核情報

2021. 9. 8〜

米の先制不使用に反対しないで──被爆者、核問題専門家ら公開書簡

9月7日、広島・長崎の被爆者団体や核問題関連団体など22団体と個人47人[9月20日追加分個人賛同3人を含む](呼びかけ5団体・5人、賛同17団体・42人)が、与野党党首に、先制不使用宣言に反対しないよう要請する公開書簡を送りました。これは、8月9日に米国の核問題専門家・団体など(21人・5団体)が、日本与野党党首宛に先制不使用宣言に反対しないよう求める公開書簡を送ったのを受けてのことです。

 今回の書簡は、米国からの書簡の背景・意味を説明し、米側書簡と同じく、次の2点を要請しています。

朝日新聞2021年9月7日

朝日新聞2021年9月7日より

参考



日本の与野党党首に対し、バイデン政権による先制不使用・唯一の目的宣言に反対しないよう要請する日本の団体・個人からの公開書簡

日本の与野党党首に対し、バイデン政権による先制不使用・唯一の目的宣言に
反対しないよう要請する日本の団体・個人からの公開書簡

2021年9月7日

自由民主党 菅義偉総裁
公明党 山口那津男代表
立憲民主党 枝野幸男代表
日本共産党 志位和夫委員長
日本維新の会 松井一郎代表
国民民主党 玉木雄一郎代表
社会民主党 福島瑞穂党首
れいわ新選組 山本太郎代表

バイデン政権による先制不使用・唯一の目的宣言に反対しないで下さい

 長崎原爆投下76周年を迎えた8月9日、ウイリアム・ペリー元国防長官ら米国の21人の核問題専門家と、「米科学者連合(FAS)」、「憂慮する科学者同盟(UCS)」、草の根反核平和団体「ピース・アクション」など5つの団体が、皆様方--日本の政党党首の方々--に対し、バイデン政権による先制不使用・唯一の目的宣言に反対しないよう要請する公開書簡を送付しました。

 同書簡は、バイデン政権が採用を検討すると見られる宣言について次のように指摘することから始まっています。

 バイデン政権は、2022年1月に策定完了予定の「核態勢の見直し(NPR)」の中で、核戦争のリスクを減らすために、米国は先には核兵器を使わない/米国の核兵器の唯一の目的は米国自身、国外の米軍、あるいは、同盟国に対する核攻撃を抑止し、必要とあれば、報復することにある、と宣言することを検討するだろうと報じられています。

 書簡は、バイデン氏は、オバマ政権の副大統領として、また、大統領候補として、このような先制不使用・唯一の目的宣言を支持すると述べていると指摘しています。そして、このような米国による一方的「宣言は、同盟国との安全保障体制には──これらの国々への核攻撃に対する拡大核抑止も含め──影響を与えるものではない」とし、皆様方に次のような要請をしています。

  • バイデン政権が先制不使用・唯一の目的政策を宣言することに反対をしないと明言すること。
  • このような政策が日本の核武装の可能性を高めることはないと確約すること。

 原爆を投下した側の米国の専門家らが、核不拡散条約(NPT)に加盟しているだけでなく、「非核三原則」を国是としている「被爆国」日本の政党指導者に対し、このような要請をする背景には、日本が少なくとも1982年以降、核兵器以外の攻撃の抑止にも米国の核による報復の脅しが必要だとの立場を国会内外で表明してきたという事実があります。加えて、再処理及びウラン濃縮技術を持ち、大量のプルトニウムを保有している日本は、米国の核の傘の下にある国の中で核武装能力の最も高い国だとの見方が米国内にあるのも一つの理由です。現に、オバマ政権が先制不使用宣言を検討した際には、「日本の反対を無視すると日本が核武装してしまうかもしれない」との懸念が主要な理由の一つになって宣言が断念されたとの報道がありました。

 今年4月に加藤勝信官房長官や茂木敏充外務大臣が先制不使用宣言に反対する発言をしていることから、今回も、「日本の核武装の可能性」が実際に心配されたり、宣言放棄を主張するための口実にされたりするのでは、と危惧されています。

 その結果、「日本が核廃絶に向けたこの小さな──しかし重要な──一歩を阻止することになれば、それは悲劇的」と言わねばならないと書簡は述べています。

 もし、日本の反対のために今回また宣言が断念されることになれば、「『先に核を使わない』という程度のことを米国が宣言するのも日本は支持できないのか」、「宣言断念は『日本の核武装の懸念』のせいなのか」と、国民の多くは驚き、怒ることでしょう。

 以下に署名した私たちは、米国の専門家らと同様、皆さま方が、首相として、あるいは他の政党の指導者として、バイデン政権が先制不使用・唯一の目的政策を宣言することに反対をしないと明言し、このような政策が日本の核武装の可能性を高めることはないと確約して下さるよう要請いたします。

署名者リスト(計22団体・47人)[9月20日追加分個人賛同3人を含む]

呼びかけ(5団体・5人)

団体

 核兵器廃絶地球市民長崎集会実行委員会(朝長万左男委員長)
 核兵器廃絶をめざすヒロシマの会(HANWA)(森瀧春子共同代表)
 特定非営利活動法人原子力資料情報室(松久保肇事務局長)
 特定非営利活動法人ピースデポ(渡辺洋介担当)
 日本パグウオッシュ会議(稲垣知宏代表)

個人

 梅林宏道(ピースデポ特別顧問)
 小沼通二(慶應義塾大学名誉教授)
 鈴木達治郎(長崎大学教授)
 高原孝生(明治学院大学教授)
 中村桂子(長崎大学准教授)

賛同(17団体・42人)

団体(17団体)

 核兵器の廃絶をめざす日本法律家協会(大久保賢一会長)
 原水爆禁止日本国民会議(川野浩一共同議長)
 公益財団法人日本YWCA(藤谷佐斗子会長)
 国際環境NGO FoE Japan(ヘルテン・ランダル・アラン代表理事)
 チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西(山科和子代表・長崎被爆者)
 地球救出アクション97(稲岡美奈子代表)
 特定非営利活動法人ANT-Hiroshima(渡部朋子理事長)
 ふぇみん婦人民主クラブ(片岡栄子共同代表)
 フォーラム平和・人権・環境(藤本泰成共同代表・勝島一博共同代表)
 ピースボート(川崎哲共同代表)
 ヒバク反対キャンペーン(建部暹代表)

被爆者団体(広島)

 広島県原爆被害者団体協議会(箕牧智之理事長代行)(注)

被爆者団体(長崎)

 一般財団法人長崎原爆被災者協議会(田中重光会長) 
 長崎原爆遺族会(本田魂会長)
 長崎県被爆者手帳友の会(朝長万左男会長)
 長崎県被爆者手帳友愛会(永田直人会長)
 長崎県平和運動センター被爆者連絡協議会(川野浩一議長)

個人(42人)

 明日香壽川(東北大学教授)
 阿部浩己(明治学院大学国際学部教授)
 阿部信泰(Council on Strategic Risks(戦略的危険評議会)Senior Advisor(上級顧問))
 安斎育郎(立命館大学名誉教授)
 飯田哲也(環境エネルギー政策研究所所長)
 石坂浩一(立教大学兼任講師)
 石渡一夫(創価学会平和委員会議長)
 浦田賢治(早稲田大学名誉教授・国際反核法律家協会副会長)
 遠藤あかり(立命館大学大学院国際関係研究科博士前期課程1回生)
 大島堅一(龍谷大学教授)
 我部政明(沖縄対外問題研究会代表)
 鎌田慧(ルポライター)
 河合公明 (核兵器廃絶日本NGO連絡会幹事)
 川村一之(元新宿区議会議員・元非核自治体全国草の根ネットワーク世話人)
 木下興(全日本民医連 事務局次長)
 木原省治(原発はごめんだヒロシマ市民の会代表)
 木村朗(鹿児島大学名誉教授)
 熊谷伸一郎(『世界』編集長)
 小溝泰義(平和の語り手)
 佐久間邦彦(広島県原爆被害者団体協議会理事長)(注)
 定森和枝(「非核・平和のひろばーノーモア・ヒバクシャ核廃絶をー」呼びかけ人)
 猿田佐世(新外交イニシアティブ(ND)代表・弁護士)
 塩浜修(世界連邦運動協会常務理事)
 首藤もと子(筑波大学名誉教授)
 関口達夫(元長崎放送記者)
 高橋博子(奈良大学・教員)
 高橋悠太(KNOW NUKES TOKYO 共同代表)
 田窪雅文(ウェブサイト核情報主宰)
 田中恭子(日本反核法律家協会事務局)
 田中煕巳(日本被団協代表委員)
 豊﨑博光(フォトジャーナリスト)
 内藤雅義(弁護士)
 長谷川公一(尚絅学院大学・特任教授、東北大学名誉教授)
 振津かつみ(医師)
 星川淳(作家・翻訳家)
 前田哲男(ジャーナリスト)
 真下俊樹(フランス核政策研究家)
 水本和実(広島市立大学広島平和研究所 教授)
 満田夏花(原子力市民委員会座長代理)
 宮本ゆき(DePaul University)
 山根和代(International Network of Museums for Peace: Senior Advisor)
 渡部碧(明治学院大学国際平和研究所・教学補佐)

 *注は同名の別団体

連絡先

特定非営利活動法人 原子力資料情報室
〒164-0011 東京都中野区中央2-48-4 小倉ビル1階
Tel 03-6821-3211/Fax 03-5358-9791/Email contact@cnic.jp

添付資料

参考1: 米国の団体・個人から菅義偉首相及び他の政党党首に宛てた先制不使用・唯一の目的宣 言に関する公開書簡 (核情報訳)

参考2: 日本政府の近年の先制不使用関連発言

注: これらの発言は要約する次のような主張と言えます。

  1. 日本周辺には大量破壊兵器(生物・化学兵器及び核兵器)や大規模な通常戦力を有している国がある。この状況が続く限り、「核の先制不使用の考え方に依存して、日本の安全保障に十全を期すことは困難」である。
  2. すべての核保有国が同時に行うのでなければ先制不使用宣言は機能しない。そして、たとえ、すべての核保有国が同時に先制不使用宣言をしたとしても、これらの国々の「意図に関して何らの検証の方途のない」ものだから、これらの宣言に依存することはできない。
  3. したがって、日本は米国の先制不使用政策を決して支持することはできない。

実際に米国で「核戦争のリスクを減らすために」検討されているのは、米国による一方的宣言であって、他国の意図に依存するものではありません。また、米国の専門家らの書簡は、「宣言は、同盟国との安全保障体制には──これらの国々への核攻撃に対する拡大核抑止も含め──影響を与えるものではない」と指摘しています。

茂木外務大臣は「核の先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に万全を期すことは困難だ」という点で「日米間で齟齬はない」と発言しています。しかし、米国の専門家らの書簡が指摘している通り、バイデン氏は、オバマ政権の副大統領として、また、大統領候補として、このような先制不使用・唯一の目的宣言を支持すると述べています。

日本が表明してきた上述のような姿勢は、米国が先制不使用宣言をすれば日本が核武装しそうだということを自動的に意味するわけではありません。しかし今回も、米国において、米国が先制不使用・唯一の目的宣言をすると日本は核武装する可能性があることを示す証拠と解釈されたり、宣言に反対する 勢力によって意図的に利用されたりすることになりえます。

参考3: 日本は核武装の能力が高いとの見方の例


核情報注:

上記 参考3のシュレシンジャー(元国防長官)「米国戦略態勢議会委員会」副委員長の発言を受け、同委員長のウィリアム・ペリー元国防長官は次のように発言している。

「[拡大抑止の問題は]、新しい話ではない。1970年代後半、私が国防次官だった頃、ソ連がその中距離ミサイルをヨーロッパに配備して、西ヨーロッパの脅威となっていた。それで、我々は、それに対する相殺手段を、それに対する抑止力を、計画していた。これを、NATOの同盟国と協議しながら行っていた。あのときの我々の判断は、この相殺手段をいわゆる戦略核兵器で行えるというものだった。この場合は、潜水艦発射のミサイルとなる。しかし、同盟国の協議の中で極めて明確になったのは、彼らは我々の主張の論理は理解したが、米国の抑止力が維持されるとの確信を持つには米国の戦力をヨーロッパに配備することが必要だと感じていたのだ。そして、この問題は、ある程度は現在でも存在しているーー状況は相当変わっているにも関わらず。現在でも、ヨーロッパとアジアの両方において我々の拡大抑止の信頼性についての懸念が存在している。彼らの懸念について注意することが重要だ。抑止が我々の基準において有効かどうか判断するのではなく、彼らの基準も考慮しなければならない。それに失敗すると、シュレシンジャー博士が言ったように、これらの国々が、自前の抑止力を持たなければならないと感じてしまう。つまり、自前の核兵器を作らなければならないと感じる。そうすると、別の失敗、すなわち核拡散が起きてしまう。

*米国政府に「核態勢の見直し」を義務づけた2008年度国防歳出権限法は、同時に超党派の「米国戦略態勢議会委員会」の設置を定めた。委員会の報告書は、「核態勢の見直し」に向けての提言となっている。上記は、この委員会の最終報告書に関する下院軍事委員会公聴会(2009年5月6日、pdf)での発言。両氏は、「核政策の見直し」に当たっては日本の懸念の考慮が極めて重要であり、無視すると日本が核武装してしまうと言っているのだ。

出典: 日本の発言が重要なのはなぜか? 核情報 2009.6.19


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