米国下院外交委員会のハワード・L・バーマン委員長が、8月5日、コンドリーザ・ライス国務長官に書簡を送り、インドが核実験を行った場合には原子力協力はすべて終了するなどの条件を付けるのでなければ、8月末に予定されている「原子力供給国グループ(NSG)」の会合で、インドに対する例外措置を認めないよう求めました。
米国の2006年米印原子力協力法は、インドが核実験を行えば、原子力協力が終了すること、それまでに提供した核物質等の返還を求める権利を米国が有することなどを米印原子力協力協定に明記するようにと定めています。協定にはこのような定めがありません。書簡は、自国のすべての原子力関連活動についてIAEAが監視する「包括的保障措置協定」をIAEAと結んだ国以外との原子力協力を禁止したNSGのガイドラインにおけるインドへの免除措置にこのような規定が追加されるのでなければ、米印原子力協力協定を議会として認めないとの態度を表明したものです。バーマン委員長は、米印原子力協力そのものには賛成の立場を取っています。
書簡は、また、無条件でインドに対する例外措置を認めた場合、米国での審議に時間がかかると、その間に米国以外のNSG参加国がインドとの原子力協力を始めてしまって、米国の企業が不利になることについて懸念を表明しています。そして、米印原子力協力法に従った規定をインドに対する免除措置に入れるつもりがないのであれば、現政権中は、「インドに関するNSGの決定を求める米国のすべての試みを中止するよう」に書簡は求めています。
さて、日本はどうするのでしょう?例外措置を無条件で認めながら、一応、NPTと包括的核実験禁止条約(CTBT)に参加するよう呼びかける程度のジェスチャーでお茶を濁すつもりでしょうか。
下に書簡の粗訳を試みました。
参考:
- IAEA理事会でインド保障措置協定を支持した日本 NPT・CTBT加盟の呼びかけはアリバイ確保か――8月21-22日の会合で問われる真価
- インドとの原子力協力、米国だけ「置いてきぼり」の可能性 日本は、NPT未加盟国との原子力協力は認めないとの立場を
バーマン書簡(英文、pdf)
バーマン書簡粗訳
国務長官
コンドリーザ・ライス様
2008年8月5日
拝啓
私は、インドの友人であり、米印原子力協力の支持者です。しかし、政府が「原子力供給国グループ(NSG)」のガイドラインにおけるインドのための免除を、2006年ヘンリ・ハイド平和的原子力協力法の条件をほとんどあるいはまったく入れていない形で求める、あるいは、受け入れるつもりであるようなのは全く理解できないことです。このような免除は、米国の法律に矛盾し、競争面で米国の企業をひどく不利な状況に置くことになり、また、決定的に重要な米国の核不拡散の目的を損なうことになります。それは、また、インドとの原子力協力に対する議会の支持を、今年、そして、将来も、危機にさらすことになるでしょう。
昨年、わたしは、決議H.Res.711を提出しました。これは、大統領は、NSGガイドラインにおけるインドのための免除措置で、ハイド法の完全に従わず重要な条項を取り入れていないものについては、支持すべきでないとの下院の意向を表明するものです。重要な条項には次のものが含まれます:インドが核爆発装置を爆発させた場合、あるいは、IAEAがインドがその保障措置上の約束に違反したと判断した場合におけるNSG参加国によるすべての原子力通商の即座の停止;インドとIAEAの間で締結される保障措置協定は、「民生用」と指定されたすべての原子力施設、物質、機器、及び技術に関し、IAEAの基準、原則、慣行に従って、永続的な保障措置を定めるものでなければならないとの規定;NSGのいかなる参加国であれ、インドに対して濃縮、再処理、及び重水生産技術を移転することの禁止;NSG供給国はインドに対して永続的かつ無条件の保障措置の下に置かれた施設以外での使用済み燃料の再処理についての同意をしてはならないとの明記。
今年2月13日、外交委員会に出席された際、あなたは、私に対し、NSGのいかなる決定も「ハイド法の規定に完全に従ったものでなければならない」と確約しました。従って、当然のこととして、私は、あなたが、NSGへの米国代表に対し、ハイド法のすべての条件を忠実に反映していないいかなるインド免除も、これを求める、あるいは、支持することのないよう指示を与えることと期待します。
現在のNSGの議長国ドイツは、インドの免除について検討するためのNSG総会を8月末に開催し、そして、場合によっては2度目の総会を9月初旬に開催する意向であると理解しています。しかし、これらの総会の期間中にインドの免除に関連する多くの複雑な問題についてコンセンサスを得ることができ、また、政府がインド協定を、議会に対し、9月8日の開会直後に提出できたとしても、議会にとって、9月26日の閉会予定日の前に、協定、関連した保障措置協定、それにNSGの決定に関するすべての問題と詳細を十分に検討し、これらが米国及び世界の核不拡散スタンダードにあたえる影響について確認するための十分な時間はありそうにありません。政府が、ハイド法の条件を含んでいないNSG免除措置を受け入れれば、現在の法律の規定に反する協定を検討する検討しようとのいかなる努力も不可能になります。
この文脈において、私は、また、加速されたNSGの決定とインド協定に関する議会の決定との間の相当の時間差の可能性について深く危惧しています。この時間差は、他の国々に対し、インド政府との間の商業的原子力契約を確保する上で、許容できない有利なスタートを切らせることになり、米国の企業を競争上不利な立場に立たせることになります。米国政府が、その立場を変え、ハイド法に完全に合致する免除しか受け入れられないと他のNSG諸国に明らかにする意志がないのであれば、私は、あなたに対し、この政権の残りの期間中は、インドに関するNSGの決定を求める米国のすべての試みを中止するよう可能な限りの強さで要請します。議会の会期が遅い段階にあることを考えれば、完全で真剣な審議に付すことのできる次会期においてこの複雑な問題を検討する方がいいでしょう。
敬具
ハワード・L・バーマン