核情報

2025.02.02

石破首相、核禁条約オブザーバー参加、見送り方針

参加要求キャンペーンについて振り返る機会に


もくじ

参加して核の傘の必要性主張? 公明党は条約批准推進運動の旗手?

1月25日、石破首相が、3月にニューヨークで開催される核兵器禁止条約の第3回締約国会議にオブザーバー参加しない方向で調整に入ったと各紙が報じた。理由は、米国の核の傘に頼る現状に沿った現実的対応必要と判断したというものだ。

2月1日段階では正式決定発表はまだのようだが、この機会に、オブザーバー参加要請キャンペーンと核禁条約批准促進の関係性について考えてみてはどうだろう。

これまでの締約国会議の場合と比べ、第3回締約国会議についての関心は相当高まっている。その背景には、2024年12月10日に、核廃絶を願って長年活動してきた日本被団協がノーベル平和賞を受賞したことがある。ノーベル賞に関連した様々な場で、被団協の代表らは、日本政府に対し締約国会議にオブザーバー参加するよう強く要求している。さらに、今年が被爆80年という「節目の年」であることも重なり、広島・長崎両県知事及び両市長や反核運動からも、日本は「唯一の被爆国」として、少なくともオブザーバー参加して貢献すべきだというような声が上がっている。核廃絶を願う魂の叫びが表出したものといえよう。

核共有国ドイツに倣い参加すると、得られるのは?

しかし、日本がオブザーバー参加すると、日本の同条約批准や核廃絶がどのようにして近づくか、そのプロセスについての議論はこれまでのところ、ほとんどない。実は、会議に参加した日本が、「北大西洋条約機構(NATO)」の核共有国ドイツに倣い、日本にとって核抑止は必要と主張するというシナリオも大いにあり得る。そうなった場合、それは、果たして、日本の核禁条約参加を提唱する反核運動やマスコミにとって成功と呼べる事態と言えるだろうか。

公明党は、核禁条約批准推進運動の騎手か?

もう一つ注意すべきは、「平和の党」を標榜する与党公明党が、日本による条約批准や、「批准に向けた第一歩」としてのオブザーバー参加を、先頭に立って推進する政党として注目されてきたことだ。広島選出の斉藤鉄夫衆議院議員が2024年11月に同党代表に選出されたこともこのような傾向に影響しているようだ。確かに、斉藤代表は、条約支持の姿勢を表明してきた。例えば、核禁条約の発効した年、2021年の8月6日に、自身のサイトで、「私は従来から、『日本政府は条約に参加すべきである』と、強く主張してきました」と述べて次のように続けている。「締約国会議に、『オブザーバー参加すべきである』と、改めて強く訴えたい。まずはオブザーバーとしての早期参加を表明し、参加に後ろ向きな国々にも、対話の扉を開けることが重要です。」だが、氏の発言には矛盾が多く、核抑止を是認する発言もある。

なぜか、このような矛盾を指摘する声はほとんど聞かれない。与党の主張は、元来、反核運動もマスコミも、丁寧に検証することが必要とされるはずのものだ。

以下、順序が前後するが、次の二つの点について、検証してみたい。1)核禁条約についての公明党の考え方 2)オブザーバー参加がもたらすとされるものの実態。公明党の考え方の検証は、まず、斉藤新代表のいくつかの発言を拾うことから始めよう。

斉藤鉄夫代表の発言の矛盾

斉藤鉄夫公明党代表は、2024年11月27日に日本が同締約国会議にオブザーバーとして参加することを求める要望書を石破茂首相に提出した。12月1日に日本被団協の箕牧智之代表委員の自宅を訪れてこの面会について説明した斉藤代表は、取材に対し、「安保条約下で批准できないのはまだ理解できるが、オブザーバー参加とは矛盾しない。「[被団協のノーベル賞]受賞で米国の理解も得られやすくなる」との認識を示したと報じられた。(中国新聞 2024年12月1日)

「安保条約下で批准できないのはまだ理解できるが」という表現は、先に紹介した2021年の8月6日の発言などと合わせて解釈すると、自分は「日本は核禁条約を早期に批准すべき」と考えるが、「百歩譲ってそれができないとしても」という意味となる。「私個人としては、日本は核兵器禁止条約に署名・批准すべき」(2021年8月12日、 「核政策を知りたい広島若者有権者の会(カクワカ広島)」との対談)との発言もある。

だが、これに先だつ2019年3月17日の「カクワカ広島」との面会における斉藤氏の次の発言は、これとは異なる考え方を示している。「核兵器禁止条約に日本は署名・批准するべきだと思う。唯一の被爆国として、核兵器禁止条約に参加すべき」と述べた後、「一方で、核兵器禁止条約が日本の安保体制、核の傘と矛盾しないという論理構成がいる」と主張しているのだ。これだと、そのような論理構成ができるまで日本は条約に参加できないということになる。

「議員ウォッチ」が収集した発言で斉藤代表の考えを検証

このような斉藤代表の発言の矛盾を整理、検証するのに便利なのが、核兵器禁条約推進NGO「議員ウォッチ」のサイトだ。条約及びオブザーバー参加について賛同するか否かを問うアンケートに対する国会議員の回答及び関連発言などが都道府県別、50音別、政党別に見られるようになっている。公明党についてはここにまとめられている。

前述の「カクワカ広島」との対談(2021年8月12日)や面会(2019年3月17日)での斉藤氏の発言も、その同氏の項から引用している。批准すべきとの主張と矛盾する発言をさらに拾ってみよう。

核保有国の不参加は、条文の表現が悪いため

斉藤氏は、上述の「カクワカ広島」との面会(2019年3月)で「核保有国の不参加に関しては、条文の表現を変えるなど、保有国が参加できるような努力をもっとすべきだった」と主張している

そして、「カクワカ広島」による2021年10月の衆議院総選挙直前のアンケートでも、「[日米安保下での参加の]論理構成」、「核保有国の不参加」ついて、19年と全く同じ主張をしている。加えて、「保有国が一歩を踏み出せるような説得力のある条約を生み出す。保有国へ努力を促す枠組みをつくることが、日本の役割」とも述べている。

要するに、核禁条約には欠陥があり、条約を改正するか、核禁条約とは別に条約を作るかすべきだということだ。

現状では核の傘が必要

同アンケート(2021年10月)の「どのような条件のもとならば日本は核兵器禁止条約に署名・批准できるか、署名・批准に至らない障壁は何か」との問いには斉藤氏は次のように回答している。「世界情勢を考えると、日米安保、核の傘によって日本が守られている。日本を取り巻く諸国が核兵器を持ち、いつでも核兵器を落とせるような状況がある中で、日本の生命と財産を守らなくてはいけないという現実もある。日本の核兵器禁止条約への批准に向け努力したい。」やはり、現状では日本は米国の核の傘(核抑止)を必要としており、核抑止を認めない条約では署名・批准は達成できないということになる。

斉藤氏の核禁条約「独自案」実現に向けた努力は?

上のような斉藤氏の主張を読んで湧いてくるのは次のような疑問だ。

    条文について
  1. 2017年7月採択となった条約のドラフト作成段階で、斉藤氏が望ましいと考える案は存在していたのか。
  2. 2019年3月の「カクワカ広島」との面談当時、条約改正案は出来上がっていたのか。同じ発言を繰り返した2021年アンケート当時はどうか。
  3. 2019年3月から6年近く経った今はどうか。まだ案ができてないとしたら、望ましい条約改正案は永遠にできないということではないのか。
    「核兵器禁止条約が日本の安保体制、核の傘と矛盾しないという論理構成」について
  1. 2019年3月の「カクワカ広島」との面談当時には、どのような論理構成を考えていたのか。
  2. 2019年3月から6年近く経った今はどうか?
  3. できあがっていないなら、今でも、日本は参加不能ということ、つまり、与党公明党代表の斎藤氏は、条約に「賛同」できないということではないか?
  4. 2021年10月のアンケートにおける「日本の核兵器禁止条約への批准に向け努力したい」という回答は具体的には何を意味するのか。日本に脅威をもたらす核兵器保有国がなくなるよう努力するということか?

立憲民主党岡田克也議員は「核禁条約の趣旨には大いに賛同するが」条約には不賛同

ここで参考になるのが、旧民主党政権で外務大臣を務めた立憲民主党の岡田克也議員の「議員ウォッチ」の項だ。岡田議員は、条約には「賛同」せず、「オブザーバー参加」にだけ賛同している。その「理由」についての「回答」((2021年初頭?)は次の通りだ。
「核禁条約の趣旨には大いに賛同するが、国民の安全を守る観点から、現時点で拡大抑止を否定することはできない。」

また「議員ウォッチ」が追加で掲載している「コメント」蘭には、次の発言が載っている。

「核兵器禁止条約は、本来であれば合理性のある枠組みだが、日本の周辺には核保有国があり、現状、核の傘に頼らざるを得ない。そのため、国会議員として日本が条約に加盟することはできないと考える。(2021年2月12日 核兵器廃絶日本NGO連絡会主催の討論会で)」

斉藤議員の「コメント」は、実質的には、これらの岡田議員の言葉で言い換えることができるものではないだろうか。

公明党において異例ではない斉藤代表の「表現様式」

上に見てきたような、核禁条約に「賛同」と答えておきながら、別のところで、日本は即座に署名・批准できない旨の説明をする斉藤代表の「表現様式」は、公明党内で特殊な例というわけではない。2022年に引退した浜田昌良元参議院(公明党核廃絶推進委員会座長:当時)や、2024年まで15年間代表を務めて退任した山口那津男議員、2024年に山口氏の後任となった直後に落選となった石井啓一元公明党代表なども同様の「様式」を使っている。(資料編の公明党幹部の「公明党話法」を参照)

公明党現職国会議員51名のうち39名が核禁条約即時批准を支持?

「議員ウォッチ」は、政党別に見る 公明党のページの冒頭で、国会議員39名が「核兵器禁止条約」に賛同しています(現職51名のうち)と記している。だが、実際は、これら39名が「賛同」と回答したというだけのことで、実際にそれらの議員がすべて、日本が直ちに条約を批准することを求め、その実現のために与党議員して行動しようと考えているということではない。39名のうち、「賛同」以外の何らかのコメントが紹介されている議員のほとんどは、日本は現状では米国の核抑止を必要としているとの旨の発言をしている。日本は直ちに批准すべきと考える公明党議員が実際にいるかどうかは、アンケ—トの文言を変えるとか、詳細な質問をするインタビューを実施するとかしないと分からないだろう。

オブザーバー参加で日本は何を発言すべき? 核抑止の必要性を強調?

斉藤代表は、日本がオブザーバー参加した場合、何をすべきかについて具体的なことを言っていない。あるのは次のような発言ぐらいだろうか。

「唯一の戦争被爆国として持っているデータを核兵器廃絶に向けて使ってもらう、そういう意味でも日本が果たすべき役割は非常に強い」(広島ホームテレビ 2024年11月16日)
斉藤代表は・・・唯一の戦争被爆国である日本が「核保有国と非保有国の橋渡し役を担うべきだ」と力説した。具体的には「日本政府として核禁条約締約国会議にオブザーバー参加し、被爆の実相を通して核兵器の非人道性の共有を図るなど積極的な役割を果たすべきだと訴えた
(2024年11月27日の石破首相との面談での主張。公明党ニュースによる。)

オブザーバー参加した核共有体制下のドイツに倣うべき?

オブザーバー参加を望む声は、公明党だけでなく、同党とは立場の異なる立憲民主党、社民党、共産党などの議員からも上がっている。マスコミでも同様だ。だが、その中には、誤解を与える主張もある。例えば、次のようなものだ。

同盟国の核抑止力に固執する立場からは米国の反発をおもんばかる声もあろう。バイデン大統領が退くことが転機と考えられないか。トランプ氏が2期目にどんな外交政策を取るのか予測が難しく、石破首相との早期会談も消極的のようだ。この際、どこまで遠慮が必要なのか。米同盟国ドイツは締約国会議に堂々とオブザーバー参加している。
中国新聞社説 2024年1月20日

ここで説明されていないのは、米国の核爆弾の領土内配備を受け入れ、いざとなったら自国のパイロットが投下の役目を担う「核共有」体制を受け入れている米同盟国ドイツが締約国会議に参加して、何を堂々と述べたかだ。

第一回締約国会議 2022年6月 「核禁条約には加盟できない」

2022年6月にウイーンで開かれた第1回締約国会議で、ドイツ代表は、「核兵器が存在する限り、NATOは核同盟であり続ける」 「核抑止を含め、NATO加盟国としての立場と一致しない核禁条約には加盟できない」 「(核廃絶・軍縮は)すべての核保有国が信頼性のあるステップを踏んで初めて達成できる」と述べている(毎日新聞 2022年6月22日
会議には、NATO加盟国としては、ドイツの他、オランダ及びベルギー(核共有受け入れ国)に加えノルウェーが参加した。オランダとノルウェーは、ドイツと同様の立場を表明した。ベルギーは、発言していない。(朝日新聞 2022年6月23日

第2回締約国会議 2023年11月27日から12月1日 「核軍縮の議論においては、一つの尺度を使ってすべての国を同様に扱うべきでない」

2023年11月27日から12月1日までニューヨーク国連本部で開かれた第2回締約国会議では、NATO加盟国のドイツ、ベルギー、ノルウェーが連続しての参加となり、現在の安全保障環境下での核抑止の必要性を強調した。ドイツは、核禁条約加盟国と非加盟国の協力を呼びかけるとともに、中ロの核政策に触れ、「核軍縮の議論においては、一つの尺度を使ってすべての国を同様に扱うべきでない」と主張した。(次を参照:第2回核兵器禁止条約締約国会議ドイツ代表発言(英文(pdf)); ドイツ外務省声明(英文))

オブザーバー参加と核共有体制維持を抱き合わせたドイツの決定

実はドイツの連立政権を構成するドイツ社会民主党(社民党、SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党が2021年11月24日に発表した連立合意書には、オブザーバー参加とともに、ドイツに配備された米核爆弾をドイツのパイロットが投下するのに使われる想定の老朽化航空機の後継機を早期に購入との文言が入っていた。ドイツ領土内の核配備阻止運動は抑え込み、オブザーバー参加は呑んだという格好だ。(次を参照:3党合意文書(ドイツ語(pdf) )p149)

オブザーバー参加を検討するという石破首相はドイツの発言に関心

石破首相は、衆議院選挙直前の2024年10月13日に、NHKのテレビ番組でオブザーバー参加について関心を持っていることを明言した。「公明党の提案もある。等閑視するつもりはない。」ただ、「日本の周りは核保有国、専制独裁国家だらけだ。米国の核抑止に頼りながら、片方で禁止しますというのをどう両立させるかだ。」(時事通信 2024年10月13日
そして、翌日のテレビ朝日の討論会では、 「どうやって我々は日本の独立性を守るかというときに、やはり核抑止力があるんです。それを認めておきながら、一方において、核廃絶。これをどうやってオブザーバー参加をして、きちんと説得ができるかという理屈がないと、単に参加しただけってことになってしまいますね」と述べている。(テレビ朝日 2024年10月15日:10月14日討論会の記録)
そして、2024年12月6日の参議院予算委員会の答弁では、核共有を受け入れているドイツに直接言及し、「オブザーバー参加した国がどういうふうな議論を展開しているのか、そして核抑止というものと核廃絶というものをどうやって論理的につなげていくかということをきちんと考える」必要を認識していると述べている。

米国の核の傘が必要と説明してきた日本の首相として、日本がオブザーバー参加した場合にすべき発言の論理的整合性について考えるということ自体は、至極当然のことと言える。一つの結論としてあり得るのは、まさに、ドイツに倣って、オブザーバー参加した上で、日本にとって核抑止が必要なので条約に参加することはできないと、堂々と主張することだ。

ドイツ式参加をどう考えるかについての議論は?

ここで疑問なのは、日本がドイツ式参加方式を採用する可能性について、オブザーバー参加を要求する人々の間で議論されてきたかどうかだ。議論があったとして、ドイツ式の採用で構わないとの結論になっているのだろうか。もし、ドイツ式は日本にとって好ましくないとの結論なら、ドイツ式とは異なる形のでのオブザーバー参加を勝ち取るための方策は議論されてきたのだろうか。そのような方策が失敗した場合はどう対応するか、検討されているのだろうか。

斉藤代表は、日本が締約国会議で核抑止の必要性を強調しても構わないとの考え?

2024年11月27日に首相にオブザーバー参加を要請した斉藤代表は、要請行動後、首相がドイツを例に「どのような議論があり参加にいたったのか、検証する必要がある」と述べたと説明し、首相が「ドイツと同じ道を歩む可能性について言及したと理解した」と付け加えている。(朝日新聞 2024年11月27日
これは、上述のような形で日本がドイツに倣うので構わないと斉藤氏が考えていることを意味するのだろうか。これまで見てきたように、ドイツ式の発言は、実は、斉藤氏の条約に対する実際の姿勢に沿ったものと言えるのだが。

オブザーバー参加で確実に日本が貢献できるのは、開催費用負担——参加なら会議参加国中トップの割合になる

公明党は、オブザーバー参加を核廃絶促進にとって現在の最重要目標であるかのように掲げてきている。だが、冒頭で述べたように、参加が何をもたらすかについての精緻な議論はない。

浜田昌良公明党核兵器廃絶推進委員長(当時)は、2021 年3 月に「ICAN 国際運営委員 川崎哲」氏との対談(pdf)において、参加によって日本が貢献し得る分野について、次の4つを挙げている。1)締約国会議開催費用負担、2)「政府代表団として被爆者や、大学生らのユース非核特使」の派遣、3)「日本が知見を持っている被爆医療や環境修復などの分野」、4)「核廃絶に 向けた検証制度」関連だ。挙げられた4つのうち、間違いなく日本が貢献でき、他の方法でできないのは、1)ぐらいだ。会合の費用負担は国連の分担率に従って行うことになっている。日本の25年〜27年の国連通常予算分担率は、米、中に続く第3位の約7%なので、オブザーバー参加すれば、1位の貢献率となる。(主要国の国連通常予算分担率については次を参照。日本の分担金・拠出金 2025年1月20日 外務省

浜田委員長の日本の貢献に関する上の説明には、オブザーバー参加によって、日本の批准や核廃絶の目標が近づくという議論はない。一方、「核禁条約批准のためには、安全保障環境の改善が不可欠です」と述べ、日本の批准の条件として、具体的には、次の三つを挙げている。1)「北朝鮮の非核化と国交正常化」、2)「朝鮮戦争の『終結』」、3)「中国の核態勢の透明性向上」。どれも、難しい課題であり、オブザーバー参加で促進できるものではない。日本の条約批准は、近い将来にはないと認めるものだ。(資料編 浜田昌良元議員対談 どう生かす核兵器禁止条約 2021 年3 月30 日 抜粋

米国の先制不使用に反対する国が核禁条約支持?

最後に、そもそも、米国の先制不使用宣言に反対する国が、核禁条約に短期的に加盟する可能性があるかどうか、という根本的疑問について考えてみよう。

日本は、クリントン政権(1993〜2001年)以来の民主党政権で、米国の一方的な先制不使用宣言が検討されるたびに、宣言に反対する姿勢をとってきている。反対理由についての典型的な答弁はこうだ。

いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難であると考えている。
(1999年8月6日 高村正彦外相)

核を先には使わないと宣言するのは、核攻撃に対する核報復を否定するものではなく、核抑止論自体を非難する立場とは異なる。それでも、核軍縮に向けた小さいが重要なステップとして米国の核専門家らの多くが提唱してきたものだ。

核攻撃に対する報復としてしか核を使わないと米国が宣言することに反対する日本が、「核兵器の使用や威嚇は認められない」という文言を普遍的に支持できるはずがない。この政策が変わらない限り、日本が核兵器禁止条約に賛成することなどあり得ない。

現政権の与党公明党は、2009年夏に日本のNGOが実施したアンケートにおいて、米国が先には核を使わないと宣言する「先制不使用宣言」に関し、「条件つきで賛成する」 (条件:国際社会全般のコンセンサスが形成されることが先決だと考えます)と答えている(ICNND日本NGO連絡会が2009年8月14日に発表したアンケート調査詳細別添資料(pdf)を参照)

つまり、国際社会全般のコンセンサスが形成されるまで(遠い未来は別として)、日本の同盟国米国による一方的先制不使用宣言には反対だということになる。つまり、公明党が日本は直ちに核禁条約を批准すべきと考えるはずがないということだ。ここでも、「賛成」と言いながら、内実は反対という構図だ。「条件つきで賛成する」という選択肢がアンケートで提示されたことが、公明党のこの不思議な「表現様式」をもたらすきっかけになったのだろうか。

米国の先制不使用宣言放棄の際に挙げられる理由、「日本の核武装の懸念」

米国では、先制不使用宣言案が放棄されるたびに、「日本の核武装の懸念」が放棄の重要な理由とされてきた。例えば、オバマ政権末期の2016年9月、宣言をすれば不安に感じた日本が核武装するかもしれないとしてケリー国務長官が反対したとニューヨーク・タイムズが報じた。バイデン大統領も、大統領選挙時から先制不使用宣言を支持する立場を表明していたのだが、「核態勢の見直し(NPR)」において先制不使用宣言をすることを最終的に断念した。この時も、宣言について日本を含む同盟国の反対があると報じられていた。(次を参照。米国による先制不使用宣言に反対する日本──「唯一の被爆国」のイメージと裏腹に 核情報

米による独自先制不使用宣言に賛同か否かをアンケートに追加?

核禁条約支持グループもマスコミも、核禁条約に賛同するかどうかについて問う際には、その前提して、米国による一方的先制不使用宣言に賛同するかどうかについて聞いてみるとどうだろう。そうすれば、条約賛同という回答の実態を理解するのに役立つだろう。

ちなみに、公明党の支持母体とされる創価学会の平和委員会議長は、2021年夏、バイデン政権による先制不使用宣言に反対しないよう日本の与野党党首に要請した公開書簡に署名している。

米国による一方的先制不使用宣言を支持する岡田克也立憲民主党議員

先に触れた「議員ウォッチ」の岡田議員の項には、次のような発言の紹介もある。

核の傘のもとでも核の傘を弱めない「先制不使用宣言」は可能だ。核禁条約に批准できないが、締約国会議のオブザーバー参加は必要である。日本は米国が核の数と役割を減少させるための外交努力を押し出すことが「橋渡し」なのではないか。(2022年3月4日、毎日新聞)

岡田議員は、民主党政権での外務大臣就任記者会見で次のように述べていた。

私の持論は、核を先制使用するということを明言するような国に核軍縮やあるいは核の不拡散を、特に核軍縮を言う資格があるのかということであります。そういう視点で私は、従来から核の先制使用に対しては、これは認めるべきでないと、そういうふうに申し上げてきたところであります。外務省の中にいろいろ意見があることも承知しております。よく外務省の皆さんと議論したいというふうに考えておりますけれども、まあ私は、誰が考えてもそれ以外の結論というのはないんじゃないかというふうに思っております。それによって核の抑止力が弱まるというふうには私は考えておりません。

2009年9月17日 鳩山内閣閣僚記者会見「岡田克也大臣

以上、核禁条約に関する斉藤代表を始めとする公明党関係者の発言の整合性を検証するともに、石破首相や岡田立憲民主党議員の発言との比較を試みた。また、日本がオブザーバー参加する際にあり得るシナリオについても見た。ドイツのようにオブザーバー参加した上で、核抑止が必要だから条約には参加できないと説明すると共に、話し合い・協力は続けたいと主張するものだ。目前に迫った核禁条約締約国会議について議論する際の参考になれば幸いだ。

資料編

公明党幹部の「公明党話法」

浜田議員(当時)

「賛同」(2021年初頭のアンケート?)と答えた後、「理由」を次のように述べている。北朝鮮の完全な非核化や「北東アジア非核地帯の検討などを進めることにより、我が国として核兵器禁止条約に署名・批准できる状況を創り出すことに、尽力したい。」(アーカイブサイトによる引退前のものの復元)

山口元代表

山口元代表の項には「理由」の記入はないが、「コメント欄」を見ると次のような発言紹介がある。「しかし、賛成する国と反対する国の溝が深まるばかりでは現実的な意味はない。核兵器国を巻き込んで実質的な核軍縮をすすめることが重要である。」「わが国も最終的にはこの条約を批准できるような環境を整えていくことが、あるべき方向性だ。」「核兵器禁止条約に対する公明党の基本的な考え方は、当面オブザーバーとして参加して、唯一の被爆国としての積極的貢献を果たす。中長期的には、条約に批准できる安全保障環境を作り出していくということにある。」

石井元代表(落選)

石井元代表の項(アーカイブサイトによる落選前のものの復元)には、「賛同」としかない。だが、2024年の衆議院選挙公示前日の10月14日に催されたテレビ朝日の討論会では、条約を画期的な国際法だと評価するとした上で、「ただ、現実問題として、日本周辺には核を持つ国がたくさんあって、やはり米国の核抑止力に依存している」と続けている。要するに、現状では核抑止力が必要だから条約には参加できないということだ。なお、10月27日の選挙で石井氏が落選したため、斉藤氏が2024年11月9日に急遽、新代表に就任することになった。

浜田昌良元議員対談 どう生かす核兵器禁止条約 2021 年3 月30 日 抜粋

ICAN 国際運営委員 川崎哲 × 党核兵器廃絶推進委員長 浜田昌良(参院議員)(pdf) より

浜田 核禁条約にどう向き合うかは日本の重要テーマです。日本は当面、核禁条約の締約国会合に
オブザーバーとして参加し、唯一の戦争被爆国として存在感を示し、中長期的には日本が批准でき
るような安全保障環境を創出していくべきだと公明党は考えています。オブザーバー参加を求める
山口代表の主張は一斉に報道され、賛成の声も多い。政府は慎重ですが、もう世論になっています。
オブザーバー参加の意義として
・第1に、締約国会合の開催費用を負担することで財政的貢献になります。核禁条約はオブザーバ
ー参加でも開催費用の分担を求めています。現在の加盟国はコロナ禍で財政的に苦しい国も多く、
日本は最大の分担国として貢献できます。例えば17年にオーストリアで4日間96カ国が参加した
対人地雷禁止条約の会合の場合、全体の開催費用が約4000万円でしたので、最大分担国となっても
日本の財政上、問題ないでしょう。
・第2は、政府代表団として被爆者や、大学生らのユース非核特使を派遣できます。
・第3は、日本が知見を持っている被爆医療や環境修復などの分野で貢献できます。
・第4は、やはり核禁条約の実効性向上のための積極的貢献です。締約国会合では今後、核廃絶に
向けた検証制度などが議論されますが、そこでの貢献も国連から期待されています。
最後に、こういう貢献を積み重ねた上で、締約国会合または特別会合の被爆地での開催を要請す
ることも考えられます。

川崎 これだけオブザーバー参加について具体的に検討されている。大変に心強く思います。公明
党の議論は、日本のオブザーバー参加論の最先端だと思います。どんな議論でもその場にいないと
プレーヤーになれません。核軍縮で存在感を発揮したいなら、締約国会合に参加すべきです。

浜田 核禁条約批准のためには、安全保障環境の改善が不可欠です。具体的には、
・一つ目が北朝鮮の非核化と国交正常化
・二つ目が朝鮮戦争の「終結」
・三つ目が中国の核態勢の透明性向上
です。これら全てを達成しないと批准できないわけではないですが、議論はここから始まります。
その中で、核抑止に替わる新たな安全保障のあり方について議論が進めば、日本の批准に向けた環
境整備につながります。

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