核情報

2020. 4. 14

六ヶ所フル稼働なら福島処理水のトリチウム全量の10倍以上を毎年放出

福島第一原子力発電所に林立するタンクに貯蔵されているトリチウムを含んだ汚染水の処分方法をめぐる議論の中で、どういうわけか2022年初頭に運転開始予定の六ヶ所再処理工場のことが忘れ去られています。同工場が25年にフル操業に入れば、毎年、福島の総量の10倍以上のトリチウムが放出される計画になっています。海外の原子力施設でもトリチウムが放出されていることを強調する政府の図は、福島の総量が約860兆ベクレル(Bq)であるのに対し、フランスの再処理工場では年間海洋放出量が1京3700兆Bqであることを示していますが、六ヶ所では最大年間9700兆Bqが海洋放出される計画であることには触れていません。

ちなみに、日本原燃の社長は、「福島第一廃炉推進カンパニー・プレジデント兼廃炉・汚染水対策最高責任者」という経歴の持ち主。この問題について、青森県はもちろん、周辺県・道の住民・関係者の理解を得ることの重要性を認識しておられるのではないでしょうか。

以下、簡単に事実関係をまとめ、最後に、関連資料集(抜粋引用付き)を添えておきます。

参考


事実関係のまとめ

福島のタンク内汚染水に関する検討状況

2013年12月から経済産業省の汚染水処理対策委員会下に設置された「トリチウム水タスクフォース」で検討を開始。その後、16年11月から同委員会の下に設置された「多核種除去設備[ALPS]等処理水の取扱いに関する小委員会」(ALPS小委員会)で検討を継続。18年夏の福島及び東京での計3回の公聴会を経て、20年2月10日に発表された同小委報告書では、地層注入、水素放出、地下埋設、水蒸気放出、海洋放出の5つの選択肢のうち水蒸気放出及び海洋放出が現実的とし、推奨。ALPSでトリチウム以外の核種を基準値以下まで「浄化」した後、薄めて放出するというもの。水蒸気放出と海洋放出のうち、海水で希釈後放出という実績のある後者のメリットを強調も結論を出さず。政府は、今後、「関係者の御意見を伺う場を開催」した後、処分方針決定との計画(決定後の許認可に2年程度の見込み)。

議論の整理

福島の汚染水に関する二つの問題

1)事故のため既に総量Aのトリチウムがタンク保管状態にあり、2022年夏に満杯になると想定。対処が必要。
希釈海洋放出はやむを得ない措置か?
他に適切な方法があるか?
2)不必要な使用済み燃料再処理を実施し、Aの10倍量を毎年放出する計画について、3.11以後、これまで、公聴会はもちろん、議論がほとんどない。今後、「関係者の御意見を伺う場を開催」の計画もない。

ここで取り上げるのは、2)。
マスコミ・国会での議論が必要ではないか。
*1)については、例えば、以下を参照


トリチウム量の比較

(下の六ヶ所の目標値と福島貯蔵量の表2つを参照)

福島のタンク総量 約860兆ベクレル。

小委報告書を受けて出された東電素案(3月24日)pdf では、最大30年ほどかけて徐々に放出の計画

六ヶ所再処理工場 毎年9700兆ベクレルを海洋放出の計画

*上記は六ヶ所再処理工場が年間800t処理した場合の上限を定めた「管理目標値」(計画では2025年度に年間800トン処理のフル操業開始)

2006~2008年の試運転で425t処理の際 合計約2150兆Bq海洋放出

日本原燃の「安全協定に基づく定期報告書」にある実績から合算

注:管理目標値から比例計算で得られる値は合計約5000兆Bq
使用済み燃料内のトリチウム量は燃料がどのくらい燃やされたかという「燃焼度」と炉から取り出してからの期間による。
半減期が12.3年と比較的短いため長期保管のものは量が減る。日本原燃が2018年に管理目標値を1.8×1016Bqから9.7×1015Bqに変更(六ヶ所再処理工場から放射性物質の予定される放出「目標値」)したのは、4年冷却後再処理という想定から15年冷却後再処理という想定に変えたため(完成が遅れ続けて保管燃料が古くなっているということ)。また、日本原燃の報告書『再処理施設アクティブ試験(使用済燃料による総合試験) 中間報告書(その1)』(pdf) 11ページには次のような説明がある。

〇海洋に放出されるトリチウムについては、計算コード(ORIGEN2)の算出値(使用済燃料中の放射能量)に比べ、実際に放出された放射能量が半分以下に下まわっている。これは、計算コード(ORIGEN2)による算出値(使用済燃料中の放射能量)の半分程度がハルに移行する※3とされていることに加え、使用済燃料を処理した溶液に含まれるトリチウムの一部が回収酸等として工程内に留まり、海洋放出には至らなかったこと等が要因と考える。


東海再処理工場1977~2007年1140t処理 累積海洋放出量4500兆Bq

*出典は、放出実績の項を参照

小委報告書後の政府方針

上述の通り、6年以上に亘って経済産業省の委員会で汚染水の取り扱いについて議論。最終的に、2020年2月10日に発表された
「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」報告書(pdf)
は、水蒸気放出及び海洋放出が現実的とし、二つのうち海洋放出の方が実績もあるとメリットを強調しながらも、最終決定は政府に預けた格好。

経産省は、小委報告書の発表(2月10日)に当たって、「今後、政府として、本委員会の報告書も踏まえ、地元をはじめとした幅広い関係者の意見を聞きながら、処分方法のみならず、併せて講ずるべき風評被害対策についても、検討」との方針を示し、3月30日には、政府として「処理水の扱い方針を決定するため、地元自治体や農林水産業者を始めとした幅広い関係者の御意見を伺う場を開催」との計画を発表。御意見を伺う場第1回(4月6日)及び第2回(4月13日)を、福島市で開催。
4月7日、梶山弘志経済産業相が「今後の検討に貴重な示唆をいただいた。国として責任を持って結論を出していきたい」と発言。

不思議な地図(下の図参照)

小委が2018年8月に開かれた公聴会用に作成した資料にある【参考8-3】「世界の原子力発電所等からのトリチウム年間排出量 海外の原発・再処理施設においてもトリチウムは海洋・気中等に排出」には日本の施設が入っていない。だが、仏再処理施設が2015年に約1京3700兆Bq海洋放出したことを示し、再処理工場の放出量の突出ぶりを印象付ける結果に。

2020年2月の小委報告書にある「図6.国内外の原子力施設からのトリチウムの年間放出量について」には日本の原発が入るが東海再処理工場及び六ヶ所再処理工場のデータが入っていない。

小委報告書作成経緯整理(報告書より)

2013年 4月26日
汚染水処理対策委員会 第1回開催
12月25日
同委員会の下に設置された「トリチウム水タスクフォース」第1回開催
多核種除去設備(ALPS)処理水の取扱いについて、様々な選択肢について評価・検討を開始
2016年 6月3日
タスクフォース報告書発表
9月27日
第18回汚染水処理対策委員会において、同報告書を踏まえ、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」(ALPS小委員会)設置決定。(ALPS処理水の取扱いについて、風評被害など社会的な観点等も含めて、総合的な検討を行うことを目的とする)
11月11日
同小委員会第1回開催
2020年 1月31日
第17回 報告書最終案審議
2月10日
報告書発表

資料編

放出実績

東海

中野政尚,國分祐司,武石稔 東海再処理施設から海洋放出されたトリチウムの海水中濃度及び拡散状況(pdf) 保健物理, 44(1), 60~65(2009)

ホット試験開始の1977年度から2007年度までの31年間にわたる累積放出量は4.5×1015Bq

東海再処理施設の運転実績(pdf)

六ヶ所の目標値と福島貯蔵量

六ヶ所再処理工場から放射性物質の予定される放出「目標値」

【せん断処理までの期間15年以上の放出管理目標値】

(気体)
核種放出管理目標値 (Bq/y)
Kr-851.6×1017
H-31.0×1015
C-145.1×1013
I-1291.1×1010
I-1311.0×1010
その他核種 
 α線を放出する核種3.1×108
 α線を放出しない核種7.5×109
(液体)
核種放出管理目標値 (Bq/y)
H-39.7×1015
毎年9700兆Bqの
トリチウム(H-3)放出
I-1294.3×1010
I-1311.0×1011
その他核種 
 α線を放出する核種3.6×109
 α線を放出しない核種9.5×1010

出典:『六ヶ所再処理施設及びMOX燃料加工施設における新規制基準に対する適合性─放出管理目標値の変更』(pdf) 日本原燃株式会社 2018年5月9日 より作成

核情報注:
表は、トリチウムのほか、約50兆Bqの炭素14と、約500億Bqのヨウ素129が毎年放出されることを示している。使用済燃料を直接処分した後、処分場での漏洩によって地表に被ばく被害をもたしうる放射性核種のうち、主要な位置を占めるもの。再処理推進派は、プルトニウム他の超ウラン元素が何百年、何千年か先に地表に影響を与えるのを防ぐために再処理で取り出しておくべきだと主張するが、再処理の瞬間に上記の核種を放出してしまうことには触れようとしない。

福島第一原子力発電所における2019年10月31日までのタンク内のトリチウム量の総量

処理水中に含まれるトリチウムの総量について



タンク水位実測or推定貯蔵量トリチウム量
ALPS処理水タンク(実測値)実測約83万m3約506兆Bq
ALPS処理水タンク等*1(推定値)推定約34万m3約350兆Bq*2
合計約117万m3約856兆Bq
*1:測定未実施・移送中のALPS処理水タンク及びストロンチウム処理水タンクを含む。
*2:推定値であるため、今後、実測の結果によって値を見直す可能性がある。

出典:第15回 多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会
多核種除去設備等処理水の貯蔵・処分の時間軸 2019年11月18日
東京電力ホールディングズ株式会社(pdf)
p.1 処理水中に含まれるトリチウムの総量について

東海・六ヶ所再処理工場が登場しない経産省の図

再処理施設から大量のトリチウムが放出されることを示すも、東海・六ヶ所再処理工場が登場しない。

公聴会で使われた図には、日本の施設が登場しない。

世界の原子力発電所等からのトリチウム年間排出量

出典:多核種除去設備等処理水の取扱いに係る説明・公聴会(経済産業省:2018年7月31日)より
多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会 説明・公聴会資料(pdf:5518KB) 38ページ

*核情報注:
 英再処理施設は2015年に約1540兆Bq海洋放出。英施設は同年には少量の使用済み燃料しか再処理していない。
 仏再処理施設は2015年に約1京3700兆Bq海洋放出。仏施設は毎年、約1200tの使用済み燃料を処理。
 六ヶ所再処理工場は、フル操業時(2025年からの計画)、毎年、800tの使用済み燃料を再処理。海洋放出の管理目標値は年間9700兆Bq。

小委報告書で使われた図には、日本の原発が登場するが、東海・六ヶ所再処理工場は登場しない。

国内外の原子力施設からのトリチウム年間排出量

出典:2020年2月小委員会報告書(pdf) 21ページ
*2020年3月24日の東電資料
「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書を受けた当社の検討素案について」(pdf) 23ページも上の図を使用

六ヶ所再処理工場運転計画

2021年度上半期竣工
2022年1月から再処理開始
2025年度からフル操業 年間800トン処理

再処理施設の使用計画

2018再 計 発 第326号
2019年1月31日

原子力規制委員会 殿

住所 青森県上北郡六ヶ所村大字尾駮字沖付4番地108
氏名 日本原燃株式会社 代表取締役社長 社長執行役員 増田 尚宏

 核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第46条の4及び使用済燃料の再処理の事業に関する規則第7条の13第1項 (第2項、第3項)の規定により次のとおり届け出ます。

工場又は事業所名称再処理事業所再処理設備の系列名再処理設備
所在地青森県上北郡六ヶ所村大字尾駮年間の最大再処理能力(トン)800
項目使用済燃料受入れ量再処理量期末在庫量プルトニウム製品ウラン製品その他の有用物質期末在庫量
年度別 期別燃料体数
(体)※1
ウランの量
(トン)※2
燃料体数
(体)※1
ウランの量
(トン)※2
燃料体数
(体)※1
ウランの量
(トン)※2
生産量
(kg)※2
払出量
(kg)※2
生産量
(トン)※2
払出量
(トン)※2
生産量
(kg)
払出量
(kg)
プルトニウム製品
(kg)※2
ウラン製品
(kg)※2
その他の有用物質
(kg)
2019年度上期BWR0BWR0BWR0BWR0BWR8583BWR148400006658365548
PWR0PWR0PWR0PWR0PWR3486PWR1484
下期BWR0BWR0BWR0BWR0BWR8583BWR148400006658365548
PWR0PWR0PWR0PWR0PWR3486PWR1484
BWR0BWR0BWR0BWR00000
PWR0PWR0PWR0PWR0
2020年度上期BWR0BWR0BWR0BWR0BWR8583BWR148400006658365548
PWR0PWR0PWR0PWR0PWR3486PWR1484
下期BWR0BWR0BWR0BWR0BWR8583BWR148400006658365548
PWR0PWR0PWR0PWR0PWR3486PWR1484
BWR0BWR0BWR0BWR00000
PWR0PWR0PWR0PWR0
2021年度上期BWR12BWR2BWR0BWR0BWR8595BWR148600006658365548
PWR7PWR3PWR0PWR0PWR3493PWR1487
下期BWR12BWR2BWR282BWR48BWR8324BWR14401962010908620474860
PWR7PWR3PWR73PWR32PWR3427PWR1458
BWR24BWR4BWR282BWR48196201090
PWR14PWR6PWR73PWR32
合計BWR24BWR4BWR282BWR48196201090
PWR14PWR6PWR73PWR32

[燃料体の種類の略号] BWRは発電用の軽水減速、軽水冷却、沸騰水型原子炉の使用済ウラン燃料を示す。PWRは発電用の軽水減速、軽水冷却、加圧水型原子炉の使用済ウラン燃料を示す。

注記 : ウランの量は照射前金属ウラン質量換算とする。
プルトニウム製品は、ウラン・プルトニウム混合酸化物製品の金属ウラン及び金属プルトニウムの合計質量換算とする。
ウラン製品は、ウラン酸化物製品の金属ウランの質量換算とする。
ウラン試験に用いた劣化ウラン(金属ウラン質量換算:51.7t・U)は、ウラン製品には含めない。
使用済燃料による総合試験中の再処理量等を含む。
数値は当社の想定であり、使用済燃料再処理等実施中期計画に基づき再処理を行う。

※1: 燃料体数が確定していない場合、ウランの量より算出し、各欄毎に端数処理(四捨五入)を実施しているため、上期・下期の和と計が一致しない場合がある。

※2: 各欄毎に端数処理(四捨五入)を実施しているため、上期・下期の和と計が一致しない場合がある。

出典 再処理施設の使用計画(pdf) 日本原燃 2019年1月31日

(2)「再処理の事業の開始の日以後10年内の日を含む毎事業年度における使用済燃料の種類別の予定再処理数量及び取得計画」について

網掛け部分が変更箇所です。

◯予定再処理数量 (単位: t・Upr)
種類年度20212022202320242025202620272028202920302031
発電用BWR使用済
ウラン燃料
48192288640800800800800800800800
発電用PWR使用済
ウラン燃料
32128192
○取得計画 (単位: t・Upr)
種類年度20212022202320242025202620272028202920302031
発電用BWR使用済
ウラン燃料
448192480800800800800800800800
発電用PWR使用済
ウラン燃料
632128

(3)「再処理の事業の開始の日以後10年内の日を含む毎事業年度における製品の種類別の予定生産量」について

網掛け部分が変更箇所です。

○予定生産量
種類年度20212022202320242025202620272028202920302031
ウラン酸化物 (t・U)73293439586732732732732732732732
ウラン・プルトニウム
混合酸化物 (t・U+Pu)
1691114141414141414

出典:再処理事業変更許可申請書の一部補正および再処理施設の使用計画の変更届出について 2017年12月22日
再処理事業変更許可申請書の一部補正の主な内容について(pdf)より作成(年度の平成を西暦に変更)

参考

日本原燃 燃料受け入れを21年度に再開へ 六ケ所の再処理工場 /青森 毎日新聞2019年2月4日

完成後は22年1月の操業開始を見込み、同年3月までに計80トン(ウラン換算)を処理する想定だという。

小委報告書発表(2020年2月10日)に際しての経産省の説明

「今後、政府として、本委員会の報告書も踏まえ、地元をはじめとした幅広い関係者の意見を聞きながら、処分方法のみならず、併せて講ずるべき風評被害対策についても、検討していきます」

出典:多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書について

多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場

目的

多核種除去設備(ALPS)等で浄化処理した水については、風評など社会的な影響も含めた総合的な検討を、ALPS小委員会において行いました。小委員会の報告を踏まえ、今後、政府としてALPS処理水の取扱い方針を決定するため、地元自治体や農林水産業者を始めとした幅広い関係者の御意見を伺う場を開催します。

多核種除去設備等処理水の取扱いに係る関係者の御意見を伺う場

2020年2月10日小委報告書抜粋引用

多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会報告書報告書(pdf)より

はじめに (1ページから)
・・・廃止措置が終了する際には、汚染水対策の一つである多核種除去設備(以下「ALPS」という。)等で処理した水(以下「ALPS処理水」注という。)についても、廃炉作業の一環として処分を終えていることが必要である。
ALPS処理水*の取扱いは、2013年から検討が重ねられてきた福島第一原発の廃炉の中の重要な課題の一つである。ALPSの性能向上により、検討当初とは異なり、トリチウム以外の放射性物質については、十分に浄化できるようになっているが、ALPS処理水の処分については、特に風評への影響が大きいと考えられており、地元を始め国民の関心の高い問題の一つとなっていることから、多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(以下「ALPS小委員会」という。)では、科学的な側面だけではなく、風評被害など社会的な観点も含めて、総合的な検討を行ってきた。・・・

注.ALPSはトリチウム以外の62種類の放射性物質を告示濃度未満まで浄化する能力を有しているが、処理を開始した当初は、敷地境界における追加の被ばく線量を下げることを重視したことなどにより、タンクに保管されているALPS処理水*の約7割※には、トリチウム以外の放射性物質が環境中へ放出する際の基準(告示濃度限度比総和1未満)を超えて含まれている。ALPS小委員会では、こうした十分に処理されていない水について、環境中に放出される場合には、希釈を行う前にトリチウム以外の放射性物質が告示濃度比総和1未満になるまで確実に浄化処理(2次処理)を行うことを前提に、ALPS処理水の取扱いについて検討を行った(詳細はP13参照)。
したがって、本報告書の中のALPS処理水の表記については、特段の断りがない場合には、トリチウムを除き告示濃度比総和1未満のALPS処理水を「ALPS処理水」とし、十分処理されていない処理途中のALPS処理水を「ALPS処理水(告示比総和1以上)」とし、この二つ(ALPS処理水とALPS処理水(告示比総和1以上))を併せて指す場合は「ALPS処理水*」とすることとする。・・・

(1)トリチウム水タスクフォースでの検討について
2013年12月10日、汚染水処理対策委員会において、「東京電力(株)福島第一原子力発電所における予防的・重層的な汚染水処理対策~総合的リスクマネジメントの徹底を通じて~」が取りまとめられた。その中で、「汚染源を取り除く」、「汚染源に水を近づけない」、「汚染水を漏らさない」という各種の対策を講じたとしても、最終的に、ALPS処理水*を貯蔵し、管理すべきタンクの数が増大すれば、漏えい事象の発生頻度もまた増大し得ることとなり、大量に貯蔵するALPS処理水*の取扱いが課題として残存することが明確化された。
また、2013年12月4日に、国際原子力機関(以下「IAEA」という。)調査団から、ALPS処理水の取扱いについて「あらゆる選択肢を検証するべき」との助言があった。
これらを受け、2013年12月20日に原子力災害対策本部が決定した「東京電力(株)福島第一原子力発電所における廃炉・汚染水問題に対する追加対策」においても、「追加対策を講じた後になお大量貯蔵に伴うリスクが残存するトリチウム水※の取扱いについては、あらゆる選択肢について、総合的な評価を早急に実施し、対策を検討する。」と位置づけられた。
※:「ALPS処理水」を指す。
このため、ALPS処理水の取扱いについて、様々な選択肢について評価することを目的に、汚染水処理対策委員会の下にトリチウム水タスクフォース(以下「タスクフォース」という。)を設置し、2013年12月25日より検討を開始し、2016年6月3日に報告書を取りまとめた。
・・・
2016年9月27日、汚染水処理対策委員会において、タスクフォース報告書で取りまとめた知見を踏まえつつ、ALPS処理水の取扱いについて、風評被害など社会的な観点等も含めて、総合的な検討を行うことを目的とし、ALPS小委員会を設置することが決定され、同年11月11日に第1回ALPS小委員会が開催された。

まとめ p39~40
・・・
➂ALPS処理水の処分方法について
タスクフォースで検討された5つの処分方法のうち、地層注入については、適した用地を探す必要があり、モニタリング手法も確立されていない。水素放出については、前処理やスケール拡大等について、更なる技術開発が必要となる可能性がある。地下埋設については、固化時にトリチウムを含む水分が蒸発することや新たな規制設定が必要となる可能性、処分場の確保の必要がある。こうした課題をクリアするために必要な期間を見通すことは難しく、時間的な制約も考慮する必要があることから、地層注入、水素放出、地下埋設については、規制的、40技術的、時間的な観点から現実的な選択肢としては課題が多く、技術的には、実績のある水蒸気放出及び海洋放出が現実的な選択肢である。
また、社会的な影響は心理的な消費行動等によるところが大きいことから、社会的な影響の観点で処分方法の優劣を比較することは難しいと考えられる。しかしながら、特段の対策を行わない場合には、これまでの説明・公聴会や海外の反応をみれば、海洋放出について、社会的影響は特に大きくなると考えられ、また、同じく環境に放出する水蒸気放出を選択した場合にも相応の懸念が生じると予測されるため、社会的影響は生じると考えられる。
水蒸気放出は、処分量は異なるが、事故炉で放射性物質を含む水蒸気の放出が行われた前例があり、通常炉でも、放出管理の基準値の設定はないものの、換気を行う際に管理された形で、放射性物質を含んだ水蒸気の放出を行っている。また、液体放射性廃棄物の処分を目的とし、液体の状態から気体の状態に蒸発させ、水蒸気放出を行った例は国内にはないことなどが留意点としてあげられる。また、水蒸気放出では、ALPS処理水に含まれるいくつかの核種は放出されず乾固して残ることが予想され、環境に放出する核種を減らせるが、残渣が放射性廃棄物となり残ることにも留意が必要である。
海洋放出について、国内外の原子力施設において、トリチウムを含む液体放射性廃棄物が冷却用の海水等により希釈され、海洋等へ放出されている。これまでの通常炉で行われてきているという実績や放出設備の取扱いの容易さ、モニタリングのあり方も含めて、水蒸気放出に比べると、確実に実施できると考えられる。ただし、排水量とトリチウム放出量の量的な関係は、福島第一原発の事故前と同等にはならないことが留意点としてあげられる。
なお、海洋放出、水蒸気放出のいずれも放射線による影響は自然被ばくと比較して十分に小さい。加えて、風評への影響も踏まえると、いずれの方法でも、規制基準と比較して、なお十分に希釈した上での放出を行うなどの配慮を行うことが必要となる。

➃風評被害対策の方向性について
水蒸気放出及び海洋放出のいずれも基準を満たした形で安全に実施可能であるが、ALPS処理水を処分した場合に全ての人々の不安が払しょくされていない状況下では、ALPS処理水の処分により、現在も続いている既存の風評への影響が上乗せされると考えられる。このため、処分を行う際には、福島県及び近隣県の産業が、安心して事業を継続することができるよう、風評被害を生じさせないという決意の下に、徹底的に風評被害への対策を講じるべきである。・・・

⑤とりまとめに際して
政府には、本報告書での提言に加えて、地元自治体や農林水産業者を始めとした幅広い関係者の意見を丁寧に聴きながら、責任と決意をもって方針を決定することを期待する。その際には、透明性のあるプロセスで決定を行うべきである。・・・・

「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」開催状況

(2016年11月11日第1回~2020年1月31日第17回及び2020年2月10日報告書発表)

多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会情報(2016年11月11日第1回~2017年10月23日第6回)

本業務では、福島第一原発のトリチウム水の長期的な取扱い方法の決定に向けた今後の検討(多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会における検討)に資するよう、必要な調査を行った。

多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(2018年2月2日 第7回~2020年1月31日 第17回及び2020年2月10日 報告書発表)

多核種除去設備等処理水の取扱いに係る説明・公聴会の開催について
≪富岡会場≫・日時:平成30年8月30日(木)10時00分~12時30分
≪郡山会場≫・日時:平成30年8月31日(金)9時30分~12時00分
≪東京会場≫・日時:平成30年8月31日(金)15時30分~18時00分

*この公聴会で議論されたトリチウム以外の核種の残存問題については、例えば以下を参照。

水島宏明 福島第一原発の汚染処理水の海洋放出の知られざるリスク「サンデーモーニング」が指摘した“不都合な真実”2020/3/9

【風評の深層・トリチウムとは】眼前に「処理水」…77万ベクレル 福島民友新聞 2020年02月12日

説明不足招いた『不信感』
 東京電力福島第1原発の汚染水を浄化する多核種除去設備(ALPS)は、トリチウム以外の62種類の放射性物質の濃度を下げられる。だが、現状での処理水にはトリチウム以外の放射性物質も除去されずに残り、大半は放出の法令基準値を上回る。海洋放出など処分策の問題点として指摘され、「風評を呼ぶ」と批判を招いている。

ALPS処理水、トリチウム以外核種の残留~「説明・公聴会」の前提は崩れた FOE Japan 2018/08/29


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