核情報

2012.11.19

「持ち込ませず」は無理と橋下大阪市長──第7艦隊が核兵器搭載?

橋下徹大阪市長が11月10日、広島市での囲み取材で、核廃絶の実現可能性について疑問を呈し、非核三原則の「持ち込ませず」についても無理だと述べました。その根拠は、第7艦隊が核兵器を持っていないはずがないというものです。実際は、米国海軍で核兵器を持っているのは、戦略原潜だけです。ブッシュ大統領(父)が水上艦及び攻撃原潜の核兵器を撤去すると宣言したためです。陸上で保管されていた核付きトマホークの延命の動きが2009年〜2010年にありましたが、これを阻止し、海軍による持ち込みの可能性を無くすことに日米の運動の協力が大きく貢献しました。

参考

橋本市長の主張

橋下市長は言います。「『持ち込ませず』というところが、本当にそれが現実的にどうなのかというところは、しっかりと確認して。『持ち込ませず』は無理だと。……日本が拠点となりながら、太平洋を全部あの米国の第7艦隊が守っているわけですよ。米国の第7艦隊がじゃあ、核兵器を持っていないのかというと、そんなことあり得ないですよ」(ニュースサイトJ-CAST(11月12日)他)。

「安全保障と核については、しっかりと政治家である以上は考える、議論する、国民の皆さんにきちんと問題提起はする。こういうことは必要だと思います」というのは、この見解に基づく主張でした。

米国専門家、第7艦隊は核搭載なしと指摘

ところが、米国の核政策に関する権威として知られる「米国科学者連合」(FAS)のハンス・クリステンセン氏は、核情報へのメールで、こう言っています。「第7艦隊の艦船にも、米国海軍の他のどの水上艦あるいは攻撃原潜にも核兵器は搭載されていない。これらの艦船のすべての核兵器は、1991年から92年に陸揚げされた。そして、94年にクリントン政権が、水上艦すべてを非核化することを決定し、空母を含め、すべての水上艦の核兵器搭載機能を除去した。その後は、海軍の非戦略核で残っていたのは、陸上攻撃用の核弾頭型巡航ミサイル『トマホーク』だけだった。しかし、オバマ政権の2010年『核態勢の見直し』は、この核兵器を退役させることを決めた。その結果、米国海軍は、日本の港に、いや、何処にも核兵器を持ち込む必要はない。橋下市長が、米国の空母が核兵器を持っていないことが考えられないと言うのなら、核廃絶を考えることができないというのは不思議ではない。空母にも、日本を訪れているどの艦船にも核兵器は搭載されていないから、この問題について議論をしようという彼の提案は、そもそも意味をなさない。」米海軍が配備している核兵器は、戦略原潜搭載の戦略核兵器だけであり、戦略原潜は他国の港には寄港しないから、海軍による持ち込みはあり得ないということです。

海軍の持ち込みを不要にした日本の運動と岡田書簡

2013年退役予定のトマホークの延命を図ろうという動きが、2009年、「核態勢の見直し」を巡る議論の中でありました。これらのミサイルは、1991年9月27日にブッシュ(父)大統領が、水上艦船及び攻撃原潜から核兵器を撤退すると宣言したため、翌年以来、原潜には搭載されず、陸上で保管されてきたものです。このトマホークを維持しないと日本が不安に感じ、核武装してしまうと主張する人々が米国内にいました。

背景には、日本に対する核以外の攻撃に対しても、核で報復するオプションを米国が維持することを望むとしてきた日本の政策があります。日本政府は、核を先には使わないとする「先制不使用策」に反対する立場を1982年以来国会で繰り返し表明してきました。この立場を裏返せば、米国が核兵器の役割を縮小すれば、日本の核武装をもたらすという議論となります。

2009年にいち早くこの状況を把握したクリステンセン氏の指摘を受けた日米の運動やマスコミ報道の結果、岡田克也外相(当時)は、同年12月24日、米国務・国防両長官に書簡を送り、「我が国外交当局者が……貴国の核卜マホーク(TLAM/N)の退役に反対したり、貴国による地中貫通型小型核(RNEP)の保有を求めたりしたと報じられて」いるが、そのようなことを「仮に述べたことがあったとすれば、それは核軍縮を目指す私の考えとは明らかに異なる」と伝え、自分は「核兵器の目的を核兵器使用の抑止のみに限定すべき」との日豪主導の「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)報告書の勧告に「強い関心を有して」おり、「政策への適用の可能性について、今後日米両国政府間で議論を深めたい」と述べました。

この書簡は、核弾頭型トマホークの予定通りの退役を決めた2010年「核態勢の見直し」に重要な影響を与えました。つまり、日本の運動が、核搭載艦船寄港の可能性をなくすのに貢献したということです。

残された課題──先制不使用を日本の核政策に

残念ながら、先制不使用支持の岡田外相(当時)の考えは、外務省の方針とはなりませんでした。核以外の攻撃にも核で報復するオプションを残せと言い続けていては、「持ち込ませない」の法制化は、米軍の必要とは関係なく、不可能でしょう。また、核兵器の非人道性と非合法化を訴える文書に署名するのも難しいでしょう。日本の運動が継続的に取り組むべき課題がここにあります。


追補 日本への核兵器再導入のオプション維持が必要?根拠薄弱 ハンス・クリステンセン

太平洋における今日の米国の核態勢は、ほとんどが長距離弾道ミサイルと爆撃機だけによるものである。約500発の核弾頭が、毎日、5〜6隻の弾道ミサイル潜水艦に配備されている。状況によって、北朝鮮、中国、そしてロシア東部の目標に対して使用するためのものである。約200発の核弾頭が、高度な警戒態勢に置かれていて、命令が出てから12分以内に発射できるようになっている。残りの300発は、射程内に短時間で移動できる態勢にあり、必要となればさらに700発の予備の弾頭を潜水艦に追加できる。

この海洋の戦力に加え、米国に配備されている450基のミニットマン3大陸間弾道弾(ICBM)に搭載されている500発の核弾頭がロシアを標的としている。また、核爆弾や巡航ミサイルを搭載するB−2やB−52H爆撃機も、弾道ミサイルのバックアップを提供している。空軍は、2000年に、爆撃機のグアムへの前方展開を時折行い始めた。そして、2004年からは、継続的に前方展開を行っている。

最後に、ノース・カロライナ州のシーモア・ジョンソン空軍基地の第四戦闘航空団所属のF−15Eも、必要となれば、太平洋地域の基地に前方展開する非常事態ミッションを持っている。例えば、1998年に、この戦闘航空団は、米国の東海岸沖の演習において、北朝鮮に対する核攻撃のシミュレーションを行っている。このような前方展開用の「太平洋地域の基地」として、在日米軍基地が使われることはないだろう──日本では核問題が政治的にセンシティブだし、太平洋地域には他の施設があるからである。

このような状況や、日本への配備に頼らない広範な核能力から言って、核の傘が日本に核兵器を再導入するオプションの維持を必要とするという一部の政府関係者の主張は、根拠が薄弱である。

出典:日本の核の秘密―過去の密約の検証、継続する秘密主義の解明・解消に向けて―岩波書店『世界』2009年12月号 


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