核情報

2014. 2.13

濃縮・再処理を「認める」日・トルコ協定
 問題は協定の文言か、日本の再処理政策か

1月24日に始まった通常国会で審議予定の二つの原子力協力協定のうち、トルコとのものが核兵器の製造に繋がるウラン濃縮及び使用済み燃料再処理を認める内容だとして問題になっています。核兵器5000発分以上に当たる44トンのプルトニウムを蓄積し、さらに年間約8トンのプルトニウム分離能力を持つ六ヶ所再処理工場の運転を始めようとする日本が、相手国に再処理の権利の放棄を求める「論理」についても議論すべきです。

福島事故を起こしてしまった国が地震国でしかも政情不安を抱えたトルコに原子力発電所を輸出することの是非や、事故が起きた場合の賠償責任に関する議論もありますが、ここでは、核拡散問題に焦点を絞ることにしましょう。

  1. 原子力輸出に必要な協定──問題の文言は?
  2. 米・UAE協定──ゴールド・スタンダード?
  3. 六ヶ所再処理工場計画の中止により行動で貢献を
  4. 参考

原子力輸出に必要な協定──問題の文言は?

原子力協力協定は、原子力関連の輸出入の前提になるものです。トルコの場合は、三菱重工の参加する国際コンソーシアムが黒海沿岸のシノップ市に発電用原子炉4基を建設するとの基本的合意がトルコ政府との間で成立しています。昨年5月に署名された日・トルコ協定の問題部分は次の2つです。

  1. 濃縮及び再処理の技術並びにプルトニウムは「これらを移転することを可能にするような改正が行われた場合に限り、この協定の下で移転することができる」
  2. この協定の下で移転された核物質及び副産物は、「両締約国政府が書面により合意する場合に限り、トルコ共和国の管轄内において、濃縮し、又は再処理することができる」

昨年10月に自民党の外交部会でこれらの規定が問題になった際には、岸田外務大臣が国会で「日本が合意することはない」と発言することを条件に了承されました。そして11月8日の衆議院外務委員会で外相による同趣旨の発言がありました。

岸田国務大臣 まず、協定の条文そのものにつきましては、それぞれの協定を締結する国との交渉の中で一つ一つ積み上がっていくものだと存じます。

 今回、御指摘の点につきまして、トルコにおいてはそうした規定が行われていないというのは、そういった条約を積み上げる過程の結果だと考えています。

 いずれにしましても、これを認める際には、両締結国が書面をもって認めなければならない、こういった形には間違いなくなっております。書面を通じて改めて認めない限りは、こうしたことは実現しない。我が国は認めることはないと考えておりますので、実質的には我が国の思いはしっかり実現できると考えています。

185回衆議院外務委員会4号 2013年11月08日

2012年に発効した二つの原子力参入国との間の協定の関連部分を見てみましょう。

ヨルダン

  1. 「この協定の下では移転されない」
  2. 「ヨルダン・ハシェミット大国の管轄内において濃縮され、又は、再処理されない」

ベトナム

  1. 「この協定の下では移転されない」
  2. 「両締約国政府が別段の合意をしない限り、ベトナム社会主義共和国の管轄内において、濃縮され、又は再処理されない」。

日・トルコ協定と同じく昨年10月25日に国会に提出された日・アラブ首長国連邦(UAE)協定はヨルダンのものと同じです。国内の濃縮・再処理に関するベトナムとトルコの差は響きの問題です。移転に関しても、改正された場合に限りできるというのは、[改正されない限り]この協定の下ではできないというのと実質的には同じなのかもしれません。ヨルダン及びUAEとの協定は国内濃縮・再処理に関して厳しい感じがします。

米・UAE協定──ゴールド・スタンダード?

一番厳しいのが米・UAE協定です。同協定は、UAEは領土内において濃縮・再処理をしないと定めています。これは、米国が提供する技術・物質を使う場合に限られるのではなく、一切しないとの声明です。ただし、中東において最恵国待遇をUAEに与える規定があり、中東の他の国が有利な条件を得れば、UAEもそれを保証されます。米国は、現在、サウジアラビア及びヨルダンとの協定を結ぼうとしており、その行方が注目されます。

米・UAE協定は、ブッシュ(息子)政権時代にまとめられたもので、同政権はこれをゴールド・スタンダードと呼びました。オバマ大統領も2009年5月に協定を議会に送った際、これは「この地域の国々との協定のモデルになる可能性を持っている」述べています。しかし、核拡散防止を重視する人々の間でも、米国だけでこのような厳しい規定を要求すると、新規参入国はロシアやフランスなどに協力を求めるから結果的に核拡散防止に役立たないとの主張があります。

オバマ政権は3年間にわたる内部議論の末、昨年12月に「原則に基づくが、実際的かつ現実的なアプローチ」を取ると発表しました。この決定に反対する上下両院の議員等が不拡散面における議会の監督権限を強化する法案を作成しています。

UAEの場合は例外的で、米国が他の総ての国とこのような協定を結べると考えるのは「非現実的」だとの国務省高官の発言を米国の軍縮問題専門誌『アームズ・コントロール・トゥデー』が紹介しています。UAEの約束は、米議会が拒絶しない協定を早く結びたかったUAE側の「政治的計算」の結果だという見方です。UAEは、ペルシャ湾を隔ててイランと向き合う国です。

六ヶ所再処理工場計画の中止により行動で貢献を

米国の立場は、再処理は必要ないし、ウラン燃料は現在濃縮能力を持った国々により国際市場で提供できるから各国が自前の濃縮能力を持つ必要はないというものです。そして「分離済みプルトニウムのような我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない」とオバマ大統領が2012年3月核セキュリティー・サミットのために韓国を訪れた際に述べています。

再処理政策を続ける日本の行動は、米国の交渉上の立場を弱めるものです。韓国は米国との協定改定交渉で日本と同じ権利を要求して米国を困らせています。日本は「非核兵器国の中で唯一、商業規模で濃縮・再処理までの核燃料サイクル施設を保有する国として認められている」との日本政府の主張も問題です。

我が国は、IAEA(国際原子力機関)による厳格な保障措置の実施等の努力を積み重ねてきたことにより、非核兵器国の中で唯一、商業規模で濃縮・再処理までの核燃料サイクル施設を保有する国として認められています。

2006年版わかりやすいエネルギー白書の解説

11日本の進路 原子力立国

再処理は必要だが日本以外の国は信用できないし、国際的にも認められていないとの主張では共感は得られません。実際は「核不拡散条約(NPT)」体制が他の非核兵器国に濃縮・再処理を禁じているわけではありません。日本に再処理を「許して」いるのは米国です。確かに、日米協定は米国起源の使用済み燃料の再処理について「事前同意」を与えていますが、同じ同意をヨーロッパ諸国にも与えています。これらの非核保有国はプルトニウム増殖炉計画の失敗のために再処理放棄を決め、日本のみが再処理に固執しているのです。(韓国の再処理と日本の再処理政策 参照)

ゲーリー・セイモア元ホワイトハウス調整官は共同通信の昨年のインタビューで(2013年5月6日掲載)再処理継続に経済的必要性や価値があるとは思えない」と述べています。また、鈴木達治朗原子力委員会委員長代理が昨年4月22日の同委員会会合で同月中旬に米国で会った二人の高官の発言を次のように紹介しています。

トーマス・カントリーマン国務省次官補「核燃料サイクルをめぐって現在日本で行われている議論について、核不拡散や原子力技術の観点から、非常に高い関心を持っている。特に、MOX燃料を使用する原発が存在せず、その見通しもない中で、六カ所再処理施設を稼働することは、米国にとって大きな懸念となりうる。特にイランの核問題や米韓原子力協力の問題に影響を及ぼすことで、米国にとっても困難な事情につながる可能性がある。日本が、経済面・環境面での理由がないままに再処理活動を行うとすれば、これまで日本が不拡散分野で果たしてきた役割、国際社会の評価に大きな傷が付く可能性もあり、状況を注視している」

ダニエル・ポネマン米エネルギー省副長官「MOX燃料を装荷して、プルトニウムを消費できる原子力発電所がどれくらい速やかに立ち上がるかを大きな関心をもって注視している。今後、消費する予定がないまま、再処理により新たな分離プルトニウムのストックが増えることにならないか大いに懸念を有している」

カントリーマン国務次官補は、その後、韓国との交渉を率いていたロバート・アインホーン不拡散・軍備管理担当国務長官特別顧問が職を退いた後を受けて、米韓原子力協力協定改定交渉責任者となっています。

日本が再処理計画を放棄すれば、協定文言の調整以上に核拡散防止の力となるでしょう。

参考


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