『再処理工場「審査終了まで一歩」』、『再処理工場 来月[5月]合格』などと報じられています。連休明けにも、原子力規制委員会が六ヶ所再処理の運転に合格証を出すかもしれないとのことです。合格となれば、工場は、来年竣工となり、再来年初頭から再処理を開始、徐々に処理量を増やし、2025年度からは年間800トンという設計容量でのフル操業に入るという計画です(下表参照)。その六ヶ所再処理工場では、最大で福島第一原発のタンクに含まれるトリチウムの総量の約10倍が海洋放出される計画ですが、そのことがほとんど議論されていません。
日本原燃再処理計画 | |||||||
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年度 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 | 2025 | 2026 | 2027 |
再処理量(トン・ ウラン)/年 | 80 | 320 | 480 | 640 | 800 | 800 | 800 |
出典: 再処理事業変更許可申請書の一部補正の主な内容について(pdf) 日本原燃 2017年12月22日
*報道によると、2021年度運転開始は2022年1-3月期開始を意味するとのこと。
日本原燃 燃料受け入れを21年度に再開へ 六ケ所の再処理工場 /青森 毎日新聞 2019年2月4日
政府は、まず、同工場の試運転で2006年度から2008年度にかけて放出されたトリチウムの量について、詳しく説明し、それに基づいて、工場が現在の計画通り2022年から運転を開始した場合に毎年放出されるトリチウムの量とその影響について、少なくとも、福島第一からの放出についてと同等の丁寧な説明、公聴会開催、意見聴取などを実施する責任があります。
「福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデント兼廃炉・汚染水対策最高責任者」という経歴の持ち主が社長を務める日本原燃も、少なくとも福島の放出についてと同様のレベルで、青森県及び周辺県・道の住民・関係者に対する説明責任を果たすべきであることは言うまでもありません。
放出実績は、福島総量の2.5倍?5倍? フル操業時は毎年5倍?10倍?
日本原燃の六ヶ所再処理工場(青森県六ケ所村)で2006年から2008年にかけて実際の使用済み燃料のせん断・溶解を伴う「アクティブ試験」を行った際に海に放出されたトリチウムの量は、同社の報告によると合計約2150兆ベクレル(Bq)でした。(*注1)
これは、福島第一原発のタンクから最大30年かけて放出される計画の総量約860兆ベクレルの約2.5倍に達します。(実は、2007年10月には、1ヶ月で523兆ベクレルを海洋放出しています。福島総量の約6割に達する量です。(*注2))
六ヶ所再処理工場が年間800t処理した場合のトリチウムの海洋放出の「管理目標値」(2018年に保管燃料の古さを反映すべく変更)は、年間9700兆ベクレルとなっています。2006年3月31日に始まった「アクティブ試験」で再処理されたのは425トンですから、比例計算では、試験による海洋放出量は合計約5000兆Bqとなります。上述の実際の計測値2150兆ベクレルは、その半分弱です。(*注3)
海洋放出の「管理目標値」9700兆ベクレルは、福島の総量約860兆ベクレルの10倍以上を意味します。フル操業に入った場合には、これだけの量のトリチウムが液体として海に放出されうるということです。一方、「アクティブ試験」時の実績をもとに大雑把な推定をすると、福島の総量の約5倍が毎年海洋放出されるということになりますが、これが妥当な計算方法と言えるかどうかは定かではありません。これについては、後で、もう一度見てみましょう。
「管理目標値」とは?
六ヶ所再処理工場では、トリチウムを回収する計画がなく、使用済み燃料の中に含まれるトリチウムがそのまま全量放出されてよいことになっています。そのため、トリチウムの液体放出「管理目標値」は、処理される使用済み燃料の中に含まれるトリチウムの全量が液体として海に放出された場合の値ということになっています。「管理目標値」という用語は、放出量を減らすために何か努力をしているかのような印象を抱かせますが、トリチウムに関しては「存在量」でしかありません。
他の水素と同じようにふるまうトリチウム(三重水素)の回収は技術的・経済的に難しいからそのまま放出することに決めたということです。希ガスのクリプトン85と炭素14も同じように全量放出という扱いです。ところが、1988年に青森県議会に北村知事名で提出された「内部資料」にある再処理工場の図面では、「クリプトン処理建屋」と「トリチウム処理建屋」が登場していたと故高木仁三郎原子力資料情報室代表が指摘しています(同氏著書『下北半島六ヶ所村核燃料サイクル施設批判』(1991年 七ツ森書館)の177ページに図面)。
トリチウムの液体放出「管理目標値」は、2018年にそれまでの1京8000兆ベクレルから9700兆ベクレルに変更されました。(*注4)ウランの「三体核分裂」によって生じるかけらの一つであるトリチウムの使用済み燃料内存在量は、燃料がどのくらい燃やされたかという「燃焼度」と炉から取り出してからの期間によります。トリチウムは、半減期が12.3年と比較的短いため、長期保管のものではその量が顕著に減っていきます。上の変更は、日本原燃が、2018年に、事業指定申請書における「基準燃料」の設定を変更したことによります。「平均燃焼度45,000MWd/tU」の使用済み燃料を4年間冷却後再処理という想定から、同15年間冷却後再処理という想定に変えたのです。完成が遅れ続けて保管燃料が古くなっていることを反映したものです。
トリチウムの液体放出「管理目標値」がすなわち、「処理される使用済み燃料に含まれると推定されるトリチウムの総量」であることについては、日本原燃の前身である日本原燃サービス関係者による『六 ケ所再処理工場の放射線安全について』(保健物理, 25, 399~409 (1990))にある次の説明が参考になります。
(3) 放射性廃棄物 の推定放出量
使用済燃料中に保有する各核種の量を, 年間再処理量, 800t・Upr, 1日 当り再処理する使用済燃料の平均燃焼度5,000MWd/t・Upr以下, 冷却期4年の条件を基に, ORIGEN2コードを使用して推定する。・・・
・・・トリチウムは,水の状態で廃液中に移行し, 使用済燃料中に保有する全量を海洋放出管を経て放出するものとする。
気体廃棄物および液体廃棄物の環境へ放出される放射性物質の推定年間放出量を, 第3表に示す。
そしてその第3表の「液体廃棄物の推定放出量」のところには、2018年までの「管理目標値」と同じ年間1京8000兆ベクレルという数字が載っています。
再処理された燃料中の推定含有量と実測放出量
「アクティブ試験」の際には、「管理目標値」に関連した「基準燃料」(平均燃焼度45,000MWd/tU、4年間冷却)のデータを使うのではなく、実際に再処理された使用済み燃料のデータからその中に含まれるトリチウムの量を推定し、それと実際に放出された量の比較を行っています。
日本原燃の報告書『再処理施設アクティブ試験(使用済燃料による総合試験)経過報告(第4ステップ)(pdf)』(2008年2月27日)(13ページ)は、計算によって使用済み燃料の中に含まれると推定されたトリチウムの量と放出実績値の違いについて論じ、この違いが生じるのは、トリチウムの一部が燃料被覆管(ハル)に移行するためであり、計算で得られる使用済み燃料中の放射能量の「半分を推定放出量として運転計画を立案すれば適切に管理できる」と述べています。
海洋に放出するトリチウムについては、実際に放出された放射能量の他、酸回収設備と低レベル廃液処理建屋内に滞留するトリチウムが評価期間終了後に海洋放出されると予想されることから、その放射能量を加えると、ORIGEN2 により算出した使用済燃料中の放射能量の約0.5倍が、海洋放出されるものと評価できる。これは、ORIGEN2 の算出値(使用済燃料の放射能量)の半分程度がハルに移行する※2とされていること等が要因と考える。
このことから、海洋に放出するトリチウムについては、処理する使用済燃料のORIGEN2の算出値(使用済燃料の放射能量)の半分を推定放出量として運転計画を立案すれば適切に管理できると考えるが、この管理手法については、燃焼度、PWR燃料とBWR燃料の燃料種別等の違いによるトリチウムの挙動を把握するため、今後第5ステップにおいても更にデータを取得し、継続的に評価を行う予定である。…
※1;“再処理施設における放射性核種の挙動”,日本原燃株式会社,他,JNFS R-91-001 改1 平成8年4月:事業変更許可申請書 添付書類七の評価における参考文献
※2;山之内種彦,他“再処理工場におけるトリチウムの挙動”,核燃料サイクル開発機構,TN841-81-37(pdf) 1981年3月
使用済み燃料のせん断・溶解後、ある時点で評価期間を区切って放出量を評価した場合、一部のトリチウムは、まだ施設内にとどまっていて、評価期間後に放出される可能性があるのでこれを考慮する必要があることを加味すると、存在量の約半分が海洋放出されると見ていいようだとの結論です。ここで半分と言っているのは、当時の放出「管理目標値」の話ではなく、実際に再処理された使用済み燃料のデータから算出されるトリチウム含有量の半分のことであることに注意する必要があります。
これまでの数字をまとめると
福島第一原発タンク保管総量(30年かけて放出?) | 860兆ベクレル | ||
六ヶ所再処理工場海洋放出 | 備考 | ||
放出実績 | アクティブ試験 2006-08年(425トン) | 2150兆ベクレル | 福島総量の2.5倍 |
2007年10月 | 523兆ベクレル | 福島総量の60% | |
フル操業(800トン/年)海洋放出計画 | 年間海洋放出管理目標 | 9700兆ベクレル | 福島総量の約10倍 |
実際の海洋放出量 アクティブ試験から推定? | 福島総量の約5倍? |
「アクティブ試験」の結果と今後の放出計画についての説明を!
日本原燃は、「継続的に評価を行う予定」と述べていますが、その後、英仏の経験などとも照らし合わせた結果、どういう結論に達したのでしょうか。
福島のトリチウムの放出について様々な議論があることを考えれば、政府と日本原燃は、完成を間近に控えた六ヶ所再処理工場からのトリチウム放出の実績と今後の放出計画について分かりやすい説明をする責任があります。
六ヶ所再処理工場がフル操業を始めた場合に毎年放出されるのは、福島の総量の5倍、10倍? それとも?
注1 日本原燃の安全協定に基づく定期報告書にある実績値から合算
2006年度490兆ベクレ
2007年度1300兆ベクレル
2008年度360兆ベクレル
合計 2150兆ベクレル
注2: 六ヶ所再処理工場からの放射能の海洋放出 美浜の会 2007年12月3日
注3 *425トンについては、例えば次を参照
再処理工場およびMOX燃料工場の竣工時期の変更について(pdf) 2018年2月6日 4ページ
◆再処理⼯場の概要
■アクティブ試験中
■処理能⼒ 800tU/年、4.8tU/⽇
■アクティブ試験における再処理量
約425tU
上の記述にあるように「アクティブ試験」は、2009年以降も続く(ガラス固化試験)が、せん断・溶解が2008年に終わったことについては以下を参照(トリチウム放出量も2009年度以降は激減していることは上のグラフからも見て取れる)
再処理施設アクティブ試験(使用済燃料による総合試験)第5ステップ経過報告及びアクティブ試験総合評価等経過報告【公開版】(pdf) 日本原燃株式会社 2010年6月28日(152ページから)の「図-2 アクティブ試験の実績工程」
なお、この資料2ページに以下のようにあることに注意:
第4ステップにおいては、高レベル廃液を確保するため、当初計画のPWR燃料約110t・UPr※1に追加し、第5ステップでせん断する予定だったBWR燃料約55t・UPrを先行してせん断した。」
*アクティブ試験に使われた燃料については以下を参照。
表-1 アクティブ試験中に使用する使用済燃料 種類 量 体数 燃焼度 冷却期間 加圧水型軽水炉燃料
PWR(17×17 型)約 90t・UPr
(注2)約200体 約 12,000~47,000 MWd/t・UPr 約8~20年 加圧水型軽水炉燃料
PWR(15×15 型)約 110t・UPr 約240体 約 34,000~47,000 MWd/t・UPr 約6~15年 加圧水型軽水炉燃料
PWR(14×14 型)約 10t・UPr 約20体 約 32,000~36,000 MWd/t・UPr 約9~17年 沸騰水型軽水炉燃料 BWR(8×8 型) 約 220t・UPr 約1250体 約 18,000~40,000 MWd/t・UPr 約8~20年
- (注1)量等については計画であり、試験計画の進捗により変更があり得る。
- (注2)「t・UPr」は、照射前金属ウラン重量換算を示す。
出典:「再処理施設アクティブ試験計画書(使用済燃料による総合試験)」 日本原燃(2011年10月13日改訂版)3ページ
注4 日本は、福島トリチウム・ストロンチウム汚染水の放出と六ヶ所再処理工場運転計画中止を!と韓国専門家 (核情報 2020. 3. 6)の「参考」にある「六ヶ所再処理工場から放射性物質の予定される放出管理「目標値」」を参照
参考
- 六ヶ所フル稼働なら福島処理水のトリチウム全量の10倍以上を毎年放出 核情報 2020. 4.14
- 再処理工場はトリチウム問題を拡大すると日韓の専門家──英文原子力業界誌で 核情報 2020. 3.19
- 日本は、福島トリチウム・ストロンチウム汚染水の放出と六ヶ所再処理工場運転計画中止を!と韓国専門家 核情報 2020. 3. 6
資料編
アクティブ試験の概要 日本原燃
アクティブ試験とは…?
アクティブ試験は、通水作動試験や化学試験、ウラン試験という段階的な試験の一環として、操業前の最終段階の試験として実施するものです。
アクティブ試験では、実際の使用済燃料を用いて、プルトニウムや核分裂生成物の取り扱いに係る、再処理施設の安全機能および機器・設備の性能を確認するものですが、具体的には、核分裂生成物の分離性能、ウランとプルトニウムの分配性能、環境への放出放射能量、放射性廃棄物および固体廃棄物の処理能力などの確認を行います。
試験で使用する使用済燃料
種類 重量 加圧水型軽水炉燃料
(PWR燃料)約210トン(約460体) 沸騰水型軽水炉燃料
(BWR燃料)約220トン(約1,250体) 計 約430トン (注)上記数量は試験計画の進ちょくにより変更することがあります。また、重量は照射前の金属ウランの重量です。
なお、現在、日本の原子力発電所から出る使用済燃料には、原子炉の種類によってPWR燃料とBWR燃料の2種類あります。
アクティブ試験の進め方
アクティブ試験では、使用済燃料の種類・燃焼度・冷却期間を考慮し、5つのステップを設けて、段階的に取扱量を増やしながら、施設の安全機能および機器・設備の性能、工場全体の安全機能および運転性能を確認します。
■施設の安全機能および機器・設備の性能を確認
第1ステップ 前処理建屋せん断・溶解施設のA系列でPWR燃料により確認 燃焼度 低~中
冷却期間 長~中約30トン
第2ステップ 引き続き、A系列でPWR燃料により確認後、BWR燃料についても確認 燃焼度 低~中
冷却期間 長~短約60トン
第3ステップ 第1、第2ステップで確認した事項を中心にB系列で確認 燃焼度 低~高
冷却期間 長~短約70トン
■工場全体の安全機能および運転性能を確認
第4ステップ 工場全体の処理性能などをPWR燃料により確認
高レベル廃液ガラス固化設備の試験の実施に必要な高レベル廃液を確保するためにBWR燃料を追加処理燃焼度 低~高
冷却期間 長~短約160トン
第5ステップ 工場全体の処理性能などをBWR燃料により確認 燃焼度 低~高
冷却期間 長~短約105トン
※ ホールドポイントでは、線量当量率、空気中の放射性物質濃度、溶解性能、核分裂生成物の分離性能、環境への放出放射能量などを評価。
これらの評価は、第1ステップおよび第2ステップで一通り確認できることから、同ステップ後にホールドポイントを設定。
※燃焼度…低 30,000MWd/t未満 中 30,000~36,000MWd/t 高 36,000MWd/tを超える MWd/t…燃料の燃焼度の単位 ※冷却期間…短 9年未満 中 約10~18年 長 18年を超える
アクティブ試験の計画書及び報告書 日本原燃
アクティブ試験の計画書及び報告書
なぜ六ヶ所再処理工場の運転を阻止したいのか(pdf) 小出 裕章 ( 「終焉に向かう原子力」(第7回) 2008年12月13日)
六ヶ所再処理工場周辺での空気中トリチウム濃度の測定について(pdf) 小出 裕章 (六ヶ所再処理工場放出放射能測定グループ主催報告会2009年3月21日)
六ヶ所再処理工場のアクティブ試験第2ステップ・中間報告書(その2)批判 美浜の会 2006年12月27日
川田龍平議員 福島第一原発の十一万倍ものトリチウムが六ヶ所再処理工場から海洋へ放出されたことに関する質問
- 質問主意書 2015年3月2日
- 答弁書 2015年3月10日
*上記質問主意書及び答弁書についての「三陸の海・岩手の会」による解説(pdf) - 再質問主意書 2015年4月28日
- 答弁書 2015年5月12日