2023年3月22日に開催された日本物理学会の「物理と社会シンポジウム(言語:英語)」The current nuclear threat and opportunities for threat reduction: What Physicists Can do [現在の核の脅威と脅威削減の機会:物理学者に何ができるか]での「米国側」発表に使われたパワポ(日英両語)を紹介します。
日本物理学会のシンポジウムの案内には以下のようにあります。
「本シンポジウムでは、アメリカ物理学会での2年間の活動を経て、独立した組織となって国際連携を進めようとしている Physicists Coalition for Nuclear Threat(核の脅威削減のための[米国]物理学者連合)の活動について、その創始者の一人であるFrank N. von Hippel氏他に講演いただき、日本の物理学者/科学者が核の脅威についてどのように考え、どのような活動を行えるかについて検討します。」(核情報注:物理学者連合は、2022年10月以来、米国の代表的軍縮NGO「軍備管理協会(ACA)」と協力関係に。)
「米国側」の発表者は、フランク・フォンヒッペル(プリンストン大学科学・国際安全保障プログラム上級研究物理学者、公共・国際問題名誉教授)と中国出身の専門家、趙通[Tong Zhao](プリンストン大学科学・世界安全保障プログラム、カーネギー国際平和財団)の二人です。
発表のタイトルは、それぞれ、「核兵器のもたらす危険: 物理学者は助けになり得る!」と「東アジアにおける現在の核の脅威」でした。
前者は、世界の核を巡る状況について概観した後、世界の物理学者がこれまで核問題にどのようにかかわってきたか、そして、「核の脅威削減のための米国物理学者連合」が今、何をしているかについて説明し、日本でも同様の活動に取り組むよう呼びかける内容となっています。
日本の物理学者にとって重要な課題として、米国物理学者連合は米国政府に核先制不使用政策採用を促しているが、これは、「連邦議会の共和党、ペンタゴン、それに、日本その他の米国の同盟国の政府が結託した連合体によって阻まれている」と指摘しています。
後者は、中国の核兵器を巡る最新情報を提供した後、先制不使用に関する日本での議論の促進や、福島の放射能汚染水や六ヶ所村再処理工場及び中国で計画中の同規模の工場からの放射性物質の排出について中・日(+韓)の科学者の共同研究を行うことなどを提案しています。
物理学者だけでなく、各方面の方々にお読みいただけるようにするため、以下、二人の発表者と日本物理学会の許可を得て、会合で使われたパワポ資料を紹介します。会合は英語で開かれました。日本語版は核情報が作成したものです。なお、趙通[Tong Zhao]の資料については、本人が若干の加筆・修正をしたものとなっています。
参考
- Physicists Coalition for Nuclear Threat Reduction(核の脅威削減のための[米国]物理学者連合)ホームページ
*物理学者連合についての説明、米国は先制不使用政策を採用すべきとする考え方に関する資料(pdf)の他、各種イベントの予定や録画も。
追記 米国の物理学者連合が核脅威削減のために開催したイベント。その数は20年6月から23年4月までに約140回。日本の物理学者はこれに呼応して行動を起こせるか。 - Frank Von Hippel Nuclear Arms Control: Help Wanted at CERN, June 30, 2022
*フランク・フォンヒッペルによる今回と同様のテーマのコローキアム(ズーム方式)。スイス、ジュネーブの欧州原子核共同研究機構(CERN) と繋いで。この場での情報交換がきっかけとなり、アブドゥッサラーム国際理論物理学センター(ICTP)(イタリア、トリエステ)で二日間(2023年10月23-25日)のワークショップ「増大する核兵器の危険:物理学者はいかにして脅威削減に貢献できるか」が米物理学者連合との共催で開かれることに。 - Dr. Tong Zhao - Political obstacles in the US-China nuclear relationship MIT Security Studies Program 2023/01/12
*趙通[Tong Zhao]による今回と同様のテーマについての講演 - Radioactive Fallout and Potential Fatalities from Nuclear Attacks on China’s New Missile Silo Fields(中国の新しいミサイル・サイロ地帯に対する核攻撃による放射性降下物及び生じ得る死者数)Science & Global Security Published online: 26 May 2023
*物理学者連合メンバーのセバスチャン・フィリップ(「プリンストン大学科学・世界安全保障プログラム(SGS)」)[およびIvan Stepanov]の論文 - 降低大国核竞赛风险需要公众的关注与参与(強大国間の核競争のリスクを軽減するには国民の注目と参加が必要)FT中文网(フィナンシャル・タイムズ中国語版)2023年6月7日
*フィリップの上記論文に基づき、フィリップと趙通[Tong Zhao]が大都市の風上に新しいミサイル・サイロを設けることは中国の国民にとって重要な意味を持つと論じたもの。 - 米国家安全保障会議(NSC)で核兵器の存在理由説明の変更検討開始と米紙報道 日本など同盟国、米の先制不使用宣言に「懸念」表明と英紙が先月末報道 核情報 2021.11. 7
*米国による先制不使用政策に反対する日本の姿勢に関する記事類のリンクも
二人のパワポのアウトライン
- 核兵器のもたらす危険: 物理学者は助けになり得る! フランク・フォンヒッペル
- 世界の核弾頭数
- 中国の核増強
- 米国その他の核保有国は「近代化」を進めている
- 核兵器は無差別的で世界的脅威
- 偶発的核戦争の危険
- 核軍備管理の提唱者としての物理学者の歴史的役割
- 核脅威削減のための物理学者連合
- 東アジアにおける現在の核の脅威 趙通[Tong Zhao]
- 中国の核政策における主要な変化
- 主たるボトルネックとしての核分裂性物質
- 技術的な面での原動力
- 政策的面での要因
- 台湾海峡を巡る核リスク
- ロシア・中国の核協力
- DPRK(朝鮮民主主義人民共和国)の急速な核拡大
- 日本の学者・科学者ができること?