核情報

2015. 3.27

日本のプルトニウム、英国で急増の怪
──データの透明化、六ヶ所再処理工場の運転開始計画の中止を

日本のプルトニウム保有量(単位 kg)

 2014年9月16日の原子力委員会定例会議(議事録PDF)で、同委員会事務局(以下事務局)は2013年末の日本の保有プルトニウムが2012年末の約44トンから約47トンへと約3トン増えたと報告しました。この内の純増は、日本の使用済み燃料の再処理が基本的に2004年に終わっていたはずの英国で急に増えた2.3トンです。国際原子力機関(IAEA)の数え方でいうと核兵器300発近くになる量の増加がなぜ生じたのか会議では明確にされておらず、3人の委員のうち会議でただ一人質問をした阿部信泰委員長代理は状況を誤解したままに終わったようです。以下、2013年のデータを整理した後、英国における純増の意味を考えてみましょう。

  1. 2013年の増減の整理
  2. 三つの疑問
  3. 知っていても知らなくても問題の英国分追加
  4. 参考
2013年末日本のプルトニウム保有量(単位kg)
国内 10,833 (9,295)
国外 36,312(34,946)
国外
内分け
20,002(17,052)
16,310(17,895)
合計 47,145(44,241)

 ( )内の数字は前年のもの

出典:我が国のプルトニウム管理状況(pdf)(2014年9月16日)内閣府原子力政策担当室

2013年の増減の整理

日本のプルトニウム英国内保有量(単位 kg)

3トンの内分けは、国内分640kgと英国分約2.3トンです。2012年末と2013年末の日本のプルトニウム保有量の比較は若干複雑です。国内分の増加は、2011年に玄海原発3号炉に装荷した混合酸化物(MOX)燃料に含まれるプルトニウムから来ています。装荷したからということで政府の報告から姿を消していた640kgが使われないまま3月に取り出されたのを受けて「増加」として報告されたということですが、元々、保管量として示すべきだった数字が復活しただけで実質的に増えたわけではありません。(参照:報告から消えた640kgのプルトニウム)6月にはフランスから高浜原発に901kgのプルトニウムを含むMOX燃料が送られましたが、これは場所が変わっただけで日本の保有量はそのままです。一方、ドイツが英国にある自国のプルトニウム650kgを日本所有に移し、フランスの日本所有の同量をドイツ所有に移すスワップを希望し、これが実行されました。帳簿上日本のプルトニウムの英国保管量が増え、フランス保管量が減った勘定ですが、日本の保有量上の変化はありません。要するに、純増は英国における「追加割当て」2.3トンだけです。


三つの疑問

会議の録音を聞いていて起きた疑問が三つあります。

  1. この2.3トンの純増の意味について委員・事務局・記者諸氏は理解したかどうか。
  2. 2005年以後基本的に変化のなかった英国分が急に2.3トン増えたのなら、今後さらに増える可能性はあるのか。
  3. 政府は、この2.3トンの追加割当てを予想していながら再処理政策を巡る議論の中で意図的に触れなかったのか。

事務局の説明はこうです。「英国の再処理施設のほうで処理が進んだことによりまして、25年内に新たに約2.3トン、日本に返還予定のプルトニウムというものの割り当てと申しましょうか、保有量の追加が行われたというふうに聞いております」。「ということは、イギリスの再処理工場はまだ動いているということですかね」との阿部委員長代理の質問に対する答えは「イギリスの再処理工場はまだ稼働しております」というものでした。この後の発言から見て、阿部委員長代理は2013年に日本の使用済み燃料が再処理されて2.3トンのプルトニウムが分離されたと理解したように思われます。代理の発言に基づく間違った報道もありました。

知っていても知らなくても問題の英国分追加

英国側の記録から日本の軽水炉の使用済み燃料の再処理は2004年9月に終わっていることが分かっています(東海第一原子力発電所の少量の特殊な使用済み燃料の再処理が終わったのは2006年1月です)。しかし、顧客へのプルトニウムの「割当て」は物理的再処理の時期とは関係なく行われるため、2013年に追加があり、その結果英国保管の日本のプルトニウムの増加が生じたという訳です。阿部知子議員事務所を通じた事務局との複数回のやり取りの結果、英国では日本分の割当て量がさらに約1トン残っていることが判明しました(フランスでは残っている追加割当て分はないとのことです)。これまでの再処理政策を巡る議論の中でこの合計約3.3トンの追加割当てがあると原子力委員会や経済産業省が明らかにしてなかったのはなぜでしょうか。例えば、2013年5月2日の原子力委臨時会議で核情報が示した上のグラフについて、近藤駿介委員長(当時)が次のように述べたとき3.3トンは意識されていたのでしょうか。「グラフにありますように・・・ようやくピークを打って保有量が下がり始めた・・・どんどんふえると表現されるけれども・・・いずれ下がることになることは、このことからも想定できる。」プルトニウム「需給」に関するデータを意図的に隠していたのか、明確に把握していなかったのか。どちらにしても問題です。原子力の平和利用の確保を主要な役割とするはずの原子力委の事務局には割当て問題について即座に答えられる人はいないようでした。電力会社側が知っていたことは間違いありません。

参考

内閣総理大臣あて要請書間

内閣総理大臣 安倍晋三様

核兵器に使えるプルトニウム・高濃縮ウランのデータの透明化を進めると共に
六ヶ所再処理工場の運転開始計画を中止するよう求める要請

-2013年に英国で生じた2.3トンのプルトニウムの日本への追加割当てに関連して-

2015年3月24日

日本の反核兵器・平和運動に関わる私たちは、安倍総理が昨年3月にオランダのハーグで開かれた「核セキュリティ・サミット」の際に発表された日米首脳共同声明において東海村にある「日本原子力研究開発機構(JAEA)の高速炉臨界実験装置(FCA)から、高濃縮ウラン(HEU)及び分離プルトニウムを全量撤去し処分することを表明」し、「HEUとプルトニウムの最小化のために何ができるかを各国に検討するよう奨励」すると共に、総理ステートメントで「プルトニウムの回収と利用のバランス」を考慮すると確約したことを評価し、この取り組みを強化するために、核兵器に使えるプルトニウム及び高濃縮ウランのデータの透明化を進めること、そして、六ヶ所再処理工場の運転開始計画を中止することを要請致します。

ハーグの会議から半年後の昨年9月16日に内閣府が原子力委員会定例会議で発表した2013年末の『我が国のプルトニウム管理状況』によると、日本の保有するプルトニウムの量は約47トンで、日本の使用済み燃料の再処理を委託していた英国において前年末と比べ2.3トンの追加割当てがありました。第一次安倍内閣発足直前の2006年9月5日に発表された2005年末の量(約17トン)から数年間基本的に変化のなかった英国保管分が急に増えたのはなぜかについて定例会議では明確に説明されていません。その後の問い合わせに対し内閣府は割当て量がさらに1トン増える予定だと答えています。2005年発表の原子力政策大綱策定の過程やその後の再処理政策についての議論の中でこの合計3.3トン(核兵器400発分以上)の追加割当て予定が明確に示されているべきだったでしょう。政府はこの追加割当て予定について知らなかったのでしょうか。

また、ハーグで発表されたFCAのプルトニウム331kgの米国への輸送計画に関して、元の提供国(英・米・仏)別の内分けの数字を求めた議員事務所に対し、文部科学省はセキュリティの観点から答えられないとしていますが、一般市民や記者がJAEAの広報に電話すると簡単に確認できます。他国に「プルトニウムの最小化のために何ができるか検討するよう奨励」した国の情報公開のレベルは外国からも注目されています。

さらに、すでに8kgで核兵器1発分とする国際原子力機関(IAEA)の計算方法で核兵器6000発分近くになる47トンものプルトニウムを保有しながら年間約8トンの分離能力を持つ六ヶ所再処理工場の商業運転を来年にも開始しようとする日本の計画は、「プルトニウムの回収と利用のバランス」を考慮するとの約束に反すると「プルトニウムの最小化のために何ができるか検討するよう奨励」された国々は見るでしょう。

このような状況に鑑み、核不拡散条約(NPT)再検討会議を前に、六ヶ所再処理工場の運転開始計画を中止することと、以下の点を含む情報を公表し、更なる透明性向上に努めることを要請いたします。以下のデータに関し、政府各部署はそれぞれ所有していないと主張できても、政府として把握し公表することができないと主張すれば国際的な疑念を招くことになりかねません。

  1. 英国における3.3トンの追加割当てついての情報(追加割当て発生理由、追加割当てについて日本政府が把握した時点、追加割当て分について明確に説明してこなかった理由についての説明を含む)。
  2. 日本が初めて分離プルトニウムを保有して以来、1992年末までの各年の日本の分離プルトニウム保有量(保管国別内分けを含む)
    • 日本は1994年発表の『我が国のプルトニウムの保有量』において1993年末分を示してして以来、毎年、データを公表しているが、それ以前のものは公表していない。内閣府原子力政策課は議員事務所に対し、1993年以降のデータしか保有していないとしている(2014年6月23日)。
    • 原子力規制委員庁放射線防護対策部放射線対策・保障措置課保障措置室は、議員事務所に対し、日本がIAEAの保障措置を受け入れた1978年以降しかデータがなく(2014年6月25日)、しかも使用済み燃料中に含まれるプルトニウムを含めた量しか把握できていないため、1992年以前の分離プルトニウムのみのデータは提供できないとしている(2014年8月1日)。
  3. 東海再処理工場の1977年試運転開始以来の各年のプルトニウム分離量
    • 文部科学省研究開発局原子力課は、議員事務所に対し日本原子力研究開発機構が発足した2005年までしか遡ってデータを把握することはできないとしている(2014年6月25日)。また、2005年以後のデータについてもプルトニウムの全量(元素重量)のみを示し、核分裂性物質重量については核セキュリティの観点から回答できないとしている(同上)。日本は、英仏保管分については、発表年により全量、核分裂性物質量のいずれか、または両方を示している。
  4. FCAのプルトニウムの元の輸出国別内分け
    • 文部科学省研究開発局原子力課は、議員事務所に対し、英・米・仏の内分けは核セキュリティの観点から回答できないとしている(2014年6月25日)が、JAEA広報は、合計 331kgの内分けを英236kg、米 93kg、仏2kgと明らかにしている(2014年初頭及び15年初頭)。
  5. 高濃縮ウランの保有量
    • 2013年9月11日の原子力委員会臨時会議において近藤委員長及び鈴木委員長代理が高濃縮ウランの保有量の公開について前向きに取り組むよう同委員会の事務局を務める内閣府原子力政策課に対し指示したが、2014年9月16日の原子力委員会定例会議で『我が国のプルトニウム保有量』(2013年末)が発表された際には高濃縮ウランについての言及はなかった。内閣府原子力政策課は議員事務所に対し、高濃縮ウラン関係データの公開について 原子力委員会で検討を行っているが検討終了の予定・感触は現時点ではないとしている(2014年12月9日)。

川崎哲 ピースボート共同代表
伴英幸 原子力資料情報室共同代表
藤本泰成 原水爆禁止国民会議事務局長
湯浅一郎 ピースデポ代表

連絡先:原水爆禁止日本国民会議
〒101-0062 東京都千代田区神田駿河台3-2-11連合会館1F 
phone: +81-3-5289-8224 fax: +81-3-5289-8223


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