画像はBack from the Brinkより
米国の州や自治体の議会で、米国政府に核兵器禁止条約の受け入れと、核戦争防止のための緊急措置の実施を同時に要請する動きが広まりつつあります。これは、「社会的責任を考える医師の会(PSR)」と「憂慮する科学者同盟(UCS)」が2017年秋に構想した「瀬戸際からの生還:核戦争防止のコール(呼びかけ・要請)」というキャンペーンがもたらしたものです。条約に即座に署名し批准せよと迫るのではなく、考えとして受け入れるよう求め、それに加えて、核兵器の先制不使用を宣言したり、数分で核兵器を発射できる一触即発の警戒態勢を解除したりすることよって核戦争の可能性を小さくすることを要請しているのが特徴です。キャンペーンは、現在では反核・核軍縮・平和団体、宗教関連団体など200団体以上の支持を得ています。
「核戦争防止のコール」の構成
コールは、「核戦争の危機は現実のものであり、増大しつつある。我々は、人類全体を脅威にさらす壊滅の瀬戸際に向かって歩んでいる。今、行動を起こさなければならない」と述べ、米国が講じるべき「常識的な5つの措置」を提示しています。そして、諸団体・市民に対し、このコールを支持し、政府にその採用を働きかけることを求めています。
私たちは、米国に対し、以下の措置を講じることによって、核戦争防止のための世界的取り組みの先頭に立つよう求める。
- 核兵器を先に使うオプションの放棄を宣言する
- 核攻撃を開始する上での米大統領の独占的かつチェック体制のない権限を停止する
- 米国の核兵器を一触即発の警戒態勢から外す
- 米国の核兵器すべてを機能強化型に変える計画をキャンセルする
- 核兵器全廃のための核兵器保有国間の検証可能な協定を積極的に追及する
(*項目5の追加説明。「…米国は、NPTの下での義務を果たし、他の核保有国と、時間を限った検証可能で実施可能な核兵器解体の協定のための交渉を開始すべきである─核兵器禁止条約に参加できるようにするため」。)
コールは、さらに次のような背景情報を提供しています。
冷戦のピーク時以来、米ロは5万発以上の核弾頭を解体してきたが、いまだに1万5000発が存在しており、人類の存続にとって受け入れようのないリスクとなっている。これらの核兵器の95%が米ロのものである。残りは、他の7カ国が保有している。…この一部でも世界的気候変動と飢餓を招き…大規模な核戦争となれば何億もの人々が殺され、想像を絶する環境破壊が生じる。…これまですんでのところで核戦争を免れたケースがいくつもある。…
我が国の核兵器の機能強化のために計画されている1.2兆ドルの支出は、世界的核軍拡競争に油を注ぎ、これらの危険をさらに高めるとともに、米国民の福祉を保証するのに決定的に必要な資金を奪い去ってしまう。
核戦争に向かって進むこの行進に代わる道がある。2017年7月に、122カ国が核兵器禁止条約を締結することにより、すべての核兵器の撤廃を呼びかけた。米国は、我が国の安全保障政策の最重要項目としてこの呼びかけを受け入れるべきである。
実際の各議会決議案では、大体の場合、この背景情報が前文で使われ、本文では条約の受け入れと5つの措置の実施が呼び掛けられるという構成になっています。
2018年の大都市での採択から今年の首都での採択へ
2018年8月6日に映画『ヘアスプレー』の舞台となったメリーランド州ボルティモア市(首都ワシントンDC近郊)の議会が、そして同8日にカリフォルニア州ロサンゼルス市の議会がコール式決議を挙げて注目を浴びます。さらに、同28日にカリフォルニア州の議会が続きます。
条約の推進の原動力の一つとなった「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」が同年11月に始めた「シティーズ・キャンぺーン」はこれに触発されたものだとPSRは述べています。ただし、こちらは条約支持決議に焦点を当てたものです。
5月19日現在、コール式決議を採択した自治体は31に上っています。ユタ州ソルトレイク市を除くと、東部諸州とカリフォルニア州に集中していますが、今年の3月5日の首都ワシントンDC議会での決議採択が弾みになって全国的に広がることをキャンペーン関係者は期待しています。また、首都での採択と同じ日に、ニュージャージー州の議会で、さらには、4月10日には連邦議会下院で同様の決議案が提出されています。(ニュージャージー州議会に提出された決議案は、5月23日、賛成多数で採択されました。)
UCSのスティーブン・ヤング上級ワシントン代表はキャンペーンの意義について、「核情報」へのメールで次のように説明しています。
軽はずみな発言や核戦争の脅しなどを行うドナルド・トランプ大統領の存在は、当然のことながら、核兵器問題に関する米国人の憂慮のレベルを高めている。そういう文脈において、私たちは、多くの米国人が感じている憂慮の受け皿として、一連の重要な措置を提示する新しい運動を立ち上げることにした。それは、緊迫した核戦争の脅威に対処する一方、米国の核兵器全体の更新計画に終止符を打ち、核兵器廃絶のゴールに向けて計画的に進むためのものだ。私たちは、核廃絶の目標に向けて懸命に努力しながら、同時に、核戦争の可能性を減らすための緊急措置を講じる必要がある。
オバマ政権末期に核の先制不使用宣言が検討された際、宣言による抑止力の弱体化を心配した日本が核武装する可能性がある(ケリー国務長官)というのが断念の理由の一つに挙げられました。上述の米国での決議案採択の動きや核兵器禁止条約について考える際、忘れてはならない点です。
初出:平和フォーラム/原水禁・News Paper 2019. 6
参考
- 先制不使用断念──日本の核武装の懸念が一つの理由と米紙 核情報 2016. 9. 7
印刷用加筆版(pdf) - Back from the Brink
決議採択の市町村のリスト(リンク付き)Who’s on board
決議文の例(英文)
- ボルティモア市 2018年8月6日
- ロサンゼルス市 2018年8月8日
- カリフォルニア州 2018年8月28日
- ワシントンDC 2019年3月5日
- ニュージャージー州 2019年5月23日
- ニュージャージー州決議に関する論説(同州の教授らの寄稿)(英文)
Let’s not spend $1.7 trillion on our nukes, a group of N.J. professors say. Let’s get rid of them, and the threat of a catastrophic war
Posted May 26, 2019 By Zia Mian, Alan Robock and Sharon Weiner - 米国連邦議会下院 提出 2019年4月10日