核情報

2005.11.22

核拡散防止ためにプルトニウム抽出試験延期を求める意見書資料

陳情案意見書案

  1. なぜ今なのか。
  2. 試験ではどのぐらいの量のプルトニウムが分離されるのか。
  3. 本格操業では、どのくらいの量のプルトニウムが分離されるのか。
  4. 日本は、どのくらいのプルトニウムを保有しているのか。
  5. 再処理とはそもそも何か
  6. プルトニウムは原発の運転に必要ではないのか。
  7. プルサーマルに絶対反対でなければ、意見書に賛成できないのか。
  8. 再処理をしなければ、使用済み燃料の処分場が必要になるのではないか。
  9. 国際的に再処理はどのように考えられているのか。
  10. 上記の文書の署名者は、日本が核武装計画を持っていると言っているのか。


1.なぜ今なのか。

来年早々にも、国策に従って、青森県六ヶ所村にある日本原燃の再処理工場で、実際の使用済み燃料を使ってプルトニウムを分離・抽出する試験が始まろうとしている。このプルトニウムは、核兵器に利用できるものである。平和目的の利用のめどが立たないままプルトニウムの分離を進めるのは、不必要な核兵器利用可能物質の量を減らそうという世界的な核拡散防止の努力に逆行するものであり、国際的な批判を受けることになる。日本政府自身、何度も余剰プルトニウムを持たないとの方針を表明している。

12月中の試験開始の予定だったが、高レベル廃棄物ガラス固化体の貯蔵施設の設計ミス問題で遅れが生じ、11月18日、日本原燃は試験開始を来年2月に延期すると発表した。12月議会での意見書採択は、議会として試験を遅らせるための行動をとる最後の機会になる可能性がある。


2.試験ではどのぐらいの量のプルトニウムが分離されるのか。

2006年2月に分離を開始し、2007年7月の操業開始までに、約4トン分離することになっている。国際原子力機関(IAEA)では8kgのプルトニウムが施設から行方不明になれば、多めの工程ロスを計算に入れても一発原爆が作られると考えるとの基準を採用している。これに従えば、4トンのプルトニウムは原爆500発分に相当する。1990年代初めまでに北朝鮮が使用済み燃料から分離して取り出した可能性があると推測されているプルトニウムの量は、11kg弱である。原爆1発の製造に必要な量を5kgとして、1−2発分のプルトニウムを北朝鮮が持ったかもしれないと考えられた。これが、朝鮮半島の核危機を招いた。


3.本格操業では、どのくらいの量のプルトニウムが分離されるのか。

計画では、操業開始の後、少しずつ分離量を増やし、2011年からは、年間800トンの処理体制に入ることになっている。分離されるプルトニウムの量は、年間8トン(原爆1000発分以上)となる


4.日本は、どのくらいのプルトニウムを保有しているのか。

 日本は、主として英仏に委託した再処理の結果、約43トン(長崎型5000発分以上)ものプルトニウムを保有している。(海外での保管分が37.4トン、国内保管分が5.7トン)。


5.再処理とはそもそも何か

原子炉からでてくる使用済み燃料を化学的に処理して、

1)燃え残ったウラン、2)炉内でできたプルトニウム、 3)核分裂生成物 の三つに分けることである。 1)を利用する計画は現在のところない。


6.プルトニウムは原発の運転に必要ではないのか。

プルトニウムは、軽水炉という普通の原発の運転には、必要ではない。

元々のプルトニウム利用計画の本命は、高速増殖炉という特別な原子炉で、プルトニウムを利用しながら増やすというものである。この高速増殖炉計画は原型炉「もんじゅ」の事故などで頓挫している。

再処理で分離してしまったプルトニウムをウランと混ぜて「混合酸化物燃料(MOX)」とし、普通の原発で消費する「プルサーマル計画」も、データ捏造や原発トラブル隠し、事故などの影響で進んでいない。それに、プルサーマルで節約できるのは、ウランの10-20%程度である。しかも、取り出したプルトニウムをただで提供したとしても、ウランを買ってきて燃料を作った方が安くつく。プルトニウムの放射能の高さのために、加工費が非常に高いからである。原発推進国の多くが再処理をしないで使用済み燃料をそのまま地層処分することに決めている事実がプルトニウム利用の非経済性を物語っている。

高速増殖炉計画がうまくいかない中で、できてしまったプルトニウムの消費対策として進められているプルサーマルのためにわざわざプルトニウムを作る政策には矛盾がある。


7.プルサーマルに絶対反対でなければ、意見書に賛成できないのか。

六ヶ所再処理工場の運転開始を延期しても、それによってプルサーマルが止まるわけではない。電気事業連合会(電事連)が政府の要請に応じて1997年に発表した計画では、2000年までに4基(関西電力2基、東京電力2基)、2000年初頭に5基(東京/中部/九州電力で各1基、原電で2基)、2010年までに7〜9基(東京電力0〜1基、関西電力1〜2基、北海道/東北/北陸/中国/四国電力および電源開発で各1基)プルサーマルを導入することになっていた(合計16〜18基)。現在も、2010年までに合計16〜18基での導入という政府の方針は変わっていないが、上述の通り、これまでプルサーマルが導入された所はない。

プルサーマルがたとえ動き出しても、最初に使われるのは、ヨーロッパで保管されているプルトニウムである。これが消費されるのに何年もかかる。日本は、余剰プルトニウムを持たない方針を表明しており、1997年の12月には、それを「国際原子力機関(IAEA)」に提出した文書で宣言している。ところが、この宣言当時24.1トンだった保有量は、上述の通り、現在では、43.1トンになっている。

意見書は、核拡散防止の観点から、利用のめども立っていないプルトニウムのさらなる分離開始を急がないよう求めるものである。反原発の文書でないことは言うまでもない。


8.再処理をしなければ、使用済み燃料の処分場が必要になるのではないか。

再処理をしても、処分すべきものがなくなるわけではない。再処理をしてウランやプルトニウムを取り出した後には、様々な廃棄物がでてくる。放射能の強い「高レベル廃棄物」や「超ウラン(TRU)廃棄物」を最終処分する場所は、決まっていない。つまり、処分場(地下300メールと以上の場所)が現在のところ存在しないというのは、使用済み燃料を直接処分する場合も、再処理で出てくる高レベル廃棄物を処分する場合も同様である。現在英仏に委託した再処理で発生した高レベル廃棄物はガラス固化体の形で返還されつつある。これは六ヶ所村の施設で30-50年貯蔵されることになっている。六ヶ所再処理工場で発生する高レベル廃棄物も六ヶ所で保管される計画である。

いずれにしても、六ヶ所再処理工場は、たとえフル稼働(年間800トン)しても、全国の原発からでてくる使用済み燃料(年間約1000トン)をすべて再処理することはできない。余った分は、新しく建設される「中間貯蔵施設」に置かれる計画になっている。中間貯蔵された使用済み燃料の処理・処分方法については2010年頃から検討するというのが政府の方針である。また、プルサーマル利用の結果でてくる使用済みMOX燃料は直接処分されることになる公算が大きい。


9.国際的に再処理はどのように考えられているのか。

北朝鮮やイランの核疑惑問題の浮上、闇市場の発覚、同時多発テロなどを背景にして、核兵器の材料を作ることのできるウラン濃縮工場及び再処理工場の建設凍結を求める声が高まっている。六ヶ所再処理工場は、非核保有国としては初めての商業規模の施設となる。

1)国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長

 これら施設の建設の5〜10年間のモラトリアムを提唱している。その間に、「核燃料サイクル」の在り方について議論しようという案である。

2)アナン国連事務総長

 「[ウラン濃縮と再処理という]燃料サイクルのもっとも機微な部分を何十もの国が開発し、短期間で核兵器を作るテクノロジーを持ってしまえば、核不拡散体制は維持することができなくなる。そして、もちろん、一つの国がそのような道を進めば、他の国も、自分たちも同じことをしなければと考えてしまう。そうなればあらゆるリスク──核事故、核の違法取り引き、テロリストによる使用、そして、国家自体による使用のリスク──が高まることになる。」

 *今年5月に開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議の初日の演説

3)4人のノーベル賞受賞者やウイリアム・ペリー元国防長官を含む米国の専門家ら27人

「国際社会は、核兵器に利用できる世界の核分裂性物質 ─ 高濃縮ウラン(HEU)及び分離済みプルトニウム ─ の量の最小化を、優先順位の高いものにすべきである。それは、核軍縮と核不拡散を推進するとともに、テロリストが核兵器を手に入れるのを防ぐことにつながるだろう。・・・六ヶ所工場は、核兵器を持っていない国における最初の工業規模再処理工場であるから、その計画通りの運転は、他の国々 ─ イランや北朝鮮を含む ─ が再処理施設や濃縮施設を作るのを思いとどまらせるためになされている国際的努力の弊害となる」

 *アメリカのNGO「憂慮する科学者同盟(UCS)」が5月5日、NPT再検討会議開幕に合わせて発表した「六ヶ所使用済み燃料再処理工場の運転を無期限に延期することによってNPTを強化するようにとの日本への要請

4)世界各国の平和団体の代表者など約 180人

 「これ以上の核兵器利用可能物質を日本が生産し蓄積すれば、それは、北東アジアにおける核拡散問題をさらに複雑なものにすることになる。工場の運転が開始されれば、それは、核兵器(及び核兵器用物質)の取得を追求している国々に「日本の例」という口実を与えることになる。つまり、六ヶ所再処理工場の運転開始と、分離したプルトニウムを商業用原子炉の燃料として使うという非経済的な計画の実施とは、NPT加盟国が決して無視することのできない世界的核拡散リスクを招来するのである。」

 *米国「社会的責任を考える医師の会(PSR)」「軍備管理協会(ACA)」他が、NPT再検討会議の閉幕を控えて署名を呼びかけ発表した「核不拡散体制強化のための日本のリーダーシップを求める要請──六ヶ所再処理工場運転の無期限延期の呼びかけ」。

 署名者の例:英国の「核軍縮運動(CND)」、フランスの「平和運動」、インドの「核軍縮・平和連合(CNDP)」、「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」のドイツ、オーストラリア、フランス、スイス各国支部、「国際平和ビューロー(IPB)」、「国際反核法律家協会(IALANA)」、日本の反核団体、被爆者団体などの代表格。

 ノーベル平和賞を受賞したパグウォッシュ会議のロートブラット名誉議長も亡くなる直前に署名。


10.上記の文書の署名者は、日本が核武装計画を持っていると言っているのか。

これらの文書は、日本が核武装計画を持っていると疑うものではない。不必要な核兵器利用可能物質の生産は、一般的に、テロリストや第三国によるこれらの物質の奪取の対象になる可能性を伴うこと、さらに、日本の計画が他国に悪い「模範」を示すことになることを恐れているのである。ただし、不必要なプルトニウムの分離を急げば、周辺諸国が日本は隠れた意図を持っているのではないかと疑い、それが、自国も核兵器製造能力を念のために持っておこうという考えにつながる可能性は否定できない。


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