核情報

2016.10.30

もんじゅ廃炉でも再処理──再処理中毒の日本

 政府は9月21日、開発費も入れると総額2兆円以上も注ぎ込んだにもかかわらず20年間で250日しか運転されていない高速増殖原型炉もんじゅについて、年内に廃炉を含む抜本的な見直しをして方針を決定すると発表しました。事実上、廃炉を決断したということですが、それでも「核燃料サイクルを推進する」とのことです。

参考


 民主党政権時代に策定された「原子力革新的エネルギー・環境戦略」 (2012年9月)が、2030年代末までに原発ゼロの方針を謳いながら再処理政策は継続としたことを想起させます。国際的な懸念を呼んでいる核兵器利用可能なプルトニウムの蓄積政策だけは何があっても変えられない日本。日本の反核運動は政府にこの政策の見直しを迫ることができるのか、世界が注目しています。

存在しない問題の解決方法を求めた夢から覚めない日本

 再処理は、元々、ウランが近い将来枯渇するかもしれないとの想定に基づき、プルトニウムを燃やしながら使った以上のプルトニウムを生み出す夢の「高速増殖炉」に初期装荷燃料を提供するために構想されました。しかし、心配されたウラン枯渇は起きず、しかも増殖炉の技術は予想以上に難しく、いつまで経っても夢は実現しない。そこで計画されたのが、再処理でたまってしまったプルトニウムをウランと混ぜて「混合酸化物(MOX)燃料)」にし、これを無理矢理軽水炉で燃やすプルサーマル計画です。ところが、ウラン燃料を買ってくる場合の10倍ほどかかるこの「プルサーマル計画」も上手く行っていない。その結果、日本の保有するプルトニウムは、2015年末現在で約48トンに達しています。国際原子力機関(IAEA)の計算方法で核兵器約6000発分に相当します。2018年上半期に運転開始予定となっている六ヶ所再処理工場は年間8トンのプルトニウムを取り出す能力を持っています。プルサーマル計画でプルトニウムを「消費」することになっている原子炉で現在運転されているのは伊方3号機だけです。

 もんじゅについての方針を決めた9月21日の原子力関係閣僚会議で配布された資料「今後の高速炉開発の進め方について」(pdf)によると、日本は「核燃料サイクルを推進するとともに、高速炉の研究開発に取り組むとの方針を堅持する」といいます。新設の「高速炉開発会議」が、高速炉開発方針を年内に策定し、原子力関係閣僚会議がこの方針ともんじゅの方針の両方について決定するという仕組みです。要するに、もんじゅを主人公とした旧夢物語を捨てるために、主人公を変えた新夢物語が必要ということです。この物語があれば核燃料サイクル政策自体は正しいと主張することができると考えているのでしょう。フランスが2030年ごろに運転開始をめざす高速炉ASTRIDを主人公に新夢物語を描こうという「高速炉開発会議」を構成するのは、経産相、もんじゅを所管する文部科学相、電気事業連合会会長、もんじゅを運転する資格がないと原子力規制委員会の宣告を受けた原子力研究開発機構の理事長、もんじゅの主要機器の製造会社である三菱重工業の社長の5人です。旧夢物語の延命に汲々としてきた──また、再処理「永続」機構の設立に関わった──面々が10月7日に初会合を開き、旧夢物語放棄に必要な新夢物語の密室での創出に取り掛かりました。だがASTRIDは19年に完了予定の基本設計までしか予算が確保されていません。当座の主眼は旧夢物語の放棄を正当化することであって、新しい夢の実現可能性はどうでもいいということでしょうか。

オバマ大統領の夢と悪夢

 「核兵器のない世界」という「夢」を語るオバマ政権は、核拡散・核テロ防止のために再処理を放棄するようにとのメッセージを日本に送り続けています。オバマ大統領は2009年のプラハ演説で核兵器利用可能物質の保安体制を強化するために核セキュリティー・サミットを開くことを発表しました。このサミットの最後となる第4回会合のワシントンDC開催を控えた3月17日に上院外交委員会で核セキュリティーに関する公聴会が開かれました。この公聴会においてトーマス・カントリーマン米国務次官補(国際安全保障・不拡散担当)が日本に警告を発しています。次官補は、再処理には経済性も合理性もなく、核拡散防止の観点から「すべての国が再処理の事業から撤退してくれれば、非常に嬉しい......本質的な経済性という問題があり、米国とアジアのパートナー諸国が問題になっている経済面および核不拡散面の問題について共通の理解を持つことが重要だ──日本との原子力協力協定の更新について決定をする前に」と述べたのです。協定は2018年に満期を迎えます。

 しかし、日本は米国や国際社会の懸念をよそに、無意味なプルトニウムの蓄積を続けようとしています。電力自由化の中で原発所有電力会社が倒産しても再処理を続けるために考案された「使用済燃料再処理機構」が10月3日に発足しました。電力会社は発電時点で使用済み燃料の再処理・MOX燃料製造費用を同機構に拠出する。実際の再処理は機構の委託を受けた日本原燃が行う。原発がなくなってもプルトニウムをため込み、MOX燃料を作るという「悪夢」遂行の「不退転」の決意です。

 ここで「プー王国」のお話しを一つ。

 臣下:A国を侵略する計画ですが、なかなか手ごわいので、放棄したほうがよろしいかと。つきましては、これを放棄するために、B国を侵略する計画が必要になります。国民に侵略政策自体は悪くなかったと説明するためです。

 王様:本当にB国を侵略する計画を実行しようというのか?

 臣下:それはまた後で考えましょう。いずれにしても、我々年老いた臣下は計画の準備をあれこれして、いざ実行が必要というころにはみんなあの世に行っていますから。


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