核情報

2012. 2.22

原発のプルトニウムで核兵器は出来ない?出来る?
──文科省vs両鈴木氏(原子力委員会委員長代理+元原子力安全委員長)

文部科学省の原子力教育情報提供サイト「あとみん」は、「原子力発電所で生まれたプルトニウムは原子爆弾に利用されることはありません」と述べています。一方、鈴木篤之(元原子力安全委員長・現日本原子力研究開発機構理事長)・鈴木達治郎(現原子力委員会委員長代理)両氏らが日本原子力学会の英文誌2000年8月号で発表した論文は、原子炉級プルトニウムで核兵器ができると結論づけています。後者が世界の常識であることは言うまでもありません。問題は、関係各省の大臣等がどちらの結論を信じているかです。

この六ヶ所工場での再処理を正当化するのに日本で使われる議論の一つを巡る「論争」について、簡単にまとめました。




  1. 六ヶ所正当化議論の要約
  2. 両鈴木氏らの反論
  3. 文部科学省の主張の引用
  4. 両鈴木氏らの論文の引用
  5. 文科省他の大臣は「反IAEA」の「あとみん」主義か?



六ヶ所正当化議論の要約

これは、六ヶ所工場での再処理を正当化するのに日本で使われる議論に関連したものです。それは、兵器級のプルトニウムの場合、プルトニウム239の含有量が93%以上だが、日本の原子力発電から出てくる原子炉級プルトニウムでは60%程度だから、核兵器への転用はできない、というものです。これは、原子力発電の目的で長期間燃料を使っていると、プルトニウム239以外に、勝手に「自発核分裂」を起こして中性子を出すものが増えたり、ガンマ線や発熱の量が大きくなったりすることに言及したものです。特に強調されるのは、この「自発核分裂」で生じる中性子のために核分裂反応が早期に始まってしまい(「早発」)、期待されたほどの威力がでないという問題です。

両鈴木氏らの反論

韓国出身の科学者姜政敏(カン・ジョンミン)氏(東京大学で原子力工学博士号取得)と鈴木篤之(現日本原子力研究開発機構理事長)・鈴木達治郎(現原子力委員会委員長代理)両氏らは、日本原子力学会の英文誌2000年8月号に発表した論文で、原子炉級プルトニウムで核兵器ができると結論づけています。そして、1945年の長崎の技術でもTNT火薬換算で数百トンの威力の爆発は保証でき、もっと進んだ技術を使って爆縮の速度を上げれば「自発核分裂」の問題は解消できることをデータにより示しています。

文部科学省の主張の引用

文部科学省の原子力教育情報提供サイト「あとみん」解説書プルトニウムって何だろう−科学的側面−』の「8核兵器」は冒頭で「原子力発電所で生まれたプルトニウムは原子爆弾に利用されることはありません」と断定し、その後「解説」を加え、「原子力発電所から生まれるプルトニウムが原子爆弾に利用されることを心配することはない」と結んでいます。

発電所ではこのプルトニウムを生み出しますが、核兵器用と原子炉で生まれたプルトニウムには同位体の組成に違いがあります。原子力発電所で生まれたプルトニウムは原子爆弾に利用されることはありません。

・・・

これらの種々の理由で、テロリストが発電用原子炉でできたプルトニウムを核兵器に転用しようとしても不可能に近く、なんとかできたとしても設計通りの性能を発揮できずに終わるようなものになる。それよりもそこまで行く前に、大掛かりな設備で製造しない限り、強い放射線により命を奪われる可能性の方が高い。したがって読者には、原子力発電所から生まれるプルトニウムが原子爆弾に利用されることを心配することはないと理解していただけたと思う。

両鈴木氏らの論文の引用

両氏等の論文: Jungmin KANG, Tatsujiro SUZUKI, Susan PICKETT & Atsuyuki SUZUKI (2000): Spent Fuel Standard as a Baseline for Proliferation Resistance in Excess Plutonium Disposition Options(余剰プルトニウム処分オプションにおける核拡散抵抗性のためのベースラインとしての使用済み燃料基準), Journal of Nuclear Science and Technology,37:8, 691-696(本文は下の方にスクロールすると読める)は、この問題について次のように述べています。

5.同位体組成

プルトニウムの同位体組成の劣化は、その核拡散抵抗性を若干高めることはできる。これは、原子炉級プルトニウム(RGPu)の自発核分裂による中性子、ガンマ線、熱の発生率の高さが、核兵器の設計や製造を複雑化するからである。しかし、米国エネルギー省は、基本的にいかなる組成のプルトニウムも核兵器の製造に使うことが出来ると述べている。それは以下のように確認できる。


図3 6kgのRGPuとWGPuの爆発特性(中性子発生時間 10 - 8秒)

プルトニウムの爆発特性は、マークの論文(*注)に良く説明されている。原子炉級プルトニウム(RGPu)と兵器級プルトニウム(WGPu)の同位体組成を表7に示す。図3は、RGPuとWGPuの爆発特性を示している。表8に示された自発的核分裂中性子の発生率に基づくものである。図3においては、爆発出力の割合を示した横軸の値1.0は、核分裂性物質1キログラム当たりTNT火薬にして20キロトンという基準出力を示している。トリニティーの原爆で使われた比較的遅い圧縮時間10- 5秒を使った場合でも、粗野なつくりの原爆で、TNT火薬にして数百トン(つまり、20kt x 0.027=0.5kt)の最低限出力が得られる。この点ではRGPuとWGPuとの間に差はない。だが、同じ圧縮時間(10- 5秒)を使った場合、早発(predetonation)の累積確率を同じ値でそろえて比べると、RGPuとWGPuの間の爆発出力の違いは相当なものになりうる。しかし、もっと進んだ現在の兵器設計を使って圧縮時間を短縮すると、RGPuは、WGPuに匹敵する爆発出力を持つことができる。

MCNPと計算コードORIGEN2を使って計算したRGPuとWGPuの崩壊熱と線量率を 表9に示す。WGPuと比較してRGPuの崩壊熱と線量率が高いことは、核兵器の製造を試みるテロリストその他の集団にとって幾分の問題をもたらすだろうが、これらの問題は、米国エネルギー省によると、試みを妨げるほどではない。

したがって、WGPuと比較した場合、RGPuの方が重いプルトニウム同位体の含有率が高いことは、若干は核拡散抵抗性を高めるが、決定的ではない。


核情報注:

カーソン・マーク論文というのは、Explosive properties of reactor‐grade plutonium(「原子炉級プルトニウムの爆発特性」)Science & Global Security: The Technical Basis for Arms Control, Disarmament, and Nonproliferation Initiatives Volume 4, Issue 1, 1993 (pdf)のこと。マーク氏は、ロスアラモス国立研究所の理論部の部長を1947年から72年まで務めた人物。この論文は、不完全核爆発(フィズル=早発)が起きた場合にどれほどの規模になるかを分析している。元動燃理事の栗原弘善氏が、1992年に開かれた核拡散問題の会議において「原子炉級プルトニウムを使って核爆発装置を作ろうとすれば、それは、核の花火にしかならない。つまり、まぶしい光と大きな音を出すが、核爆弾の大きな壊滅的な効果をもたらしはしない」と表現したものである。結論は、基準の0.027になると言うものだった。「したがって、基準が20キロトンだとフィズルの出力は、0.5キロトンとなる」ということである。TNT火薬にして500トンの爆発を「まぶしい光と大きな音を出す」花火と呼ぶのは豪快である。

図3は、原子炉級プルトニウムでも、基準値1に対して、最低0.027の爆発が起きることを示している。また、爆縮の速度を上げると(つまり圧縮時間を短くすると)カーブが右に移動することも示している。原子炉級プルトニウムの圧縮時間が10 - 6秒になると、10 - 5秒の場合の兵器級プルトニウムのカーブよりずっと右下に寄り、基準値の爆発がより確実に期待できることが分かる。つまり、鍵は爆縮の速度であり、現在の先進国は、1945年の米国よりも高い技術を有しており、爆縮速度を上げることが可能と見られている。

参考

文科省他の大臣は「反IAEA」の「あとみん」主義か?

日本は、再処理工場で分離されるプルトニウムが核兵器に転用されないことを確実にするために国際原子力機関(IAEA)の「保障措置」を受け、IAEAにそのための資金を提供しています。文科省はこれが無意味でお金の無駄遣いだと主張しているのでしょうか。

原子力に関係している経済産業省、文部科学省などの大臣、そして、総理大臣は、「あとみん」の資料で説明を受けて、それを信じているのでしょうか。

ところで、高速増殖炉のブランケット部分(プルトニウム製造用部分)で産み出されるプルトニウムは、プルトニウム239の含有量の極めて高い超兵器級です。高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の研究を行っている日本原子力研究開発機構は、文科省所管の独立行政法人です。文科省は、このような技術を日本が開発すること、それが世界に広まることについてどのような見解を持っているのでしょうか。

各大臣は?

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