核情報

2017. 8. 1〜

大洗事故──1990年代からのずさんな管理が原因
無視された冷戦終焉後の米国の議論

7月21日、日本原子力研究開発機構は6月6日大洗研究開発センターで発生した被曝事故について第2報を発表し、樹脂製バッグの破裂の原因について、「容器内のプルトニウムのアルファ線と「混入有機物(エポキシ樹脂)」、「ポリ[エチレン製]容器」及び「混入水分」との相互作用によって生じたガスの発生による」ものとの見解を示しました。問題のポリ容器は、「紙等の可燃性廃棄物や、金属・ガラス等の不燃性廃棄物を一時的に収納する」ためのものだったとのことです。有機物の混じったウランやプルトニウムを入れたポリ容器を樹脂製(ポリ塩化ビニール製)のバッグで2重に包んで金属容器(No.1010)に入れたのが1991年。その後1996年7月に同容器を点検して異常を確認していたことが7月14日に判明したといいます。当時の点検記録(1996年7月19日付)に「ポリエチレン容器底部が変色、破損」、「内容器ビニルバッグが膨張」、更新後「異常なし」との記載がありました。米国エネルギー省は1994年に、プルトニウムを入れる「容器にはプラスチックや弾性ガスケット、有機被覆材などの有機物を入れてはならない」との規則を定めていました。プラスチック(合成樹脂)にアルファ線が当たると水素ガスが発生することは昔からよく知られています。

参考:


ずさんなプルトニウム管理体制

上記の引用は、第2報は、8-10ページの「貯蔵容器内容物の調査結果」と17ページの「まとめ」からのものです。10ページにはまた、「当時においても金属容器を使用するのが[大洗研究開発センター]燃料研究棟において業務に従事した職員の一般的な考え方であった」とあります。

問題の金属容器(No.1010)は、1991年に核燃料物質を入れて以来、開けたことがなかったというのがこれまでの説明でしたが、第2報の発表の1週間前に、実は収納から5年後の1996年に開けていたことが判明したとの説明です。

ポリ容器底部にひび割れ等がみられたものの、樹脂製の袋は破損していなかった状況が推測される。そのため、貯蔵容器内の収納物を一度グローブボックスに搬入し、核燃料物質を新しいポリ容器へ移し替え、再度バッグアウトして貯蔵容器へ収納したと考えられる(111ぺージ)

  • 核情報注:バッグアウトしたとは、この容器をグローブボックス内でビニルバッグに入れて取り出したということ
108号室設備配置図

貯蔵容器梱包更新の記録

大洗研究開発センター燃料研究棟における汚染について(第2報) p.113


核情報の記事「もんじゅも少量のプルトニウムも扱えない日本原子力研究開発機構──ごまかしで高速増殖実験炉常陽の運転再開を急ぐ機構は「どこかおかしい」:規制委委員長」(2017年7月7日)で書いた疑問がさらに深まります。

古い蔵の中で見つかった漬物の壺の蓋を、まだ食べられるかなあ、でもガスが発生していて中身が飛び出してくるかも、と恐る恐る開けるような感覚でプルトニウムの入った缶を開けたのでしょうか。

少なくとも1996年に中を覗いたころには、日本と状況が違うとは言え、プルトニウムと有機物の組み合わせは避けなければならないという米国での議論についての情報は日本に届いていたはずです。ところが、金属製貯蔵容器の蓋を開けてポリ容器の破損とビニルバッグの膨張を確認しながら、内容物をまた元の方式で別のポリ容器(有機物)──核燃料物質の保管に使ってはいけないはずのゴミ箱──に入れ、金属容器に収めて、そのままにし、一度開けたことすら忘れてしまっていたというのです。機構(及びその前身)や日本の規制機関は1991年から2017年まで何をしていたのでしょう。マスコミや研究者の他、さまざまな機関による調査が必要です。

冷戦終焉後に米国で定められたプルトニウム安全管理基準

核兵器の研究・開発・製造に責任を負う米国エネルギー省(DOE)が余剰プルトニウムの保管方法の基準を定めたDOE-STD-3013(エネルギー省基準3013)という文書を作成したのは、冷戦終焉という事態を反映してのことです。以前は金属プルトニウムは核兵器の中に入っているか、短期保管の後すぐに核兵器製造に使われる状況にあったので、長期保存を考える必要がなかったのですが、冷戦が終わり、長期保存の必要が認識されてこの基準が定められるにいたったというわけです。金属製貯蔵容器は、50年は開けないままで保管できるように設計し、「プラスチックなどの有機物質を入れてはならない」としています。

DOE-STD-3013『金属プルトニウム及びプルトニウム酸化物の安全な貯蔵の基準』(Criteria for safe storage of plutonium metals and oxides)について説明した『3013基準入門』(ロスアラモス国立研究所)から経緯を抜粋してみましょう。

1993年4月 コロラド州のロッキーフラッツ核兵器製造工場運転者が貯蔵プルトニウムの点検を規定通り行っていないことをエネルギー省長官に報告。質問「これは問題か?」「これはロッキーフラッツに限られたことか?」

1994年3月 エネルギー省長官、核兵器研究開発・製造施設網全体のプルトニウム保管状況についての調査を委託。

1994年5月ー6月 調査。「国防核施設安全性委員会(DNFSB)」がオブザーバーとして参加。1994年11月 最終報告『エネルギー省のプルトニウム貯蔵に関連した環境・安全・健康面の脆弱性に関するプルトニウム作業グループ報告』(Plutonium Working Group Report on Environmental, Safety and Health Vulnerabilities Associated with the Department's Plutonium Storage)。答え「問題だ」「ロッキーフラッツに限られた問題ではない」

1994年12月 「3013基準」発令(同基準は、1996、1999、2000年に改定。)

  • *『入門』作成後に出された2012年版が最新。



  • **写真上の三つの缶を写真中のような状態にして使う。
  • ***缶はこの写真下にあるように開けなくても中の状態をX線写真で確認できる設計となっている。

この基準は核兵器に使われなくなった余剰プルトニウムの長期的貯蔵に関するものですが、「国防核施設安全性委員会(DNFSB)」は1994年5月26日のエネルギー省に対する勧告「94-1」(pdf)で次のように述べて他の種類のプルトニウムの保管方法についても注意を促しています。

ロッキーフラッツ[核兵器製造施設]にある何千もの容器には、プルトニウムの混ざった種々雑多な物質が「残留物」と分類されて収められている。この中には、化学的に不安定なものもある。金属プルトニウムを入れた容器も、中にプラスチックが混入しているものが少なくなく、ロッキーフラッツにある容器の一部では、プルトニウムとプラスチックが密着状態にあると見られる。プルトニウムをプラスチックと接触状態に置くと、水素ガスや自然発火性プルトニウム化合物が発生し、プルトニウム火災に至る可能性が高いことがよく知られている。

そして、DNFSBは2005年には、3013基準でカバーできていない核物質の中間的貯蔵について規定を定めるようにとの勧告2005-1を出しました。

この勧告に答えてエネルギー省が2008年に定めた「核物質梱包マニュアル」DOE M 441.1-1, Nuclear Material Packaging Manualには次のようにあります。

プラスチックはアルファ放射性物質と直接接触することがあってはならない。


責任は作業員にあるのか?

機構は、大洗研究開発センター燃料研究棟における汚染について(続報3) 2017年6月23日の添付1「退院後の作業者聞き取り概要」(pdf)で、事故時の主作業者(容器を開け、内部を点検する作業)について次のように述べています。

作業者Eは、重大なことを起こしてしまったことに対して、責任を感じるとともに、多くの方に迷惑をかけることを申し訳なく思った。

責任を感じるべきは機構全体(及びその前身)であり、新・旧規制当局であることは言うまでもありません。


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