核情報

2010. 9.28〜

広島で「核抑止力は必要」と発言した菅首相──意味するところは先制不使用反対?

菅首相が、8月6日に広島で行った記者会見で「核抑止力というものは我が国にとって引き続き必要」と述べたことが話題を呼びました。首相の記者会見での発言は、秋葉広島市長の「核の傘」からの離脱をとの呼びかけに対してのものです。問題は、必要だという「核抑止力」の中身です。発言が核兵器を先に使わないとの先制不使用の考え方に反論しているように解釈できるのが気になります。

菅首相の発言は、繰り返しなどを削除して整理すると次のようになります。

国際社会では、核戦力を含む大規模な軍事力が、まだまだ存在しており、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器の拡散といった現実もあり、そういった、引き続き不透明・不確実な要素が存在するなかでは、核抑止力というものは我が国にとって必要である。

これと、質問主意書に対する答弁で麻生首相(当時)が2009年3月に使った先制不使用の反対の議論とを比べてみて下さい。

いわゆる核兵器の先制不使用については・・・国際社会には、核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散といった危険が増大するなど、引き続き不透明・不確実な要素が存在する中で、我が国としては・・・安全保障条約・・・を堅持し、その抑止力の下で自国の安全を確保する必要があると考えている。

以下、この両者の類似の意味するところについて、整理してみました。

参考




  1. 概論
    1. 問題は、先制不使用への反論を意味する文言
    2. 歴代政権の文言のとの比較検証
    3. 表現の曖昧さが問題──政府の主張の整理
    4. 今求められているのは、米国の宣言であってあって多国間の合意や条約ではない
    5. 先制不使用に反対して核廃絶を求めることに矛盾はないのか
    6. 「唯一の目的」でかまわないと表明したオーストラリア政府
  2. 補足
    1. 核の傘とは?
    2. 核の傘からの脱却とは?
    3. まず達成すべきは?
    4. 菅首相は何を否定?
    5. 先制不使用と消極的安全保証の関係は?
    6. 「先制不使用」政策と「唯一の目的(役割)」政策の違いは?
  3. 資料編
    1. 歴代首相の広島・長崎での挨拶 2006-2010年
    2. 菅発言と歴代政権の答弁との比較
    3. 岡田克也元外務大臣の発言



概論

問題は、先制不使用への反論を意味する文言

記者会見での発言に対する批判は、基本的に、日本は、唯一の戦争被爆国として「核兵器のない世界」の実現に向けて先頭に立って行動する道義的責任があると平和記念式典で述べておきながら、核抑止力が必要との立場を表明したことに矛盾があるというものです。

ここで二つ理解しておくべき点があります。一つは、資料編の歴代首相の広島・長崎での挨拶 2006-2010年を見れば明らかな通り、平和記念式典での菅首相の発言は、オバマ大統領が使った「道義的責任」という言葉が入っている点を除けば、毎年の首相挨拶と特に異なるものではないと言うことです。つまり、毎年、唯一の被爆国として──つまりはその道義的責任から──核廃絶のために努力しなければならない、努力すると宣言しながら、核抑止に頼る政策を維持して来たのであって、今年何か新しいことが起きたのではないわけです。

もう一つは、こちらの方が重要なのですが、「核の傘からの脱却」という呼びかけについての記者の質問に答えた発言の中に、菅首相が意識していたかどうかは別として、これまで先制不使用政策の提言に反対するために使われた表現が入っているということです。これは「核抑止」の中身にかかわる問題で、看過できません。2008年6月9日の豪政府の呼びかけで作られた「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」(参照 エバンズ共同議長の講演)や2009年から2010年春にかけて実施された米国の「核態勢の見直し(NPR)」を巡って先制不使用や「核兵器の唯一の目的を核攻撃の抑止とする」との考え方が話題(参照:日本が...?)となり、岡田外相(当時)が、これらの考え方を日本政府のものとしようと努力してきたということを考えると、なおさらです。今後も、核兵器以外の攻撃に対しても核で報復するという「核の先制使用」のオプションを残しておいて欲しいとの日本の立場が、米国による「唯一の目的」政策採用や大幅核削減実施の妨げになる可能性があるからです。

ただ、菅首相が意識的に先制不使用を否定する発言をしたのかどうかは不明です。仙石官房長官は、菅首相の発言と同じ8月6日の記者会見で、秋葉市長の呼びかけについて、次のように述べています。「我が国は原爆の惨禍を二度と繰り返してはならないという核軍縮・核廃絶に向けた強い思いを有している。他方、国際社会においては(核に関する)不透明・不確実な要素が存在する中で、米国の核戦力を含む抑止力は引き続き重要であると考えている。」これだけ読むと、先制不使用についての立場がよく分かりません。

しかし、歴代政権の使ってきた文言を比べて見ると、菅首相の発言の問題点が浮かび上がってきます。

なお、上の仙石官房長官の発言は、民主党のサイトからとったものですが、(核に関する)と言う部分は、サイトに掲載する際に付け加えたもののようです。新聞報道ではこれは入っていません。下に見るように、不透明・不確実という表現は、これまで、核兵器を含む大規模な軍事力や核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散などに言及する文脈で使われてきたものです。つまり、核兵器以外の状況に関する事柄を含んでいるのです。この書き入れの意図は不明です。

歴代政権の文言との比較検証

昨年8月9日、長崎で麻生首相に対して、先制不使用についての質問が出ました。「米国に対し、核兵器の先制不使用を提案するべきだとする意見もあるが、首相はどのように考えるか」というものです。これに対して麻生首相は、次のように答えて、先制不使用の方針について否定的な見解を示しました。

国際社会の中では、今は核戦力を含む、大きな軍事力が現実に存在している。これが大前提。核兵器だけをほかの兵器と切り離して議論することは、抑止のバランスを崩し、安全保障を損なうことになりうる。またもう一点は、核兵器を保有している国が、先制攻撃をしませんと仮に言ったとしても、その意図、お腹のなかを検証する方法はない。したがって、先制不使用の考え方を取ることは、日本は守ってもらう立場だが、日本の安全を確保する上で、現実的にはいかがなものか。

今年の質問は、「広島市の秋葉市長の平和宣言のなかで、日本政府に対して「核の傘」からの離脱する構想・・・があったが・・・どのように考えるか。」というものです。秋葉市長は、平和宣言でこう述べていました。

今こそ、日本国政府の出番です。「核兵器廃絶に向けて先頭に立」つために、まずは、非核三原則の法制化と「核の傘」からの離脱、そして「黒い雨降雨地域」の拡大、並びに高齢化した世界全(すべ)ての被爆者に肌理(きめ)細かく優しい援護策を実現すべきです。

「核の傘からの離脱」に関する質問に対する菅首相の返答はこうです。

一方、国際社会では、核戦略を含む、ま、大規模な軍事力が、まだまだ存在しており、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器の拡散といった現実もあるわけでありまして、そういった、引き続き不透明、不確実な要素が存在するなかでは、抑止力というものは、核抑止力というものは我が国にとって引き続き必要であると、このように考えております。

出典:「核軍縮の思いは共通、一方で現実も」6日の菅首相会見 朝日新聞

なお読売新聞は、菅発言のこの部分を次のようにまとめています(菅首相が広島で会見「核抑止力は引き続き必要」 この記事では「核戦略」ではなく「核戦力」と言ったとされている)。

国際社会では核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、大量破壊兵器の拡散という現実もある。不透明・不確実な要素が存在する中では、核抑止力はわが国にとって引き続き必要だ

両首相の発言を比べて見ると、菅首相の答えには、具体的に先制不使用について聞かれて答えた麻生首相の発言と重なる部分があることが分かります。

背景をさらに明らかにするために、先制不使用に関する質問主意書に対する答弁を見てみましょう。まず、辻元清美議員の質問に対する麻生太郎首相名の答弁(2009年3月19日)です。

いわゆる核兵器の先制不使用については、現時点では核兵器国間での見解の一致がみられていないと承知しているが、国際社会には、核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散といった危険が増大するなど、引き続き不透明・不確実な要素が存在する中で、我が国としては、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三十五年条約第六号)を堅持し、その抑止力の下で自国の安全を確保する必要があると考えている。また、核兵器を含む軍備削減、国際的な核不拡散体制の堅持・強化等の努力を重ねて、核兵器を必要としないような平和な国際社会を作っていくことが重要と考えている。

次は、浜田昌良議員の質問に対する鳩山由起夫首相名の答弁(2009年11月10日)です。

核兵器のない世界に向けた大きな流れがある中で、核兵器の先制不使用宣言を追求していくことは道義的に正しい方向であると考えるが、核兵器の先制不使用宣言は、すべての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではなく、これを達成するには、まだ時間を要するものと考えている。また、消極的安全保証について、非核兵器国に対して核を使用しないという考え方は基本的に支持し得るものと考えている。その際、当然のことながら、長期的課題である核兵器のない世界の実現を目指すに当たり、我が国の安全保障及び国際的な安全保障を損なうことはあってはならないと考えている。

国際社会には、核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散といった危険が増大するなど、引き続き不透明・不確実な要素が存在する中で、我が国としては、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三十五年条約第六号)を堅持し、その抑止力の下で自国の安全を確保する必要があると考えており、米国が保有する核戦力と通常戦力の総和としての軍事力が、我が国に対する核兵器によるものを含む攻撃を抑止するものと考えている。

遡れば、1999年08月06日の高村外務大臣の答弁、さらには、1982年の幾つかの政府答弁があります。(参照:資料編 菅発言と歴代政権の答弁との比較

表現の曖昧さが問題──政府の主張の整理

要するに、麻生・菅両首相の広島・長崎での発言は、このような文書を元にしたもので、二人が、質問を受けて、その瞬間に独自の思考で答えたというようなものではありません。そして、その主張は「核兵器以外にも、大規模な軍事力、生物・化学兵器などがあり、これらの兵器による攻撃を抑止するには、これらの兵器で攻撃を掛けてきた場合にも核兵器で報復する可能性があるぞと米国に言っておいて欲しい」ということになります。言い換えると大規模な軍事力、生物・化学兵器などがなくなるまでは、核兵器を先に使うオプションを維持して欲しい、つまりは、その間は他の国の核兵器がすべてなくなっても米国の核兵器は抑止(=「報復の脅し」)用として維持して欲しいということになります。

しかし、表現の曖昧さ、議論のすり替えなどのために、何を答えているのか分からないことが多いのが問題です。

最近の三人の首相の答弁の元になっていると見られる1999年08月06日の高村外務大臣の答弁を使って議論を整理するとこうなります。

  1. 現実の国際社会において、いまだ核戦力を含む大規模な軍事力が存在しているおり、核兵器のみを切り離すのは良くない
  2. 核兵器等の大量破壊兵器と通常兵器等を総合的に捉えるべきである
  3. いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している
  4. 米国との安全保障条約を堅持し、その抑止力のもとで自国の安全を確保することが必要である
  5. 核兵器を必要としないような平和な国際社会をつくっていくということが重要である
  6. 当事国の意図の検証ができない先制不使用の考え方に依存して、日本の安全は保てない
  7. 核先制不使用の問題については、現時点では核兵器国間での見解の一致が見られていない

この議論には、次のような問題があります。

  1. 核兵器と他の兵器を一緒に論じている
  2. 抑止・核抑止と言う言葉が曖昧な形で使われている
  3. 米国の先制不使用を提案しているのに、他国の約束の問題を持ち出している

提案が、日本の同盟国である米国の先制不使用宣言であることを念頭に1. から5. の議論を整理し直してみましょう。米国が先制不使用を「宣言」しても、日本に対する核攻撃に対し米国が核兵器で報復する可能性はなくなりません。従って核攻撃に対する「核による抑止」が必要だという主張は、米国による先制不使用に対する反論になりませんから、この主張に当たると思われる部分を除去します。また、先制不使用は、米国の通常戦力による抑止を否定するものでは当然ありませんから、問題は、「抑止」一般ではなく、「核兵器による抑止」だけです。(これらにの点に関し北朝鮮の名前が使われる場合には、特に要注意です。問題とされているのが、北朝鮮の核兵器なのか、生物・化学兵器なのか曖昧なまま議論されることが多いからです。先制不使用の主張においては、北朝鮮による核攻撃の可能性に関しては、核で報復の脅しによって防ぐ「核抑止」は否定されていません。そのような脅しが本当に必要かどうかはまた別問題です。)

6. と7. については、別途論じます。

  1. 世界には、核戦力以外にも大規模な軍事力が存在しており、これらと核兵器を切り離して議論するのは良くない
  2. 世界には、核兵器以外に大量破壊兵器(生物・化学兵器)がある
    世界には、通常兵器もある
  3. 世界には、核兵器以外の大量破壊兵器(生物・化学兵器)を含む多大な軍事力な存在している
    2. と3. は、生物・化学兵器と通常兵器があるとの主張であり、つまりは、1. 、2. 、3. を合わせると、「世界には、核兵器以外に、生物・化学兵器及び通常兵器が存在しており、これらを無視できない」との意味になる。
  4. 米国の核兵器による報復の脅しにより、日本に対する核攻撃以外の攻撃を抑止することが必要である。
  5. 世界に生物・化学兵器及び通常兵器の問題が存在する限り、米国の核兵器の必要はなくならず、また、米国の核の先制使用のオプションの維持が必要である。

これらを総合すると、この項の冒頭にある麻生・菅両首相の発言のまとめのようになります。ただし、菅首相がこの問題を綿密に分析した上で、広島で発言したかどうかは分かりません。核兵器が存在している限り、日本に対する核攻撃の可能性については米国の核抑止に頼らざるを得ないと言うのが趣旨であったかどうか、少なくとも使われた文言はそのようにはとれません。

6. と7. は、基本的には、「中国が先制不使用を唱えているが、これは信用できない。中国がこの約束を守るかどうか分からない」という意味です。また、北朝鮮が先に核攻撃をかけてくる可能性についてどうするのかという意味も含まれています。先に述べたとおり、米国が先制不使用宣言をすべきだとの主張は、日本に対する核攻撃に対しては米国が核兵器による報復をすることを否定するものではありませんから、議論のすり替えです。(詳しくは次項参照)

今求められているのは、米国の宣言であってあって多国間の合意や条約ではない

他国が先制不使用の約束を守ってくれるかとの麻生元首相の主張については、以前に次のように指摘しました。(参照:先制不使用─麻生発言

これは、基本的に、1999年08月06日の衆議院外務委員会での高村正彦外務大臣の答弁の焼き直しでした。元をただせば冷戦時代、1982年の政府答弁に縛られたものです。

他国が先制不使用を約束して、それを破ろうとした場合にどうするか。その場合には、米国の報復攻撃が頭にあるから、それによって、使用を抑止されるというのが核抑止の基本的考え方です。だから、先制不使用策に対する反論として、他国の意図や検証方法などを持ち出すのは議論のすり替えです。

これは、鳩山政権の「核兵器の先制不使用宣言は、すべての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではない」との主張についても言えます。日本の同盟国であり、核戦力においても通常戦力においても圧倒的な立場にある米国が一方的に宣言して、核の「価値」を下げ、核が使われない環境を強化していくことに意義があるのです。その実現に努力することは、日本の道義的責任ではないのでしょうか。

先制不使用に反対して核廃絶を求めることに矛盾はないのか

仙石官房長官は、先に見た2010年8月6日の記者会見での発言の後、続けて「政府としては国の安全保障という最重要の責務を遂行していくこと、そしてあらゆる国に対して核軍縮・不拡散を唱えることの2つは何ら矛盾するものではない」と述べています。核兵器が存在し続ける間は、日本政府としては、日本への核攻撃を防ぐために米国の核兵器による抑止に依存するが、核兵器を早くなくして欲しいと考えているというのなら、確かに論理的な矛盾はなくなるでしょう。しかし、生物・化学・通常兵器に対して核兵器による抑止が必要と言いながら、核軍縮・不拡散を唱えることに矛盾はないと言えるのでしょうか。

2009年9月17日、外相就任記者会見で岡田元外相は、次のように述べています。「私の持論は、核を先制使用するということを明言するような国に核軍縮やあるいは核の不拡散を、特に核軍縮を言う資格があるのかということであります。そういう視点で私は、従来から核の先制使用に対しては、これは認めるべきでないと、そういうふうに申し上げてきたところであります。」そして、在任中、先制不使用の考え方の採用を追求する動きを示してきました。しかし、菅首相の発言は、少なくとも、岡田元外相の考え方が、政府内で明確に共有されるところまでに未だ到っていないことを示すものと言えます。

「唯一の目的」でかまわないと表明したオーストラリア政府

オーストラリア政府は、2010年4月7日、米国の『核態勢の見直し(NPR)』発表に際して次のようなプレスリリースを出して、米国が「唯一の目的」政策をとっても不安に思わないとの立場を表明しました。

核態勢の見直しは、米国は極限的状況において米国あるいはその同盟国・パートナーの死活的権益を防衛するためにのみ核兵器の使用を検討すると宣言している。

米国は、非核攻撃の抑止における核兵器の役割を低減し続ける──米国あるいはその同盟国・パートナーに対する核攻撃の抑止を米国の核兵器の唯一の目的とすることを目標として。

オーストラリア政府は、この宣言政策における変更を、米国の国家安全保障戦略における核兵器の役割の相当の低減として歓迎する。

米国は、米国がその核兵器の唯一の目的を核攻撃の抑止に限るとの宣言された目標を達成してもオーストラリアは不安に感じないことを知っている(ただし、NPRは、そのための条件を安全に確立するのには相当の作業が必要となると述べている)。

出典: スティーブン・スミス外務大臣とジョン・フォークナー国防大臣の共同プレスリリース

◎参考:

1998年5月5日 NGOによる1998年NPT再検討会議準備委員会への提案「NPT第6条の軍縮の目標を達成するためのいくつかの短期的措置」

アージュン・マキジャニ(米国:インド出身)、オリバー・マイヤー(ドイツ)、田窪雅文(日本)によって起草。1968年にNPTを締結する際に米国代表団で中心的な役割を果たしたジョージ・バンを含め、世界各国から約30名のNGO関係者が署名し、1998年5月5日、ジュネーブでのNPT再検討会議準備委員会に際して発表。

・・・・1998年準備委員会は、以下の具体的措置を締約国がとるよう勧告すべきである。

1.締約国である各非核兵器国(以下「非核兵器国」)は、締約国である核兵器国(以下「核兵器国」)が先制不使用政策を採用しても、それは自国の安全保障に反するものではなく、それによって自国の安全保障が脅かされることはないと、一方的宣言を行うべきである。とくに、私たちは、核兵器国と同盟関係にある日本、ドイツその他の非核兵器国がこのような宣言を1999年準備委員会までに行うよう求める。

核兵器国は、1999年の準備委員会までに先制不使用政策を一方的に採用すべきである。中国はすでにこれを行っている。とくに、準備委員会は、米国に対し、最大の軍事力と経済力を有する国として、率先して先制不使用政策を一方的に採用するよう求めるべきである。これは、1991年に米国が核の危険を減らすためにとった、戦術核のほとんどを一方的に配備からはずという措置に続くものとなる。ロシアも同様に先制不使用政策を採用すべきである。フランス及び英国は、中国と同等の核兵器を有しているから、中国の例にならい、米国の措置とは独立に、先制不使用政策を一方的に採用すべきである。・・・・

補足

核の傘とは?


レーガン大統領も夢見た「シールド」
スター・ウォーズの鉄人!より)

日本の人々が普通、核の傘と聞いて思い浮かべるイメージは、スターウォーズのシールドのような1)核兵器をはじき飛ばしてくれる傘でしょうか。

実際には、降ってくる核兵器をはじき飛ばすのではなくて、米国の核報復の脅しによって、敵からの核攻撃を未然に防ごうということになりますが、これは、核に対する傘と言えます。

歴代政権が説明してきた日本政府の求める米国の「核の傘」(拡大核抑止)にはもう一つの考え方があります。2)米国の核報復の脅しによって、敵による核以外の攻撃をも抑止するというものです。生物・化学・通常兵器に対する傘です。

核の傘からの脱却とは?

具体的に何を指すか明確ではありませんが、日本に対するいかなる攻撃についても、たとえそれが核兵器によるものであっても、核兵器で報復してくれなくて良い(しないで欲しい)と宣言することでしょうか。つまり、米国に対して、1)も2)も要らないと宣言するという意味として考えてみましょう。

日本に対する攻撃についての懸念に関する反論としては、次のようなものがあり得ます。

1)の場合

  1. 核報復の脅しがなくとも、日本が核攻撃など受けるはずがない。なぜなら:
    1. 通常兵器の脅しで十分である
    2. 相互経済関係などの他の形の抑止が働いている
    3. 核兵器が存在するということだけで抑止になっている
    4. 核はそもそも国際規範的に既に使えない兵器となっている
    5. あるいは

  2. たとえ核攻撃を日本が受けるようなことがあっても、道徳的に言って米国にそれに対する核報復をするよう求めるべきではない。

2)の場合、

  1. 核報復の脅しがなくとも、日本がそんな攻撃を受けるはずがない。
    1. 通常兵器による報復の脅しで十分である。
    2. 相互経済関係などの他の形の抑止が働いている
    3. 核兵器が存在すると言うことだけで抑止になっている

10月21ー22日に笹川平和財団ーウッドロー・ウィルソン国際学術センター共催の「『核のない世界』に向けた日米パートナーシップ」と題された日米共同政策フォーラムに招かれたウイリアム・ペリー元米国防長官は、日本に対する北朝鮮の生物・化学兵器の抑止には通常兵器による報復の威嚇で十分だと述べています。北朝鮮は、通常兵器の報復で体制崩壊に追いやられることを知っており、それを無視して攻撃を仕掛けて来るほど北朝鮮は自殺的ではないとの立場です。さらに、北朝鮮程度の核兵器であれば、これも通常兵器による報復の威嚇で抑止できるとも述べています。岡田元外相も同じ考えです。(『世界』インタビューを参照)

まず達成すべきは?

段階的に考えるなら、順序が逆になります。

1)核廃絶を唱えながら、生物・化学・通常兵器の攻撃にも核兵器で報復するとの脅しを掛けておいて欲しいと米国に望むのは、いくら何でもあんまりだ。少なくとも、日本に対する生物・化学・通常兵器の攻撃には核兵器による報復はしてくれなくて良い(しないで欲しい)と宣言するべきだ。

これは、核兵器を先に使うことはしないと明言する「先制不使用(ノー・ファースト・ユース)」(先行不使用)政策を米国がとることを求め、支持する宣言となります。岡田元外相は、これを「半分傘からはみ出す」と言っています

2)日本としては、日本に対する核攻撃に対しても核による報復などしてくれなくていい(しないで欲しい)と宣言すべきだ。

菅首相は何を否定?

麻生首相の発言や、歴代内閣の先制不使用に反対する説明と比較してみると、菅首相も先制不使用の考え方を拒絶したと取れます。ただし、細かく考えずに漠とした答えをしてしまった可能性もゼロではありません。官僚から与えられたメモの文言を先制不使用問題についての明確な認識のないまま使ったのかもしれません。例えば、長崎での記者会見では、「北朝鮮の核開発を含めてですね、残念ながら現在は世界から核がなくなるという状況にはそれを実現していません」と他国の核兵器の存在を問題にしています。これは、核兵器に対する核の傘の必要を正当化する議論です。同じ北朝鮮でも、その生物兵器・化学兵器を問題として持ち出せば、それは、核兵器以外の兵器に対する核の傘を正当化しようとするものとなります。マスコミや政治家などに、二つの傘の考え方の違いについて説明し、働きかける必要があることは間違いありません。

先制不使用と消極的安全保証の関係は?

消極的安全保証は、核兵器を持っていない国には、核攻撃をかけないと約束することです。何々しないという否定文の形の保証で「否定文」安全保証とも言えます。これに対し、積極的(ポジティブ)安全保証は、肯定文の形を取り、非核国が核による攻撃又は威嚇を受けた場合には、国連憲章に従い適切な処置をとると約束するもので、「肯定文」安全保証とも言えます。両者とも、消極的安全保障、積極的安全保障と表記されることがあります。

先制不使用宣言は、核兵器国に対しても、また、論理的に当然のことながら非核兵器国に対しても、先には核を使わないという意味で、消極的安全保証も包含する概念です。

「先制不使用」政策と「唯一の目的(役割)」政策の違いは?

核兵器を先には使わないという「先制不使用(ノー・ファースト・ユース=先行不使用)」宣言と核兵器の唯一の目的を核兵器の使用の抑止とするとの「唯一の目的」宣言は、どちらも限界を抱えているという点では同じです。前者は、用語自体からいって、相手が先に使った場合に報復のための「第2使用」を明示的に否定していません。後者は、「抑止」が目的ということは、やられたらやり返すという「報復の脅し」のために核兵器を持つと言うことですから、やはり、報復のための使用を明示的に否定していません。しかし、反核運動の中でこれらの概念を使う場合、どちらも、いくら何でも先に使うのはあんまりだ、いくら何でも核以外の攻撃に対して核兵器を使うぞと脅すのはあんまりだ、と言う点に力点が置かれています。核戦争の勃発を防ぐこと以外の役割を核兵器に持たせるなんて、もってのほかだという主張であって、「先制不使用」や「唯一の目的」を到達点とするものでないことは言うまでもありません。核攻撃に対する報復なら核兵器を使用してもいいのか、とか、そもそも、報復をちらつかせないと相手が核攻撃を掛けてきそうと考えるのかどうか、と言うのは別の問題です。

二つの概念の効果について、ほとんど同じとする説明と、「唯一目的」では不十分なことを強調する説明があります。「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の委員も務めたウイリアム・ペリー米国元国防長官は、ほとんど同じとの説明をします。また、日本に米国の「核態勢の見直し」を巡る情報を伝え、「先制不使用・唯一の目的」を日本政府が支持するように働きかけて欲しいと訴えてきた米国の「憂慮する科学者同盟(UCS)」のグレゴリー・カラキーも同じ説明の仕方をします。ICNNDは、第一段階として「唯一目的」政策を採用して、第2段階として「先制使用」政策を採用するよう勧告しています。

詳しくは下の説明を見て下さい。

  1. 以前に核情報でICNNDの報告書に関連してペリーの解釈などについて論じた文章
  2. 米国の専門家らの説明 核情報とのやりとり(2009年夏)から
    1. 米国民主党政権に対して発言力のある専門家
    2. ハンス・クリステンセン 「米国科学者連合(FAS)」の「核情報プロジェクト」のディレクター
  3. 核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)における扱い
  4. 米国「核態勢の見直し(NPR)」における扱い

先制不使用と唯一の目的──ICNNDに関連して

ICNNDの報告書が、核兵器国は──特に米国はその核態勢見直しにおいて──保有する核兵器の「唯一の目的」は、他国の核兵器の使用の抑止にあると宣言すべきと勧告したことは重要。だが「同盟国には、特に生物・化学兵器を含め、その他の兵器による容認できない危険にさらされることはないという強固な保証を供与する」との文言が挿入されているのは日本チームの抵抗のためか。さらに、先制不使用宣言の達成目標を2025年にしてしまっているのが問題だ。

ICNNDの委員の一人ウイリアム・ペリー元米国防長官は、昨年10月21ー22日に笹川平和財団─ウッドロー・ウィルソン国際学術センター共催の「『核のない世界』に向けた日米パートナーシップ」と題された日米共同政策フォーラムで、「唯一の目的」宣言と先制不使用宣言は基本的に同じだと説明していた。先制不使用を喧伝していたソ連が実は先制使用を考えていたことを示すことが明らかになったこともあって、米国では先制不使用と言う言葉に対する抵抗が強い。だからオバマ政権には、代わりに「唯一の目的」宣言を要請した方が現実的だ」という趣旨の説明をした。

ところが、ICCNDの報告書は、米国による「唯一の目的」宣言の達成期限を「核態勢の見直し」の発表時、つまり2010年とし、先制不使用宣言の達成期限を2025年としてしまった。戦略家の中には、敵の核攻撃による被害を最小にとどめるために、攻撃をかけてきそうな敵の核兵器に対して先に核攻撃をかけることを容認すべきだとの考えがある。これを「抑止」機能の一つとするというものだ。このような先制使用の考え方を2025年まで容認するかに受け取られかねない達成期限の設定がなされたのは残念だ。

出典:先制不使用問題3報告書比較:キャンベラ委員会・東京フォーラム・ICNND 核情報

米国民主党政権に対して発言力のある専門家

1)「唯一の目的」宣言は核兵器を持つ戦略的動機に関するステートメントであり、2)「先制不使用」宣言は、核兵器が使われる状況に関するステートメントだ。

米国では、先制不使用は、西ヨーロッパに向けられたプロパガンダのなかでソ連が使用したという歴史を背負っている。通常兵器による攻撃に対して西ヨーロッパを守りきることはできないと広く信じられていた。それで、米国は、このような攻撃に対して、必要となれば、核兵器で応じると約束した。これに対し、ソ連は、表向き、先制不使用政策を採用した。卑劣にも──と言うのは、ソ連は、核兵器を先に使用する計画を持っていたことを今では我々は知っているからだ──西側の国民がその政府に働きかけて、先制不使用政策をとるようにさせることを狙ってのことだ。

もちろん、冷戦は遠い過去のものとなっているし、米国の通常戦力は、どの潜在的敵国よりも、あるいは、敵国の組み合わせよりも、ずっと強力だ。今日、米国が、先制不使用政策を採用できないまともな理由は無い。唯一あるのは、米国が先制不使用政策を採用した場合、日本のような他の国が見捨てられたと感じてしまうという主張だ。それで、拡大抑止に力点が置かれているのだ。

核兵器の唯一の目的を核攻撃の抑止とした場合、自分たちの受ける被害を限定的なものにするために核兵器を使うこと[敵の核戦力を攻撃すること]を計画するのは、矛盾する。これらの目的を調和させるために、次のように主張するものがいるかもしれない。「攻撃を抑止する最善の方法は、このような攻撃が成功しない──攻撃側の意図は阻止され、自分たちの被害は限定的なものになる──ことを示して見せることである。」だが、これでは二つの伝統的な核兵器ドクトリンに戻ってくることになる。1)核戦争を抑止すること、2)核戦争が始まった場合に自分たちへの被害を限定的なものとすることの二つだ。保守派は、これらを同じものとしようとしてきたが、二つの間には、強い緊張関係が存在すると言えるだろう。

ハンス・クリステンセン 

「米国科学者連合(FAS)」の「核情報プロジェクト」のディレクター

「唯一の目的」宣言と「先制不使用」宣言は同じではない。基本的に同じと言うことでもない。「先制不使用」政策なしで「唯一の目的」政策を持つことは可能だ。だが「唯一の目的」政策なしで「先制不使用」政策を持つことは不可能だ。「唯一の目的」政策はそれ自体では、核兵器がどの時点で使われうるかについていかなる制約もガイドラインも伴わない。

「唯一の目的」政策は、対兵力攻撃及び[自分たちへの]被害を限定的なものにするための核攻撃を除外するものではない。どちらも、何十年もの間、米国の戦闘核態勢の重要な要素となってきた。

「唯一の目的」政策が非核兵器国の文脈で検討された場合は、それらのシナリオにおける効果は、基本的に「先制不使用」政策となる。(先制不使用宣言が「消極的安全保証」を下支えする)。一部の反対は、このためである。なぜなら、「唯一の目的」宣言は、敵に対して、核兵器以外のもので我々を攻撃した場合は、我々が核兵器で応じることはないと言っていることになるからである。これだと、とりわけ生物・化学兵器による攻撃に対する抑止を弱めることになると考える人々がいる。一方、このような考え方に意義を唱える人々もいる。

(1990年代には[北朝鮮が核兵器を持っていなかったから]、「唯一の目的」政策は論理的には、北朝鮮に適用することができただろうが、核政策の対象が核攻撃の抑止から、「大量破壊兵器」の抑止へと拡大したのは、1990年代の極めて初期、最初の湾岸戦争の前でさえあったことを忘れてはならない。)

他の核兵器国との関係においては、「唯一の目的」政策は、「先制不使用」政策と同じではない。「核兵器の唯一の目的が他国による核兵器の使用を抑止することにある」との宣言には、核兵器の使用がどれほど早期に起きるか、あるいは起きないか、についての制約を示唆するものはない。敵側がまさに攻撃せんとしていると確信された場合には、核兵器が使われうる。[自分たちへの]「被害限定」政策だ。

2009年12月 ICNND報告書

短期的努力(2012年まで)と中期的努力(2025年まで)では、可能な限り早期に、かつ遅くとも2025年までに、「最小化地点」を達成することに焦点を合わせる。「最小化地点」は、極少数の核弾頭数(現保有量の10%未満)、合意された「先制不使用」政策、「先制不使用」政策を反映した核戦力配備と警戒態勢を特徴とする。

p.5

  • 核政策最終的な核兵器廃絶に至るまでの間、すべての核武装国は、可能な限り早期に、かつ遅くとも2025年までに、明確な「先制不使用」宣言を行うべき。
  • 現時点でそこまで進む用意ができていない国は、特に米国はその核態勢見直しにおいて、少なくとも、核兵器保有の「唯一の目的」は、自国又はその同盟国に対し他国が核兵器を使用することを抑止することである、という原則を受け入れるべき。
  • このような2つの宣言によって影響を受ける同盟国は、生物・化学兵器によるものも含め、他の容認できない危険にさらされることがないという強固な保証を与えられるべき。

p.6

出典:核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)「報告書概要」(日本外務省訳、pdf)

2010年4月 米国「核態勢の見直し(NPR)」

米国は、通常兵器の能力を強化し、非核攻撃の抑止における核兵器の役割を低減し続ける──米国あるいはその同盟国・パートナーに対する核攻撃の抑止を米国の核兵器の唯一の目的とすることを目標として。

p.17

いずれ、核兵器を持っているすべての国が核攻撃の抑止を核兵器の唯一の目的としても安心できるように、地域的安全保障構造を強化し、化学・生物兵器をなくするための努力を続ける・・・

NATOを含めた各種安全保障体制は、米国及びその同盟国・パートナーに対する核の脅威が存在する限り、核の側面を持ち続けるが、我々は、将来核兵器の役割と数を減らすことを追求し続ける。今後、米国及び同盟国の非核能力及び対WMD能力が向上を続け、地域安全保障構造が強化され、そして、とりわけ生物化学兵器を含む他の脅威を抑制する上での進展を評価する中で、米国は、核攻撃の抑止を核兵器の唯一の目的とする政策に移行するのが賢明と言える状況に関して、同盟国・パートナーと協議する。

p.47-48

出典:米国「核態勢の見直し(NPR)」(2010年4月)抜粋

資料編

歴代首相の広島・長崎での挨拶 2006-2010年

2010年 菅首相

広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式あいさつ

唯一の戦争被爆国である我が国は、「核兵器のない世界」の実現に向けて先頭に立って行動する道義的責任を有していると確信します。私は、様々な機会をとらえ、核兵器保有国を始めとする各国首脳に、核軍縮・不拡散の重要性を訴えてまいります。また、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現に向け、日本国憲法を遵守し、非核三原則を堅持することを誓います。

長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ

2009年 麻生首相

広島市原爆死没者慰霊式並びに平和祈念式あいさつ 

日本は、被爆の苦しみを知る唯一の被爆国であります。広島、長崎の悲劇を二度と繰り返さないためにも、国際平和の実現に向け、あらん限りの努力を傾けていかなければなりません。・・・

 そして本日、私は、改めて日本が、今後も非核三原則を堅持し、核兵器の廃絶と恒久平和の実現に向けて、国際社会の先頭に立っていくことをお誓い申し上げます。

長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ

2008年 福田首相

広島市原爆死没者慰霊式・平和祈念式内閣総理大臣挨拶

国としても、唯一の被爆国として、広島、長崎の悲劇を二度と繰り返してはならないと堅く決意し、戦後一貫して国際平和の途を歩んでまいりました。・・・

 そして、本日、ここ広島の地で、改めて我が国が、今後非核三原則を堅持し、核兵器の廃絶と恒久平和の実現に向けて、国際社会の先頭に立っていくことをお誓い申し上げます。

長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典 内閣総理大臣挨拶

2007年 安倍首相

広島市原爆死没者慰霊式・平和祈念式 内閣総理大臣挨拶

私は、犠牲者の御霊と広島市民の皆様の前で、広島、長崎の悲劇を再び繰り返してはならないとの決意をより一層強固なものとしました。今後とも、憲法の規定を遵守し、国際平和を誠実に希求し、非核三原則を堅持していくことを改めてお誓い申し上げます。

 また、国連総会への核軍縮決議案の提出などを通じて、国際社会の先頭に立ち、核兵器の廃絶と恒久平和の実現に向け、全力で取り組んでまいります。

長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典 内閣総理大臣挨拶

2006年 小泉首相

広島市原爆死没者慰霊式・平和祈念式 内閣総理大臣挨拶

広島、長崎の悲劇は、いずこにおいても再び繰り返されてはならないとの決意の下、我が国は、戦後六十一年の間、不戦の誓いを体現し実行してきました。

 私は、ここ広島において、本日の式典に臨み、犠牲者の御霊と広島市民の皆様の前で、今後とも、憲法の平和条項を遵守し、非核三原則を堅持し、核兵器の廃絶と恒久平和の実現に向けて、国際社会の先頭に立ち続けることを改めてお誓い申し上げます。

長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典 内閣総理大臣挨拶

菅発言と歴代政権の答弁との比較

2010年8月6日 仙石官房長官

「我が国は原爆の惨禍を二度と繰り返してはならないという核軍縮・核廃絶に向けた強い思いを有している。他方、国際社会においては(核に関する)不透明・不確実な要素が存在する中で、米国の核戦力を含む抑止力は引き続き重要であると考えている。政府としては国の安全保障という最重要の責務を遂行していくこと、そしてあらゆる国に対して核軍縮・不拡散を唱えることの2つは何ら矛盾するものではない」

出典:【今日の官邸】仙谷官房長官会見 民主党 2010/08/06

核の傘離脱と非核三原則法制化に否定的 官房長官 産経新聞 2010.8.6 12:33

2010年8月6日 菅首相広島での記者会見 

記者

広島市の秋葉市長の平和宣言のなかで、日本政府に対して「核の傘」からの離脱する構想、あと、非核三原則の法制化を求める部分があったが、これらについてどのように考えるか。

菅首相

まず、あの秋葉市長のそうした発言というのは、我が国が特に広島・長崎が受けたこの原爆の惨禍を二度と、ま、繰り返してはならないと。そうした核軍縮に向けた強い思いを込めて、おっしゃったんだと思っております。ま、そうした思いは共通なところもあります。一方、国際社会では、核戦略を含む、ま、大規模な軍事力が、まだまだ存在しており、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器の拡散といった現実もあるわけでありまして、そういった、引き続き不透明、不確実な要素が存在するなかでは、抑止力というものは、核抑止力というものは我が国にとって引き続き必要であると、このように考えております。また、非核三原則については、私の内閣においても、堅持することに、その方針に変わりはありません。非核三原則は、我が国の重要な政策として内外に知られていると、このように理解をいたしております。

出典:「核軍縮の思いは共通、一方で現実も」6日の菅首相会見 朝日新聞

2010年8月9日 菅首相 長崎での記者会見

記者

広島の会見では、『核抑止力は必要だ』と発言されています。一方で今日は、『核兵器を無くするために全力で努力』と発言されています。先ほどの被爆者団体からも指摘があったように、この二つの発言は相反しているように思われます。今後核問題について、どのように世界の中でイニシアティブを取って活動をしていくお考えでしょうか。

菅首相

「核兵器をなくす」あるいは「核兵器のない世界を目指す」ということと、そうなれば核抑止力は必要なくなりますから、そういう意味で核抑止力を必要としないような、核兵器のない世界を作りたいと、こういうことを申し上げているわけです。現状は、残念ながら、まだそういう状況にはなっておりません。もちろん我が国自身は非核三原則の原則を守っていきますから。あー、ただ、あのー、北朝鮮の核開発を含めてですね、残念ながら現在は世界から核がなくなるという状況にはそれを実現していませんので、そういった意味で、残念ながら、まだ核抑止力が一切、それに…、なんて言いましょうか。あのー、頼らないで済む、そういう世界を目指すけれども、まだそれに至っていない中ではですね、そうした、必要性は将来なくしていきたいとは思いますが、現在は、あのー、そういうことを考えざるを得ないという、こういう趣旨で申し上げました。

2009年11月10日 鳩山由起夫名 浜田昌良議員の質問への答弁

 核兵器のない世界に向けた大きな流れがある中で、核兵器の先制不使用宣言を追求していくことは道義的に正しい方向であると考えるが、核兵器の先制不使用宣言は、すべての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではなく、これを達成するには、まだ時間を要するものと考えている。また、消極的安全保証について、非核兵器国に対して核を使用しないという考え方は基本的に支持し得るものと考えている。その際、当然のことながら、長期的課題である核兵器のない世界の実現を目指すに当たり、我が国の安全保障及び国際的な安全保障を損なうことはあってはならないと考えている。

 国際社会には、核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散といった危険が増大するなど、引き続き不透明・不確実な要素が存在する中で、我が国としては、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三十五年条約第六号)を堅持し、その抑止力の下で自国の安全を確保する必要があると考えており、米国が保有する核戦力と通常戦力の総和としての軍事力が、我が国に対する核兵器によるものを含む攻撃を抑止するものと考えている。

出典:参議院議員浜田昌良君提出核の先制不使用論と消極的安全保障政策に関する質問に対する答弁書

2009年8月9日 麻生首相 長崎での記者会見

記者

米国に対し、核兵器の先制不使用を提案するべきだとする意見もあるが、首相はどのように考えるか」

麻生首相

国際社会の中では、今は核戦力を含む、大きな軍事力が現実に存在している。これが大前提。核兵器だけをほかの兵器と切り離して議論することは、抑止のバランスを崩し、安全保障を損なうことになりうる。

またもう一点は、核兵器を保有している国が、先制攻撃をしませんと仮に言ったとしても、その意図、お腹のなかを検証する方法はない。したがって、先制不使用の考え方を取ることは、日本は守ってもらう立場だが、日本の安全を確保する上で、現実的にはいかがなものか。

2009年3月19日 麻生太郎首相名 辻元清美議員の質問主意書への答弁 

質問 先制不使用政策(核攻撃を受けない限り核を使わないという政策)

2.「米国が、米国またはその軍隊および同盟国が核兵器による攻撃を受けた場合以外は、核兵器を使用しないという先制不使用政策(ノー・ファースト・ユース政策)を明確に表明することを日本政府は積極的に支持するか。」

答え

 いわゆる核兵器の先制不使用については、現時点では核兵器国間での見解の一致がみられていないと承知しているが、国際社会には、核戦力を含む大規模な軍事力が存在し、また、核兵器を始めとする大量破壊兵器等の拡散といった危険が増大するなど、引き続き不透明・不確実な要素が存在する中で、我が国としては、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三十五年条約第六号)を堅持し、その抑止力の下で自国の安全を確保する必要があると考えている。また、核兵器を含む軍備削減、国際的な核不拡散体制の堅持・強化等の努力を重ねて、核兵器を必要としないような平和な国際社会を作っていくことが重要と考えている。

出典:答弁書

1999年08月06日 高村外務大臣 衆議院外務委員会(先制不使用と日本の安全保障)

高村国務大臣 まず、核の先制不使用を考える前提でありますが、政府の最大、最重要の責務である国の安全保障が結果的に核が使用されない形で確保されるのであれば、その方が望ましいということは、これは言うまでもないことだ、こう思っております。さらに、将来的には、安全保障を害しない形で核兵器のない世界が実現されることが最善のシナリオである、こういうふうにも考えているわけでございます。

 他方で、現実の国際社会において、いまだ核戦力を含む大規模な軍事力が存在しており、核兵器のみを他の兵器と全く切り離して取り扱おうとすることは、それは必ずしも現実的ではない、かえって抑止のバランスを崩して、安全保障を不安定化させることもあり得ると考えているわけでございます。

 したがって、安全保障を考えるに当たっては、関係国を取り巻く諸情勢に加え、核兵器等の大量破壊兵器や通常兵器の関係等を総合的にとらえて対処しなければならない、こういうふうに考えております。

 こういった基本的な認識に立って、我が国としては、核の先制不使用について、核兵器国間の信頼醸成及びそのことを通じた核兵器削減につながる可能性があることを積極的に評価すべきとの考え方があることは承知をしておりますが、これまでも申し上げたとおり、いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難であると考えているわけでございます。

 いずれにいたしましても、核先制不使用の問題については、現時点では核兵器国間での見解の一致が見られていないと承知しており、我が国としては米国との安全保障条約を堅持し、その抑止力のもとで自国の安全を確保するとともに、核兵器を含む軍備削減、国際的核不拡散体制の堅持、強化等の努力を重ねて、核兵器を必要としないような平和な国際社会をつくっていくということが重要である、こういうふうに考えています。

1998年8月5日 外務省森野泰成軍備管理・軍縮課首席事務官 広島で開かれたパネル・ディスカッション

先制不使用を約束してしまった場合、核の抑止力の効果がかなり薄れてしまう。日本の安全を守れるのだろうかという懸念を強く持っている。……米国と日本が先制不使用を約束したとしても、ほかの国が本当に先制不使用を守ってくれるのだろうかという問題がある。

1982年06月25日 松田政府委員 衆議院予算委員会 

お答え申し上げます。御指摘のとおり、昭和五十年八月六日の三木総理大臣とフォード大統領の首脳会談におきます共同声明において、第四項で、わが国への武力攻撃があった場合、それが核によるものであれ通常兵器によるものであれ、米国としては日本を防衛する、そういうことを大統領が確言しておりますことの中にはあらゆる意味での措置が含まれておるという意味において、核の抑止力または核の報復力がわが国に対する核攻撃に局限されるものではないという趣旨と私どもは理解しております。

参考

岡田克也元外務大臣の発言

2009年9月17日 就任会見

鳩山内閣閣僚記者会見「岡田克也大臣」

(産経新聞記者)

 日米関係を深めるということですけれども、大臣は従前よりアメリカに対して、核の先制不使用を宣言するよう求めていくべきだというふうに発言されていたかと思うんですけれども、今後具体的にそういう点をどういうふうに提起していくかということと、仮にその先制不使用を宣言してしまった場合に、抑止力の信頼性が低下するんじゃないかというような懸念もあろうかと思うんですけれども、それについて大臣はどのようにお答えですか。

(岡田克也外相)

 私の持論は、核を先制使用するということを明言するような国に核軍縮やあるいは核の不拡散を、特に核軍縮を言う資格があるのかということであります。そういう視点で私は、従来から核の先制使用に対しては、これは認めるべきでないと、そういうふうに申し上げてきたところであります。外務省の中にいろいろ意見があることも承知しております。よく外務省の皆さんと議論したいというふうに考えておりますけれども、まあ私は、誰が考えてもそれ以外の結論というのはないんじゃないかというふうに思っております。それによって核の抑止力が弱まるというふうには私は考えておりません。

2009年5月12日 予算委員会

岡田克也議員(麻生首相への質問)

○岡田委員  ・・・
 限られた時間ですが、核の問題について、先ほども議論が出ておりましたが、少し申し上げたいと思います。
 総理は、オバマ大統領のプラハでの演説について、これまでのアメリカ大統領の演説で最も印象的で極めて重要だというふうに答弁されました。一国のリーダーとしてそういう認識を持っていただいたことは、私、大変うれしく思っております。
 ただ、この核の問題について、では日本はどうするのかという問題があります。もちろん総理は、国連の中で決議を毎年毎年やってきた、それはそのとおりです。しかし、例えば、アメリカが核の先制使用も辞さずとブッシュ政権の時代は言っていました。今もそれを明確には否定していないと思いますけれども、そういったことに対して日本政府は、私はむしろ核の先制使用はやめるべきだと言うべきだと考えますけれども、今までの国会での外務大臣の答弁などを見ておりましても、いや、核の先制使用を否定すると核の抑止が弱くなるから、それは望ましくないという答弁もされています。
 ここのところはどうなんでしょうか。核をなくしていくんだ、減らしていくんだという基本的考え方に立てば、やはり核の先制使用は少なくともやめる、そういった考え方を世界の中で共通の考え方として持つ、その先頭に日本は立つべきじゃありませんか

○麻生内閣総理大臣 これは基本的にはおっしゃるとおりなんですが、現実の今、国際社会の中においては、いまだに核戦力というのを含む大規模な軍事力というものが存在しているという大前提をちょっとまず忘れず、我々は直視せにゃいかぬところだと思っております。
 その上で、核兵器だけを他の兵器と切り離して取り扱おうとしてもこれはちょっと現実的ではありませんので、抑止のバランスを崩すことになりかねませんので、一国の安全保障を考えたときにおいては、これは結構大事なところだと思っております。
 もう一点は、当事国の意図、考え方というものに関しては、これは岡田さん、何の保証もない先制不使用というのは、これは検証の方策が全然ありませんから、言うだけ。うちも先制不使用ですとみんな言うだけで、その方策がありませんので、先制不使用という言葉だけに頼るというのは、安全保障上はこれは十分を期するということにはならないということになろうと思います。
 これを持っておりますのは、アメリカ以外の国、NPT等々に参加していない国というのは幾つかあるので、こういったものも含めて考えにゃいかぬというところが最も難しいところだと思いますが、基本的な流れとしてはそのとおりだと存じます。

○岡田委員 もう終わりますけれども、やはり核兵器というのは特別だからこそ、オバマ大統領もプラハでわざわざ演説をし、そして世界も議論しているわけです。
 例えば、ほかの大量破壊兵器、生物化学兵器については、禁止をするということはもう確立しているわけです。残された核兵器について、少なくとも先制使用は認めない、あるいは、核を持っていない国に対して核兵器を使用することは即違法である、そういう規範をきちんと確立する。日本がリーダーとしてその先頭に立つ。そのぐらいのことがなければ、単にアメリカの大統領がオバマ大統領にかわって、核軍縮あるいは核不拡散に熱心な大統領が出てきたからそれに対して調子を合わせているだけではないかというふうに見られかねない。
 やはり、核の傘にあるといっても、今申し上げたようなことはきちんとできることだというふうに私は申し上げておきたいと思います。
 また引き続き議論したいと思います。ありがとうございました。

出典:第171回国会 予算委員会 第27号 平成21年05月12日

2009年6月初頭発売の『世界』(岩波書店)2009年7月号インタビュー 

岡田克也民主党幹事長 (予算委員会での上記質問発言に触れ)

先日の予算委員会で麻生首相はオバマ大統領のプラハ演説についての意見を問われて、「これまで聞いた演説の中でもっとも心に残るものだった」と言われました。私はそれを評価しつつも、外務大臣の答弁でも外務省の意見としても、アメリカが核の先制不使用を宣言することは、日本の核の傘、抑止力が失われる、あるいは弱まるので困る、と明言しているのはおかしいのではないかと申し上げました。つまり、具体論になると麻生総理はまったく反応がない。

 日本政府も核軍縮、核不拡散について基本的には推進してきた立場です。ただ、具体的に何をやってきたかというと、国連における核廃絶決議案の提出だけで、それは重要なものですが、自分たちが何をするかということには熱心ではない。・・・

やはり核の廃絶に向けての軍縮、そして不拡散は、日本の外交の大きな柱であるはずです。しかし日本がいま諸外国からどのように見られているか。その懸念を払拭するためにもやはり日本自身が具体的なアイデアを出すべきだと思います。具体的には、核保有国、とりわけアメリカが先制不使用を宣言すること、そして核を持たない国に対しての核使用は違法であるという合意の掲載、そしてそれらと重なる部分もありますが、東北アジアの非核兵器地帯構想、この三点を日本として主張していくべきだと考えています。

・・・

 アメリカが核の先制不使用を宣言したからといって、完全に核の傘から外れるわけではありません。現実に世界に核兵器が存在している状況で、核の傘がなくなることを不安に思うことは当然あるでしょう。

 私は半分傘からはみ出す、と言っていますが、先制使用はしないが、もしも不幸にして核攻撃をかけた場合、それに対する核による反撃まで否定しているわけではありません。最終的にはそうした担保は残されているので、私は理想論だけを言っているのではないとご理解頂きたいと思います。

・・・しかし私は、北朝鮮の核に対しては核の傘は必ずしも必要ではなくて、通常兵器で十分対応できると思います。・・・

p.139

第174回国会における岡田外務大臣の外交演説

岡田外相、核の役割を核使用の抑止に限定する案に関心と国会演説で 核情報

クリントン国務長官、ゲーツ国防長官に宛てた書簡

・・なお、すでにご承知のことと存じますが、十二月十五日、日豪共同イニシアチブで設置された「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」が報告書を公表しました。その中には、すべての核武装国による措置として核兵器の目的を核兵器使用の抑止のみに限定すべきこと、NPT非核兵器国に対する核兵器の使用を禁止すべきことなどの提案が含まれています。これらに関し、「核兵器のない世界」への第一歩として、私は強い関心を有しています。直ちに実現し得るものではないかもしれませんが、現在あるいは将来の政策への適用の可能性について、今後日米両国政府間で議論を深めたいと考えています。・・

出典:岡田外相、昨年末、核付きトマホークの延命を求めないと米国に書簡──核兵器の役割を核使用の抑止に限定する案についての話し合いを呼びかけ 核情報


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