2008年07月31日

インドとの原子力協力、米国だけ「置いてきぼり」の可能性

日本は、NPT未加盟国との原子力協力は認めないとの立場を

「核不拡散条約(NPT)」に加盟せず核兵器開発を続けているインドとの米国の原子力協力協定を発効させるのに必要なインド・「国際原子力機関(IAEA)」保障措置協定についのて審議が8月1日にIAEA理事会で行われます。しかし、同理事会やそれに続く「原子力供給国グループ(NSG)」でインドとの国際的原子力協力が可能になっても、当の米国だけはできなくなるという可能性が議論されています。

これは、インドとの原子力協力を認めた米国原子力協力推進法(ハイド法:2006年12月)が、米印原子力協力協定の発効には、IAEAとの保障措置協定とNSGのルール変更の文書を受け取った後、上下両院が協定支持決議を上げることが必要と定めているためです。

2007年8月に発表された米印原子力協力協定のテキストは、ハイド法に反する内容になっています。ハイド法は、インドが核実験を行った場合には、協力は停止となり、インドに輸出された核物質などを変換することを求める権利を米国側が持つことを協定に明記しなければならないとしています。ところが、テキストにはそのような条項は入っていません。

論理的には、この点だけをとっても、米国議会は協定支持決議を出せないことになります。つまり、インドとの原子力協力が国際的に認められながら、米国だけは、それができないという皮肉な事態が発生する可能性があるのです。

この点についてインドの「核軍縮・平和連合(CNDP)」は、、2007年2月に指摘していました。

非常に面白い点は−−驚くべきことにマスコミの注目をまだ浴びていないのだが−−「米印合意」がNSGの障壁を通過しながらも、何らかの理由により米国議会でうまくいかなかった場合、NSGの他の44ヶ国は、その変更された規則に従い、核関連の商売ができるようになるが、米国はできないということだ。

これこそ、ロシア、フランス、カナダの競争相手が、時々、夢想していることにちがいない。

『ピース・ナウ』 「核軍縮・平和連合(CNDP)」機関誌 2007年2月号 (英文, pdf)

また、米国は核兵器計画に転用さえる恐れのある再処理・ウラン濃縮技術はインドに提供しないと言っていますが、保障措置協定やNSGの規則変更が認められれば、ロシアやフランスなどがこれを提供する可能性があります。つまり、米国自身の原子力協力はできず、米国企業が他国の競争相手に出し抜かれる格好となる中で、核兵器開発に役立つ技術がインドに渡るという事態が生じかねないということです。(日本が米国の圧力で米印原子力協力実施に向けて協力しながら、米国だけ対印原子力貿易ができなくなった場合日本はどうするのでしょう?)

そのため、NSGでの規則変更の際に条件を付けることを米国側が検討しているとインドの『ヒンドゥー』紙が報じています。。

  1. インドが核実験をしないことをNSG規則変更の実施条件として入れる。
  2. 再処理・ウラン濃縮技術は提供しないことをNSG規則変更の付属条件として入れる。
  3. 米印原子力協力協定が発効するまで、NSG規則変更は実施されないとの条項を入れる。

ここで浮かんでくるのは、次の問題です。

1)上の1. 、2. の条項が入った場合、インドは、これを受け入れられないとしてIAEA保障措置協定を拒否するのか?(協定を承認した国は、梯子を外された格好に?)

2)ロシアなどが、上の3. のような条項は主権を侵すものとして拒否するか。

日本は、このような問題を前に右往左往するのではなく、広島・長崎両市長の要請が述べているとおり、最初からNPT未加盟国との原子力協力は認められないとの立場を貫くべきです。

参考:

『ヒンドゥー』紙記事

投稿者 kano : 2008年07月31日 14:53