核情報

2021. 5.10

茂木外相 米が先制不使用宣言だと日本の安全保障を保てない
岡田議員(元外相)核攻撃なら撃ち返すで十分では?

茂木敏充外相は、4月21日、衆議院外務委員会で、立憲民主党の岡田克也議員(元外相)の米国の先制不使用宣言に関する質問に答え、宣言がなされると日本の安全保障が保てないと述べました。先制不使用宣言は、すべての核兵器国による検証可能な宣言(条約)でなければ機能しないから、反対だとの主張です。実際には、米国で議論されているのは、米国による一方的宣言であり、敵国の核先制使用は、米国側の核報復の威嚇で抑止する考えです。以下、これまで踏襲されてきた1999年8月6日の高村大臣答弁の一部を切り取って使用した茂木答弁の矛盾について見てみましょう。

  1. 先制不使用宣言断念をもたらしたのは日本の反対と元国務次官補
  2. 2段構成の高村外相答弁の後半だけ切り取った答弁
  • 資料編
    1. 2021年4月21日衆議院外務委員会 岡田克也議員の「核による拡大抑止」質問部分
    2. 衆議院外務委員会 1999年08月06日 (先制不使用と日本の安全保障)
    3. 共産党井上哲士参議院議員 決算委員会質問 2021年4月12日
    4. 茂木外務大臣記者会見2021年4月6日
    5. 加藤官房長官記者会見 2021年4月6日 東京新聞報道関連
    6. 核情報関連記事

    先制不使用宣言断念をもたらしたのは日本の反対と元国務次官補

    岡田議員の質問は、オバマ政権が先制不使用宣言を検討しながら断念した最大の理由は日本の反対だったとする報道に関するものでした。

    *参考 核兵器の先制不使用案は「日本の反対で断念」 オバマ政権元高官が証言 東京新聞 2021年4月6日

    米オバマ政権が2016年に検討した核兵器の先制不使用宣言に関し、国務省の核不拡散担当だったトーマス・カントリーマン元国務次官補が本紙の取材に対し、対中抑止力の低下を懸念した日本政府が反対したことが宣言を断念した最大の要因だったと証言した。

    茂木外相と岡田議員のやり取りを抜粋して簡単にまとめるとこうなります。

    茂木外相

    すべての核兵器国が検証が可能な形で同時に行わなければ、実際には機能しないんじゃないかなと考えておりまして、現時点でですね、当事国の意図に関して何らの検証の方途のない、核の先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に万全を期すことは困難だと考えております…困難、と言うこと自体、先制使用を許容しているということではありません

    岡田議員

    先制不使用は駄目だということは、逆に言うと、先制使用の余地を残しておかないと、日本の安全は守れないという風に言ってることになりますね。核の先制使用を、その余地を残さないと日本の安全は守られないんでしょうか。先制不使用っていうのは、もちろん攻撃を受けたら撃ち返すことまで否定してるわけじゃありませんから。それで十分じゃないかと私は考えるんですが…最大の核保有国であるアメリカがそれ(=先制不使用)を言うということは、核の役割を減らしていく核軍縮の大きな一歩になる。その可能性があるだけに、私は日本だけの立場で、狭く考えて、それを否定してしまう、しかもその日本の否定が元になって、アメリカの政策が打ち出せなかったっていうのは、極めて残念なことだ。

    2段構成の高村外相答弁の後半だけ切り取った答弁

    冒頭で述べた通り、茂木外相の答弁は、1999年8月6日の先制不使用と日本の安全保障問題答弁(高村外務大臣)を一部だけを切り取ったものとなっています。

    1999年8月6日の先制不使用と日本の安全保障問題答弁(高村外務大臣)の該当箇所はこうです。

    これまでも申し上げたとおり、いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難であると考えているわけでございます。

    このセンテンスは、もっと長い答弁の一部ですが、答弁全体の2段構成を反映したものとなっています(資料編高村答弁参照)。茂木答弁はこの後半部分だけを使っています。

    後半だけを見れば、「米国が先制不使用を宣言した場合に、日本として安心できるためには、他の国も先制不使用宣言をして、それが確実に守られなければならない。だが、そのような同時宣言(条約)は、検証の方法がないから、宣言には反対だ。」ということになります。以前からある中国先制不使用の約束は信用できないという主張と重なるものです。しかし、米国で議論されているのは、岡田議員の指摘する通り、「最大の核保有国」米国による一方的宣言であり、信用できない敵国の核先制使用は、米国側の核報復の威嚇で抑止する考えです。核攻撃に対する核報復は否定されていません。

    一方、前半の「いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では」という部分は、核以外の生物・化学兵器、及び、大規模な通常兵器による攻撃に対処するために核報復の脅し(及び行使)が必要だとの主張です。つまり、敵国が核を先には使わないと宣言し、それがたとえ信頼のできるものであっても、米国による先制不使用には賛成できないとの主張となります。

    茂木答弁は、後半だけを使用することにって、意図的かどうかは別として、政府のこれまでの立場をぼかす結果となっています。

    ちなみに、加藤官房長官も記者会見(2021年4月6日)で東京新聞の報道についての質問を受けて発言していますが、そこでは、高村答弁の前半部分の主張が最後の方に入っています。

    今後、この伝統的な政府答弁の二つの主張を明確にした上で、先制使用について議論する作業を国会内外で進める必要があります。

    岡田議員は、ブログ(2021.04.23)日米首脳会談 ― 外務委員会で議論で、4月21日のやり取りを次のように纏めています。

    最後にオバマ政権時代に核兵器の先制不使用宣言を検討した米国に対し、抑止力の低下を心配して日本が反対したとの東京新聞の報道について議論しました。加藤官房長官や茂木大臣は最近の記者会見でも、先制不使用宣言が日本の安全にとって問題だとの見解を述べています。しかし、この議論は核の先制使用の余地を残すことが必要だと言っているに等しいことになり、極めて問題があると考えています。バイデン大統領との日米首脳会談で、このテーマが取り上げられることはなかったと外相は明言しました。しかし、バイデン大統領も先制不使用宣言には大きな関心を持っており、今後日米間で重要なテーマとして取り上げられることは確実です。核軍縮に関するアメリカの提案を日本が拒否するということが繰り返されてはなりません。残念ながら、今回は時間が足らず、十分に議論することはできませんでしたが、今後ともしっかりとフォローしていきたいと思います。

    上述の答弁構造についての解明・批判が期待されます。

    参考:表現の曖昧さが問題──政府の主張の整理

    資料編

    2021年4月21日衆議院外務委員会 岡田克也議員の「核による拡大抑止」質問部分

    動画 衆議院TV
    (43:30-50:30辺り)
    *核情報によるテープ起こし

    ○岡田克也委員 最後に核の問題についてお聞きしたいと思います。先般、東京新聞が報じたわけですけれども、オバマ政権は、2016年、広島に行った後ですね、核兵器の先制不使用宣言を検討したが抑止力の低下を懸念した日本政府が反対した、そのことで断念したということを当時の核拡散担当国務次官補だったカントリーマン氏が述べたと、インタビューでですね、という風になっております、まずこういう事実があったんでしょうか。

    ○茂木国務大臣 報道の一つ一つについてですね、コメントすることは今までも控えてまいりましたが、日米両国間で日頃から、日米安保の防衛協力についてですね、様々な事項について緊密かつ幅広く意見交換を行なっているところであります。先日の岡田委員との議論の中でも、この核の先制使用、この宣言についてですね、これあのあくまでも一般論という形でお話したと思うんですが、すべての核兵器国が検証が可能な形で同時に行わなければ、実際には機能しないんじゃないかなと考えておりまして、現時点でですね、当事国の意図に関して何らの検証の方途のない、核の先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に万全を期すことは困難だと考えております。あのこういった考え方については、概ね日米間で齟齬はない、こう考えています。

    ○岡田克也委員 私も外相の時に先制不使用の議論というのがあって、その時に当時の冷戦時代のソビエトが先制不使用を唱えながらですね、現実にはそういったことを考えてなかったということが、文書で明らかになってですね、やはりこの概念はあまりよろしくないとそういうご提案??もアメリカ側からも頂いたことがあります。でもそういうことを充分、分かった上でオバマ政権は、この先制不使用ということを打ち出そうとした。それからバイデン大統領は、大統領になる前ですけれども先制不使用とは言っていませんが、ソールパーパス(sole purpose)、唯一の目的ということで、ほぼ同じようなことを言っているわけですね。

    日本安全が守られないという風に言いますが、先制不使用は駄目だということは、逆に言うと、先制使用の余地を残しておかないと、日本の安全は守れないという風に言ってることになりますね。核の先制使用を、その余地を残さないと日本の安全は守られないんでしょうか。先制不使用っていうのは、もちろん攻撃を受けたら撃ち返すことまで否定してるわけじゃありませんから。それで十分じゃないかと私は考えるんですが、大臣の「なぜ日本の安全が守られないのか」を、もう少し具体的にお話いただけますか。

    ○茂木国務大臣 核の先制不使用であったりとか、唯一の目的と、あのある意味ですね、その先にある、崇高なやっぱり核廃絶、こういったものをですね将来的な目標としながら、そこに至るプロセスとして、そういったですね、発言というのは、私はあるんだと思っていますけれど、実際に、その状況に持っていけるか、ということを考えた時に、少なくとも今の我が国を取り巻く安全保障環境については、それだけの保証がない、ということであります。ただ先制不使用、イコール、先制不使用の条件が整っていない、先ほど申し上げましたけれど、これがなかなかですね現状においては実際に、機能するような方策がないと言う段階で、我が国の安全保障に万全を期すことはですね、困難、と言うこと自体、先制使用を許容しているということではありません。

    ○岡田克也委員 まあ、色々言われますがよく分からないんですね、例えば先制不使用って事をアメリカが宣言すれば、米朝の話し合いだって、そこで一歩進む可能性ありますよね。北朝鮮にとってはアメリカが先に使わないということを明確に言うだけでも。ですから、もちろん宣言政策というのは、相手がどう捉えるかという問題はありますけれども、ではアメリカが、最大の核保有国であるアメリカがそれを言うということは、核の役割を減らしていく核軍縮の大きな一歩になる。その可能性があるだけに、私は日本だけの立場で、狭く考えて、それを否定してしまう、しかもその日本の否定が元になって、アメリカの政策が打ち出せなかったっていうのは、極めて残念なことだというふうに思うんですね。広島からオバマ大統領は帰って、そしてその上でですね、こういったことで一歩進めようとした時に、それを実質的にブロックしたのが日本であった、ということが私は極めて残念なことだし、問題だと、安倍政権の時代ですけど、そういう風に思いますが何か感想がありますか

    ○茂木国務大臣 先ほども申しあげているように、私は報道を肯定しているわけではありません。そういった意味で日米間におきましてはですね、この核抑止力も含め様々な議論をしているということでありますし、核のない世界を作っていく、これは唯一の戦争被爆国として日本がですね、大きな責任を持っていると考えておりまして、そういった中で日本としてですね、きちんとした対応して参りたいと考えております。

    ○岡田克也委員 最後に確認しますが、日米首脳会談でも、日米両国が拡大抑止を強化することにコミットした、という風に書かれてるわけですけれども、この首脳会談の中でアメリカ側からこの核の先制使用の議論が何かあったんでしょうか、それに対して日本はどう答えたのでしょうか、議論がなかったのなら、なかったと断言していただきたいと思います。

    ○茂木国務大臣 ありませんでした。

    衆議院外務委員会 1999年08月06日 (先制不使用と日本の安全保障)

    ○高村国務大臣 まず、核の先制不使用を考える前提でありますが、政府の最大、最重要の責務である国の安全保障が結果的に核が使用されない形で確保されるのであれば、その方が望ましいということは、これは言うまでもないことだ、こう思っております。さらに、将来的には、安全保障を害しない形で核兵器のない世界が実現されることが最善のシナリオである、こういうふうにも考えているわけでございます。
     他方で、現実の国際社会において、いまだ核戦力を含む大規模な軍事力が存在しており、核兵器のみを他の兵器と全く切り離して取り扱おうとすることは、それは必ずしも現実的ではない、かえって抑止のバランスを崩して、安全保障を不安定化させることもあり得ると考えているわけでございます。
     したがって、安全保障を考えるに当たっては、関係国を取り巻く諸情勢に加え、核兵器等の大量破壊兵器や通常兵器の関係等を総合的にとらえて対処しなければならない、こういうふうに考えております。
    こういった基本的な認識に立って、我が国としては、核の先制不使用について、核兵器国間の信頼醸成及びそのことを通じた核兵器削減につながる可能性があることを積極的に評価すべきとの考え方があることは承知をしておりますが、これまでも申し上げたとおり、いまだに核などの大量破壊兵器を含む多大な軍事力が存在している現実の国際社会では、当事国の意図に関して何ら検証の方途のない先制不使用の考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期することは困難であると考えているわけでございます。
     いずれにいたしましても、核先制不使用の問題については、現時点では核兵器国間での見解の一致が見られていないと承知しており、我が国としては米国との安全保障条約を堅持し、その抑止力のもとで自国の安全を確保するとともに、核兵器を含む軍備削減、国際的核不拡散体制の堅持、強化等の努力を重ねて、核兵器を必要としないような平和な国際社会をつくっていくということが重要である、こういうふうに考えています。

    出典 先制不使用に反対する日本は核兵器全廃の足かせになるのか 核情報 2009.2.4

    共産党井上哲士参議院議員 決算委員会質問 2021年4月12日

    ○井上哲士君 さっぱり分かりませんね。何で上限、核の上限の引上げが核軍縮義務の履行にコミットしているのか。
     長期目標として核のない世界を掲げさえすれば核軍拡を容認するということになれば、もう際限ない悪循環に歯止め掛からなくなるんですよ。そんなことを唯一の戦争被爆国が言ってはならないと思うんですね。
     しかも、更に問われるのが、アメリカの核兵器先制不使用宣言への対応であります。【配付資料210412②.pdf】お手元に資料配っておりますけれども、オバマ政権時代にアメリカが打ち出そうとしたときに、日本が反対をしたと。当時、アメリカ国内で報道がありましたけれども、先日、アメリカの当事者であったトーマス・カントリーマン元国務次官補が発言をされて、日本が、宣言は同盟国を守るアメリカの決意について、中国に間違ったサインを送ると懸念を示したと説明をし、これが宣言を断念をした理由だったと、こう述べられております。
     大変具体的な表現でありますけれども、こういう発言を日本がしたということは事実でしょうか。

    ○外務省大臣官房参事官(有馬裕君) お答え申し上げます。
     日米両国間では、日頃から日米安全保障、防衛協力に関連する様々な事項について緊密かつ幅広く意見交換を行っております。核抑止政策についても、オバマ政権時代を含め、日米間で緊密な意思疎通を行ってきているところでございます。
     こうしたやり取りの詳細につきましては、まさに我が国の安全保障にも関わるという事柄の性質もあり、お答えを差し控えさせていただきたいと思います。

    ○井上哲士君 この問題、私、去年の十一月に本会議でも大臣にお聞きいたしました。その際に、全ての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義でないと、こういうことを言われましたし、この間もそういう答弁を繰り返されております。
     しかし、九三年に南アフリカが、自ら核兵器を解体をしたことを宣言しました。これがその後、アフリカ大陸の非核地帯につながっていったんですね。そして、二〇〇九年には、政府が主導してオーストラリアと共同でつくられた核不拡散・核軍縮に関する国際委員会、これ川口順子元外務大臣が共同議長を務められましたけれども、この中では、全ての核武装国は可能な限り早期に、遅くとも二五年までに明確な先制不使用宣言を行うべきだとしております。そして同時に、特にアメリカに関しては、核兵器の役割低減の取組が単独でも世界の核軍縮に非常に重要な起爆剤となると、こう指摘しているんですよ。
     ですから、もちろん、全ての核兵器国が一斉にやれば、それはいいですよ。そうならなくても、アメリカがやることは起爆剤になると、過去こういうことも言ってきたわけですから、私は、やっぱりアメリカの核先制不使用宣言というのはそういう世界核軍縮の起爆剤になると、当時のこの提言からいってもそういうことになるんじゃないかと思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。

    ○国務大臣(茂木敏充君) どの国が大きい、どの国が小さいと言うつもりはありませんけれど、筒井康隆の小説に出ているようなことが実際の安全保障でどう機能するかというと、それはやっぱり違っているんじゃないかなと思います。
     全ての核兵器国と言いますけど、大体、何というか、どういう国を想定しているかはお分かりいただけると思うんですけど、そういった国の間で検証可能な形で同時に行われなければ実際にはそういうところは起こらないと、そんなふうに考えておりまして、当事国の意図に関して何らの検証の方途と、これがない核の先制不使用の考え方に依存して我が国の安全保障に十全を期することは、私はできないと考えております。

    ○井上哲士君 イギリスは、核の、保有核兵器の上限を示すと、増やすということについては、結局理解を示すと。一方で、その核不使用宣言については、先制不使用宣言については全体でやらなければ駄目だと。こうなりますと、結局、一方通行、核のこの増強だけが広がっていくということに私なると思うんですね。
     やはり保有国が具体的なことをやって迫っていくということが私は必要だと思っておりますし、結局、先制不使用も反対をするということは、使用を容認をすると、広島、長崎のような惨禍が再び起きるということを容認をすることでありますから、本来、核兵器の非人道性を最も知っている被爆国日本の政府がそのような態度を取ることは許されないということを指摘しておきたいと思います。
     


    出典 井上議員国会質問議事録 2021年・204通常国会決算委員会

    茂木外務大臣記者会見2021年4月6日

    【東京新聞 上野記者】オバマ政権で検討されていた、核の「先制不使用宣言」についてお伺いします。米国政府の元高官がですね、本紙のインタビューに対して、日本の反対によって宣言を断念したということを証言しておりますが、こういったことが実際にあったのかどうか、事実関係についてお願いできますでしょうか。

    【茂木外務大臣】日米の両国間では、日頃から日米安保・防衛協力に関する様々な事項について、緊密かつ幅広い意見交換を行っているところであります。核抑止政策についても、オバマ政権の時代を含めて、日米間で緊密な意思疎通を行ってきております。やり取りの詳細、まさに日本の安全保障に関わる問題でありますから、お答えを差し控えます。

    【東京新聞 上野記者】関連でお伺いします。そうしますと、一般的にお伺いしますけれども、米国が核先制不使用宣言を検討するということについては、日本政府として、どのようにお考えで、どのようにご対応されるのか、ご見解をお伺いできますでしょうか。

    【茂木外務大臣】恐らく米国の考える、または考えていた、検討していた、どういう言い方がいいか分かりませんが、核の先制不使用と、この宣言については、全く条件を付けないということはないのだと思います。
     あくまで一般論でありますけれども、全ての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではないと。現時点で、当事国の意図に関してなんら検証の方途もない核の先制不使用の考え方に依存して、日本の安全保障に十全を期すことは困難だと、このように考えております。

    出典 外務省茂木外務大臣会見記録 2021年4月6日
    上記英語版

    The Obama Administration’s Nuclear Policy

    Tokyo Shimbun, Ueno: I would like to ask about the Obama administration’s consideration on a “No First Use” declaration on nuclear weapons. A former high official in the Government of the United States stated in an interview with the Tokyo Shimbun that the United States decided not to make the declaration due to opposition by Japan. Can you please tell us whether this actually happened and the facts of the matter?

    Minister Motegi: Japan and the United States constantly conduct close, broad exchanges of views regarding various matters related to security and defense cooperation between our two countries. We have been conducting close communication on nuclear deterrence policy, including during the period of the Obama administration. I would like to refrain from answering about the details of our communication as this is an issue concerning Japan’s security.

    Tokyo Shimbun, Ueno: I have a related question. In that case, to ask you a general question, can you please tell us your opinion on how the Government of Japan would view and react to the United States considering a “No First Use” declaration?

    Minister Motegi: I do not believe that the “No First Use” declaration that the United States was thinking of or considering – I do not know how best to phrase it – was completely without conditions.

    Speaking completely generally, I do not believe it would be significant unless all nuclear-weapon states did this simultaneously in a verifiable manner. However, at the present point there is no verification method whatsoever in terms of the intentions of the countries concerned, so it would be difficult to rely on the concept of “No First Use” and fully protect Japan’s security.

    加藤官房長官記者会見 2021年4月6日 東京新聞報道関連

    官房長官定例記者会見2021年4月6日午前 我が国の対北朝鮮措置の延長について
    14:05ー16:30辺り
    *核情報による文字起こし

    ─東京新聞の村上ですよろしくお願いします。話題変わります。米国の核兵器の先制不使用宣言について伺います。米オバマ政権が2016年に検討した核兵器の先制不使用宣言に関して米国務省の高官が中国への抑止力低下を懸念した日本政府が反対したことが宣言を断念した最大の要因だったと取材に証言しました。日本政府として当時米国にこのような意向を伝えられたのでしょうか。これどのようなやり取りが当時あったのでしょうか?

    加藤内閣官房長官 日米両国関係でこの日米安保協力に関して様々な事項について緊密にまた幅広い意見交換がなされているところでありますし、この核抑止政策についても、今ご指摘のオバマ政権時代を含めそれぞれの政権と緊密な措置を行って来ているというふうに承知をしておりますが、その具体的な詳細について述べることは、これまさに我が国の安全保障にかかわる事柄でもありますし米側との関係もありですね、これまでもそうでありますし、お答えを差し控えさせて頂いてるところです。

    ─東京新聞村上です。関連して伺います。その具体的な詳細とは別に一般論としてお伺いいたしますが、米国が核兵器の先制不使用宣言を検討することに対しては、同盟国日本としては、どのように考えますでしょうか。特にこの米国の核抑止力は通常兵器で海洋進出をし続ける中国へ対し機能していると考えますでしょうか?

    加藤官房長官 まず核の先行不使用宣言、あくまでも一般論としてということでありますけれども、すべての核兵器国が検証可能な形で同時に行わなければ有意義ではない。現時点で当該国、当事国の意図に関してなんら検証の方途の無い核の先行不使用という考え方に依存して、我が国の安全保障に十全を期すことは困難ではないか、というふうに考えております。
    また今言われた事を一つのシナリオとか特定の国を前提に議論することは控えたいと思いますが、我が国周辺には質量ともに優れた軍事力を有する国家が集中し、軍事力の更なる強化や軍事活動の活発化の傾向も顕著になっているわけであります。現実に核兵器などの我が国に対する安全保障上の脅威が存在する以上、日米安全保障体制のもと、核抑止力を含む米国の拡大抑止というものが不可欠だと考えています。

    上記会見についての新聞報道

    加藤官房長官「米国の核抑止力が不可欠」 先制不使用宣言で「日本の反対」巡り 東京新聞 2021年4月6日

    核情報関連記事


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