の流れ

2017年3月30日 第1回
「高速炉開発の方針」に従い、「国際協力」、「常陽」、「もんじゅ」、「国内施設」の各プロジェクトを担う各チーム及びこれらを束ねる「統括チーム」を組成する。「国際協力チーム」は、当面は日仏ASTRID協力を推進するための戦略を立案。
2018年6月1日 第10回
ASTRID延期・縮小方針議論。仏代表:現在のウラン市場の状況から「それほど緊急ではない」。シミュレーション用として実験施設利用案。これは10~20万KWeの小型「技術実証炉」NewASTRIDを含む。
*原型炉もんじゅは28万KWe。
*11月28日、日経が仏政府は2020年からASTRID計画を凍結と報道。
2018年12月3日 第15回
「戦略ロードマップ骨子」案発表
2018年12月18日 第16回
「戦略ロードマップ」案発表。高速炉開発会議及び閣僚会議に提示へ。

参考

関連資料集

原子力関係閣僚会議

1.責任あるエネルギー政策の構築を図るため、特に、原子力政策に関する重要事項に関し、関係行政機関の緊密な連携の下、これを総合的に検討することを目的として、原子力関係閣僚会議(以下「会議」という。)を開催する。
2.会議の構成員は、外務大臣、文部科学大臣、経済産業大臣、環境大臣、内閣府特命担当大臣(科学技術政策)、内閣府特命担当大臣(原子力防災)及び内閣官房長官とする。

3.会議は、内閣官房長官が主宰する。

配布資料

資料1:高速炉開発の方針(案)
資料2:「もんじゅ」の取扱いに関する政府方針(案)
資料3:「もんじゅ」廃止措置方針決定後の立地自治体との関係について

これまでの「常陽」、「もんじゅ」の運転を通じて、一定のナトリウム管理技術が獲得されてきたところであるが、今後は、国内外の大型ナトリウム試験施設の活用等による模擬試験、ASTRIDを含む海外炉の類似の大型機器の運転データ蓄積等により、「もんじゅ」を再開した場合と同様の知見の獲得を図る。

「国際協力チーム」は、当面は日仏 ASTRID 協力を推進するための戦略を立案し、対外交渉や協力内容の連絡調整・国内実施等を担うものとし、経済産業省を中心に、文部科学省、中核メーカー、原子力機構、電気事業者の実務レベルで構成する。(なお、フランス以外の国との交渉等で必要となる場合には、適宜、チームの下部組織体を組成する。)
3.「ロードマップ」の策定による開発工程の具体化
前述の「開発4原則」に則った開発方針を具体化するため、まず当面のアクションとして、今後10年程度の開発作業を特定する「戦略ロードマップ」(仮称。以下、単に「ロードマップ」と言う。)を策定する。その検討のために高速炉開発会議の下に実務レベルの「戦略ワーキンググループ」を設置し、2017年初頭から検討を開始し、2018年を目途に策定することを目指すものとする。

河野外務大臣より、発言。
・今回のロードマップを国際社会に対して説明していく立場から3点申し上げる。
・第一に、今回のロードマップの趣旨は、決して将来の高速炉の実用化等を予断することなく、当面10年程度は研究開発に徹するものと理解。
・第二に、将来の実証化や実用化の判断に当たっては、しっかりとあらゆる側面から実現可能性を検討すること。すなわち、このロードマップに記載のとおり、再生可能エネルギーの導入状況等の社会環境の変化を踏まえつつ、高速炉開発及び高速炉に付随するバックエンドへの対応、立地対策や規制対応、コスト評価を含め、あらゆる観点から実現可能性を検討の上、場合によっては今後の開発の在り方についてしっかりと見直しを行うこととなっていること。特に使用済燃料の処分ができないから再処理を行うという本末転倒と言われるようなことにならないためのものであると理解。
・最後に、プルトニウムは削減する必要があること。
・いずれにしても、高速炉については、多額の税金を投入した「もんじゅ」の反省を真摯に踏まえることが大前提であり、よろしくお願いしたい。
・・・
○資料1について、案のとおり決定。

○菅内閣官房長官より、とりまとめの発言。
・我が国は「エネルギー基本計画」に基づき、核燃料サイクルを推進するとともに、高速炉の研究開発に取り組んでいく方針。
・今般、2016年12月に決定した「高速炉開発の方針」に基づき、高速炉の今後10年程度の開発作業を特定する「戦略ロードマップ」を決定した。
・本ロードマップに基づき、今後の高速炉開発の取組を具体化し、研究開発を推進していくこととなる。今後の開発に当たっては、国内全ての関係者がそれぞれの役割をしっかり果たしつつ、また、相互の連携を強化していくことが不可欠。
・関係閣僚の皆様におかれては、今後も、高速炉の研究開発に向けて、政府一丸となった取組をお願いする。

また、使用済燃料の貯蔵能力の拡大に向けた政府の取組を強化することに加えて、将来に向けて幅広い選択肢を確保し、柔軟な対応を可能とする観点から、使用済燃料の直接処分など代替処分オプションに関する調査・研究を着実に推進する。
こうしたことを踏まえると、ウラン需給の現状等の政策環境・社会情勢を勘案すれば、高速炉の本格的利用が期待されるタイミングは21世紀後半のいずれかのタイミングとなる可能性がある。しかしながら、新たなエネルギー危機の発生等、将来の政策環境の不確実性に関するリスクは存在している。
また、新しい技術の発展・成熟には実用化から一定の時間が必要である点や、再生可能エネルギー等の他の技術の進展・普及等の要因も考慮する必要があることにも留意が必要である。
上記の場合、技術や経験の段階的な蓄積・発展の必要性を勘案しつつ、例えば21世紀半ば頃の適切なタイミングにおいて、技術成熟度、ファイナンス、運転経験等の観点から現実的なスケールの高速炉が運転開始されることが期待される。

高速炉開発会議

1.目的
(1)我が国は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、核燃料サイクルの推進を基本方針としている。この方針の下、高速炉開発に取り組むこととしている。
(2)近年、原子力発電所に関する新規制基準の策定、日仏間での高速炉開発協力の開始、電力システム改革等、様々な情勢変化があったところ、最新の情勢を踏まえて、今後の高速炉開発の進め方について検討するため、「高速炉開発会議(以下「会議」という。)」を設置する。会議は、今後の高速炉開発の基本的な方針と具体的な取組を検討し、関係者に共有することで、我が国における高速炉開発を推進するものとする。
(3)当面は、「今後の高速炉開発の進め方について」(平成28年9月21日原子力関係閣僚会議決定)を踏まえ、今後の我が国の高速炉開発方針案の検討・策定作業を行う。
2.構成等
(1)会議は、別添のメンバーをもって構成する。
(2)議長は経済産業大臣とする。

3.庶務
会議に係る事務は、経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課が行う。

高速炉開発会議メンバー(平成28年10月7日時点)[2016年]
経済産業大臣 世耕 弘成
文部科学大臣 松野 博一
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構理事長 児玉 敏雄
電気事業連合会会長 勝野 哲
三菱重工業株式会社代表取締役社長 宮永 俊一

[ ]内 核情報 

ASTRIDとは?
(『工業利用のための先進ナトリウム技術実証炉』)
? ASTRID は工業規模(60万kW)の第4世代炉の実証炉 (商用炉の前段階)であり、安全性能・運転性能における革新技術を実証。
(2ページ)
ASTRID : 日本からの協力の現状
2014年8月:ASTRIDの設計、それを支える研究開発及び共同評価に係る協力のためのCEA、アレバ、JAEA、MHI及びMFBR間での実施取り決め

日本が有する技術、知見、実験施設は、ASTRID計画にとって極めて重要である。
(3ページ)

高速炉開発会議 戦略ワーキンググループ

1.目的
我が国の高速炉開発を進めるにあたって、今後10年程度の開発作業を特定する「戦略ロードマップ(仮称)」の策定に向けて、実務レベルで技術的な検討を行うため、高速炉開発会議の下に「戦略ワーキンググループ(以下「本ワーキンググループ」という。)」を設置する。
2.構成等
(1)本ワーキンググループは、高速炉開発会議のメンバーの所属する組織の実務担当者で構成する。

3.庶務
会議に係る庶務は、経済産業省資源エネルギー庁電力・ガス事業部原子力政策課が行う。

ASTRID
(ADVANCED SODIUM TECHNOLOGICAL REACTOR FOR INDUSTRIAL DEMONSTRATION)
(工業利用のための先進ナトリウム技術実証炉)
ASTRIDは、安全性や運転性に関する革新技術の成立性や性能を工業規模(~600MWe)で実証するための第4世代の技術実証炉(実用炉の初号機の前段階)である。
(5ページ)
2017年末の状況:高速中性子炉の実用炉導入の必要性は、現在のウラン市場の状況に鑑みると、それほど緊急ではないと考えられる。
この新しい状況下において、フランス政府は、ASTRIDプログラムの現在の位置付けについてCEAに質問した。
その質問に対する答えの中で、CEAは、実験施設を含むナトリウム高速中性子炉シミュレーションプログラムを提案した。その実験施設には、100~200MWeの実証炉も含まれている。
SFRシミュレーションプログラムは、今後数年間の持続可能な費用展開と整合している必要がある。
(8ページ

こうしたことを踏まえると、ウラン需給の現状等の政策環境・社会情勢を勘案すると高速炉の本格的利用が期待されるタイミングは 21 世紀後半のいずれかのタイミングとなる可能性あり。・・・
また、上記の場合、技術や経験の段階的な蓄積・発展の必要性を勘案しつつ、例えば 21 世紀半ば頃の適切なタイミングにおいて、技術成熟度、ファイナンス、運転経験等の観点から現実的なスケールの高速炉が運転開始されることが期待される。
高速炉の本格的利用が期待されるタイミングは 21 世紀後半のいずれかのタイミングとなる可能性…上記の場合…例えば 21 世紀半ば頃の適切なタイミングにおいて…現実的なスケールの高速炉が運転開始されることが期待される

経済産業省 松野原子力政策課長より、資料 1 に沿って説明。その後、以下のような議論があった。
[文科省]ロードマップに記載しているとおり、ナトリウム冷却炉とMOX燃料の組み合わせは国際的にも実績があり、JAEAも成果を上げてきたので、今後もこの技術を維持・発展させていくことが重要。研究開発基盤の提供については文科省としてもしっかり取り組んでいきたい。

[JAEA]本ロードマップを取りまとめていただいたことに感謝申し上げる。JAEAにおいては、これまでの研究結果を最大限生かし、ナトリウム冷却炉、MOX燃料の技術を維持・発展させつつ、世界的にも希少な中性子照射施設である常陽をはじめとして、研究開発基盤の整備・提供を通じて、多様な技術概念や、今後の社会ニーズに柔軟に対応した研究開発を行っていきたい。その際、国においては、新しい研究開発システムの具体化や、人材育成、投資促進を含めた研究開発リソースを確保するための施策の推進をお願いしたい。また、成果の最大化のため、我が国の設計手法、安全基準などの国際標準化が不可欠。JAEAとして国際協力を有効に活用して、これらの取組を進めていきたい。開発に当たっては、長 期的視点に立って、着実に進めていくことが重要。今後とも高速炉開発会議のもと、関係者と適切な連携・役割分担をしながら開発を進めていく。

原子力委員会の関連資料

平成 28 年 12 月 21 日、原子力関係閣僚会議において、「高速炉開発の方針」及び「もんじゅの取扱いに関する政府方針」が決定された。…
我が国では、高速炉開発は研究開発段階にあり、今すぐに実用化されるわけではない。
「もんじゅ」の反省を踏まえて、今後の開発の方策をしっかりと検討する必要がある。…我が国は、原子力開発の黎明期から高速炉の実現を目指してきたが、その開発にあたっては、研究開発の視点が強調され、商業化というパラメータが重要視されていたとは言い難い面がある。…
原子力規制委員会による「もんじゅ」に対する勧告(平成 27 年 11 月 13 日)、文部科学省「もんじゅ」のあり方に関する検討会、原子力関係閣僚会議の下に設置された「高速炉開発会議」の検討を経て、原子力関係閣僚会議において「高速炉開発の方針」(平成 28年 12 月 21 日)が取りまとめられた。今後、高速炉開発に関する「戦略ロードマップ」の策定を行うこととなっているところである。本ロードマップ策定にあたっては、将来実現すべき高速炉の商業化ビジネスとしての成立条件や目標についても検討を行っていくべきである。…

高速炉が電力会社で利用されるためには、軽水炉並かそれ以下の建設コスト・発電コストである必要がある。鉄などのリサイクルが商業化される条件は既存の技術を上回る経済性があることであり、基本的にはこれと同じ条件である。根拠の文献を探して考え、確認のため国内外の知人の意見も聞いたが、ナトリウム冷却の高速炉ではこれは無理である。理由はナトリウム冷却特有の設備や運転管理が必要なためである。無理なものを研究しても予算と優秀人材を浪費する。…
ウランは金属元素なので地殻上には実質的に無限に存在する。濃度の高いものから採算が取れ採掘されている。金属元素も化石燃料も、資源は需要と供給のバランスが崩れた時に価格が変動するが、ウランが枯渇すると考える必要はない。ウラン価格が高騰すれば、使用済燃料からプルトニウムを取り出して利用するインセンテイブは高まるであろう。これは他の金属元素のリサイクルと同じであるが、ウランが枯渇するから高速炉サイクルが必要になると言うのは誤っている。為にする議論である。…
日本の他の資源では「自給率」と言う概念が用いられているそうである。国外の日本の権益を含めて当該資源の供給指標として用いているとのことである。ウランは備蓄できるし、世界のウラン鉱山とウラン濃縮市場は寡占ではないので、ウランについては自給率をあまり考えなくてもよいのかもしれないが、自給率を飛び越えて、ウランが枯渇するというのはおかしいのではないか。高速炉を盲目的に推進するための、為にする議論ではないか。…

高レベル放射性廃棄物の分離変換(有害度低減)
 高レベル放射性廃棄物の有害度低減についても、地層処分を代替できるかのような誤解が広がっているので懸念している。「高速炉あるいは加速器中性子源を用いて、マイナーアクチノイドを高レベル放射性廃棄物から分離して核変換することで、地層処分の潜在的危険性が数万年から数百年に低減すると言う推進者の説明は、誤解を招く」。「ウラン原料と同じレベルなっても地層処分の安全評価では、安全とは言えない。マイナーアクチノイドは地層処分安全評価の支配核種ではないし、分離の効果が現れるのは1000万年以降である。オプションとしても実用上の時間軸としても地層処分と比べるのは誤りである」と地層処分の専門家が述べている【参考8,9】。
 …

日本で有害度低減が可能であるとの誤解が広がるのは、そう主張する原子炉の専門家が地層処分の安全評価をよく知らないためではないか。あるいは知っていて「為にする議論」をしているためではないか。


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