米国非政府専門家グループの一員として10月31日から11月4日まで平壌を訪問したシーグフリード・ヘッカー元ロスアラモス国立研究所長が、訪朝前後の中国当局者らとの話し合いの結果も含めた旅行報告書で、北朝鮮に核兵器計画を放棄させるのは以前にもまして難しくなったとし、「非核化の望みが生まれるには、米国がまず、朝鮮民主主義人民共和国の安全保障の問題に目に見えるかたちで対処しなければならない。」と述べています。
この訪朝を組織したのは、スタンフォード大学のジョン・ルイス教授で、同大学のヘッカー客員教授、ロバート・カーリン教授、それに韓米経済研究所(KEI)のチャールズ・プリチャード所長(元米国朝鮮半島和平担当特使)が同行しました。一行は、平壌で外務省、軍部、最高人民会議、ヨンビョン核科学研究センターの関係者らと核実験の他、原子炉や燃料製造工場の運転状況について詳しく話し合いました。ヘッカー、ルイス、プリチャードの三人は2004年1月と2005年8月にも訪朝しています。ヘッカーとルイスの二人は、今回の訪朝の前後に中国の外務省及び軍部関係者、核問題専門家などと北朝鮮の核実験について話し合っています。
以下、主要な点の抜粋訳・要約を試みました。
参考
- 訪朝した米専門家「北の核実験、完璧でないが成功的」 韓国中央日報 2006.11.16
- 北朝鮮、米専門家に実験核は「プルトニウム」と認める 朝日新聞 2006年11月16日
- 2004年1月訪朝についての上院外交委員会(1月21日)ヘッカー証言要約(核情報)
- 同ヘッカー証言 (pdf)の朝鮮日報による日本語訳・紹介:「北朝鮮・寧辺原子力研究センター」訪問に関する米上院外交委員会公聴会報告─ (1)、 (2)、 (3)、 (4)、 (5)
- 『北朝鮮の核実験の技術的分析(リチャード・ガーウィン、フランク・フォンヒッペル)』英文(『世界』12月号に日本語訳掲載)
- Technical Analysis of the DPRK Nuclear Test (Jungmin Kang and Peter Hayes)
- Technical Perspective on North Korea's Nuclear Test: A Conversation between Dr. Siegfried Hecker and Dr. Gi-Wook Shin(ヘッカー元所長の写真も)
北朝鮮が核を放棄する可能性は?
「私の全体的な印象は、核兵器を製造したとの2005年2月10日の発表に続いて行われた2006年10月9日の実験により、DPRK[朝鮮民主主義人民共和国]に対しその核兵器を放棄するよう説得することはずっと難しくなるというものである。・・・中国における一般的な見方は──私も同意見だが──非核化の望みが生まれるには、米国がまず、DPRKの安全保障の問題に目に見えるかたちで対処しなければならないというものである。」
▲ページ先頭へ実験はプルトニウムを使用?
[米国がプルトニウム型であったとの情報を得たとの報道があるが]このような情報は得ることがむずかしいだろう。公式には確認されていない。
▲ページ先頭へ実験は失敗?
核実験あるいはその設計に責任を持つ技術的専門家に会うことはできなかった。DPRK政治・軍事関係者は、我々に、実験は完全に成功であり、その目的を達成したと述べた。DPRKの核装置が大きくて単純な長崎のような装置で比較的低い威力になるように設計されたものだったのか、小さくて高度なミサイル搭載可能な設計だったのかはまだ推測するしかない。高度な設計の可能性を除外することはできないが、可能性が高いのは、中国の核専門家らが提示しているものである。・・・・彼らは、DPRKの実験場に近い中国の地震観測所でマグニチュード4.1から4.2を観測したと我々に語った。これから、彼らは、爆発の威力を1キロトンに近かったと推定した。彼らは、DPRKは、地下の実験用トンネルで核爆発を閉じ込め大量の放射性物質の漏洩がないことを絶対的に確実にするために、単純な設計で4キロトンにすることを選んだと考えている。「もしDPRKが4キロトンを目指して、1キロトンになったのなら、初めてとしては、悪くはない。我々は、これを成功と呼ぶ。しかし、完全ではない。」と彼らは語った。これは、技術的な判断であって、同じような設計の核兵器の実用性に関するものではないようである。これは、現時点で我々が入手できる事実に基づく合理的な評価だろう。プルトニウムの入手可能性もDPRKにおける実験の決定事項に影響を与えたかもしれない。後述の通り、DPRKが兵器に使えるプルトニウムの在庫量は、40-50kgに限られている。従って、核実験の数を最小限にとどめるだろう。しかし、最初の実験においては、入手可能なプルトニウムの量は、単純な装置か高度な装置かという決定に影響を与えたとは私は思わない。
▲ページ先頭へプルトニウム分離量は?
時期 | 使われた炉 | 分離量 | 核兵器にすると |
---|---|---|---|
1994年まで | IRT炉と5MWe炉 | 8.4kg | 1個分+ |
2003年 | 5MWe炉 | 25kg | 4-6個分 |
2005年 | 5MWe炉 | 10-14kg | 2個分 |
2006年11月 | 5MWe炉(内) | 4-8kg(未分離) | |
合計 | 40-50kg *このうちおそらく6kgを核実験に使用 | 6-8個分 |
核情報注
- 5MWe炉 電気出力5000キロワットの炉 英国の黒鉛減速・ガス冷却炉をモデルに北朝鮮が独自開発。俗に言われるように旧ソ連提供ではない。
- IRT炉 IRT-2000研究用原子炉 旧ソ連提供のプール型軽水減速・冷却炉
参考
- 北朝鮮の核開発データ──プルトニウム関係 核情報
- 核物質保有量 核情報
プルトニウム生産能力
炉 | 所在地 | 状況 | 年間生産能力 | 核兵器にすると |
---|---|---|---|---|
5MWe炉 | ヨンビョン | (運転中) | 6kg | 1個分 |
50MWe炉 | ヨンビョン | (建設中断) | 60kg | 10個分 |
1994年に後1年で完成との説明。現在、施設での作業はほとんどなされていない。部品生産用の工場などでの補修作業中。工事の本格的再開についての決定がまもなく出される予定。 | ||||
200MWe炉 | テチョン | (建設中断) | 200kg | |
決定延期。建設続行よりも新しく計画し直した方が安上がりになりそう。 |
核兵器の現状は?
あまり情報はない。2004年の訪問後、我々は、実証された技術能力からDPRKは少なくとも数個の単純な初歩的な核爆発装置を製造と想定しなければならないと結論づけた。
ミサイル搭載可能かどうかについての情報はない。
2006年10月9日の実験に関する米国の報告書:「核実験だった」。DPRKは、プルトニウム装置であったと我々に述べた。爆発威力は、約4ktと想定されていたが、1kt以下となった。
DPRKの11月の発言:完全な成功だった。さらなる実験は必要ない。
中国の分析:DPRKは4ktと予想し、1ktを達成した。成功だが、完全ではない。
実験をしても、ミサイル搭載可能な装置を獲得するのはまだずっと先だろう。
▲ページ先頭へウラン濃縮は?
我々が知っていることはさらに少ない。この分野について何らかのレベルの試みがなされていたことを示す証拠にもかかわらず、DPRK外務省は否定し続けている。
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