核情報

2012. 6. 8〜

再処理と直接処分並存が合理的?
──発熱量の大きな使用済みMOX燃料直接処分、処分場面積縮小効果相殺

原子力委員会の議論において、再処理で分離したプルトニウムをMOX燃料として普通の原子炉(軽水炉)で使い、発生した使用済みMOX燃料を直接処分する「再処理・直接処分並存」シナリオが合理的であるかのような話になりつつあります。

しかし、プルトニウムを「夢の」高速増殖炉の燃料にするのでなく、軽水炉で無理矢理燃やしたのでは、大した「資源節約」にならないことは、この問題を検討してきた「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」が認めています。再処理が高くつくことも認めています。再処理推進派が最後の砦のように主張するポイントが、再処理による処分場面積の縮小効果ですが、使用済みMOX燃料はその発熱量が通常の使用済み燃料の数倍になり、これを処分場に入れれば、処分場の面積縮小効果もほとんど期待できなくなります。何のプラスにもならない再処理の継続を選択する「並存」シナリオにどんな合理性があるというのでしょうか。関係者の顔をすぐにはつぶさないという「合理性」でしょうか。

参考





  1. MOX燃料の体積は元の燃料の7分の1に減るが使用済みMOX燃料の発熱量は数倍に
  2. 意味のないことをするのがなぜ合理的か
  3. 何でもありで何も決定しないに等しい「並存」シナリオ
  4. 代表シナリオは、単なる現状追認
  5. 3択のまやかし



MOX燃料の体積は元の燃料の7分の1に減るが使用済みMOX燃料の発熱量は数倍に

大体、使用済み燃料7トンを再処理して分離したプルトニウムを使って、MOX燃料1トン製造するという割合になります。ですから、体積では、燃料だけを見ると、7分の1に減ります。ところが、これを軽水炉で使った後の使用済みMOX燃料は、超ウラン元素を多く含んでいるため、取り出し後数十年経つと、発熱量が普通の使用済み燃料の数倍になってきます。

下の図は、43,000MWd/tという燃焼度の使用済み低濃縮ウラン燃料と使用済みMOX燃料の発熱量を比べたものです。原子炉から取り出して50年の時点と100年の時点での発熱量を見ると下のようになります。

原子炉から取り出し後50年
使用済みMOX燃料2.50 kW/tHM
使用済み低濃縮ウラン燃料0.718 kW/tHM
MOX燃料が3.48 倍
原子炉から取り出し後100年
使用済みMOX燃料1.79 kW/tHM
使用済み低濃縮ウラン燃料0.394 kW/tHM
MOX燃料が4.59 倍

使用済み低濃縮ウラン燃料と使用済みMOX燃料の発熱量

出典

プルトニウムを取り出す過程で生じた高レベル廃棄物とともに、この使用済みMOX燃料を地層処分場に入れることになると、発熱量が大きいため、使用済みMOX燃料を入れた容器と容器の間隔を大きくしなければなりません。つまり、処分場の面積の縮小効果は相殺されてしまいます。

意味のないことをするのがなぜ合理的か

再処理は、元々、夢の原子炉「高速増殖炉」の初期装荷燃料として使うプルトニウムを提供するために推進されてきました。この型の原子炉は、ウラン資源の枯渇問題に対処できるということになっていました。発電しながら使った以上のプルトニウムを作り、無尽蔵のエネルギー源となることが期待されたのです。ところが、ウラン資源は当初予想されていたより豊富にあり、一方、もんじゅに象徴されるように高速増殖炉計画は技術的に行き詰まっています。その結果、使い道のないプルトニウムが溜まっていきました。日本は現在、核兵器5000発分以上に当たる約45トンの分離済みプルトニウムを内外に保有しています。このプルトニウムを無理矢理普通の原子炉で燃やすのがプルサーマル(軽水炉でのMOX燃料使用)計画です。欧米の電力会社にプルトニウムをただであげると言っても貰ってくれません。放射能の問題のため、ウランを買ってきて普通の低濃縮ウラン燃料を作った方が安くつくからです。

そこで強調されてきたのが最終処分場の面積縮小効果です。MOX使用済み燃料をさらに再処理し、分離されたプルトニウムでまたMOX燃料を作るか、高速増殖炉用の燃料を作るという絵空事が語られてきました。ところが、高速増殖炉はいつまで経っても商用化されそうにない。使用済みMOX燃料の再処理は難しく、結局直接処分するしかない、そうなると、処分場の面積縮小という点で元の木阿弥、と、再処理反対論者は指摘してきました。

並存シナリオは、高速増殖炉路線が破綻していることを認め、プルトニウムを一回だけMOX利用して、使用済みMOX燃料を直接処分することを示唆します。再処理正当化の頼みの綱の処分場面積縮小効果もないことを認めると言うことです。何のプラスにもならないことを承知でわざわざ、核拡散防止や核テロ防止に障害となるプルトニウム分離を進めるのがこの並存シナリオです。

福島の事故後の状況で、全国の原子力発電所が再稼働となっても、プルサーマルを推進するのが難しいのは明らかです。このような中、六ヶ所再処理工場の運転を開始し、核兵器利用可能物質プルトニウムをさらに分離しようというのが並存シナリオです。単なる現状追認シナリオであり、いくら何でも高速増殖炉計画が着々と進んでいるかのふりをするのはそろそろ止めて全量再処理とは言わないようにしようというだけのことです。

すでに発生してしまった使用済みMOX燃料については、直接処分するしかないことを認めるのは合理的でしょう。しかし、意味が無いのに六ヶ所再処理工場を運転し、分離されたプルトニウムをMOX燃料として無理矢理燃やし、発生した使用済みMOX燃料を直接処分する。このシナリオの何処に柔軟性や合理性があるというのでしょうか。

何でもありで何も決定しないに等しい「並存」シナリオ

ただし、並存シナリオは何でもありのシナリオでもあります。

「定義」は次の通りです。

再処理・直接処分併存政策:

使用済燃料の再処理と直接処分のいずれも可能とする。FBR/FRは

将来の不確実性に対する選択肢として位置付ける。

「ちょっとだけ六ヶ所再処理工場を動かして、その後すぐ、直接処分」もあり得るし、「六ヶ所を予定通り動かすこととし、第二再処理工場・高速増殖炉については、後で検討して、場合によっては、全量再処理の路線を復活」というのもあり得ることになっています。同床異夢で、小委員会の委員によってそれぞれイメージが異なるようです。

代表シナリオは、単なる現状追認

代表シナリオは次のようになっています。

再処理・直接処分併存の代表シナリオ

使用済ウラン燃料を現有施設で再処理し、回収したプルトニウムを当面プルサーマルで使用する。

  • 使用済MOX燃料と現有施設の能力を超える使用済燃料を中期的に貯蔵する。
  • 国産のFBR/FRの実用化を判断するために必要な研究開発を実施するとともに、直接処分の実用化に向けた研究開発に着手。長期の進め方はその成果等を踏まえて短期〜中期に判断する

全量再処理シナリオの方を見てみましょう。

全量再処理の代表シナリオ

使用済ウラン燃料を現有施設で再処理し、回収したプルトニウムを当面プルサーマルで使用する。

  • 使用済MOX燃料と現有施設の能力を超える使用済燃料を中期的に貯蔵する。
  • 長期的に全ての使用済燃料を再処理し、国産のFBR/FRの実用化まではプルサーマルで、実用化後はFBR/FRで回収したプルトニウムを使用する。

要するに、ひとまず六ヶ所再処理工場を動かして、出てきたプルトニウムを無理矢理燃やすプルサーマル計画を実施するというこれまでの政策を追認するという点では変わりありません。その意味では、「並存」シナリオは、絶対全量再処理というのはいかにも信憑性がないからいまは引っ込めようというだけのことともいえます。

3択のまやかし

全量再処理、並存、全量直接処分と並べた3択方式になっていて、あたかも妥協案であるかのように「並存」を選ばせるという形になってます。政策決定過程に詳しいプリンストン大学のフランク・フォンヒッペルは、役人や委員会が3択のオプションを出してきたら、中庸に見える真ん中のものを選択させるとの意図が働いているから気をつけるようにと言います。

本当の選択肢は、「理念型」的に言うなら、「全量再処理」対「全量直接処分」でしょう。前者が破綻していることは明らかで、選択すべきは後者です。

「現実的」にということなら、「並存」対「全量直接処分」となります。この2択なら、「並存」が決して妥協策でも合理的政策でもなく、破綻した過去の夢の遺物であり、硬直的な政策を意味するとが明確になります。ここで選ぶべきは、当然、合理的な「再処理中止・直接処分」のシナリオでしょう。

そして、政府がどうしても選択できないなら、六ヶ所再処理工場を凍結した上で、2−3年かけて原子力村の外の人々による政策検討を行うというオプションを提示するのが一つの手です。アクティブ試験で発生した高レベル廃液のガラス固化が上手く行っていないことからすると、1年半ほどは、放っておいても再処理できないのが確実ですが、年限を決めて再処理を凍結して、議論するというものです。ただし、ガラス固化研究開発は安全性確保のために例外とする必要があります。これを再処理開始に向けた一歩とは位置づけてはならないことは言うまでもありません。

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