核情報

2016. 8.24

元豪外交官が国連作業部会で詐欺的と批判──先制不使用に反対する日本

核兵器禁止条約について議論していた国連核軍縮作業部会(OEWG)で、8月16日、先制不使用宣言をしないように米国に働きかけている日韓両国の姿勢が注目を浴びました。常々「漸進的アプローチ」なるものを提唱しながら、その一方で米国に「NPTの下で合意した行動を実施にしないよう求めている」と元豪外交官が両国を非難したからです。19日に行われた条約の交渉を2017年から始めるよう勧告する報告書の採択に際して日本は棄権しました(賛成68、反対22、棄権13)。先制不使用に反対の日本が禁止条約交渉を本気で求めるはずがないことは最初から明らかでした。ありうるのはごまかしか棄権か、反対だけです。

日韓批判の発言をしたのは「ワイルドファイヤー(燎原の火)」という「NGO」(別名「ジュネーブ核軍縮イニシアチブ」)を代表するリチャード・レネインという人物で、2015年2月まで国連の「生物兵器禁止条約履行支援ユニット」のチーフ(責任者)でした。今は自らをワイルドファイヤーのチーフ・インフラマトリー・オフィサーと呼んでいます。インフラマトリーは火炎に関連した元の意味と煽動の意味とをかけたものでしょう。「燎原の火」を燃え上がらせる煽動責任者ということです。

煽動責任者は言います。

……2月のOEWG開会に当たってカナダが日本と韓国を含む20カ国のグループを代表して次のように発言したのは、心強いことでした。「……私たちは、みな同じ目的──核軍縮のために前進すること、そして、核兵器のない世界に向けた措置を確認すること──のために努力しているのだと誠実に信じてここにいます……。」

良い言葉です。しかし、最近情報源の確かな信頼できる報道から私たちは次のようなこと知りました。日本と韓国が最近米国政府に対して、核兵器の「先制不使用(ノー・ファースト・ユース)」に向けた行動を取らないよう働きかけているというのです。

言い換えれば、日本と韓国──NPTの下での非核兵器国の二つで、核軍縮に向けた前進のために努力しているという点での「誠実」さをこの作業グループに対して保証した国──が、NPTの核兵器国の一つに対して、前進しないよう働きかけたということです。NPTはすべての核軍縮の努力のための枠組みであるべきだと絶えず主張してきたにも拘わらず、これら両国は、米国に対して、2010年のNPT行動計画で合意された行動の一つを実施しないよう米国に求めたのです。実際、両国は、米国に対し、まさしくこの作業部会において両国が提案していた「漸進的アプローチ」の要素の一つを実施しないよう求めたのです。日本、韓国、及びその他の「漸進的アプローチ」の提唱者らは絶えず、他の国々に対し、核兵器国を関与させることの必要性について説いてきました。この主張において、これらの国々は何を言おうとしているのでしょうか。核兵器国を関与させ、NPTの下で合意した行動を実施にないよう求めるということなのでしょうか。

さて、「漸進的アプローチ」の他の提唱者達は、日本や韓国ほど詐欺的で不誠実でないでしょうね。実際、これらの国々は米国に対し、NPTの行動計画に従って「先制不使用」ドクトリンに踏み出すよう働きかけているでしょうね。ここで今、チェックするのが良いかもしれません。「漸進的アプローチ」国のなかで、この数週間の間に米国に対して「先制不使用」ドクトリンを採用するよう奨励するためにコンタクトした国は手を挙げて下さい。[どの代表団も反応せず]

皆さん、こういうことなのです。これが「漸進的アプローチ」なのです。詐欺的陰謀集団によって喧伝されている大きな膨れあがった中身のないインチキなのです。いろいろ核兵器国が参加していないことを残念がる発言がいろいろありましたが、核軍縮の実際の反対者は、この部屋に今いるようです。

出典:Intervention by Richard Lennane, Chief Inflammatory Officer, Wildfire, at the meeting of the open-ended working group on 16 August 2016(pdf)

この発言を受けて、オーストラリア政府代表が「このような場で特定の国々に挙手を求める行為は不当である」「我々はOEWGで共通の利益のため取り組んでいる。特定国を名指しではずかしめるような行為は共通の大義の実現に役立たない」と述べたとのことです。(参考:国連・核軍縮公開作業部会 第3会期 ジュネーブ現地報告 その2 ピースデポ(荒井摂子))歯に衣を着せぬ自国の元外交官の発言について何か言っておかないと気まずいと現政府代表が感じたということでしょう。(音声記録はDegital Recordings Portalで確認できる。)

ここで、7月27日に原子力資料情報室及び原水禁と核情報が日本政府宛に出した「米国が核の先制不使用政策を採用しても日本は決して核武装しないと宣言し、さらに同政策を支持するようにとの要請」から、「煽動責任者」と同じ思いを共有する部分を引用しておきましょう。

昨年の国連決議案において世界の指導者らに被爆地訪問を日本が訴えた際、あるいは、今年、ケリー国務長官の広島平和記念公園訪問に岸田外務大臣が同行し、オバマ大統領に安倍首相が同行した際、日本政府が主張したかったのは先制不使用宣言反対の立場だったのでしょうか。

参考


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