核情報

2017.12.21

核兵器発射ボタンの指、米上院で41年ぶりに議論
軍人が大統領を監視?

2017年11月14日、米国上院外交委員会は大統領の核兵器発射命令に関する公聴会を開きました。この問題についての公聴会は41年ぶりのことです。次回選挙の不出馬を表明しているボブ・コーカー委員長(共和党)は、秋に「彼がしているようなコメントでは我々は第3次世界大戦に向かっていることになるかもしれない」とトランプ大統領の言動について懸念を表明していました(ニューヨーク・タイムズ10月9日)。


  1. 大統領の権限を制限する法案と公聴会
  2. 証人らは大統領の権限制限に否定的
  3. 核兵器の本質にかかわる問題
  • 資料編
    1. 公聴会
    2. 記事
    3. 法案

    この日の公聴会では「大統領がこの命令を出す唯一の権限を持っている。それが敵からの核攻撃に対応するものであるとないとにかかわらず。この命令が出され、それが本物であることが確認されれば、これを撤回する方法はない」と述べています。公聴会開催の背景には、大統領の権限を制限するための法案を提出しているエドワード・マーキー上院議員(民主党)らの働きかけがありました。元戦略軍司令官ら3人の証人は、現状でも大統領は軍部などのアドバイザーらと協議する体制になっており、このような制限を課すことには慎重であるべきだと主張しました。マーキー上院議員は「将軍たちを信頼して大統領の監視役を任すべきとは思わない」と応じました。

    大統領の権限を制限する法案と公聴会

    マーキー上院議員らの法案は次の通りです。

    1. 議会の宣戦布告なしの核兵器先制使用を禁止する法案(マーキー上院議員及びテッド・リュウ下院議員(民主党)、トランプ大統領就任から4日後の2017年1月24日提出)
    2. 議会の承認のない北朝鮮に対する先制攻撃を禁止する法案(マーキー上院議員及びジョン・コニャーズ下院議員(民主党)、2017年10月26日提出。コニャーズ議員が12月5日にスキャンダルで辞職したため先行き不透明)
    3. 議会の承認のない北朝鮮に対する先制攻撃戦争を禁止する法案(クリストファー・マーフィー上院議員10月31日提出)
    4. 核兵器先制不使用を米国の政策とする法案(下院軍事委員会アダム・スミス民主党筆頭委員がナンシー・ペロシ下院民主党院内総務の支持を得て2017年11月15日提出)

    今回の公聴会が開かれたことは、「北朝鮮はこれ以上米国を脅さない方がいい。世界がこれまで見たことのないような怒りと炎に見舞われることになる」(8月8日)などと発言しているトランプ大統領が核兵器使用命令を出せば数分のうちに核兵器が発射されてしまう現状についての懸念が広がっていることを示しています。

    証人らは大統領の権限制限に否定的

    3人の証人の発言は次のようなものでした。

    ロバート・ケーラー元戦略軍司令官(空軍大将)

    「米国軍部は大統領の命令があればそれが何であれ目を瞑って従うわけではない。核兵器使用の大統領命令は違法なものであってはならない。」(18日、現在の戦略軍司令官(空軍大将)ジョン・ハイテンがカナダ・ハリファックスで開かれた国際安全保障会議で、同様の発言。大統領が違法な命令を出せば、軍部は合法的な代替案を「提案する」というもの。)

    ブライアン・マッキーオン元政策担当国防次官代理(オバマ政権)

    「国家安全保障会議(NSC)や文民及び軍部のアドバイザーと協議するようになっている。」(差し迫った脅威となっていない核兵器国と戦争を始めることを考慮しているなら、そのような行為は議会の承認を必要とすると説明。トム・ユーダル上院議員(民主党)に「差し迫った脅威」の定義を聞かれ、状況によると答えた。要するに、大統領が独自に判断できるということ)。

    ピーター・フィーバー元NSCスタッフ(クリントン及ブッシュ(子)政権)

    軍部には「命令は合法だとの推定がある」、「状況によっては他の閣僚らの承認を必要とするようにするなど、改善の可能性を考えてみてもいい。」
    ユーダル上院議員が核兵器の「先制使用についての決定を有効なものにするには少なくとももう一人の承認を必要とするようにするのが理にかなっていないか」と問いかけましたが、3人ともこのような変更に反対しました。
    現状でも文民が関与できるという話について、ウイリアム・ペリー元国防長官(クリントン政権)はそんなことにはなっていないと言います。「命令は直接戦略軍に行くかもしれない。国防長官はこの過程に必ず入るようにはなっていない。だから、5分、6分、7分というような決定において、国防長官は恐らく、時すでに遅しという段階まで耳にしないだろう。もし、時間があって、大統領が国防長官と相談したとしても、それは助言にすぎない。それだけだ」(ポリティコ、2017年11月14日)。
    コニャーズ・マーキー法案を通過させるべきだというペリー元国防長官は「今は通過しそうにないが、状況は変わるかもしれない」と述べています。

    核兵器の本質にかかわる問題

    リュウ・マーキー法案の支持者は増えてきています。現在、上院は13人(一人は無所属)、下院73人(一人は共和党)。上院では民主党議員の4分の1、下院では3分の1の支持を得ているということです。マーキー上院議員は、公聴会で「米国あるいは同盟国に核攻撃があったというのでなければ、一人の人間が人類によって考え出された最も大きな破壊力を一方的に解き放つ権限を持つべきではない」と述べました。今回の焦点は米国のトランプ大統領ですが、特定の国の特定の指導者に関わる問題というより、核兵器の本質にかかわる問題です。


    • *本稿は主として米プラウシェアーズ財団のトム・コリーナ(ディフェンス・ワン、17年11月14日)と米NGO軍部管理軍縮協会(ACA)のキングストン・レイフ(ACA、17年12月1日)及び米憂慮する科学者同盟(UCS)のスティーブン・ヤング(私信、17年12月)に依拠。


    資料編

    公聴会

    証人

    • General C. Robert Kehler, USAF (Ret.)
      Former Commander
      United States Strategic Command
      Alexandria, VA
      証言(英文 pdf)
    • Dr. Peter D. Feaver
      Professor Of Political Science And Public Policy
      Duke University
      Durham, NC
      証言(英文 pdf)
    • The Honorable Brian McKeon
      Former Acting Under Secretary For Policy
      U.S. Department of Defense
      Washington, D.C.
      証言(英文 pdf)

    記事

    法案


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