核情報

2009.6.4

墓場行きを免れるか核トマホーク、日本の協力で?

ほとんど廃棄の決まっている核弾頭型巡航ミサイル「トマホーク」を復活させようと言う米国内の動きの原動力に日本核政策がなろうとしていると米国の研究者が警告しています。これらのミサイルは、1991年9月27日にブッシュ(父)大統領が、水上艦船及び攻撃原潜から核兵器を撤退すると宣言したため、翌年以来、原潜には搭載されず、陸上で保管されているものです。(ブッシュ演説抜粋

米国の核政策に詳しい「米国科学者連合(FAS)」のハンス・クリステンセンによると、日本は、トルコや一部の東欧の国とともに、米国に対して大幅核削減をしないようにと訴えているということです。中でも問題のなのが、半ば墓場行きが確定している核トマホークの配備要求です。



  1. 二つの報告書と核トマホークの配備を要求する日本の立場
  2. 東京フォーラムの結論に反する日本の行動
  3. 二つの報告書の背景
  4. 「米国戦略態勢議会委員会」最終報告書(二〇〇九年五月)
  5. 「国防長官タスク・フォース」最終報告書(2008年12月)
  6. 神保謙慶応義塾大学准教授の説明する日本の提案
  7. 対話で不必要なシステムの維持?
  8. 唯一の被爆国日本は何を主張してきたのか
  9. 参考



二つの報告書と核トマホークの配備を要求する日本の立場

クリステンセンは、核情報へのメールで次のように述べています。

「国防長官タスク・フォース」(2008年12月最終報告)や「米国戦略態勢議会委員会」(2009年5月最終報告書)に対して日本政府関係者が行ったとされる不確かな発言が、ここワシントンでは、オバマ政権の核軍縮のアジェンダを阻止し、不必要な核兵器(つまり核弾頭型潜水艦発射巡航ミサイル)の維持の必要性を主張するために使われている。

潜水艦発射巡航核ミサイルは、戦術核が世界中に配備されていた時代の冷戦型兵器だ。基本抑止には必要のないもので、米軍は、長年これを廃棄しようとしてきている。世界中における巡航ミサイルの拡散ペースを考えれば、米ロ両国にとって核巡航ミサイルを全面的に廃棄した方が得策だ。

東京フォーラムの結論に反する日本の行動

日本が主導した「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」報告書(1999年7月)は、戦術核の削減・廃棄を訴えていました。(東京フォーラム報告書抜粋

米ロにより91年10月に発表され、92年1月に確認された一方的かつ相互的な戦術核の削減政策は、透明性を保ちつつ、逆戻りしないよう実施されなければならない。・・・

東京フォーラムは、戦術核の削減・廃棄は戦略核と並行して進められることが可能だし、それを確保すべく緊急の措置がとられるべきであると信じる。

この東京フォーラムの結論にも関わらず、日本は今、放棄され忘れ去られようとしていた核トマホークの復活を要求し、戦術核全廃への動き、つまりは核兵器廃絶への動きを阻止しようとしているということです。

二つの報告書の背景

委員長の名を取ってシュレシンジャー・タスク・フォースとも呼ばれる「国防長官タスク・フォース」は、核兵器の管理態勢の改善のために設置されたものですが、その最終報告書は、本題から外れ、核抑止力の維持を主張する内容となっています。「米国戦略態勢議会委員会」の方は、米議会が、2008年度国防歳出権限法の一部として、国防省に2009年中の「核態勢の見直し(NPR)」を義務付けた際に、設置を決めたものです。「核態勢の見直し」の参考にする報告書を提出するのが目的でした。しかし、この超党派の委員会の最終報告書も変革を訴えるものとはなっていません。

 これら二つの報告書過程で日本政府が核兵器の大幅削減に抵抗を示したというのです。

「米国戦略態勢議会委員会」最終報告書(二〇〇九年五月)

(英文pdf)(委員長:ウィリアム・ペリー元国防長官。副委員長:ジェイムズ・シュレシンジャー元国防長官)

議会委員会の最終報告書は次のように述べています。

アジアでは、拡大抑止は幾つかのロサンジェルス級攻撃潜水艦の巡航核ミサイルの配備によるところが大きい。トマホーク陸地攻撃ミサイル/核(TLAM/N)である。この能力は、これを維持する措置が講じられなければ2013年に退役となる。アジアにおける米国の同盟国は、[NATO諸国と]同じようには核計画策定に組み込まれておらず、運搬手段システムへのコミットメントをするように求められてはいない。我々の作業の中で、アジアの幾つかの米国の同盟国の一部は巡航核ミサイルが退役について非常に憂慮するだろうということが明らかになった。

p.26

訳注:NATO諸国はNATOとしての核戦略を決める過程に関わっており、一部の国では核戦争となれば米国の核爆弾をその航空機に搭載して核爆撃を行う体制をとっている。

前述のように、実際は、核トマホークは、1992年以来、海に出たことはありません。これらの戦術核兵器は、ワシントン州バンゴール及びジョージア州キングズ・ベイの戦略兵器施設に一部の戦略核兵器とともに保管されています。クリステンセンらによると、核トマホークは、約100発が使える状態に保たれ、200発が中の爆発威力増強(ブースト)用ガスを抜いた非活性貯蔵状態にあると見られています。寿命が2013年までとされており、延命措置も、後継兵器製造計画もありません。日本に対する拡大抑止がこれらの半死状態の300発の核兵器の配備によるところが大きいというのでは、日本に対する拡大抑止などそもそも、なかったというに等しいでしょう。

報告書は、この奇妙な論理に基づき、こう勧告しています。

勧告:

4.米国は、非戦略核兵器の発射(delivery)のための能力を維持すべきであり、ヨーロッパ及びアジアの同盟国と密接な協議をしながらそれを進めるべきである。

p.29

TLAM-Nの延命策を、というわけです。そして、それは、日本がそう主張しているからだと臭わせます。

この広範な軍備管理戦略を成功裏に追求するには、以下が必要である。第一に、戦略対話のプロセスがずっと活発にならなければならない。これは、米ロの関係ーー対話の再開がうまく開始されているように見られるにーーおいて最も明らかである。しかし、米国の同盟国とも、この過程において協議しなければならない。単に、ワシントンとモスクワの間で私的に到達した決定を事前に知らせるというだけあってはならない。とりわけ、核問題について日本ともっとずっと広範な対話を構築すべき時期であるーーその制限は、日本政府の要望のみによるべきである。このような日本との対話は、また、拡大抑止の信頼性を高めることにもなる。・・・

p.70

報告書には、協議をした外国政府関係者のリストがありますが、その中に次の4人の日本大使館員の名前が挙げられています。

Takeo Akiba:Minister, Head of Political Section, Embassy of Japan (2009)

Masafumi Ishii:Minister, Head of Political Section, Embassy of Japan (2008)

Hidetoshi Iijima:First Secretary, Political Section, Embassy of Japan

Masaaki Kanai:First Secretary, Political Section, Embassy of Japan

p.134

「国防長官タスク・フォース」最終報告書(2008年12月)

(英文pdf)(委員長:ジェイムズ・シュレシンジャー元国防長官)

ニュー・アメリカ財団のジェフリー・ルイスは、そのブログ「アームスズコントロール・ウォンク(核管理オタク)」で、ジンボ(Jimbo)のTLAN-Nへの深い愛にも関わらず、軍部には関心がないことを報告書自体が指摘していると、報告書の次の部分を引用しています。

タスク・フォースは、戦闘軍、統合参謀本部、海軍のどこからも、TLAM-Nの提供する核弾頭型海洋発射巡航ミサイル能力を支持する声を見いだすことは出来なかった。この欠如は、我々の同盟国のためのエスカレーション・コントロール及び拡大抑止において一定の柔軟性を大統領に与えるTLAM-Nの重要な抑止能力が認識されていないことの反映である。

p.42

要するに、軍部が要らないと言って倉庫にしまったままにしていて、そのまま廃棄処分にするつもりの半ば墓場入りのTLAM-Nをジンボが復活させようと必死になっているのだということです。

タスク・フォースの報告書は、次のようにも述べています。

国防長官による政策文書類と一つの覚書とが、後継計画が策定されるまで海軍はこのシステム[TLAM-N]を維持するようにと支持している。しかし、海軍や米国戦略軍(USSTRATCOM)、統合参謀本部の見るところでは、TLAM-Nが満たすと特定できる具体的な軍事能力あるいはギャップは存在しない。今日まで、公式な後継計画も策定されていないし、このシステムの長期的な維持のための資金もプログラム化されていない。

p.25

TLAM-Nをこよなく愛すジンボは、108ページのタスク・フォース報告書にTLAM-Nを42回も登場させ、副委員長を務めた議会委員会の報告書でもTLAM-Nについての文言をねじ込んだのではないかとルイスは推測しています。議会委員会は、その委員の半分が包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准に反対していることからも分かるとおり、報告書は様々な見解の妥協の産物ですが、その過程で、TLAM-Nが忍び込んだとの読みです。

ジンボは、ジェイムズのニックネームで、シュレシンジャー委員長を指します。ここで興味深いのは、神保謙慶応義塾大学准教授の論文です。

神保謙慶応義塾大学准教授の説明する日本の提案

PACNET #9A FEBRUARY 26, 2009: JAPANESE PERCEPTIONS OF NUCLEAR "TWIN COMMITMENTS" UNDER THE OBAMA ADMINISTRATION(「戦略・国際問題研究所(CSIS)」のニュースレター(英語)」)(英文pdf)

アジアにおける米国の能力の核の側面も、具体的な形で検討されるべきである。可能性のあるアイデアとしては、B52/B-2戦略爆撃機によるグアムへの核戦力の通常時配備(あるいは頻繁な配置/戦時の配置)の導入がある。核搭載の弾道ミサイル潜水艦(SSBN)及び巡航ミサイル潜水艦(SSGN)のグアム母港化も検討すべきである。日本は沖縄からの第3海兵遠征軍の移転の支持に加えて、グアムにおける支援/保守施設の建設も支援出来るかもしれない。

(「核情報」訳)

巡航ミサイル原子力潜水艦(SSGN)は、戦略弾道ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を核戦力から外し、通常弾頭の海洋発射巡航ミサイルが搭載できるように変えたものです。Gはguided(誘導)を指します。クリントン政権は、1994年に18隻あった戦略原潜を14隻にし、残りの4隻を、SSGNに改修することを決定しました。この作業はほぼ完了と米議会調査局(CRS)の報告書(2009年2月23日)(英文pdf)が伝えています。SSGNは、1隻当たり154発の通常弾頭巡航ミサイル(トマホーク)を搭載出来ます。これに核弾頭付きのトマホークを搭載して、グアムを母港とせよとのアイデアが日本側にあるということのようです。

 参考:ウェブサイト「グローバルセキュリティー」のSSGN解説

対話で不必要なシステムの維持?

佐藤行雄元国連大使(元日本国際問題研究所理事長)は、同研究所他の合同コメンタリー・サイト掲載の論文、Reinforcing American Extended Deterrence for Japan: An Essential Step for Nuclear Disarmament(英文:日本のための米国の拡大抑止の強化:核軍縮のための不可欠の措置)で次のように述べ、二つの報告書と同じく、日米の対話を提唱しています。

米国政府が一方的に核抑止の概念を再定義し、抑止の提供における核兵器への依存を減らす方向に進むならば、米国の拡大抑止の信頼性についての日本の懸念が高まる。

(「核情報」訳)

ルイスも対話が必要だと主張します。ただし、政治的対話を適切に行えば、不必要な冷戦の遺物の退役などは問題とならないという考えからです。

唯一の被爆国日本は何を主張してきたのか

米国側には、TLAM-Nを維持する日本の主張を入れなければ、日本が核武装してしまうのではないかという声があります。この問題について、日本政府はその立場を明確に説明する必要があります。

日本は、米国に何を求めているか。

TLAM-Nの維持を求めたのか。

求めたとすれば、いかなる理由でそれが必要と考えたのか。

TLAM-Nの退役は、日本の核武装を考えなければならないほど重要な問題なのか。

参考

  1. 戦術核撤去・削減を約束する「ブッシュ大統領一方的核削減措置演説」─1991年9月27日(英文)
  2.   戦術核に関する部分の抜粋

    1)地上発射の戦術核の全面的撤去及び破壊

    「世界各地における米国の地上発射短射程(つまり戦域)核兵器を無くすことを命じる。われわれは、核砲弾と短射程弾道ミサイルの核弾頭を米国に持ち帰り破壊する。」

      *地対空用の核弾頭及び核地雷はすでに配備から外されていた。

    「もちろんわれわれは、ヨーロッパにおける空中発射の効果的な能力[核爆弾]は維持する。これは、NATOの安全保障にとって不可欠である。」

    2)海軍の戦術核兵器の撤去

    「米国は、水上艦艇及び攻撃型潜水艦の戦術核兵器、それに、地上配備の海軍航空機に関連した核兵器をすべて引き揚げる。」

    「これは、米国の水上艦艇及び潜水艦の核弾頭型トマホーク巡航ミサイル、それに、空母搭載の核爆弾をすべて撤去することを意味する。」

    「要するに、通常の状況においては、米国の艦艇は、戦術核を積まないということだ。」

    *「これらの地上配備及び海上配備の核弾頭の多くは、解体され、破壊される。残りの核弾頭は、主要地点(複数)に安全に保管し、将来の危機において必要となれば使えるようにしておく。」

  3. 戦術核の削減・廃棄を訴える「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」報告書(1999年7月)抜粋
  4. その他の核兵器

    英仏は配備されていない核兵器を貯蔵してはおらず、他方、中国の未配備核兵器の貯蔵量に関する情報は入手できないでいる。米ロは未配備核兵器を大量に貯蔵している。米国政府は、この大規模な予備軍備を、敵対的なロシアの復活に備えるための「保険」であると説明している。他方ロシア政府も、膨大な戦術核兵器の保有を、通常兵器の弱点とNATOの復活に対する保険政策だと説明している。配備戦力を補完する膨大な軍備の維持は冷戦の遺物である。何故膨大な数の核兵器が必要かにつき、辻褄のあう合理的な説明をするのは難しい。たとえ、米・ロ関係が、新しい冷戦状態にまで悪化したとしても、数千発の核弾頭を両国はどのように使うのであろうか。東京フォーラムは、米ロが、未配備核兵器の「保険」量を検証可能な方法で、漸進的に削減し、廃絶するための協議を可能なかぎり早期に始めるよう求める。

    これ迄長きに亘り、無視されてきた戦術核兵器の問題がより多くの関心を集めつつある。99年のNPT準備委員会においては、多数の国が戦術核兵器の軍縮が喫緊の課題である旨表明した。こうした傾向は戦術核兵器に関する関心が高まっていることを如実に示している。戦術核はロシアの核ドクトリンにおいて再評価されており、このことは99年4月29日のロシア安全保障評議会における決定、West99として知られる軍事演習等、最近のロシアの動向に反映されている。99年7月の中国による中性子爆弾の保有宣言もまた注目される。米ロにより91年10月に発表され、92年1月に確認された一方的かつ相互的な戦術核の削減政策は、透明性を保ちつつ、逆戻りしないよう実施されなければならない。中国が戦術核兵器について更なる情報を提供すればそれは歓迎されるであろう。より一般的には、検証可能な削減と廃絶が戦略核にとどまらず戦術核にまで速やかに拡大されるべきである。

    戦術核に伴うテロや核拡散の危険は高い。戦術核は比較的盗み易く、旧型戦術核は、指令に基づかない使用を防ぐ措置も十分厳重ではない。現在世界に貯蔵されている核の半分以上が旧型戦術核兵器である。これらの貯蔵を減少させるプロセスは、米ロ間において、検証はされないが、実質的な削減から始まった。仏も戦術核保有量を削減したし、英国は廃絶を決定している。東京フォーラムは、戦術核の削減・廃棄は戦略核と並行して進められることが可能だし、それを確保すべく緊急の措置がとられるべきであると信じる。

  5. 下院軍事委員会公聴会(2009年5月6日)(pdf)
    でのシュレシンジャー、ペリー両氏の質疑応答部分抜粋訳


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