核情報

2016. 2.24〜

北朝鮮が「人工衛星」と称する事実上の長距離弾道ミサイル?
─政府表現コピペのマスコミと大本営発表の空白の2分間の謎

北朝鮮は、2月7日、ロケット「光明星(クァンミョンソン)号」を打ち上げて地球観測衛星「光明星4号」を軌道に投入することに成功したと発表しました。ロケット打ち上げから約2時間後、米「統合宇宙運用センター(JSpOC)」は、二つの物体が軌道に乗っていると発表しました。人工衛星とロケットの3段目で、それぞれ「北米航空宇宙防衛司令部(NORAD)」の識別番号41332と41333が与えられました。同日、日本政府は、内閣官房長官声明で「本日午前9時31分頃、北朝鮮が『人工衛星』と称する弾道ミサイルを発射した」と発表。マスコミ各社はほぼそのまま報じました。

参考

人工衛星:北朝鮮の発表と米発表の比較

朝鮮中央通信は朝鮮国家宇宙開発局の発表として次のように報じました。

「キャリア・ロケット『光明星』号は・・・2月7日9時、平安北道鉄山郡西海衛星発射場から打ち上げられ、9分46秒後の9時09分46秒に地球観測衛星『光明星4』号を軌道に正確に進入させた。『光明星4』号は、97.4度の軌道傾斜角で近地点高度494.6km、遠地点高度500kmである極軌道を回っており、周期は94分24秒である。『光明星4』号には、地球の観測に必要な測定機器と通信機器が搭載されている」。

米JSpOCは軌道を466 × 501km、傾斜角を97.5度としています。南に向かって発射されたロケットで投入された衛星が極周回の太陽同期軌道に乗ったことにより、地球上のそれぞれの目標地点を毎日同じ現地時間に通過して、太陽光の入射角が常に同じになる状態で観察することが可能になったというのが北朝鮮の主張でしょう。しかし、JSpOCの方が正しければ、衛星はちょっとだけ外れたことになるが、それでも有用だろうと米国のNGO「38North」のミサイル専門家ジョン・シリングは言います。同じシステムを弾道ミサイルとして使い、1万km先の目標を狙った場合は50kmほど飛距離が足らず、西に約10kmずれるとの分析です。

人工衛星を追いかけているMarco Langbroekによると姿勢は安定したようですが、通信が行われているとの確かな情報はまだありません(3月2日段階)。2012年12月に軌道に乗ったが機能していない「光明星」3号と同じ運命に終わるかどうか確定するにはもう少し時間がかかります。

大本営発表をそのまま使う日本のマスコミ

日本のマスコミ各社のほとんどはこぞって以前から慣習となっている「事実上の長距離弾道ミサイル」というような表現を使っています。 

ロケットに弾頭を載せればミサイルになり、ミサイルに人工衛星を載せて飛ばせば打ち上げロケットとなります。例えば1960年代に開発された米国の大陸間弾道ミサイル(ICBM)タイタン2は、改造型が米国2番目の有人宇宙飛行計画「ジェミニ計画」に使用されたし、1987年に退役したICBMタイタン2自体も、その後改修され、2003年まで衛星打ち上げ用に使われました。米国の「憂慮する科学者(UCS)」のミサイル問題の専門家デイビッド・ライトは「北朝鮮はロケットの開発を25年以上も行ってきている──衛星打ち上げ用と弾道ミサイルの両方である」と状況を説明します。

何処の国であれ人工衛星打ち上げを続ければ、同時に弾道ミサイル技術の能力を高めることができますから、核兵器の開発を続け、1月に4度目の核実験をしたばかりの北朝鮮が弾道ミサイルに利用できる技術の開発を進めているのは大いに懸念される事態です。問題は、北朝鮮の大陸間弾道ミサイル技術のレベルです。ライトが作成した下の図は、2012年の人工衛星打ち上げに使われた銀河3号と射程1万2000kmの液体燃料ICBMの初期の軌道の違いを示しています。今回の打ち上げに使われた光明星号はこの銀河3号とほぼ同じロケットとライトは見ます。

「人工衛星と称する事実上の長距離弾道ミサイルの実験」という表現は、ロケットがICBMのように上昇を続け高高度に達し、弾道を描いて落ちてくる実験、人工衛星の軌道への投入も行われない実験を意味すると理解するのが普通でしょうが、今回のケースはそうではありません。各紙は、人工衛星・物体が軌道に乗ったことに触れると同時に「成功」か否かを論じています。「人工衛星と称する事実上の長距離弾道ミサイルの実験が人工衛星を軌道に乗せることに成功」したかどうかを議論するのは禅問答のようです。

銀河3号/光明星号を1000kgの核弾頭を搭載するよう改修した場合、アラスカやハワイには届くかもしれないが米本土には届かない、だが500kgの弾頭なら米本土のほとんどの部分に届く、とライトは見ます。しかし、長距離弾道ミサイルの実用化のためには、高々度に打ち上げたミサイルの先端部分が大気圏に再突入するときの摩擦熱に耐える熱シールドの飛翔実験が必要になります。精度も上げなければならない。また、移動式でない液体燃料使用の大型のミサイルでは燃料を注入している間に敵に見つかってしまうとライトは指摘します。



銀河3号発射時の軌跡

発射時刻日本時間で9時何分? 米29分、南北朝鮮30分、日本31分

韓国の中央日報紙日本語版(2月7日10時54分)は国防部当局者による「午前9時30分ごろに北朝鮮の発射場から発射され、9時31分に韓国海軍の駆逐艦に捕捉されてから1分余り後にミサイル(ロケット)と最終判断された」との説明を報じています。日本政府はこのレーダーの補足時刻9時31分を間違えて発射時刻と発表し、日本のマスコミはそれをそのまま報じ続けたということでしょうか。ミサイル発射だ、ミサイル防衛だとあれだけ騒いでおいて、日本政府にミサイル防衛のシステムを理解している人がいなかったということでしょうか。そして米国からも情報が提供されず、日本から問い合わせもしなかったということでしょうか。

米国のNORADの発表文は若干曖昧ですが、「宇宙空間配備赤外線システム(SBIRS)」でロケット噴射の熱を即座に探知したのが9時29分頃で、実際の離昇時間ではないとも取れます。天候によっては熱源の探知が早くなったり遅くなったりするでしょう。ミサイル防衛システムではSBIRSの情報を地上のレーダ-網に伝えて補足させます。韓国のレーダーで捕捉されたのが9時31分。三つの時刻の違いについては疑問が残ります。

『光明星4』号の現在位置(情報提供:N2YO.com による)



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