核情報

2014.12. 2

2013年12月核燃料サイクル・シンポ発表資料

朝日新聞とプリンストン大学は、2013年12月5日、シンポジウム「核燃料サイクルを考える~日本の選択はどうあるべきか」を開きました。その外国人参加者の発言資料を以下に掲載します。当時の日本原燃の計画では六ヶ所再処理工場は2014年10月に竣工予定でしたが、その10月末、日本原燃は竣工予定を2016年3月に延期すると発表しました。1年前の議論は現在でも重要な意味を持つものです。

参考




  1. 日本の再処理計画が核拡散・核テロリズムのリスクに与える影響 スティーブ・フェター
  2. 日本の使用済み燃料、再処理か貯蔵か? フランク・フォンヒッペル
  3. プルトニウムの道に入って出て クラウス・ヤンバーグ
  4. 六ヶ所再処理工場における放射線リスク ゴードン・トンプソン
  5. 英国における再処理:軛の期限 ウイリアム・ウォーカー
  6. シンポジウム「核燃料サイクルを考える~日本の選択はどうあるべきか」外国人参加者による提言

日本の再処理計画が核拡散・核テロリズムのリスクに与える影響 スティーブ・フェター

日本の再処理計画が核拡散・核テロリズムのリスクに与える影響

スティーブ・フェター

日本の再処理計画が核拡散と核テロリズムに与える影響について話すべくご招待頂いたことに感謝したい。

まず、日本が核不拡散条約(NPT)に、そして、現在の核兵器保有国以外の国が核兵器を取得するのを防ぐためにできる限りのことをすることに、完全にコミットしていると私が信じているということを言っておきたい。非核兵器国に留まること、そして、核不拡散体制を強化することに関する日本のコミットメントについて私はまったく心配していない。

しかし、疑いを持つものもいる。その主要な理由の一つは、日本が原子力発電用原子炉の使用済み燃料の再処理の結果、大量のプルトニウムを蓄積してしまっているということである。このプルトニウムは、核兵器の製造に使うことができる。このスピーチを準備していて日本原燃のホームページで次のような主張を見つけた。「このプルトニウムは、原子炉の燃料としてのみ使うことができる。これは、核兵器には適していない。」これは完全な誤りである原注1

日本には分離済みプルトニウムが10トンある。核兵器を1500発作るのに十分な量である原注2。さらに34トン(5000発に十分)が英仏に貯蔵されている。

このプルトニウムの量は、フクシマの惨事の以前でも民生用の必要を超えていた。六ヶ所再処理工場は、さらに年間8トンものプルトニウムを生み出すことができる。毎年、核兵器1000発分以上を生み出すのである。日本は年間8トンのプルトニウムを使うという現実的な計画を持っていないから、六ヶ所が運転されると日本のプルトニウムの量は増え続けることになる。

もし日本が原子力発電用に即座に使う経済的に正当な理由も確定的な計画もないままプルトニウムの蓄積を続ければ、それは日本の意図についての疑念の種をまくことになり得る。各国はしばしば、近隣諸国の意図について最悪ケースの想定をする。最悪ケースを想定し、評価や防衛計画策定は他国の「能力」にのみ基づいて行う。東アジアにおける会合で、私は何度か、日本のプルトニウム計画の性格について参加者が問題にするのを体験している。彼らは、これは一種の核抑止ではないかと主張した。その気になれば短期間で多数の核兵器を作ることができるとのシグナルを送るものだというわけである。日本の大量のプルトニウムが単なる政策の誤りや計画の遅延の副産物だとは信じがたいと彼らは考える。

これが日本の再処理計画に関する懸念の一つである。すなわち、近隣諸国が、日本は部分的には核兵器オプションを提供するために大量のプルトニウムを蓄積していると考えるかもしれないというものである。もし、増大を続ける日本のプルトニウムを他の国々が潜在的核兵器能力と捉えるなら、これは、日本の真の意図がどうであるかに拘わらず、東アジアの不安定化の一因となる。そして、日本の国際的評判を傷つけることになる。

しかし、私は、日本の再処理計画が他の国々に提示する「前例」の方にずっと大きな懸念を抱いている。日本は、核兵器を持たないでプルトニウムを分離している唯一の国である。日本がプルトニウム分離は民生用原子力計画にとって不可欠の要素だと主張すると、他の国々に――とりわけ、核兵器についてずっと大きな懸念が存在する国々に――プルトニウム分離が広がるのを防ぐのがより難しくなる。日本が短期的な使用計画を明確に示せないプルトニウムを蓄積する場合は特にそうである。

日本は、そのプルトニウム・プログラムを日本の特別な地位の表れと見なしているが、他の国々はこれに反感を持つ。二重基準は、一定の期間は存在し得るが、長期にわたって長らえることはできない。他の国々――例えば韓国――は、日本が許されていることを自分たちはなぜ許されないのかという正当な問いを発する。日本は、日本が非核兵器国の中で特別なのは、大規模で高度な原子力プログラムを持っているからだと主張するかもしれない。だが、韓国は日本と比べそれほど遅れてはいない。

米国との原子力協力協定の改訂において再処理が認められるようにしようという韓国の望みは、日本の核燃料サイクル・プログラムがいかに核不拡散規範を脅かすかを示す一つの例である。日本と同じく、韓国も、再処理は重要な廃棄物管理上の利点を提供すると主張する。

しかし、韓国が他の理由で再処理に関心を持っていると信じるに足る理由がある。韓国は、1970年代に核兵器計画を持っていた。韓国は、核武装をした北朝鮮と「戦争状態」にある。韓国が再処理を開始し、プルトニウムを蓄積し始めれば、これが他の国々よって安全保障上の脅威と見なされるようになるというのは想像に難くない。

日本が再処理は不可欠なものだと主張するなら、使用済み燃料を持つ全ての国々、つまりは原子炉を持つ全ての国々は、核廃棄物の管理のために再処理が必要だ、再処理はNPTの下で認められた「奪い得ない権利」の一つだというと言うことができる。日本が再処理を続ければ、とりわけ、経済的に正当な理由もなく、生産されたプルトニウムのための確定的な計画もなくそうするなら、これは、核拡散の懸念を伴う国々――例えばイラン――との交渉を難しくする。

まさにこのために、米国は35年前に再処理を放棄することを決めたのである。他の国に再処理をしないよう説得する際の助けになるようにためである。再処理をする国、分離済みプルトニウムのストックを持つ国は、全て、バーチュアルな核兵器国である。非常に短期間で、ほとんど何の前触れもなく、核兵器を作ることができる。このような状況の存在は不安定化要因となる。なぜなら、ライバル国に対し、相手の急速な核武装に備えて同じような措置を講じるよう促し、その結果、核兵器能力の拡散が次々と起こることになり得るからである。

三番目のタイプの懸念は、テロリストによる核物質の盗取と流用である。プルトニウムには、物理的防護と計量管理の最高級の基準を適用しなければならない。核兵器に適用されているのと同じレベルのものである。再処理とMOX燃料製造の性格のため、これらの施設における全てのプルトニウムについて正確に計量管理を行うのは不可能である。六ヶ所より小さな東海再処理工場では、核兵器を数発作れる量のプルトニウムが「行方不明」となったことがある。これは、プルトニウムが流用されたり盗まれたりしていないと言う点に関する国際的な信頼性を損なうことになり得る。

私は、輸送中及び日本の原子炉での貯蔵時におけるMOX燃料の物理的防護体制についてもっと懸念している。テロリストは、輸送中を狙ったり、貯蔵サイトに押し入ったりして、燃料集合体を奪取する可能性がある。沸騰水型のMOX燃料集合体には核兵器2発分のプルトニウムが入っている。加圧水型用の場合は、その2倍以上である。使用済み燃料と異なり、未使用のMOX燃料の場合、放射線外部被曝の危険性はそれほどない。燃料ペレットを取り出せば、化学的なプルトニウム分離はグローブ・ボックスで行うことができる。これに必要な化学処理は単純なものである。順を追った作業説明はインターネットで見つけられる。テロリストにとってプルトニウムを使って核兵器を作るのは不可能だと主張する人々がいるが、残念ながら、これは全く事実に反する。たとえ核爆発を起こせないとしても、大都市で相当な面積の地域にプルトニウムをばらまくことができる。これは、広範なパニックと膨大な経済的損害をもたらすことができる。核テロリズムのリスクは、非常に現実的なもので無視することはできない。

これら三つの懸念に対処する最善の方法は、日本がプルトニウムの分離と使用を止めることである。これは、核不拡散体制の強化に関して日本ができる最大の貢献である。オバマ大統領が去年ソウルで言ったように、「我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質──分離済みプルトニウム──を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない」。

日本は、世界全体でのプルトニウムの生産を防ぐ上で指導的な役割を果たすことができる。それは、再処理が必要だとする韓国、あるいは他の国の主張にとどめを刺すことになるだろう。米日両国は、MOX燃料を作ることなくそのプルトニウムを処分するための技術的方法について協力することができる。英仏両国は、日本のプルトニウムをヨーロッパで処分する責任を負うことで合意することもできるだろう。

次善の策は、日本が、余剰プルトニウムを持たないとの20年前の約束について本気になることである。すなわち、原子力発電プログラムで必要な量以上のプルトニウムを持たないということである。現在日本にあるプルトニウムの量は――ヨーロッパに保管されている量は言うまでもなく――日本が必要とする量を遙かに超えている。MOX燃料を燃やすことを許可されている全ての原子炉が再稼働したとしてもそうである。

最低でも、日本は、現在保有するプルトニウムの量が最小の実施可能な運転在庫のレベルまで減るまで六ヶ所を運転してプルトニウムを分離することをしないと約束すべきである。この場合、既存のプルトニウムはMOX燃料にし、MOX燃料利用を許可されている原子炉に装荷することになる。MOX燃料の輸送・貯蔵に関するセキュリティーは上げなければならない――米国が核兵器のために施しているセキュリティーに匹敵するレベルまで。再処理は、プルトニウムのストックが最小限の運転在庫――1年分以下――にまで減った場合に初めて再開する。そして、プルトニウムは、原子炉用燃料の実際の需要を満たすのに必要な速度でのみ生産する。MOX燃料の需要の低下を考えれば、六ヶ所再処理工場の運転再開は、何年も遅れることになるだろう。

六ヶ所を複数国の――あるいは国際的な――燃料サイクル・センターとする可能性について触れているアナリストがいる。私は、これを支持しない。なぜなら、これは、再処理は有用な、それどころか必要なサービスだとの間違ったアイデアを持続させることになるからである。六ヶ所におけるプルトニウム分離の国際的な管理は信頼醸成措置と見なすことができるかもしれないが、それはプルトニウム燃料の輸送と、韓国における、そして恐らくは他の国々での使用に繋がるだろう。

最後に付け加えておきたい。フクシマの惨事は、核拡散・核テロリズムの深刻なリスク――再処理推進派が主張するわずかなエネルギー・セキュリティー及び廃棄物処分面での利点を遙かに上回るリスク――と大きなコストを伴うそのプルトニウム・プログラムを再検討する機会を日本に与えた。日本がこの機会を捉え、プルトニウム分離を終わらせることにより、あるいは少なくとも中断することにより、核不拡散体制の強化において指導的な役割を果たすことを願ってやまない。そして、日本と米国が原子力に対する、より安全なアプローチ、核テロリズムや核拡散のリスクを減らすアプローチを策定するために協力できることを。

ご静聴に感謝する。

原注

  1. 例えば、以下を参照。

    J. Carson Mark, "Explosive properties of reactor-grade plutonium," Science & Global Security (J.カーソン・マーク『原子炉級プルトニウムの爆発特性』、科学と世界安全保障1 4, no. 1, (1993)、Matthew Bunn and Anthony Wier, “Terrorist Nuclear Weapon Construction: How Difficult? ”Annals of the American Academy of Political and Social Science (2006) (マシュー・バン、アンソニー・ウィアー『テロリストの核兵器製造:どのくらい困難か?』、米政治・社会科学アカデミー論集) p. 607; 及び Frank Barnaby, “How Not to Reduce Plutonium Stocks: The Dangers of MOX-Fuelled Nuclear Reactors,” (フランク・バーナビ-、『プルトニウムのストックを減らさない方法:MOX燃料を使った原子炉の危険性』. Corner House Briefing 17

    マークは、トリニティーの核爆発装置で使われたプルトニウムの代わりに原子炉級のプルトニウムを使うと、高い確率で1キロトン以上の威力が得られるということを示している。バンとウィアーは、テロリストは、高い率で発生する自発中性子が中性子イニシエーター(発射装置)の必要を無くすから、原子炉級のプルトニウムの方を好むかもしれないし、酸化プルトニウムを金属に転換する化学工程は広く発表されており複雑ではなく、プルトニウムの取扱・処理を安全に行うためのグローブ・ボックスは非合法の麻薬産業で使われていると論じている。「MOX燃料集合体を転用あるいは盗取によって手に入れたテロリスト・グループは、粗野な作りの原爆を製造するのにそれほど苦労しないだろう。酸化ウランから酸化プルトニウムを化学的に分離し、酸化プルトニウムを金属プルトニウムに転換し、金属プルトニウムあるいは酸化プルトニウムと通常爆薬を合わせて核爆発を起こすのに必要なプロセスは、技術的に困難ではなく、特殊な供給業者からの物質を必要としない。これらの作業を実施するのに必要な情報は、公開された文献から自由に入手できる。」日本で使われるMOX燃料は、一般に8-9%のプルトニウムを含んでおり、六ヶ所の製品の方は50%プルトニウムであることに留意されたい。もちろん、後者の混合物からプルトニウムを分離するのは、前者から分離するのよりもさらに簡単である。

  2. 「国際原子力機関(IAEA)」は、「有意量(significant quantity=SQ)」を、国がその最初の核爆発装置を作るのに必要な核物質の量と定義している。プルトニウムの有意量は、8キログラムで、これは、その同位体組成には関係がない(例外は、プルトニウム238の含有量が80%を超えるもので、これは[崩壊熱を利用した]電力源として使われる)。比較のために言うと、最初のプルトニウム核兵器(トリニティー・長崎型)には、6キログラムのプルトニウムが入っていた。効率の良い核兵器は、もっと少ない量のプルトニウムで作ることができる。

訳注

以下を参照

日本の使用済み燃料、再処理か貯蔵か? フランク・フォンヒッペル

プルトニウムの道に入って出て クラウス・ヤンバーグ

六ヶ所再処理工場における放射線リスク ゴードン・トンプソン

英国における再処理:軛の期限 ウイリアム・ウォーカー

シンポジウム「核燃料サイクルを考える~日本の選択はどうあるべきか」外国人参加者による提言

2013年12月5日朝日新聞・プリンストン・シンポジウム
「使用済み燃料の管理:再処理か貯蔵か」(東京)
(邦題:「核燃料サイクルを考える~日本の選択はどうあるべきか」)
外国人参加者による提言

使用済みプルトニウムは、民生用のものであると軍事用のものであるとにかかわらず、核兵器製造に使用することができる。日本は現在国内に分離済みプルトニウムを10トン保有している。これは、核兵器1000発分以上に相当し、中国が核兵器用に分離した量の5倍に達する。日本は、さらに34トンのプルトニウムを英仏に保管している。六ケ所再処理工場は、これに加えて年間8トンを分離する設計になっている。

 日本の経済産業省が繰り返す主張とは異なり、プルトニウムを分離して軽水炉の燃料としてリサイクルすることは、原子力発電所で生じる放射性廃棄物の危険性を大幅に下げたり、処分を簡単にしたりはしない。使用済み燃料を再処理してその廃棄物を処分することは、使用済み燃料を中間貯蔵した後に直接処分するのに比べ、原子力発電のバックエンド・コストを倍増する。これらの点は、日本原子力委員会の核燃料サイクルに関する小委員会が2011年11月の報告書で明らかにしているものである。

 再処理をする唯一の非核兵器国として日本は、核兵器を取得することに関心を持つ国々にとって、国際的に認められた正当な活動だと指し示すことができる前例を作っている。さらに、分離済みプルトニウムは、核テロを起こそうとするものにとって標的となる。

 私たちは、日本がプルトニウムの分離を止め、米国その他の国々とともに全世界におけるプルトニウムの分離に反対するようになることを切に願っている。少なくとも日本は、1997年に合意された「国際プルトニウム指針」が明言している「合理的作業在庫の需要を含み、可能な限り早期に受給をバランスさせることの重要性」を真摯(しんし)に捉えるべきである。これは日本自身が策定に寄与した指針である。実際、日本は、同指針に従ってIAEAに送付した1997年12月5日付の書簡において、「我が国は・・・核燃料サイクルを推進するに当たっては、核拡散に係る国際的な疑念を生じないよう核物質管理に厳重を期すことはもとより、我が国において計画遂行に必要な量以上のプルトニウム、すなわち余剰プルトニウムを持たないとの原則を堅持」すると誓約している。

 茂木敏充・経済産業相は12月6日――私たちの朝日・プリンストン・シンポジウムの翌日――の記者会見で、2030年代末までに原子力ゼロを目指すと同時に六ケ所再処理工場の商業運転開始計画を続行するという前政権の政策の矛盾を批判し、「じゃあプルトニウムバランスどうなるんですか?」と問いかけた。

 茂木大臣の念頭には、オバマ大統領が2012年3月にソウル核セキュリティー・サミットのために韓国を訪れた際に語った次のような言葉があったのかしれない。「分離済みプルトニウムのような、我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない!」

 茂木大臣が懸念しているプルトニウムのアンバランスをもたらさないようにするためには、日本は、そのプルトニウムの量を最小限のレベルに減らすまで六ケ所再処理工場の運転を開始すべきではない。日本が保有する40トン以上のプルトニウムのうち、福島第一原発事故の前の12年間で消費することができたのはわずか2・5トンであるという事実からすると、たとえ全力で取り組んだとしても、数十トンのストックを数トンのレベルに減らすのには10年以上かかると見て良いだろう。

 核不拡散に対する日本のコミットメントについての信頼を周辺地域及び世界全体において高め、また、原子力の安全性を改善するとともに、日本における原子力発電のコストを下げるために、私たちは以下のことを提言する。

 1、分離済みプルトニウムの保有量を最小限にすること。すくなくとも、日本は、分離済みプルトニウムの保有量が最小限の実施可能な作業在庫(約1年分の消費量)に減るとともに、六ケ所再処理工場で分離されるプルトニウムを直ちに消費する態勢が整うまで同工場を運転すべきではない。日本はジャストインタイムの在庫管理のパイオニア国である。このアプローチを分離済みプルトニウムに適用すべき理由がセキュリティーと経済性の両面で存在する。具体的には日本は次のことをすべきである。

  • ●英国にある約18トンの日本の分離済みプルトニウムの将来について英国と交渉すること。英国エネルギー・気候変動省は2011年に、「商業的条件が英国政府にとって受け入れられるものであれば」とした上で、英国にある日本のプルトニウムの所有を英国に移しても良いと申し出ている。
  • ●フランスからの混合酸化物(MOX)燃料輸送については、到着次第原子炉に装荷するための具体的な計画が日本の電力会社側で整わない限り実施しないようにすること。現在、日本の五つの原子力発電所で、フランスから送られたMOX燃料が、保安態勢の不十分な使用済み燃料用プール内に保管されている。このMOX燃料の中には合計2トン近くのプルトニウムが入っている。これは核兵器200発分以上の量である。これらの原子力発電所の中には、MOX燃料が12年間も保管されたままになっているところもある。
  • ●米国とともに、MOX燃料使用に代わるプルトニウム処分方法を研究すること。米国は、冷戦時代に分離された余剰プルトニウム34トン以上を処分するためのMOX燃料プログラムを進めてきたが、多額のコスト超過と、MOX燃料使用に対する電力会社側の抵抗に直面している。このため米国は現在、地下深くに直接処分するための様々な代替オプションを検討している。

 2、各原子力発電所で乾式貯蔵施設を設置すること。福島第一における事故は、空冷が可能なレベルまで冷えた使用済み燃料については、乾式貯蔵の方がプール貯蔵よりも安全であることを劇的な形で示した。2012年9月、新設された原子力規制委員会の田中俊一委員長は、就任記者会見において、プールで5年以上冷却された使用済み燃料は乾式貯蔵に移すべきだと提言した。そうすれば、新たに取り出された燃料をプール内で、より安全な形状で貯蔵することが可能になる。また、六ケ所への使用済み燃料の搬出に代わる道を提供することにもなり、六ケ所再処理工場を運転する必要がなくなる。六ケ所再処理工場の受け入れプールにある3000トンの使用済み燃料も、乾式貯蔵に移すことができる。むつ貯蔵施設での貯蔵も考えられよう。

 3、未照射のMOX燃料に入っているものを含め、分離済みプルトニウムのセキュリティーを強化すること。20年前、米国科学アカデミーの報告書が、分離済みプルトニウムの貯蔵及び輸送は、米国が核兵器に提供しているのと同等のセキュリティー・レベルで実施するよう勧告している。これは、今日、日本の分離済みプルトニウムに適用されているものよりもずっと高いセキュリティー基準である。

 4、六ケ所再処理工場及び東海再処理工場で貯蔵されている大量の高レベル再処理廃棄物をガラス固化する――つまりガラス内へ埋め込む――こと。事故あるいはテロ行為によってこの廃棄物の相当量が大気中に放出されると、日本の広範な部分が汚染しかねない。ガラス固化をジャストインタイム・ベースで実施すれば、危険な高レベル廃棄物の在庫量を最小限にするとことができる。

 5、使用済み燃料を地下深くで直接処分するための梱包(こんぽう)及び処分地選定基準に関する研究を始めること。使用済み燃料の乾式キャスク貯蔵は、プールよりは安全な中間貯蔵方法である。しかし、100年程度の期間が経つとキャスク貯蔵は劣化を伴う。ガラス固化された再処理廃棄物の地上での貯蔵の場合と同様である。500メートルあるいはそれ以上の深さの適切な地層での処分を長期的な目標とすべきである。

  • スティーブ・フェター(Steve Fetter) メリーランド大学副学長・公共政策教授。2009~2012年、ホワイトハウス科学技術政策局次長
  • クラウス・ヤンバーグ(Klaus Janberg) 核技術コンサルタント。GNS社CEOとして、ドイツその他の多くの国で中間貯蔵に使えるキャスク開発・生産を指揮。
  • ゴードン・トンプソン(Gordon Thompson) 放射線リスク低減専門家。米国の資源・安全保障問題研究所(IRSS)所長。
  • フランク・フォンヒッペル(Frank von Hippel) プリンストン大学公共・国際問題名誉教授。「核分裂性物質に関する国際パネル」(IPFM)共同議長。
  • ウィリアム・ウォーカー(William Walker) 英国のセントアンドルーズ大学国際関係名誉教授

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