G7外相会合広島宣言を巡る報道の中で、日本が以前から主張してきた「核兵器の非人道性」を核保有国の抵抗で引っ込めたとの説明がしばしば見られます。確かに、日本は1994年以来毎年国連総会に提出している核軍縮決議案の中に、「核兵器のあらゆる使用の悲惨な人道的結末に深い懸念を表明し」という文言を2010年から入れています。しかし、この文言は2010年核不拡散条約(NPT)再検討会議の最終文書にある表現から来ています。そして、2010年の日本決議には米国が主要共同提案国となり、英仏ロも賛成票を投じています(中国は棄権)。2012年の日本決議では英国も共同提案国に加わりました。2014年まで英米仏は賛成、ロシアも2013年まで賛成という状況だったのです。
- 2010年の非(人道性)の登場──日本決議の変更と非人道性キャンペーン
- (非)人道性の文言の元は2010年再検討会議最終文書
- 2012年の(非)人道性キャンペーン旗揚げ
- 2013年10月の(非)人道性声明に参加したが、詭弁を弄する日本
- 2014年オーストリア「人道性誓約」で加速するキャンペーン
- 2015年12月国連総会での「人道性誓約」決議──日本は棄権
- 人道性キャンペーンの煽りを食った2015年日本決議の投票結果?
- 誤訳問題についてひとこと
- 広島宣言関連の報道のランダムな抜粋
- ケリー国務長官の広島訪問とオバマ大統領の計画
参考
- G7広島外相会合(2016年4月10日,11日開催) 外務省 2016年4月12日
核軍縮及び不拡散に関するG7外相広島宣言 外務省仮訳(PDF)、 英文(PDF) - 国連総会における我が国提出の核兵器廃絶決議(2010年~) 外務省 2015年12月28日
- アーカイブ:過去の国連総会における我が国提出の核軍縮決議 (1994年、1999年、2000年~2009年) 外務省
- 日本政府の核軍縮決議案の賛同国推移 誰かの妄想・はてな版
- UN General Assembly First Committee (2002年以来の国連軍縮関連文書。決議の投票結果も) リーチング・クリティカル・ウィル(英文)
- 国連総会第一委員会(軍縮・安全保障)関連(日本決議他、日・英文:1994年~)長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)
- 核不拡散条約(NPT)関連 長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)
同上の2010年再検討会議文書類 - 核兵器の非人道性を巡る議論における日本のアプローチと2015年NPT運用検討会議 外務省 2014年4月19日(pdf)
- 被爆国日本の核政策の実態:先制不使用問題 核情報
以下、2010年からの流れを概観した後、今回の広島宣言を巡る報道をランダムに抜粋して、どう読めばいいのか見てみましょう。
2010年の(非)人道性の登場──日本決議の変更と(非)人道性キャンペーン
(非)人道性の文言の元は2010年再検討会議最終文書
2010年再検討会議最終文書は「会議は、いくつかの核兵器国による2国間もしくは一方的な核兵器削減の達成を歓迎しつつ、配備され、備蓄されている核兵器の総数が依然として推定数千発に上るという事実に懸念をもって留意する。会議は、これら兵器が使用される可能性と、使用がもたらすであろう壊滅的な(非)人道的結果(the catastrophic humanitarian consequences)に対して深刻な懸念を表明する」と述べています。さらに、「結論ならびに今後の行動に向けた勧告」の中で「会議は、核兵器のいかなる使用も壊滅的な人道的結果をもたらすことに深い懸念を表明し、すべての加盟国がいかなる時も、国際人道法(international humanitarian law)を含め、適用可能な国際法を遵守する必要性を再確認する」としています。
「非人道的」「非人道性」というのはhumanitarianの訳し方の一つです。結末は当然人道的ではないので、それは人道上の問題、「非人道性」であり、言い換えれば非人道的結末・結果となります。
これを受けた2010年の日本決議には次のようにあります(以後同じ表現を2015年まで使い続けています)。
核兵器のあらゆる使用の悲惨な人道的結末(the catastrophic humanitarian consequences)に深い懸念を表明し,また,核戦争及び核テロリズムを回避するためにあらゆる努力が払われるべきことを確信しつつ,すべての国が国際人道法を含む適用可能な国際法を常に完全に遵守する必要性を再確認し,
出典:外務省仮訳(pdf)
2012年の(非)人道性キャンペーン旗揚げ
2010年最終文書の文言に焦点を当て、2013年3月ノルウェー(オスロ)、2014年2月メキシコ(ジャナリット)、2014年12月オーストリア(ウイーン)で国際会議を開き、非人道的な核兵器を早期に廃絶するために核兵器禁止条約を結ぶべきと言うキャンペーンを展開してきたのは他の国々です。
これらの国々は2012年5月2日、「2015年核不拡散条約再検討会議第一回準備委員会」において「核軍縮の人道的側面に関する16か国共同声明」を発表しました。声明は、核兵器の非人道性を強調し「もっとも重要なことは、このような兵器が、いかなる状況の下においても二度と使用されないこと」と述べています。これが、(非)人道性キャンペーンの旗揚げです。
声明を発表したのは次の国々です。
オーストリア、チリ、コスタリカ、デンマーク、バチカン、エジプト、インドネシア、アイルランド、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ナイジェリア、ノルウェー、フィリピン、南アフリカ、スイス
日本は、これが核の傘に依存する日本の政策と矛盾するとして参加を拒否しました。
日本政府は、生物・化学兵器及び大量の通常兵器による日本に対する攻撃に対しても、米国が核兵器で報復するオプションを維持することを望むとの立場を表明してきています。核兵器攻撃に対する報復以外の場合には核兵器を使わないとする「核兵器先制不使用」宣言を米国がすると日本の安全保障に責任を持てなくなるというのがこれまでの外務省の説明です。核兵器の唯一の目的(役割)を核攻撃の抑止とする政策にも日本は賛成できません。この政策が変わらない限り、共同声明に参加出来ないのは当然とも言えます。日本は、2012年国連総会第一委員会、2013年NPT第二回準備委員会におけるこれらの国々の共同声明にも参加しませんでした。
2013年10月の(非)人道性声明に参加したが、詭弁を弄する日本
ところが、日本は2013年の国連総会第一委員会で出された共同声明(10月21日)には、妙な説明をして参加しました。声明は、「我々の国々は,核兵器のもたらす壊滅的な人道的結末について深く懸念している」「いかなる状況においても,核兵器が二度と使用されないことが人類の生存そのものにとって利益である」「核兵器が決して使用されないことを保証する唯一の方法は核兵器廃絶である」(外務省仮訳:以下同様)と述べています。
日本政府は、声明の中に「我々は、核兵器の壊滅的な結末についての意識が、核軍縮に向けたすべてのアプローチ及び努力を支えなければならないことを確信する」との文言が入ったから参加することにしたと説明しました。菅義偉官房長官は22日午前の記者会見で、「核軍縮に向けた全てのアプローチを明記することで、拡大抑止政策を含む安全保障政策、日本の今までの考え方と同じ考え方がその中に入っている。この政策の中で、段階的に核軍縮を進める日本のアプローチと、[声明]とが整合的であることが確認できた」と解説しました。同日の外務大臣談話も、声明が「我が国の安全保障政策や核軍縮アプローチとも整合的な内容に修正されたことをふまえ」署名したとしています。つまり、「全てのアプローチ」の挿入により、[先制使用も含む]核抑止によって自国の安全を保ちながら段階的核軍縮をめざすという日本のアプローチも認められたという意味不明の解釈です。 問題の文言は、常に、核兵器がもたらすの壊滅的結果のことを念頭に置いて核軍縮に向けて進むよう呼びかけているだけで、あらゆるアプローチを支持すると述べているわけではありません。
矛盾を解消するには、先制不使用、核兵器の唯一の目的・役割を巡る日本の政策を変更するしかありません。この時、政策を変更しないで声明に参加し、妙な説明を付けてごまかしたことが大きく取り上げられなかったのが残念です。後述する今回の「誤訳問題」より小さな問題だということでは決してないでしょう。(出典:核兵器非人道性声明。に日本署名──「拡大抑止政策と整合」と説明する政府 核情報 2013.11.30)
2014年オーストリア「人道性誓約」で加速するキャンペーン
2014年12月8~9日に開かれた「核兵器の人道上の影響に関するウィーン会議」の主催国及び議長国として、オーストリアは会議の最後に、核兵器の非人道性を強調し、核兵器の禁止・廃棄に向けた行動を起こすことを誓う独自の「誓約」を発表しました。
……
オーストリアは、すべてのNPT加盟国に対し、第6条に基づく既存の義務を早期かつ完全に履行するとの自国の誓約を一新するよう求める。そしてそのために、核兵器の禁止及び廃棄に向けた法的なギャップを埋めるための効果的な諸措置を特定し、追求するよう求める。また、オーストリアは、こうした目標の実現に向けて、あらゆる関係者と協力してゆくことを誓約する。
オーストリアは、核兵器保有国に対し、核兵器の運用体制の緩和、配備から非配備への移行、軍事ドクトリンにおける核兵器の役割低減、すべての種類の核兵器の早急な削減を含む、核兵器爆発の危険性低下に向けた具体的な中間的措置を講じるよう求める。
受け入れがたい人道上の影響及び関連した危険性の観点から、核兵器を忌むべきものとし、禁止し、廃絶する努力において、オーストリアはすべての関係者、各国政府、国際機関、国際赤十字・赤新月運動、議員、そして市民社会と協力していくことを誓約する。
出典:オーストリアの誓約(暫定訳:長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA))
2015年12月国連総会での「人道性誓約」決議──日本は棄権
2015年12月7日、前年のオーストリアの誓約の内容を反映した「核兵器の禁止と廃絶に向けた人道性の誓約」決議が国連総会で投票に付され、賛成139、反対29、棄権17という結果となりました(投票結果:英文 pdf)
日本は北大西洋条約機構(NATO)加盟国のほとんどの国々とともに棄権しました。
決議には次のようにあります。
総会は
……
核兵器の人道上の影響に関し、2013年3月にノルウェー、2014年2月にメキシコ、2014年12月にオーストリアでそれぞれ開催された3回の国際会議とそれらの会議で提示された説得力のある証拠を想起し、……
3.すべてのNPT※加盟国に対し、第6条に基づく既存の義務を早期かつ完全に履行するとの自国の誓約を一新するよう要請する。また、すべての加盟国に対し、核兵器の禁止及び廃棄に向けた法的なギャップを埋めるための効果的な諸措置を特定し、追求するとともに、こうした目標の実現に向けて、あらゆる関係者と協力してゆくよう求める。
4.すべての核兵器保有国に対し、保有核兵器の全面的廃絶が達成されるまでの間、核兵器の運用態勢の緩和、配備から非配備への移行、軍事ドクトリンにおける核兵器の役割低減、すべての種類の核兵器の早急な削減を含む、核兵器爆発の危険性を低下させる具体的な中間措置を講じるよう求める。
5.すべての関係者、各国政府、国際機関、国際赤十字・赤新月運動、議員、市民社会に対し、受け入れがたい人道上の影響及び関連した危険性の観点から、核兵器を忌むべきものとし、禁止し、廃絶する努力において協力を行うことを求める。
6.第71会期の暫定議題として、「全面完全軍縮」項目の下に「核兵器の禁止と廃絶に向けた人道性の誓約」という副項目を含めることを決定する。
※印には参照すべき文書の名称等が記載されているが省略した。
出典:RECNA暫定訳
英文はこちら
A/C.1/70/L.38 Humanitarian pledge for the prohibition and elimination of nuclear weapons (pdf)
人道性キャンペーンの煽りを食った2015年日本決議の投票結果?
2015年日本決議案は、2010~2014年の前文の「人道的結末」の部分はそのまま踏襲しました。目立つ追加としては次のようなものがありました。
核兵器の使用がもたらす壊滅的な人道上の結末が十分に理解されるべきであり、関連してそうした理解を広げる努力が行われるべきであることに留意し……
3.核兵器使用による人道上の結末に対する深い懸念が、核兵器のない世界に向けたすべての国家の努力を支え続けていることを強調する。……
23.各国指導者や若者らが核兵器使用の被害都市を訪問することや、原爆を生き延びた人々(被爆者)の証言を聴くことなどを含めて、核兵器使用がもたらす人道上の影響に対する意識を喚起するためのあらゆる努力が行われることを奨励する。
出典:RECNA暫定訳より抜粋
投票結果は、賛成166、反対3(中国,北朝鮮,ロシア)、棄権16(キューバ,エクアドル,エジプト,仏,インド,イラン,イスラエル,モーリシャス,ミャンマー,パキスタン,韓国,南ア,シリア,英国,米国,ジンバブエ)でした。
米英までが棄権になったのは、日本案の人道性の部分が強くなったからというより、同じ人道性という表現を使う「誓約」決議の煽りを食ったということでしょうか。中国が反対し、韓国が棄権した理由は、被爆都市訪問に触れた部分が日本を全般的「被害国」と捉える姿勢と取られ反発を招いたことにあるようです。この項目は、米国にとっても賛成しがたかったのではないでしょうか。今も、オバマ大統領は、5月のG7伊勢志摩サミットでの訪日の際に広島を訪れるかどうか、微妙な政治的計算をしていると伝えられています。昨年の段階で自分の広島訪問を確約するような文言に賛成するのは困難だったと見て良いでしょう。人道性キャンペーンがなかったとして、この文言にオバマ政権が賛成票を投じることが可能だったかどうか。
いずれにしても、日本案の「人道性」の文言が真空状態の中で登場したために対立が生じたということではなく、人道性キャンペーンを展開している国々と核保有国の間で起きている「対立」が日本案への投票結果に影響を与えたということがポイントです。
参考:日米団体からオバマ大統領に被爆地訪問要請─核なき世界に向けた行動を 核情報 2015年07月29日
誤訳問題についてひとこと
最終的にG7外相会合広島宣言で使われたhuman sufferingを外務省が「非人間的な苦難」と訳したことについて、核保有国の抵抗で「非人道的」の代わりに、軽い言葉を使いながら、国内向けに「非人道的」と同様の意味の文言を入れたと思わせる意図的「誤訳」だという趣旨の批判がされています。
問題の部分はこれです。
広島及び長崎の人々は,原子爆弾投下による極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末(immense devastation and human suffering as a consequence)を経験し,そして自らの街をこれほどまでに目覚ましく復興させた。
ここで参考になるのは、前述の2012年に「2015年核不拡散条約再検討会議」第一回準備委員会で出された核軍縮の人道的側面に関する共同声明にある次の文言です。
最近、国際赤十字および赤新月社運動代表者会議は、あらゆる核兵器の使用に起因する計り知れない人間の苦痛(inculculabe human suffering)を強調するだけでなく、いかなる核兵器の使用であっても、国際人道法の規則といかに両立しうるかを思い描くことは困難であることを強調する決議を採択しました。
ここには計り知れないという形容詞が付いているのですが、human sufferingが登場します。この文言を国際赤十字および赤新月社運動代表者会議が選んだことについて、表現が「軽すぎる」との非難がされるでしょうか。また、それを12カ国が引用したことが問題になるでしょうか。さらに、この文言を訳者が「計り知れない非人間的苦しみ」と訳したとして、それが問題になるでしょうか。
問題は文脈です。日本対核保有国との関係においてではなく、(非)人道性キャンペーンを展開している諸国・団体と核保有国(核の傘の下の国々)との間に「対立」が生じ、そのためにキャンペーンで使われて来た「(非)人道的結末・結果(humanitarian consequences)」、あるいはそれに近い表現が広島宣言で採用されなかった。代わりにhuman suffering as a consequenceという文言が使われた。「(非)人道的結末・結果(humanitarian consequences)」が原案にあったことは、発表された宣言訳の「原子爆弾投下による極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末」という表現からも想像できる。最終的な英文にある「…… human suffering as a consequence of the atomic bombings」 から素直に訳せば「原子爆弾投下の結果、極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難(人々の苦難)を経験」となる。この文脈においてhuman sufferingをどう訳すか。
「(非)人道的結末」が消えたことを明確に示すという意識を持って訳すか。逆に、明確に示すことを避けるために訳すか。あるいは、元々込められていた意味を入れ、思いを込めて訳すか。はたまた、文脈をまったく意識せず訳すか。これが与えられた選択肢となります。
外務省の担当官が何を考えて訳語を選んだかは当人(達)にしか分かりません。
残念なのは、この「誤訳問題」を巡る議論と少なくとも同レベルの議論が、核の使用に関する政策を変えずに形だけ2013年の共同声明に参加した日本の姿勢を巡って起きなかったことです。
参考:
- 広島宣言、外務省訳に異論 「非人間的な苦難」は意訳? 朝日新聞 2016年4月13日
- 川村外務報道官会見記録 2016年4月13日 「誤訳」問題についての外務省の弁明
広島宣言関連の報道のランダムな抜粋
広島宣言に日本が以前から唱えてきた核兵器の「非人道性」が入らなかった?
- 「核の非人道性」盛らず 政府、保有国に配慮 広島宣言 朝日新聞 2016年4月8日
日本政府は、10、11日の広島での主要7カ国(G7)外相会合の際に出す「広島宣言」に、日本が国際会議の決議案でたびたび主張してきた「核兵器の非人道性」を盛り込まず、「核兵器の使用が壊滅的結末を想起させる」との表現にとどめる方針を固めた。核保有国の米英仏に配慮した。……。日本政府は従来、被爆国として「核兵器の非人道性」に言及して核軍縮を訴えており、宣言の表現は事実上の後退となる。
日本政府が「核兵器の非人道性」への言及を断念したのは、昨年の核不拡散条約(NPT)再検討会議での議論が影響している。一部の非核保有国が「核の非人道性」を核兵器の法的禁止の必要性の根拠にし、米国など核保有国が強く反発した。日本が昨秋の国連総会で「核の非人道性」を強調する核廃絶決議を提案した際には、米英仏がそろって棄権した。
- たびたび主張したのは2010年最終文書の後であり、非人道性キャンペーンと日本決議の関係を念頭に置くと流れが理解できる。
- G7外相会合 「核なき世界」高い壁 「非人道性」盛れず 毎日新聞2016年4月12日
日本側が従来使用してきた「非人道性」を巡ってフランスなどの核保有国は反発。核軍縮に関する「広島宣言」では「非人間的な苦難」という表現になるなど、改めて溝の深さを浮き彫りにした。……
核保有国が「非人道性」を忌避するのは、核兵器使用が国際法上の「人道に対する罪」に当たるとの考えにつながることを恐れるためだ。メキシコなど急進的な非核保有国は、核兵器禁止条約の制定を目指す理由に「非人道性」を挙げる。……
昨年12月の国連総会にオーストリアなどが核廃絶の法的枠組み強化を求めて提出した「人道の誓約」決議案は、139カ国が賛成して初めて採択された。核保有国の警戒感は一層強まり、「非人道的結末」に言及した日本提出の別の決議案には、これまで賛成していた米英仏が棄権。外務省幹部は「フランスは『非人道性』の議論すら許さない」と振り返る
- 従来使用してきたのが2010年以来のことで「人道に対する罪」については2010年最終文書の際には、核保有国は気にしていなかったことに注意。
- (時時刻刻)謝罪なし、日米の思惑 広島初訪問と宣言を優先 G7外相会合 朝日新聞2016年4月12日
だが、核廃絶へのメッセージとしては力強さに欠ける内容だ。広島・長崎への原爆投下による「非人間的な苦難」に言及したものの、唯一の戦争被爆国として日本が従来主張してきた「核兵器の非人道性」という表現は封印した。……
背景には、米英仏を除くG7の非核4カ国も安全保障政策では米国の核の傘に頼っている事実がある。日本外務省幹部は「北朝鮮の核問題が切迫する中、核抑止力の信頼性に疑問を抱かせるような表現には絶対にできない」と打ち明けた。
米国など核保有国は最近、非核保有国の間で「核兵器の非人道性」を強調し大胆な核廃絶を進めようとする動きが広がっていることに、警戒感をあらわにしている。米国と同盟関係を持たない非核保有国が、核保有国に廃棄を義務づける「核兵器禁止条約」の制定に向けた動きを活発化しているためだ。昨年秋の国連総会では国連加盟国の3分の2近い120カ国以上が核兵器の法的禁止をめざす決議に賛同した。……
その結果、宣言は核保有国も容認できる程度に「骨抜き」された。日本は核保有国と非核国の「橋渡し役」を掲げているが、核兵器の法的禁止を目指す非核国グループとの溝は一層大きくなったと言える。
- 「唯一の戦争被爆国として日本が従来主張して来た」というのは日本に対する思い入れから来る表現か。生物・化学兵器及び大量の通常兵器にの攻撃に対して核使用オプションを維持して欲しいとする日本政府の立場は、「唯一の役割」を宣言しても良いと考えている米国政府内の人々より、強硬な核の現状維持思考。これを変えない限り、「橋渡し」にはなり得ない。
- 「広島G7会合の意義~広島の声は届いたか~」(時論公論) NHK 2016年04月11日
広島出身の岸田外相は、広島宣言で、G7の核保有国と非核保有国が共同で核軍縮に向けたメッセージを発し、停滞する核軍縮を再起動させたいとしてきました。
外務省が最も苦慮したのが、核兵器の「非人道性」という言葉に核保有国が強い拒否感を示したことです。
去年日本が国連総会に提案した核廃絶決議案に対して核保有国のうち中ロは反対、同じ価値観を共有するG7のアメリカ、イギリス、フランスも棄権しました。非人道的という言葉が「人道に対する罪」と結びつき、核兵器禁止条約につながるのではないかと懸念したからです。
今回の広島宣言では「甚大な壊滅と非人間的な苦難」という表現に落ち着きました。……
- 日本案が問題になったと言うより、(非)人道性キャンペーンに対する拒否感の問題。
- 原爆「非人間的な苦難」G7外相が広島宣言 対テロ、サミットで具体策 日経新聞 2016年4月12日
広島宣言で日本は当初、核兵器使用がもたらした惨状を「非人道的」と表現しようとした。核保有国が国際法の人道上の罪にあたると取られかねないと懸念し、「非人間的な苦難」を盛り込むことで折り合った。
- 2010年最終文書や日本決議の「非人道的」には英仏は反対していなかった。
- G7外相広島宣言で原爆非人間的 共同通信 2016年4月11日
広島市で開かれた先進7カ国(G7)外相会合は11日、原爆投下で広島・長崎は「極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難」を経験したとして、各国指導者の被爆地訪問を希望する「広島宣言」を発表し閉幕した。「核兵器のない世界」を提唱するオバマ米大統領の被爆地初訪問に期待をつなげる。日本政府が訴えてきた核兵器の「非人道性」は核保有国の反対で明記しなかった。
- 日本決議に賛成票を投じた英米仏は、2010年から2014年まで日本政府とともに「非人道性」を訴えてきた。
- 広島宣言 政府の和訳「非人間的な苦難」 「貧乏」も指す言葉、「核」の表現足りず 東京新聞 2016年4月13日
日本が宣言に盛り込もうとした「非人道的」を示す英語は不明。国際会議などでは「inhumane」を使うケースが目立つものの、核兵器保有国は核兵器の使用が国際法の「人道に対する罪」(crimes against humanity)に当たるとの考えに結びつくとして、この表現を嫌う。
昨年十二月の国連総会で日本などが共同提案した核兵器廃絶決議案には「壊滅的で非人道的結末」と訳された「catastrophic humanitarian consequences」の文言があった。賛成百六十六で採択されたが、核拡散防止条約(NPT)が核保有を認める五カ国のうち中国とロシアが反対し、米、英、フランスも棄権した。
- 「非人道性」は、2010年から入っていて、2014年まで英米仏は賛成。ロシアも2013年まで賛成。
2015年日本決議と人道誓約決議
- 国連委、日本の核廃絶決議を採択 中国など3カ国反対 日経新聞 2015/11/3
軍縮問題を扱う国連総会第1委員会は2日、日本が提出した核兵器廃絶決議を賛成多数で採択した。
同様の決議案提出は22年連続だが、初めて世界の指導者らに被爆地訪問を促すことを盛り込んだ。……
昨年共同提案した米英は、核兵器の非人道性を訴える非保有国に態度を硬化させ棄権に回った。……
オーストリアが提出した核兵器の禁止や廃絶に向けた法的枠組みへの努力を誓う決議も128カ国の賛成で採択されたが、被爆国だが米国の「核の傘下」にある日本は棄権に回った。
- 日本決議が(非)人道性キャンペーンの「誓約決議」の煽りを食ったという意味。被爆地訪問の件の影響は?
- 「核廃絶」決議採択 保有国は反対、日本は棄権 毎日新聞 2015年11月3日
国連総会(加盟193カ国)の第1委員会(軍縮)は2日、核兵器の非人道性を強調し、核廃絶への法的枠組みの強化を求める「人道の誓約」決議案の採決を行い、賛成128で採択した。主な核保有国のほか、非核保有国の中でもドイツやオランダなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国の大半が反対。唯一の被爆国で米国の「核の傘」に守られている日本は棄権した。……
2014年に開かれた核兵器の非人道性に関する国際会議終了後、オーストリアが発表した「誓約」の内容をほぼ踏襲した。……
- 人道誓約決議と核の傘に触れている。日本の核の傘は、生物・化学兵器及び通常の大量兵器に対するものでもあることに注意。
- 核廃絶決議を国連採択 日本主導、米・英・仏などは棄権 朝日新聞 2015年12月8日
決議案が核の非人道性を強調したことで、米英仏の棄権につながったとみられるが、日本は核兵器の廃絶時期を示さない配慮もしていた。米英仏が今回から棄権に回り、「核保有国と非核保有国の橋渡し役」を自任してきた日本は戦略の見直しを迫られている。
- 煽りを食ったという視点は?
非人道性キャンペーン──オスロ会議
- 核廃絶、世論作りから 非人道性を確認 オスロ会議 (朝日新聞2013年3月12日)
核兵器の非人道性に焦点を当てた初の国際会議がノルウェー・オスロで開かれ、被爆者が長年訴えてきた核廃絶の論理が、ようやく国際的な議論の場で取り上げられた。世界の核の大半を保有する5大国の姿はなく、「核兵器禁止条約」への道は遠い。会議を主導した有志国は、時間をかけて「核なき世界」に向けた国際世論を作っていく考えだ。……
「核の傘」が頼み、日本は策描けず
「唯一の戦争被爆国であり、核兵器の悲惨さをどの国より理解している」。岸田文雄外相は5日の記者会見で、オスロ会議に参加した意義を強調した。
ただ、日本は自国の防衛を米国の「核の傘」に頼る。北朝鮮が核実験やミサイル発射を繰り返すなど、日本周辺の安保環境は悪化している。2月の核実験後には、オバマ大統領が安倍晋三首相に電話で「米国の核の傘を含む日本への防衛コミットメントは不動だ」と伝え、首相は歓迎。安倍内閣は同盟強化を唱え、核の傘への依存は増す。
- 核の傘問題を強調。生物・化学・通常兵器のことを念頭に読むと理解が深まる。
参考:第3回核兵器の人道的影響に関する会議 外務省 2014年12月25日
12月8~9日,オーストリア・ウィーンのホーフブルク宮殿において,同国政府主催により,第3回核兵器の人道的影響に関する会議が開催された。同会議は,第1回オスロ会議(2013年3月),第2回ナジャリット会議(2014年2月)に引き続き,核兵器の使用がもたらす様々な影響について,専門家のプレゼンテーションと共に事実に基づく議論を行うことを趣旨とする国際会議であり,158か国,国連,赤十字国際委員会,NGO及び学術界等が参加した。我が国からは,佐野利男軍縮代表部大使を団長とし,朝長万左男日本赤十字社長崎原爆病院長,星正治広島大学名誉教授,田中熙巳日本原水爆被害者団体協議会事務局長他計8名が我が国代表団として出席した。なお,5核兵器国(米・英・仏・中・露)からは,米国と英国が初めて参加した。
ケリー国務長官の広島訪問とオバマ大統領の計画
- クローズアップ2016 G7外相・広島宣言 オバマ氏訪問が焦点 米政権内に慎重論も 毎日新聞 2016年4月12日
「原爆ドームを見てみたい。あそこまで行けるのか」。ケリー氏は原爆慰霊碑に献花して写真撮影を終えると、岸田文雄外相に切り出した。岸田氏は「5分歩くがいいのか」と応じ、外相らは予定になかった約200メートルの道のりを歩いた。
- (時時刻刻)謝罪なし、日米の思惑 広島初訪問と宣言を優先 G7外相会合 朝日新聞2016年4月12日
「ぜひ原爆ドームを見てみたい」。そう岸田氏に切り出すと、千羽鶴で米国旗をあしらった首飾りをかけたケリー氏が、ドームへ足を進めた。……
ケリー氏は慰霊碑や原爆ドームのほか、平和記念資料館(原爆資料館)も訪問。資料館では予定の時間を大幅に超え、熱心に展示物に見入った。
展示を見終わると「世界のすべての人が記念館の力強さを見て感じるべきだ。核兵器の脅威を終わらせるという責務だけでなく、戦争を避けるためにあらゆる努力をすべきだということを改めて厳しく思い起こさせてくれる」と記帳し、広島訪問の意義を強調した。 「すべての人が広島を訪れるべきだ。いつか米大統領も『すべて』の一人になることを願っている」。会見でこう語ったケリー氏は、断定的な表現を避けながらも、笑みを浮かべた。……
- ケリー米国務長官、広島の原爆資料館訪問 「胸えぐられるよう」 ロイター 2016年 04月 11日
ケリー長官は、核兵器のない世界を目指すことの重要性を、すべての公人にあらためて認識させるものだと述べた。……オバマ米大統領が、現職の米大統領として初めて広島を訪問する可能性については、ケリー長官は、実現を望んでいるが、可能かどうかは分からない、と述べるにとどめた。