核情報

2007.2.22

核兵器の材料を提供しながら核廃絶? 米印原子力協力と日本

昨年成立した米印平和原子力協力法は、核拡散防止条約(NPT)の枠外で核兵器開発を続けるインドに核兵器用物質の増産を促すことになる可能性があるものです。核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約=FMCT)を推進してきたはずの日本が米印協力を認めれば、日本政府のこれまでの行動の真意が疑われることとなります。これは日本の反核運動の真価が問われる問題でもあります。

以下、米印原子力協力と日本のFMCT推進政策の関係について簡単にまとめました。

  1. 核兵器用核分裂性物質禁止条約(FMCT)を求める日本の立場は本物か
  2. 米印原子力協力はインドの核兵器生産を助長──日本経団連委員会委員長
  3. 生産能力 約7発分/年 ─→ 40−50発分/年
  4. 核兵器保有量6−8倍に?
  5. 水爆開発から核実験へ
  6. カットオフ条約と軍縮会議──外務省の用語説明
  7. FMCTについての日本の考え方
  8. FMCTの核拡散防止条約(NPT)での取り扱い
  9. 日本の核廃絶決議に反対した「米・印・北」の異色トリオ
  10. 核分裂性物質禁止条約(FMCT)に向けた流れ

核兵器用核分裂性物質禁止条約(FMCT)を求める日本の立場は本物か

日本は、「核兵器国やNPT非締約国の核兵器製造能力を凍結する」FMCTを「極めて重要なもの」と位置づけて、国連やジュネーブの軍縮会議(CD)での即時交渉開始を訴えて来ています。

NPTで規定された核保有国5ヶ国(米露英仏中)は既に核兵器用核分裂性物質(プルトニウム及び高濃縮ウラン)の生産を停止していますが、印パ両国はその生産を続けています。

軍事用核物質生産をまったく規制しない現在の米印合意の条件では、ウラン不足に悩むインドは、民生用には外国からウランを輸入して使い、そこで浮いた国内産ウランを軍事用に回すことで核兵器の年間生産量をこれまでの数倍に増やせると見られています。これは、単にインドの現在の核保有状態を認めるかどうかという認識の問題ではなく、インドによる核増強に積極的に手をかすのかどうかという問題です。

FMCTで製造能力の凍結を強調しながら、製造能力の増大に手を貸したのでは国連や軍縮会議での演説は何だったのかということにならざるを得ません。

少なくとも、インドに核分裂性物質の生産中止を迫るべきです。FMCTの交渉に協力するという宣言だけではまったく不十分です。軍縮会議(CD)における各国間の駆け引きのために、長年、FMCTの交渉開始さえできないでいるからです。協力宣言だけでは、インドは、FMCT成立までの間、核兵器用核分裂性物質の生産を続けられることになります。

米印原子力協力はインドの核兵器生産を助長──日本経団連委員会委員長

[2006年]3月の合意では高速炉、再処理、濃縮などの施設は保障措置の対象外となっており、これでは他国から供給される燃料を民生用に利用する一方で、自国の資源を核兵器製造に利用することができ、結果としてインドの核兵器生産を助長することになるのではないか、と懸念される。

秋元勇巳日本経済団体連合会資源・エネルギー対策委員会委員長(三菱マテリアル(株)名誉顧問) 2006年5月

生産能力 約7発分/年 ─→ 40−50発分/年

核分裂性物質国際パネル」(15ヶ国の核問題専門家からなる独立グループ)用に作成された報告書は、核施設のこのようなかたちの分類と、協定で可能となるウランの輸入とによって、インドは、その気になれば、その兵器級プルトニウムのストックの伸び率を、現在の核兵器約7発分/年から40−50発分/年にまで速めることができると推定しています

参考:

核兵器保有量6−8倍に?

現在の推定保有量 50発程度

将来の計画 300〜400発?

参考:

水爆開発から核実験へ

米国の「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」は、インド南部マイソールから約19kmの地点にあるウラン濃縮施設(レア・マテリアル・プロジェクト(RMP))の能力が大幅に拡大されようとしていると分析する。これで水爆用高濃縮ウランの製造が可能となる(数発分/年)とISISは見る。

水爆の開発は、再度の核実験に繋がる恐れがある。インドはCTBTに署名していない。

水爆図
出典: First report of the International Panel on Fissile Materials (pdf, 3.2MB) p. 8

水爆形式の(熱核融合)核弾頭は、2段階の装置からなる。上の米国の弾頭の図は、プライマリーと呼ばれる第一段階にはプルトニウムを使い、セカンダリーと呼ばれる第二段階には重水素化リチウム(核融合燃料)と高濃縮ウランを使うことを示している。引き金の役割を果たすプライマリーの中心にある中空のプルトニウムの中には、重水素と三重水素(トリチウム)の混合ガスが入っている。このガスの核融合反応で生じた中性子がプルトニウムの有効利用をもたらす。セカンダリーでは、リチウムに中性子が当たってトリチウムが発生し、これが重水素と核融合を起こす。

参考

カットオフ条約と軍縮会議──外務省の用語説明

・カットオフ条約

 カットオフ条約は、包括的核実験禁止条約(CTBT)に続く、現実的かつ実質的な多数国間の核軍縮・不拡散措置である。本条約は、兵器用の核分裂性物質(高濃縮ウラン及びプルトニウム等)の生産を禁止することにより、核兵器の拡散・増加を制限する。

・ジュネーブ軍縮会議(CD)の現状

 ジュネーブ軍縮会議(CD)は、軍縮に関する多数国間の交渉を行う唯一の機関。CDにおける議決は全会一致(コンセンサス)により行われると定められており、96年にCTBTを作成して以来、実質的な交渉や議論は行われていない。カットオフ条約についても、交渉の枠組みが合意されているが、CDの作業計画に未合意のため、未だ条約交渉が開始されていない。

ジュネーブ軍縮会議における猪口軍縮代表部大使の演説(カットオフ条約(兵器用核分裂性物質生産禁止条約)について) 2003年2月21日

FMCTについての日本の考え方

 FMCTは、核兵器国やNPT非締約国の核兵器製造能力を凍結することを目的とする極めて重要なものである。我が国としては、早期にCDに特別委員会が再び設置され、FMCTの交渉が開始され、早期に妥結することを期待しており、このため関係国が一丸となって協力することが重要と考えている。また、核兵器国が早期に核兵器用核分裂性物質の生産禁止を一方的に宣言することが有意義であり、あらゆる機会を通じて核兵器国に働きかけている

核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(カットオフ条約:FMCT)の概要 2006年5月

FMCTは、不可逆性という効果を提供する。核兵器用核分裂性物質を所有している国々が、このような物質を生産することを許されなくなるからだ。このように蓋をかぶせることによってのみ、核兵器用核分裂性物質の削減とその後の完全な除去が可能になる。従って、FMCTは、核軍縮措置として重要だ。それは、NPTの核軍縮の側面を強化することになるだろう。(核情報訳)

国連演説  美根慶樹軍縮会議特命全権大使(英語、pdf) 2006年10月10日

参考:外務省サイト説明

FMCTの核拡散防止条約(NPT)での取り扱い

CTBTについで最重要課題と位置づけられている。

・1995年NPT再検討・延長会議採択文書

「核不拡散と核軍縮のための原則と目標」

  • 4)6条の確認
      6条の履行に当たって次が重要。
    • a)CTBTの96年中の締結。それまでの最大限の自制。
    • b)カットオフ(核兵器用核分裂性物質生産禁止)条約交渉の開始・早期締結。
    • c)核廃絶を究極的目標として削減の努力。全面的・完全な軍備縮小。

・2000年 NPT再検討会議最終文書 

核軍縮に向けた13のステップ

  • 1)CTBT早期発効、
  • 2)核実験モラトリアムの維持、
  • 3)核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)交渉の推進、
  • ・・・・

参考:

日本の核廃絶決議に反対した「米・印・北」の異色トリオ

2006年に日本が中心になって国連総会第一委員会(軍縮・安全保障問題)に提出した核廃絶決議案(英文)投票結果 (pdf)10月26日

 賛成169
 反対3 米国 インド 北朝鮮
 棄権8

参考:

核分裂性物質禁止条約(FMCT)に向けた流れ

1992年3月
米国核兵器用再処理(プルトニウム生産)中止
(核兵器用高濃縮ウランは1964年に中止)
1993年9月27日
クリントン大統領、国連総会で多国間の核兵器用核分裂性物質の生産禁止協定提案
1993年12月
国連総会、カットオフ交渉要請決議を全会一致で採択
1994年1月14日
クリントン・エリツィン両大統領、カットオフ条約の「最速」の締結を訴える共同声明発表
1994年1月
軍縮会議(CD)、カナダのジェラルド・シャノン大使をカットオフ条約の特別コーディネーターに指名。シャノン大使、FMCTについてCD各国と協議を開始。
1994年10月4日
クリストファー米国務長官と銭外相と「できる限り早期」のカットオフ条約締結を訴える共同声明発表。
1994年12月
ロシア、1994年10月1日に核兵器用プルトニウムの生産を中止したと発表 (核兵器用高濃縮ウランはゴルバチョフが1989年4月7日に同年中に生産を中止すると発表。)
1995年3月24日
カナダのシャノン大使、CDの各国代表団が1993年12月の国連総会決議に基づいてカットオフ条約の交渉を任務とする特別委員会の設置にコンセンサスで合意したと発表。
1995年4月18日
NPT再検討・延長会議の期間中、英国のハード外相が英国は核兵器用の核分裂性物質の生産を中止したと発表。
1995年5月11日
ニューヨークでの再検討・延長会議の閉幕に当たって、NPTの加盟国すべてが、1995年3月のCDの決定に従いカットオフ条約の交渉の「即時開始と早期締結」を追求するとの「核不拡散及び軍縮の原則と目的」決定文書に合意。
1996年2月22日
フランスのシラク大統領が、フランスはもはや核兵器用の核分裂性物質の生産をしていないと発表。
1996年9月24日
クリントン大統領、国連総会での演説で、カットオフ条約の交渉を「直ちに」始めるというチャレンジに立ち向かうようCDに要請

出典: FISSILE MATERIAL PRODUCTION CUTOFF TREATY (FMCT) NEGOTIATIONS 米国科学者連合(FAS)

参考:


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