核情報

2010.12.23

北朝鮮、軽水炉建設中、そのためのウラン濃縮施設「完成」との主張──交渉の用意?

12月16日から21日まで同国を訪れたニューメキシコ州のリチャードソン知事が、北朝鮮側と、IAEA監視団の受け入れなど3点で合意したと発表しました。「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」が、9月に、ヨンビョンにおける目的不明の建設現場の衛星写真を示し、要注意と警鐘を鳴らした後、北朝鮮は、11月に北朝鮮を訪問した3つの米国のグループに軽水炉建設工事開始、ウラン濃縮施設の完成などについて知らせ、交渉の用意があることを伝えていました。

リチャードソン知事が12月20日に知事事務所を通じて発表した内容は次の通りです。

「リチャードソン事務所は、北朝鮮の最高指導者らとの何度かの会合において、次の3点について合意した。

  1. 北朝鮮のウラン濃縮施設に対するIAEAの監視団のアクセスを認める
  2. 韓国のような第三者が北朝鮮から未使用核燃料を購入するための交渉をする
  3. 西海(黄海)における係争地域における紛争を監視・防止するために北朝鮮、韓国、米国の代表からなる軍事委員会について協議する。さらに、危機を避けるために北朝鮮と韓国の軍部の間のホットラインを設立する。」

以下、この問題の理解の一助とするために、「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」が建設現場の衛星写真を発表した9月以降の経緯を概観した後、上述の3グループの情報を表にまとめて示し、最後に各種報告の要約・抜粋訳を掲げておきます。


  1. 最近の新事実発覚・発表の経緯
  2. 軽水炉に関する2009年の北朝鮮の表明
  3. 参考
  4. 北朝鮮濃縮・軽水炉整理
  5. プリチャード/フィンマン報告 2010年12月2日
  6. ヘッカー
  7. シーガル
  8. ISIS報告 2010年11月21日 ウラン濃縮施設問題)



最近の新事実発覚・発表の経緯

ISISは、9月30日、ヨンビョンで正体不明の建設が進んでおり、注意を要すると報告しました。前日の9月29日の衛星写真が、以前に破壊された冷却塔の近くの建設状況を捉えています。2008年6月27日の冷却塔の破壊は、電気出力5000kWの実験炉の無能力化の一貫として実施されたものです(破壊シーン動画)。

ISISは、また、10月8日、闇市場関連情報などを下に北朝鮮の濃縮施設計画のレベルについて分析した報告書(pdf)を発表し、北朝鮮は少なくともパイロットプラント(500-1000基からなる)を建設する能力を持っている」と論じました。

11月2-6日、米国クリントン・ブッシュ両政権で朝鮮半島和平担当特使を務めたプリチャード「韓米経済研究所(KEI)」所長らは、ISISが発表した衛星写真の示す建設現場に案内され軽水炉の実験炉が建設中だと知らされます。プリチャード所長らは、また、ヨンビョンには、ウラン濃縮施設もあると、[後に判明したところによると]「ピョンヤンの指示のないまま」告げられます。このことは、プリチャード氏から、翌週北朝鮮訪問を予定されていたロスアラモス国立研究所元所長シーグフリード・ヘッカー氏(スタンフォード大学教授)に伝えられました。ヘッカー氏らは、11月12日、ヨンビョンで軽水炉建設現場と濃縮施設に案内され、これについて翌日経由地の北京で発表しました。これらの情報に基づき、ISISは、11月18日に軽水炉建設現場を示す11月4日の衛星写真を掲載した報告書を、11月21日には、ヘッカー氏らの見たウラン濃縮施設について、その衛星写真を示すと共に、能力などを分析した報告書を発表しました。そして、11月23日、ヘッカー氏訪朝報告会が「韓米経済研究所(KEI)」において、プリチャード所長の司会で開かれました。

 ヘッカー氏は、軽水炉による原子力発電を達成しようとの北朝鮮の意志を本物と捉え、核爆弾の代わりに原子力発電の追求のみに向かうよう促すべく交渉すべきだと述べています。そして、北朝鮮と米国が互いに敵意を持たないことを表明した2000年10月12日の共同コミュニケ(英文)(日本語訳)の確認が、交渉の良い出発点となるだろうと北側が告げたことを報告しています。

11月15日から18日に北朝鮮を訪れた「社会科学研究評議会(SSRC)」の北東アジア安全保障プロジェクト・ディレクター、リオン・シーガル氏も、同様の説明を受けたこと説明しています。ヘッカー氏と共に北朝鮮を訪れたロバート・カーリンとジョン・ルイスの両氏もワシントン・ポスト紙への投稿で、北朝鮮は待っていても崩壊しないと述べ、「米国の政策決定者らは、出発点に戻らなければならない。新しく出発する現実的な場所は、極めて単純かもしれない。北朝鮮の存在を、それ自体の国益を伴う主権国家として、そのまま受け入れることだ」と対話を呼びかけています。

軽水炉に関する2009年の北朝鮮の表明

2009年
 
4月5日
「人口衛星打ち上げ用ロケット」発射。
4月14日
北朝鮮外務省、朝鮮の人工衛星打ち上げに関する国連安全保障理事会の「議長声明」を非難する声明。 [朝鮮新報 2009.4.17]「われわれの主体的な原子力エネルギー工業構造を完備するため、自前の軽水炉発電所の建設を積極的に検討するであろう。・・・
 6者会談の合意に基づいて無力化した核施設を原状復旧させ、正常稼働する措置が講じられるし、その一環として実験用原子力発電所から抽出された使用済み燃料棒がきれいに再処理されるであろう。」
4月29日
北朝鮮外務省、安保理決議・声明を避難し、軽水炉型の原子力発電所建設の第一歩として核燃料の独自生産に向けた技術開発を始めると宣言。軽水炉型の原子力発電所の建設を決定し、その第一工程として「核燃料を自身で生産、保障するための技術開発を遅滞なく始める」と明言。 [朝鮮新報 2009.4.17]北朝鮮外務省声明英文)
5月25日
北朝鮮、2度目の核実験
6月13日
国連安保理決議に反発し、北朝鮮、ウラン濃縮作業に着手すると発表 [朝鮮新報 2009.6.17]「自前の軽水炉建設が決定されたことに従って、核燃料保障のためのウラン濃縮の技術開発が成功裏に行われて試験段階に入った。」
9月3日
北朝鮮、国連安全保障理事会議長米国ライス大使宛てに書簡を送り、ウラン濃縮の完成段階に入ると宣言  [朝鮮中央通信(英文)2009.9.4]

参考

衛星写真


地図 他の施設との関係地図

年表など

ヘッカー北朝鮮訪問関係

労働新聞(11月30日付け) 平和目的を強調 「現在、軽水炉建設中」[朝鮮新報 2010.12.3]



北朝鮮濃縮・軽水炉整理

北朝鮮濃縮・軽水炉整理
 プリチャードヘッカーISISシーガル
時期11月2-6日北訪問11月9-13日北訪問(ヨンビョンは12日)。13日に経由地北京で、23日に米国の「韓米経済研究所(KEI)」で報告会。9月30日、ヨンビョンな不審な建設状態を報告。10月8日、北朝鮮のウラン濃縮計画の現状を各種資料・取材を下に分析。11月21日、ウラン濃縮施設の衛星写真を示しヘッカー報告を分析。11月15-18日北訪問
軽水炉ヨンビョンの建設現場に外国人として初めて案内される。「実験炉」との説明。3.5%の低濃縮ウラン使用。炉心全体で4トンとの説明。燃料棒被覆管の材料は未定。9月29日の衛星写真が、電気出力5000kWの実験炉の冷却塔破壊跡近くで建設が進行していることを示すと9月30日に報告。 
  出力熱出力10万kW(彼が電気出力10万kWと述べたとの報道があるがこれは熱出力との混同)熱出力10万キロワット、転換率30%との説明。これから、電気出力2万千-3万kWと計算。 
  完成予定最初は未定との説明。後に金日成生誕100周年の2012年を目指すとの説明2010年7月31日建設開始、2012年運転開始との説明。 
ウラン濃縮施設同じヨンビョンにあると(ピョンヤンの許可なく)知らされる。詳細を公表するよう北側に要請するとともに、翌週に訪北予定のヘッカーらに知らせるプリチャードらにも、軽水炉建設現場を見せたが、この施設をみせるのはあなた達が初めてと告げられる。制御室などのモダンさに驚く。後に、建物は、2008年2月に訪れたガス冷却炉用燃料棒製造施設と判明。衛星写真が長さ120メートルの青い屋根の建物を示している。ISISは10月の報告書で、北朝鮮は少なくともパイロットプラント(500-1000基からなる)を建設する能力を持っている」と論じていた。 
   概説 遠心分離機2000基。4月に着工、数日前に完成したばかりで、新しい原子炉用の低濃縮ウランの製造を始めたところとの説明。 
   製造能力 8000分離作業単位(SWU)/年との説明。これだと、2t/年の低濃縮ウラン製造が可能。調整をすれば40kg/年の兵器用高濃縮ウラン製造が可能。(注1)8000分離作業単位(SWU)/年との説明とP2型の製造能力の比較から計算すると26kg/年の兵器用高濃縮ウランの製造が可能。 
遠心分離機の型(注2) イランが運転しているパキスタンの古い型P1ではないとの返事。ローターは鉄を含む合金との説明からP2と推測。すべて自前だが、ウレンコのアルメロ(オランダ)と六ヶ所村の施設の装置をモデルにしているとの説明。イランがIAEAに見せたものより進んだ型のよう。イランへの流出の恐れ上のSWUは、P2の元となったG2 より能力が低い 
他の場所の施設の可能性 別の場所で長期間をかけて建設し運転にこぎ着け、この新しい施設に持ち込んだというのが最もあり得るシナリオ。別に高濃縮ウラン製造施設がある可能性が大。以前に別のプラントを建設していて、それをヨンビョンに移転したか、もっと小さな最初のプラントを運転開始させた経験に基づいて、別のものを作った可能性 
評価 主として、経済的及び象徴的理由から必要としている民生用原子力のためのものと見える。ミサイルに搭載出来るもっと洗練された核爆弾の製造は、高濃縮ウランよりもプルトニウムを使った方がやりやすい。ただし、高濃縮ウランの大量生産能力を持つと輸出の可能性も出てくる。北朝鮮は、プラントは低濃縮ウランを製造するための構成になっていると示唆している。そうなのかもしれない。しかし、遠心分離機は、柔軟性のあるもので、このプラントは兵器級ウランを作ることもできる。 
制裁措置ピョンヤンは、2009年より清潔で近代化。信号機の敷設。携帯電話が増えている(09年の5万台から現在の30万台へ)制裁を強化するというのも同じく袋小路。核プログラムで北朝鮮が達成した成果とピョンヤンで我々が眼にした経済状態の改善を考えればとりわけそうである。密輸網を規制する努力は必要。 新しいウラン濃縮施設の建設を終え、新しい原子炉を建設中であることが、制裁が失敗していることを示唆している
北の態度平和条約と制裁措置の解除について話し合うために六者協議に戻ることを北側は希望。非核化についてピョンヤンが真剣であることを示すものはない。北朝鮮は、2005年9月の六ヶ国共同声明に従った非核化を指示すると表明。互いに敵意を持たないとした2000年10月の共同コミュニケが良い出発点となると語った 2000年に発表された米朝共同コミュニケを米国が尊重すれば核開発を中断できると説明。濃縮プログラムを停止し、逆転させる用意があると説明。
プルトニウム生産 電気出力5000kWの実験炉は休止状態だが、半年で運転再開かと推定(5万キロワットの方は解体中)。1炉心分に十分なの未使用燃料は保存中。現在のところこれ以上プルトニウムあるいはプルトニウム爆弾を作らないと決めた模様。 黒鉛減速ガス冷却炉用の未使用燃料を第三国に搬出する用意があると北側説明。交換条件は、米国が北朝鮮に「敵意を持たない」との約束をすること。
保有プルトニウム 24-42kg。初歩的な核爆弾4-8個分。核兵器1個当たり2-5kgのプルトニウムを使うとするなら、6-18個分のプルトニウムを保有。中央推定値は、12個分。 
米国がとるべき政策 北朝鮮の核の進展を制限するとともに緊張を緩和することが必要。核爆弾の代わりに原子力発電の追求のみに向かうよう促すべく交渉すべき。共同コミュニケに沿って北朝鮮の基本的不安感に対処するとの一つのイエスと引き替えに次の三つに対するノーを追求すべき。より多くの核爆弾、より高度の核爆弾、輸出。進むべき道は、中国の協力を得つつ外交を進めること、そして、北朝鮮の核拡散・秘密調達プログラムを阻止する強固な国際体制を実施すること。「あの連中と話をするのは非常に難しいのは分かっているが、それ以外の方法はない。」
哨戒艦天安爆破事件北側、改めて関与を否定 
注1.高濃縮ウランの有意量:25kg有意量は、これだけなくなっていれば、核兵器場1発できているものと思えと「国際原子力機関(IAEA)」が定めた量。高濃縮ウランの定義は、ウラン235の含有率が20%以上のもの。高濃縮ウランの場合、有意量は、ウラン235の量だけを計算したもの。実際の核兵器は、ウラン235の含有率が90%以上のものを使うが、あらゆるレベルの高濃縮ウランで核兵器が製造できるとされている。なお、25kgというのは、 長崎型の構造でプルトニウムの代わりに高濃縮ウランを使った場合の量。 広島で使われたのは、平均80%濃縮ウラン、約64kg。
注2.遠心分離機の型イランがパキスタンのカーン博士から入手したのがP(パキスタン)1型。独・英・蘭の共同会社ウレンコの技術の初歩のもの(オランダの設計)をカーンがコピー。ローター(回転胴)はアルミニウム合金からなる。ウレンコのプロジェクトとしてドイツが開発したG(ドイツ)2型をパキスタンがコピーしたのがP2。ローターは特殊鋼からなる。北はP1・P2の設計・実物キットをカーンより入手。イランは、現在ナタンツ燃料濃縮施設で4000基のP1型遠心分離機を使って濃縮中。同施設のP1の総数は9000基以上。

プリチャード/フィンマン報告 2010年12月2日

Korea Insight - 12/02/2010

北朝鮮側説明 原子力総局の高官

「我々は、誰も信じるなという些か重大な教訓を得た。だから、わが国におけるエネルギー問題を解決するためには、我々は我々自身に頼る必要がある。従って、自前の軽水炉を開発する政治的決定をした。六者協議のない間、我々は、軽水炉の建設を開始した。我々は、もう時間を浪費することなく軽水炉燃料サイクルを完成するために最善を尽くしている。我々は、原子力の能力を増強するために、研究開発に打ち込んでいる。」

プリチャードによる評価

「平和条約と制裁措置の解除について話し合うために六者協議に戻ることを北側は希望している。非核化についてピョンヤンが真剣であることを示すものはない。」

「ピョンヤンは、様々な国際的制裁措置の解除を何とかすることには関心を持っている。さらに、北朝鮮の高官らは、平常化が達成されない限り、非核化は不可能だと述べた。彼らは、平和体制・平常化の達成における並行的な動きを提案し、別の分野で進展のないまま一つの分野だけで進展を得ようと言うのは実際的ではないと述べた。彼らは、非核化に関する将来のいかなる話し合いも、半島全体に焦点を当てることになると述べ、韓国に米国の核兵器があるとの懸念を北朝鮮が持ち続けていることを示唆した。ある高官は、米国が非武装地帯に核地雷を置いているとの考えを北朝鮮の軍部が持っていると述べた。」

ヘッカー

2010年11月20日付け報告(pdf)

北朝鮮側の説明:ヨンビョン技術チーム及び原子力総局(General Bureau of Atomic Energy)の代表

「1980年代及び1990年代、我々は、軽水炉(電気出力200万kW分)を2003年までに提供されるのと引き替えに我々の原子炉を放棄することに同意した。1990年代、我々は、50MWe(電気出力5万kW)及び200MWe(電気出力20万kW)の原子炉(ガス・黒鉛炉型)を建設した。今では、コンクリート構造物の廃墟と鉄くずとなっている。我々はわが国のエネルギー需要に貢献できていない。それで、我々は、新たな出発をすることにした。生き残るために、我々は、我々独自の軽水炉を建設することにした。2009年4月15日、外務省が、我々は我々独自の軽水炉燃料サイクル計画を進めると発表した。

[2009年の核実験に続く米国技術チームと国際査察管追放後]我々は、5MWe(電気出力5000kW)の使用済み燃料の取り出しを終え、再処理をし、これを兵器化のために軍部に引き渡した。我々の原子力計画は、期待通りには行っておらず、我々は、電気を供給できていない。そしてそれは、わが国の経済状況に影響を与えている。我々は、電力問題を解決するために我々の経済的資源を使う。我々は、六者協議と2005年9月19日合意を進める用意があるが、ポジティブな合意を待っていることはできない。我々は、我々自身の問題を解決するために最善を尽くしている。我々は、我々のセンターを軽水炉及びパイロット濃縮施設に転換する。ウラン濃縮の開発は優先的課題である。我々は、これに関してある程度の困難に直面するだろうが、軽水炉燃料サイクル開発を進めている。

我々は、軽水炉のサイトを決めた。そしてウラン濃縮のサイトも。これは第一段階であり、だから優先課題だ。建設は完成しており、施設は運転状態である。あなた方は、この施設を見る第一号となる。我々は、軽水炉の建設サイトを韓米経済研究所の代表団(チャールズ・L・プリチャードと同僚達)に見せた。」

p.2


ヘッカー報告の情報まとめ

軽水炉
  • 軽水炉実験炉25-30MWe(電気出力2万5000-3万kW)
  • 建設初期の段階
  • 建設開始:2010年7月31日
  • 穴のおよその大きさ:40メートルx 50メートル (深さ7メートル)
  • コンクリートの基礎:1辺28メートルの正方形
  • 原子炉容器用のコンクリートの丸いプラットフォームが見える
  • 格納容器は訪問時約1メートルの高さ
  • 完成時 直径22メートル、厚さ0.9メートル、高さ40メートルとの説明
  • 熱出力100MW(10万kW)
  • 転換率30%
    (ヘッカーはこれから25─30MWe(電気出力2万5000─3万kW)と推定
  • 蒸気発生器2基建設予定
  • 地域に電力を供給すると同時に、国全体の送電網に繋ぐ
  • 3.5%の濃縮ウラン使用
  • 燃料棒被覆管の素材については未定
  • 2012運転開始計画 (金日成の生誕100周年
    「楽観的に過ぎると思われる」
ウラン濃縮施設
  • 近代的な小さな工業規模のウラン濃縮施設の入った新しい施設
  • 遠心分離機2000基
  • 完成したばかりで、新しい原子炉用の低濃縮ウランを製造中という
  • 2009年4月に建設開始との説明
  • 120メートルの青い屋根の建物
  • 遠心分離機:直径20cm、高さ1.8メートルと推定。
  • 2000台、カスケード6と説明
  • パキスタンの古い型P-1ではないとの返事。
  • すべて自前だが、アルメロ(オランダ)と六ヶ所村の施設の遠心分離機をモデルにしているとの説明。
  • 8000kgSWU/年
  • 平均濃縮度は3.5%、テールは0.27%
    (軽水炉の設計者らは、2.2%-4%とするよう要請)

P1型かと聞くと、ノーと返事。回転胴は鉄を含むアルミ合金との説明(つまり、おそらくはP2型遠心分離機ということになる)。回転胴にはシングル・ベローズがあるとの答え。回転胴ケースはアルミ合金でできているという。すべての部品が国内生産と主張。

ヘッカー論評抜粋

「これらの施設は、主として、民生用原子力のためのものと見える。北朝鮮の軍事能力を高めるためではないようだ。後者が目的なら、休眠中の電気出力5000kWのガス・黒鉛炉を再開させる、新しくもっと大きなガス・黒鉛炉を建設する、さらに核実験を行うなどした方が手っ取り早い。しかし、ヨンビョンでは、プルトニウム生産の継続を示すものを我々は眼にしなかった。とは言え、ウラン濃縮施設は、簡単に、核爆弾用高濃縮ウランの製造に使う施設に変えることができ、また、軽水炉は、核爆弾用に適した──北朝鮮の現在のものと比べるとずっと劣るが──プルトニウムを生産する方式で運転することができる。

今回の訪問は、平壌の核の方向に関する幾つかの疑問に答えを提供した。しかし、多くのさらなる疑問を持たせるものともなった。これらの状況に米国及びそのパートナーが如何に対応するかが、ピョンヤンが核爆弾にさらに依存するようになるか、原子力発電の方向に向かうようになるかに影響を与えることになるかもしれない。北朝鮮は、経済的理由及び象徴的理由の両方のために原子力発電を欲しがっている。」

p.1


「5MWeの原子炉は、2007年7月に運転を停止して以来、再開されていない。使用済み燃料は、北朝鮮による2009年4月の六者協議停止の後再処理された。新しい燃料は製造されていない。1994年以前に製造された未使用の燃料(1炉心分に十分)はまだ貯蔵状態にある。ピョンヤンは、今の所は、これ以上プルトニウムあるいはプルトニウム型爆弾を製造しないことを決めたようである。私の見るところ、北朝鮮は、すべてのプルトニウム関連活動を約6ヵ月で再開でき、しばらくの間は、年間約核爆弾1発分のプルトニウムを製造できるようなる。」

p.6


「[ウラン濃縮施設は彼らの]主張通り生産開始を達成しているのか、あるいは、恐らく、近いうちにそうする能力を持っているのだろう。8000kgSWU/年の能力だと、北朝鮮は、2トンの低濃縮ウランを製造することができる。あるいは、カスケードの配置を変えれば、40kgの高濃縮ウランを製造できる。」

p.7


「北朝鮮の動機についての理解はさらに難しい。Daedalusの記事(英文:有料)で、私は、最初は安全保障に基づく核爆弾追求の動機が、重要な国内的・国際的側面を持つようになったことを示した。ピョンヤンは、米国の敵対的政策が続く限り抑止力としてその核兵器を維持し続けると明確に述べている。今回の訪問で会った北朝鮮の高官らは、米朝関係に根本的な変化がない限り非核化はないことを極めて明確にしている。Daedalusの記事でそしてその後の記事において、私は、ピョンヤンは、原子力発電を真剣に追求してきたと論じた。原子力発電は、実際的及び象徴的両面の重要性を持っている。北朝鮮は軽水炉を原子力への近代的な道とみなしている。北朝鮮は、過去において何度が核兵器用の材料を生み出す原子炉を軽水炉とする用意があることを示している。今回は、私たちはこう告げられた。「もうあきらめた。我々は、自前でやる。」我々は、北朝鮮が2009年4月に軽水炉を建設し、濃縮を含め、自分たちで燃料を作る意向を発表したことを思い出すように言われた。「誰も我々を信じなかった。あなたも含めて、ヘッカー博士」と彼らは言った。彼らは、ウラン濃縮プログラムは軽水炉・原子力発電に向けた不可欠の措置だと、ある程度の正当性を持って、主張することができる。

この平和目的プログラムは、軍事目的用に転用できるが、今回の新事実は、現時点での米国あるいはその同盟国の安全保障上の計算を変えるものではないと私は考える。ピョンヤンは、彼らが持っている数発のプルトニウム爆弾から既に相当の政治的影響力を得ている。ミサイルの搭載出来るもっと洗練された核爆弾の製造は、高濃縮ウランよりもプルトニウムを使った方がやりやすい。しかし、大量の高濃縮ウランの生産とさらなる核実験により、核兵器の量を増やすことは可能である。もっと問題なのは、核分裂性物資あるいはその生産手段──今や遠心分離機も含まれる──の輸出の可能性である。これらの理由により、米国と北朝鮮は手を拱いていてはならない。」

p.7-8


「一つはっきりしていることがある。これらの新事実は、政治的な嵐を巻き起こすだろう。ピョンヤンは信用できないと言うことを証明するのにこれらの事実を使うものもあるだろう。ウラン濃縮に関してピョンヤンを問い詰め合意枠組みの終焉をもたらすことになった2002年10月の米国の決定を正当化するのに使うものもあるだろう。北朝鮮は、原子力を開発するという主権国家のとしての権利を持っていると論じるものもあるだろう。おそらくは、中国とロシアがそうするだろう。核技術の持つ民生・軍事両用の性格が問題を複雑にしている。ピョンヤンの最近の行動は、渇望されている電力をいずれ発電することを主として目指すものであるのかもしれない。しかし、ウラン濃縮の軍事的潜在力は深刻なものである。ピョンヤンが米国やその同盟国にとって受け入れられる条件で六者協議に戻ってくるのを辛抱強く待っているというのは問題を悪化させるだけなのは明らかである。軍事的攻撃は問題外である。制裁を強化するというのも同じく袋小路である。核プログラムで北朝鮮が達成した成果とピョンヤンで我々が眼にした経済状態の改善を考えればとりわけそうである。唯一の望みはエンゲージメントのようである。米国とそのパートナーは、ピョンヤンが核爆弾の代わりに原子力発電の追求にいよいよ向かうよう促すべく、この最新の核の事態に対応すべきである。これは、北朝鮮の基本的不安感に対処することを必要とする。北朝鮮の政府高官は、我々に、マデレーン・オルブライトコム長官の平壌訪問に到った2000年10月の共同コミュニケは、良い出発点となると語った。」

p.8


フォーリン・アフェアーズ誌掲載のヘッカー報告 2010年12月9日

「2002年の対決の悲惨な結果をもたらしたのは、間違ったインテリジェンスではなく、結果について準備しないまま合意枠組みを終わらせたブッシュ政権の誤った政治的決定である。」

シーガル関連記事

北「米朝共同コミュニケ尊重すれば核開発中断可能」 聯合ニュース2010年11月23日

「北朝鮮が、2000年に発表された米朝共同コミュニケを米国が尊重すれば核開発を中断できるというメッセージを、15〜18日に平壌を訪問した 米国の安全保障問題の専門家、リオン・シーガル氏に伝えていたことが分かった。米国営放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)が23日に報じた・・・。」

N. Korea suggests discarding one of its nuclear arms programs in deal, John Pomfret (Monday, November 2, ワシントン/ポスト紙)

「最近北朝鮮は、政策の変更の可能性に向けてドアを開いている。兵器級プルトニウム生産の鍵になる材料である[黒鉛減速ガス冷却炉用]未使用燃料を第三国に搬出する用意があるとシーガル及び元米国政府関係者のジョエル・ウィット並びモートン・アブラモウィッツに伝えている。交換条件は、米国が北朝鮮に「敵意を持たない」との約束をすることだ。」

「シーガルは、ウラン濃縮プログラムについても、北朝鮮が「このプログラムを停止し、逆転させる用意があることを明確に表明した」と述べている。」

Obama's Only Choice on North Korea, Tim Shorrock ( November 27, 2010 Originally published in The Daily Beast, November 24, 2010)

「新しいウラン濃縮施設の建設を終え、新しい原子炉を建設中であることが、制裁が失敗していることを示唆しているとシーガルは主張する。直接交渉をしなければ、北朝鮮は、ウラン濃縮を進め、ヨンビョンの原子炉の運転を再開し、2006年のようにまた核実験やミサイル実験することになる。「あの連中と話をするのは非常に難しいのは分かっているが、それ以外の方法はない。」

ISIS報告

2010年11月21日 ウラン濃縮施設問題 Satellite Image Shows Building Containing Centrifuges in North Korea

2010年10月の報告書(pdf)で「データによれば、北朝鮮は少なくともパイロットプラントを建設する能力を持っている」(パイロットプラントは、500-1000基の遠心分離機をもつものを意味する)と論じていたから、新事実はまったく意外ということではない。

ニューヨーク・タイムズ紙は、2009年4月の時点で、ヨンビョンのこの建物に問題のプラントはなかったと米政府関係者が結論づけていると報じている。

「これほど迅速に2000基の遠心分離機を備え付けることができるということは、このプラントが北朝鮮にとって初めてのガス遠心分離機プラントではないかもしれないことを示唆している。北は、以前に別のプラントを建設していて、それをヨンビョンに移転したか、最初の、おそらくは、もっと小さな最初のプラントを運転開始させた経験に基づいて、別のものを作った可能性がある。」

「ヘッカーは、プラント全体の濃縮能力を、8000分離作業単位(SWU)/年と報告している。2000基の遠心分離機だと、1基当たり平均4SWU/年となる。元々のG2よりも少し低い。このドイツの装置は、1基当たり5SWU/年の能力を持っていた。パキスタンによってコピーされ、P2と呼ばれている。ヘッカーは、6つのカスケードがあると報告している。カスケード当たり平均333基の遠心分離機となる。この数字は、カーン・ネットワークがリビアに提供したパキスタンの設計における低濃縮ウラン製造用カスケードのもののちょうど2倍に近い。この違いの理由は不明である。」

「北朝鮮は、プラントは低濃縮ウランを製造するための構成になっていると示唆している。そうなのかもしれない。しかし、遠心分離機は、柔軟性のあるもので、このプラントは兵器級ウランを作ることもできる。P2型遠心分離機についての情報や、リビアに提供された遠心分離機プラントの設計によると、P2型遠心分離機2000基で、別の構成にすると、年間約33kgの兵器級ウランを製造することができる。北朝鮮の遠心分離機は、平均の濃縮アウトプットが低いため、この数字は、下げる必要があり、年間約26kgの兵器級ウランの製造となる。これは、ヘッカーの推定より低い。」


核情報ホーム | 連絡先 | ©2010 Kakujoho