核情報

2010. 4.30

「核態勢の見直し(NPR)」・新START条約で核廃絶は近づいたか
──複雑な批准問題

4月6日に発表された米国の「核態勢の見直し(NPR)」とその2日後に発表された新「戦略兵器削減(START)」条約について評価が分かれています。それは、NPR・新START条約が、核テロ・核拡散が主要課題と位置づけ、これらには核兵器では対処できないとし、核廃絶に向けて、核の役割を低減する、NPTの規定を遵守する非核兵器国には核攻撃をかけない、核実験をしないで包括的核実験禁止条約の批准を追求する、新型核兵器は作らない、などとする一方、予備も含めた数千発の核兵器を維持し、ミサイル防衛を推進し、核兵器関連施設への投資を増大し、警戒態勢を維持するとしているからです。背景には、新STARTや包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准問題があります。




  1. 概説
  2. 日本の反核運動の役割
  3. 交錯する評価
  4. 米国政府の削減の説明
  5. 削減の実態
  6. 通常弾頭
  7. ダウンロード問題
  8. 新型核兵器を作らない?
  9. 核弾頭関連施設への投資及び核兵器システム維持・開発計画
  10. 批准問題
  11. 共和党議員の動き
  12. 背景にある議論の例抜粋訳(4賢人、バイデン副大統領、ゲーツ国防長官)

◆NPRや新STARTの詳細については、次を参照:




  

概説

理想的には、大幅削減を謳った新START条約を締結・批准し、CTBTも批准してから5月のNPT再検討会議に望みたいところでしたが、新START条約の締結だけがやっと実現できたと言う状況です。

2002年に結ばれた攻撃的核戦力削減条約(SORT=モスクワ条約)には検証規定がなく、STARTTが2009年12月に失効すると米ロの核兵器に関する検証規定が全く存在しない状態になってしまうので、何とか、その失効までに後継条約を結ばなければならないという事情がありました。ひとまず、数にこだわらずに後継条約を結び、大幅削減や、戦術核についての規定は、その次の条約に組み入れれば良いのと考えがありました。理想的な条約を求めて長々と交渉する時間がなかったからです。実際には、新STARTは、STARTTの失効に間に合いませんでした。批准はもちろんNPT再検討会議には間に合わず、手続き上、早くても、秋、遅ければ11月の選挙後、場合によっては、来年、という状況です。

とにかく、できるだけ早く新STARTの批准を達成することが必要です。そうしないと、検証規定のない状態が続いてしまいます。条約の批准のためには、上院議員の3分の2(67人)以上の同意が必要ですが、民主党の上院議員は59人です。共和党40人、無所属1人のうちの8人の賛成が必要となります。共和党は、結束が硬いので、一人一人説得して引き抜くというのは難しく、党の中心人物らの賛同を得ることが重要だと見られています。新STARTやNPRが早期に核兵器を無くす方向を示すものだと、共和党が新START、そしてそれに続くCTBTの批准を阻止してしまう可能性が高まります。

そこで、新STARTやNPRでは、あまり早急な核削減政策を示さず、また、核実験をしなくても核兵器が維持できるように核関連施設の予算の増額をする、さらには、共和党が望むミサイル防衛推進政策を示すことによって、二つの条約の批准の可能性を高める方が得策だとの考えが生まれます。これに対して、共和党に譲歩しすぎているのではないか、オバマ大統領が指導力を発揮して断固として核廃絶への道を進み、国内外の世論を高めることによって批准の可能性を高めることができたのではないかなどの疑問が出てきます。

以下、この問題について考える材料として、新START条約及びNPRについての見方、核削減計画の実態に関するデータなどを紹介した後、批准を巡る米国内の議論の一部を抜粋して訳しましょう。

  

日本の反核運動の役割

今回のNPRは、日本の反核運動が米国の諸団体と協力して関わった初めてのものと言っていいでしょう。両国の運動が焦点を当てた結果は1勝1引き分けといったところでしょうか。

  1. 日本が延命を求めていたとされる核付きトマホーク海洋発射陸地攻撃ミサイル(TLAM/N)については、岡田外相がそんなことを望んでいないとの書簡を国防・国務両長官に送ったこともあって、これを退役させることが決まりました。
  2. 米政府内の保守派が日本の反対を理由に挙げ、採用しないように主張してきた「核兵器の唯一の役割」を核兵器使用の抑止とする政策については、コップの水は半分という状態でしょうか。NPRは次のように述べています。

米国は、現時点では、米国の核兵器の「唯一の目的」は米国とその同盟国及びパートナーに対する核攻撃を抑止することにあるとする普遍的な政策を採用する用意はないが、このような政策が安全に採用できる条件を確立するために努力する。

「唯一の目的」(あるいはそれをさらに一歩進めた先制不使用宣言)政策が採用されなかったのは残念ですが、昨年末のはずだったNPRの発表が延期を重ねた重要な理由の一つが、この問題を巡る政府内の論争だったようです。日米の反核運動の働きかけがなければ、「唯一の目的」がここまで中心的議論になることはなかっただろうと言う点で、運動の成果はあったととのメールが米国のNGOから「核情報」に届いています。

  

交錯する評価

米国科学者連合(FAS)のIvan Oelrichは、ブログの記事で、NPRと一体となっている新START条約について、とてもジャンプSTARTとは呼べないと批判しています。

「誰か、我々とロシア人が、それぞれ、広島を灰燼に帰した原爆の5倍から25倍の威力を持つ核爆弾を1000発以上保有して、互いを狙い合っていることを必要として続けているのか説明できる人がいたらe-mailを送って欲しい」

しかしこうも言っています。

いろいろ不満を述べてきたが、それでもやはり、これは重要な条約だ。我々を正しい方向に戻すものだ。歓迎すべきであり、批准すべきだ。・・・

次はどうなるか。この条約は、ずっと以前から暫定的条約と描かれてきた。失効したSTART条約と次の条約の間の架け橋になるものであり、次の条約は冷戦の遺物である核兵器国間の核兵器関係を根本的に変えるものとなるとされてきた。その望みは持てる。

「軍縮オタク(Arms Control Wonk)」と言うサイトを運営するジェフリー・ルイスは、その記事「NPRの評価:透明性」において、NPRを評価する際に細かいことに囚われすぎないようにとオタクらしからぬコメントをしています。

2010年核態勢の見直しは、相当の成果を上げたと考えている。・・・誰もが、細かい──ここに気をつけなければいけないとか、こんな妥協があるとかという──点に目をやっていて、核兵器の役割についての我々がどう話すかと言う点でのもっと広い変化が気付かれていない。

ルイスは、とりわけ、「核態勢の見直し(NPR)」の全文(序文と要約:15ページ 本文:49ページ)が公開されたことに見られる透明性を評価しています。これまでの2回のNPR)がありましたが、1994年のクリントン政権のNPRは、要約のスライド(英文, pdf)が発表されただけですし、2001年のブッシュ政権のNPRは、秘密バージョンの一部がリークされると言う形で注目を浴びました。

英米安全保障情報協議会(BASIC)のポール・イングラム事務局長は、ガーディアン紙(2010年4月6日)への投稿『オバマの核態勢は、正しい方向に向けた一歩だが、軍縮ではない』でNPRを取引の産物だと論じています。

「NPR はオバマとその国防長官ロバート・ゲーツの間の取引である。核兵器予算における史上最大の増大(信頼性、セキュリティー、安全性の確保のため、そして、インフラと人員への投資のためのもの)と引き替えに、ゲーツは、新しい核弾頭や核実験の必要がないということ、そして、技術的問題や危機に備えて保存しておく核弾頭の数を相当減らしてもいいということに同意したのである。」

背景には、冒頭で触れたように、新STARTや包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准と絡んだ共和党保守派との「取引」があるようです。それについては、新STARTによる核削減の実態を見てから、触れることにしましょう。

  

米国政府の削減の説明

新STARTについて3月26日にホワイトハウスが発表したファクトシートは、条約の規定を次のように説明しています。

  • 核弾頭1550発
    配備ICBM及び配備SLBMに搭載の核弾頭はこの上限の計算に入る。また、核兵器搭載能力を持つ重爆撃機は、各機が核弾頭1発として数えられこの上限の計算に入る。これは、1991年のSTART条約の上限より74%低く、2002年のモスクワ条約の配備戦略核弾頭上限より30%低い。
  • 配備及び非配備のICBM発射装置、SLBM発射装置、それに核兵器搭載能力を持つ重爆撃機 を合わせた上限800。
  • 別の上限として、配備ICBM、配備SLMB、それに核兵器搭載能力を持つ配備重爆撃機の合計700。この上限は、対応するSTART条約の戦略核運搬手段上限の半分以下である。

  

削減の実態

上の説明にある三つの条約の比較には誇大広告が含まれています。(これまでの戦略兵器関連条約については、米ソ(ロ)戦略兵器制限・削減条約一覧をご覧下さい)。

まず注意が必要なのは、新START条約は、配備された戦略核兵器のみに関するものだということです。表1は、現在の米ロの核戦力の状況を示したものです。新条約の対象は、左端にあるロシアの2600発、米国の2126発です。

<表1> 2010年世界の核戦力の状況 (FAS:2010年 4月 6日)
国名戦略核非戦略核配備
operational
予備含む保有核総数
stockpile
解体待ち退役核退役核含む総数
ロシア2,6002,0504,650約12,000
(内非戦略5390)
左のうち約3,000約12,000
米国2,1265002,6265,200約4,200約9,400
出典 FAS Status of World Nuclear Forces
2010年世界の核戦力の状況より

1550発という上限が、STARTの上限より74%低いと言っていますが、20年近く前の1991年末に締結され、削減目標も2001年末に達成された条約の上限と比べるのがそもそも、あまり意味のないことです。しかも、STARTでは、基本的に最大限の弾頭を運搬手段に搭載していると仮定して数える方式をとっています。運搬手段(発射装置)が処分されない限り、弾頭は載っているとして計算するのです。

2002年のモスクワ条約では、米国が一方的に新たな数え方について宣言しています。(●戦略攻撃兵器削減(SORT)の数え方)

大陸間弾道ミサイル(ICBM)と原子力潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に搭載の核弾頭については、実際に配備されているミサイルに実際に搭載されているものを数える、重爆撃搭載の核兵器については、「重爆撃機に搭載されているか、もしくは、重爆撃機基地の兵器貯蔵地域に貯蔵された核兵器を指すと見なす」というものです。配備から外されたミサイルに搭載可能な弾頭も、整備・点検中の2隻の戦略原潜に搭載可能の弾頭も、計算には入れないということです。

新STARTでは、新しく、配備された「重爆撃機1機について核弾頭1と数える」とのルールが導入されました。米国科学者連合(FAS)のハンス・クリステンセンは、ブログ記事(英文)で検証措置が難しいからと恣意的な数字を使うのであれば、なぜ旧STARTのように10発とするとか、米ロの平均的搭載能力を使って12発としなかったかと問いかけています。[旧STARTの数え方の規定はもう少し複雑。詳しくは米国軍備管理軍縮協会のまとめ(英文:条約全文のリンクも)を参照]

この点についてNPRは次のように説明しています。

この計算方法が採用されたのは、重爆撃機は、どちらの側に対しても[報復能力を破壊してしまう]第一撃の脅威を意味せず、また、日常的には、核兵器を搭載している爆撃機はほとんどあるいは全くないことを考慮してのことである。

この核搭載可能爆撃機は各1発搭載と計算する新ルール(実際は1機に6-20発搭載可)の計算方式を使うと、2010年初頭現在の米ロの戦略核は、それぞれ次のように減るとクリステンセンが上述の記事で指摘しています。

 米国 2100=>1650       ロシア 2600=>1740

このような計算方法の影響を示したのが、表2です。最後の二つの行の右端3つの列の数字をご覧下さい。2009年─2010年の数字が、数え方次第で大きく変わってきます。表3にあるロシアの最新の戦略核戦力のデータを見ると、現在ある戦略核弾頭2600発という数字が、新STARTの数え方を使えば、約1740発に減ってしまうからくりが分かります。また、ロシアの運搬手段は、すでに566になっており、新STARTの上限の700以下です。ロシアは、上限500を主張したと伝えられています。


<表2> 米ロ(ソ)戦略核数の推移と数え方の影響
 1991年STARTの数え方
基本的に、配備・非配備を問わず、弾頭数は、最大数搭載と仮定して数える。(1)
SORTの数え方
配備核のみ。爆撃機は基地内の核兵器を装備と計算
新STARTの数え方
配備核のみ。爆撃機は1機当たり1個と計算。非配備を含めた運搬手段総数の制限を追加。
時期1994年12月5日2001年12月5日2009年1月1日2010年4月 
運搬手段上限1600 700(非配備を入れると計800)
米国183812381198782(2)
ソ連・ロシア19581136814566(3)
核弾頭上限6000  22001550
米国9924594955762126(4)1650(5)
ソ連・ロシア9584551839092600(4)1740(5)
(注)
  1. 1991年STARTの数字は米国国防省ファクトシート(2009年7月16日)より
  2. 米国データは2009年BAS誌(核情報訳)より
  3. ロシアのデータは、2010年BAS誌(核情報訳)より
  4. 米ロともFASの世界の核戦力の状況 (2010年4月核情報訳)より
  5. 米ロともFASのNew START Treaty Has New Countingより

<表3> 2010年ロシアの核戦力まとめ
運搬手段核弾頭の数
ICBM3311090
SLBM10/160576
爆撃機75838(新STARTの数え方:75)
合計5662600(新STARTの数え方:1741)
出典:2010年BAS誌Russian nuclear forces, 2010 から核情報が作成した表より

数え方の影響についてNPR自身も、次のように説明しています。

2009年12月に失効した1991年のSTARTTの下では、米ロのそれぞれの戦略的運搬手段(SDV)の数を1600に制限していた。米国は、この失効した条約の計算規則の下では、まだ1200のSDVを保有と計算されるが、配備されている戦略兵器関連の数は900以下である。残りは、基本的に「幻影」である:通常兵器のみの運搬システムで、特にB-1B爆撃機とSSGN[巡航ミサイル原潜](SSBN[戦略原潜]から、通常弾頭の海洋発射巡航ミサイル搭載用に改修されたもの)、あるいは、もう使われていないが廃棄はされていないICBM用サイロ及び重爆撃機である。

  

通常弾頭

ICBMやSLBMに搭載の弾頭について、新STARTは、「配備ICBM搭載の弾頭、配備SLBM搭載の弾頭、配備重爆撃機用に数えられた核弾頭」の上限を1550とすると定めているだけで、核弾頭とは書いていません。これは、Prompt global strike(迅速地球大攻撃)のための通常弾頭をミサイルに搭載することを禁止していないこと、搭載の場合には、その弾頭が1550の上限の計算に入ることを意味しています。米国国防省のブリーフィング資料(核情報訳)に、新START条約は「米国のミサイル防衛あるいは長距離通常弾頭攻撃能力を制限しない」とあります。

また、上のNPRの引用にある通常兵器搭載用に転換された「B-1B爆撃機とSSGN」については、新START議定書の第9部合意されたステートメントのうちのステートメント1及びステートメント2として、それぞれ、上限の計算の対象にしないとの規定が入っています。

参考


 

  

ダウンロード問題

米国は、多弾頭搭載可能なミサイルの1基当たりの搭載数を削減(ダウンロード)すると言う形で配備弾頭数を減らしています。ICBMはすべて単弾頭化する計画です。単弾頭化自体は、『米国、ロシアをねらった多弾頭温存を計画』で触れているとおり、戦略的安定性に寄与するのですが、ミサイルから降ろした核弾頭を処分しないで維持していると、いつかそれらを再搭載(アップロード)するのではないかとの懸念がロシアに生まれます。ロシア側は少数のミサイルにめいっぱい弾頭を積む形をとっていて、このアップロード能力はあまりありません。

米国は、次のような状況です。

  • ICBM:配備ミニットマンV450基に3個ずつ搭載すれば、合計450 x 3=1350発となる。1基当たりの搭載数を削減(ダウンロード)して、昨年春の段階で総数550発にしている。
  • SLBM:配備トライデント潜水艦12隻に各24の発射管。ミサイル1基に6発ずつ搭載すれば、1隻当たり24 x 6=144発、12隻合計で144 x 12=1728発。昨年春の段階で、ミサイル1基に4発ずつ、1隻当たり24 x 4=96、12隻合計で96 x 12=1152発としている。

  

新型核兵器を作らない?

NPRには、

米国は、新しい[新型]核兵器を開発しない。寿命延長プログラム(LEP)は、以前に実験された設計に基づく核構成要素のみを使い、新しい軍事ミッションを支援したり、新しい軍事的能力を提供したりしない。とあります。

FASのハンス・クリステンセンのブログ記事(英文2008年9月25日)は、保守派が推進してきた「信頼性のある代替核弾頭(RRW)」を新たに開発するというアイデアについて次のように説明しています。

最初のRRWも、完全に新しい設計ではない。1970年代に数回実験された2段階式のブート型設計のSKUA-9に基づくもので、これをW88用に現在使われているMk5再突入体に装荷するとのアイデアである。

つまり、オバマ政権はRRWを作らない政策をとっており、2011年予算にもRRW用予算が入ってないものの、NPRの示した方針でRRWの可能性が完全になくなったのかどうか疑問が残ります。

  

核弾頭関連施設への投資及び核兵器システム維持・開発計画

オバマ大統領が2010年2月1日に議会に提出した2011年度(2011年10月〜2012年9月)予算案は、核兵器の研究・開発・製造・維持などの責任を負うエネルギー省の「国家安全保障局(NNSA)」用予算を大幅増額する内容となっています。(「背景にある議論の例」で紹介しているバイデン副大統領のウォール・ストリート・ジャーナル紙の投稿は、この予算案提出の3日前の1月29日に掲載されたものです。)

NNSA総額112億ドル。昨年度と比べ13.4%(13億ドル)の増額

NNSA予算の内、「核兵器活動(Weapons Activities」」の予算は、70億ドル。9.8%(6億3400万ドル)の増額。

NPRは、NNSA用の予算増額について例えば、2段階式の水爆の起爆装置となるプルトニウム爆発装置の芯の部分(プルトニウム・ピット)の生産用施設や、第二段階で使われるウラン用の施設のために必要だと述べています。

2021年に、建設から50年の現存の施設に取って代わるロスアラモス国立研究所の「化学・冶金研究代替プロジェクト(CMRRP)」への資金供給

2021年に生産運転を始めるテネシー州オークリッジのY-12プラントの新しい「ウラン処理施設(UPF)」の開発。ウラン部品を製造する能力がなければ、現存の核兵器維持のためのいかなる計画も、また、我が国の海軍用の原子力推進ステムの支援も止まってしまう。それは、核兵器計画にだけでなく、様々な核の危険を扱うと言う点でも大きな影響を及ぼす。

p.42

NPRは、核兵器関連施設だけでなく、核兵器システム全体の近代化を推進する姿勢を示しています。

表4は、米国NGOの軍備管理軍縮協会(ACA)のトム・コリーナが核兵器近代化計画についてまとめたファクトシートからとったものです。コリーナは、米国国防省とエネルギー省は核兵器システムを維持・改善するのに毎年約300億ドルを投じていると説明しています。


<表4> 米国の核兵器近代化計画
 システム近代化計画費用配備期間付記
ICBMミニットマン III ICBM寿命延長プログラム70億ドル2030年まですべての三つの固形推進剤ロケットモーターの再製造、予備電力システムの取り替え、 発射施設の修繕
W78, W87 核弾頭W78の一部に変えて新しいW87 を利用, 寿命延長10億ドル2025年及びその後も古いW78を新しくもっと強力な W87弾頭に取り替え.
SLBM及び潜水艦トライデントII D5 SLBM30年の寿命延長プログラム150億ドル2042年まで誘導システムの精度向上、ミサイルの電子系統パッケージの再設計、新しいロケット・モーター・セットの製造.
W76核弾頭寿命延長プログラム、W76-1に40億ドルプログラムを2022年まで実施、寿命を30年延長核爆発パッケージ、爆発準備・点火システム,ガス転送システムの改修。
約2000発のW76-1が納品される。
W88 核弾頭LEPによる改修計画作成中  最新の核兵器。NNSA、ロスアラモスのピット製造能力を2003年に再建。 新しい施設が計画中
オハイオ級SSBNOhio級寿命延長、新型原潜開発 (SSBN-X)12 新型原潜SSBN-Xの12隻建造に850億ドルOhioクラスの寿命延長 2027-40迄。 SSBN-X 2070年まで就役オハイオ級原潜の改修2025年まで継続。新型SSBN-X 開発中
戦略爆撃機B-2 Spirit 爆撃機近代化プログラム1999-2014年で95億2000万ドル2050年まで核指揮・管制用レーダー、高周波衛星通信能力の改善
B-52H 爆撃機継続的改良プログラム 2045年までGPS、重量物用構造、様々な最新型兵器を取り入れ
新世代爆撃機開発プログラム開発費に少なくとも100億ドル2018年までに開発爆撃機が核搭載能力を持つかどうか不明.
B61-7, B61-11及びB83戦略核爆弾B61-7及び B61-11寿命延長プラグラム2009年までに完了
B83のLEP、2010-2017年に計画.
20億ドルB61-7及びB61-11 のLEP、 2029年あるいはそれ以降までB61-7 及び B61-11に Y-12で改修の高濃縮ウラン部品を装着、. B83 は米国が保有する最新の核兵器の一つ
W80-1弾頭搭載のACLM ALCMの LEP; 新型ACLMの開発プログラム; W80-1弾頭のLEP13億ドルALCM のLEP、 2030年まで, 新型 ACLM は 2030年以降もW80-1弾頭の最初の製造は1982年
  • ICBM=大陸間弾道ミサイル LEP=寿命延長プログラム
  • SLBM=潜水艦発射弾道ミサイル
  • ALCM=空中発射巡航ミサイル
出典 Fact Sheet: U.S. Nuclear Modernization Programs (Arms Control Association)

参考:予算の詳細については次を参照

  

批准問題

3月29日の記者会見でエレン・タウシャー国務次官(軍備管理・国際安全保障担当)は、新START条約の批准について、「我々の目標は、晩春に条約を議会に提出し、年末までの批准を目指すことだ」と述べています。

条約の技術的アネックス作業が残っており、これと条項ごとの分析を条約及び議定書ともに5月中に議会にまとめて提出との計画と見られています。2010年の選挙前に民主党政権に「成果」を与えることを共和党がいやがれば、2010年末、または、2011年の可能性も出てきます。

核軍縮やミサイル防衛問題を長年追いかけていると共に、議会の仕組みに詳しいジョン・アイザックスがブレティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ(BAS)誌のサイトで条約批准の見通しの明暗について概略次のように説明しています。

戦略態勢委員会に入っていた6人の非常に保守的な共和党員全員が核削減支持している。また、3人の鍵になる共和党上院議員(外交委員会リチャード・ルーガー副委員長、上院軍事委員会ジョン・マケイン副委員長、外交委のボブ・コーカー)は、基本的にSTART後継条約を支持。さらに20人ほどに会ってみたが、条約に明確に反対するものはいなかった。ただし、ミサイル防衛と核兵器の健全さに懸念を示している。11月の選挙のために休会する前に投票するには残された時間が短い。CTBTの批准阻止に力を発揮したアリゾナのジョン・カイルがどう出るか。新しい核兵器・ミサイル防衛の予算拡大などを獲得するために条約問題を利用しているが、完全に反対に回るかどうか。

  

共和党議員の動き

共和党の議員らは、同等の要求を入れなければ、条約の批准はないとの「警告」を発し続けています。例えば次のようなものがあります。

2009年
 
7月6日
カイル、マケインらが大統領に書簡
ミサイル防衛に規制を加えるようなSTART後継条約に反対を表明。
12月15日
カイルら40人共和党上院議員全員と無所属のリーバーマンが大統領に書簡
「我々の核抑止力を近代化する相当のプログラムがなければ」核兵器のさらなる削減に反対すると述べる。
2010年
 
2月
カイル、マケイン、リーバーマンがジェームズ・ジョーンズ大統領補佐官(国家安全保障担当)に書簡:
モスクワがミサイル防衛に脅威を感じた場合にはSTARTから脱退すると一方的宣言をするとの報道に抗議。
3月15日
共和党ミッチ・マコネル院内総務(ケンタッキー州選出)とカイルがオバマ大統領に書簡
「ご存じの通り、上院がこのようなリンケージを含んだ条約を承認するとは極めてありそうにありません──米国のミサイル防衛に関する決定が行われる際に、あなた、あるいは、あなたの後継者に対する梃子としてロシア連邦が使えるような一方的宣言を含む条約も含め。」

  

背景にある議論の例抜粋訳(4賢人、バイデン副大統領、ゲーツ国防長官)

  1. 4賢人 (キッシンジャー、シュルツ、ペリー、ナン)
  2. バイデン副大統領
  3. ゲーツ国防長官

キッシンジャー、シュルツ、ペリー、ナン

2010年1月19日の『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』紙投稿

「如何にして我が国の核抑止を守るか──核兵器の数が減る中での我が国の核兵器についての信頼性の維持」

(4人は、2007年1月4日と20081月15日にWSJ紙の投稿記事で「核のない世界」の実現を呼び掛け、大きな波紋を呼んだ)

核兵器を減らし、核兵器のない世界のビジョンを実現するための努力をする一方、我々は、我が国の核兵器の安全性、セキュリティー、及び、信頼性を維持する必要を認識している。・・・

これらのタスクは、過去15年間、我が国の核兵器製造施設及び三つの国立研究所(カリフォルニアのローレンス・リバモア、ニューメキシコのロスアラモス、ニューメキシコ及びカリフォルニアのサンディア)の技術者及び科学者によって遂行されてきた。・・・・

しかし、ペリーおよびジェームズ・シュレシンジャー両国務長官が率いた「戦略態勢委員会」が指摘しているように、潜在的な問題が存在している。この委員会は、昨年議会にその報告書を送ったが、核兵器インフラの修理・近代化のための相当額の投資、そして三つの国立研究所の体制の増強を要請している。・・・

安全でセキュリティーの確保された、そして信頼性のある核兵器の維持のための我々の勧告は、エネルギー省にある国家核安全保障局の委託した技術的研究が最近出した結論に沿ったものである。この研究は、関連した秘密情報に完全なアクセス権を持つ上級科学者からなる独立の防衛問題諮問グループ「ジェイソン(JASON)」によって実施されたものである。

JASON研究の結論は「今日の核弾頭の寿命は、今日まで「寿命延長プログラム(LEP)」がとってきたのと同様のアプローチを使うことによって、何十年もに亘って、信頼性を失うことなく、延長できる」というものだった。しかし、JASONの科学者達は、同時に、「核兵器の寿命を延長するすべてのオプションは、核兵器プログラムに独特の科学、技術、工学、そして製造に関連した専門知識・能力の継続的な維持・更新に依存する」ことについて懸念を表明した。この研究チームは、「この専門知識が、プログラムの安定性の欠如、ミッションの重要性の欠如と見えるもの、そして、労働環境の劣悪化によって脅威にさらされていることを懸念している」と述べている。

・・・我が国の核兵器の高い信頼性を維持することは、核兵器の数が減るなかで極めて重要である。それはまた、核不拡散、リスク低減、核削減の目標における米国のリーダーシップとの関係で言えば、矛盾はなく、必要なものである。

・・・必要な長期的投資を提供することによって、我々は、世界中の核の危険を減らすのに不可欠な措置を講じる上での我が国の技術的能力に対する信頼・確信を強化できる。

◆参考

ジェイソン報告については次を参照

バイデン副大統領

2010年1月29日ウォール・ストリート・ジャーナル紙に投稿(2011年度予算案提出は、2月1日)

10年近くに亘って、我が国の核関連研究所や施設は、資金不足と軽視に悩まされてきた。この放置状態──熟練した核科学者・エンジニア不足の増大、重要施設の老朽化──は、ほとんど国民の関心を引いて来なかった。昨年ウイリアム・ペリー、ジェイムズ・シュレジンジャー両元国防長官が主導した「戦略態勢委員会」は、我が国の核関連施設群は、緊急の注意を必要としているとの警告を発した。我々はこれに同意する。

月曜日に議会に我々が送る予算は、この減衰を逆転させると同時に、大統領の核セキュリティー・アジェンダの実施を可能にする。これらの目標は、相互に関連している。核兵器の維持に当たる同じ熟練した核専門家らが、我が国の現在及び将来の安全保障を確保する上で重要な役割を果たす。最先端技術の施設、高度な訓練を受け、やる気のある人々が、核実験をすることなく我が国の核兵器を維持することを可能にする。彼らは、これから先、世界中のセキュリティーの脆弱な核物質のセキュリティーを確保するという大統領の目標の達成を助け、核関連の密輸を追跡・阻止し、核削減の検証をし、我が国の安全保障と反映のための明日の最先端技術を開発することを可能にする。

これらの目標を達成するために、我々の予算案は、70億ドルを核兵器及び核施設の維持に当てている。このコミットメントは、議会が昨年承認したものより6億ドル多くなっている。さらに、我々は、向こう5年間で、これらの重要な活動のための資金を50億ドル以上増額するつもりである。・・・・

我々の予算は、大統領のプラハ・アジェンダに命を与える幾つかの密接に関連した、同様の需要性を持つイニシアチブの一つに過ぎない。他のものとしては、ロシアとの新START条約、3月1日の「核態勢の見直し」の発表[遅れて4月6日に発表]、4月の核セキュリティー・サミットの開催、そして、包括的核実験禁止条約(CTBT)の承認と発効などがある。

我々は、これらのイニシアチブによって、我が国の最善の安全保障に関する登場しつつある超党派のコンセンサスを強化することを追求する。これらの措置は、核不拡散体制を強化する。これは、北朝鮮やイランのような国が規則を破った場合には責任をとらせ、そして、そのようなことを試みるのを抑止する上で極めて重要である。・・・

このコンセンサスは、我が国の最も著名な4人の政治家──ヘンリー・キッシンジャー、ウイリアム・ペリー、サム・ナン、ジョージ・シュルツによって喚起されたものである。

我が国の核関連の行動は、いかなる形でも制約を受けるべきではないと主張するもあるだろう。一方、強力な抑止力を維持することは、核不拡散の努力と相容れないと主張するものもあるだろう。これらの4人の指導者らは、先週、本紙で説得力を持って次のように論じている。「我が国の核兵器の高い信頼性を維持することは、核兵器の数が減るなかで極めて重要である。それはまた、核不拡散、リスク低減、核削減の目標における米国のリーダーシップとの関係で言えば、矛盾はなく、必要なものである。

ゲーツ国防長官

2010年3月26日 新STARTについてのホワイトハウス記者会見

私の方からも、批准について一言言っておきたい。交渉が進む中で議会において非常に熱心な協議が続けられた。上院において、上院議員が懸念を持った二つの分野は、ミサイル防衛を進める我々の能力を守っているのか、そして、核兵器が信頼性と安全性を保てるように我が国の核兵器のインフラに対する投資をするのか、というものだった。

これらの二つとも対処している。ミサイル防衛は、この条約によって制約を受けることはない。そして、大統領が議会に送った2011年度予算には、核兵器のインフラへの投資と核兵器の維持のために50億ドル近くが入っている。だから、議会であったかもしれない懸念については我々は対処したと思う。だから、クリントン長官の見解と同じく、私も、[批准の]見込みは相当良いと思う。

2010年4月6日記者会見

米国は、我が国の老朽化する核関連インフラ(施設と人員の両方)を再建するために不可欠の投資をしなければならない。私は、核関連インフラを改善し、信頼性のある近代化計画を支援するために、向こう数年にわたって、50億ドル近くを国防省からエネルギー省に移すことを要請した。

  


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