9月6日、4日からウイーンで開かれていた「原子力供給国グループ(NSG)」臨時総会は、「国際原子力機関(IAEA)」がその原子力関連活動のすべてを「保障措置」の対象として見張っていない国には原子力関連輸出をしないというガイドラインにおいて、インドを例外扱いする修正案を全会一致で承認しました。総会で承認されたガイドライン修正案「インドとの民生用原子力協力に関するステートメント」を訳出しました。
インド核協力 NPTを揺るがす「例外扱い」 読売新聞社説 9月10日
核保有国拡大を阻止するNPTの理念を覆す決定だ。極めて問題だと言わざるを得ない。
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何らの条件もつけなかったことは将来に禍根を残した。
理解に苦しむ対印原子力協力の解禁 日経新聞社説 9月8日
インドの核実験を契機につくられた原子力機材の輸出規制が、よりによって同国に対し無条件で解禁されるとは理解に苦しむ。核拡散防止の固い決意は、30年も過ぎれば薄らいでしまうのだろうか。
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NSGの承認で対印原子力ビジネスは活発化するだろう。日印原子力協定を結ぶ議論も起きるだろうが、唯一の被爆国として核廃絶を訴える日本まで、無条件でインドに甘い姿勢を示すのは問題である。
インド核協力—歴史に残る誤りだ 朝日新聞社説 9月8日
北朝鮮に続き、イランへも核拡散が強く懸念されている。本来なら、NPTへの信頼を高め、それを基盤に核危機を抑えていくべきなのだ。今回の決定は完全に逆行するものである。
NPTの信頼を高めることは、北朝鮮に核廃棄を迫る日本の安全にも欠かせない政策だ。それなのに日本政府もインドの特別扱いを容認し、日本の核軍縮・不拡散外交への信頼を深く傷つけた。なぜ容認したのか、政府は国民にきちんと説明する責任がある。
インド例外化 核不拡散体制を守れるのか 毎日朝日新聞社説 9月7日
なんとも理解に苦しむ決定である。日本など45カ国が参加する原子力供給国グループ(NSG)の総会は、核拡散防止条約(NPT)に参加していない核兵器保有国インドへの原子力関連輸出を認めた。
最後まで承認を渋った国々には、ブッシュ米大統領自ら説得工作を展開したという。最終的には日本を含め全会一致で承認されたが、秘密会で承認された瞬間、拍手もわかず会場は沈黙が支配したという情報もある。
こんな決定は後世に禍根を残す−−そんな不安を参加国の代表たちは感じたのかもしれない。核兵器の不拡散をめぐる国際社会の良識が、米国の圧力によってねじ曲げられたのではないか、と私たちは強い危機感を覚えざるを得ない。
インドとの民生用原子力協力に関するステートメント(英文pdf)
(3) NSG では、「NSGガイドライン」と呼ばれる原子力関連資機材・技術の輸出国(Suppliers)が守るべき指針(法的拘束力のないいわゆる「紳士協定」:IAEA公開文書)に基づいて輸出管理が実施される。この指針は、原子力専用品・技術の移転に係る「NSGガイドライン・パート1」と、原子力関連汎用品・技術の移転に係る「NSGガイドライン・パート2」に分かれている。
(4) パート1とパート2では、それぞれ以下の方法で輸出管理が行われる。
- (イ) パート1:リスト(「トリガーリスト」)に列挙された品目及びその関連技術の非核兵器国への移転は、原則として、当該非核兵器国(受領国)政府がIAEAとの間で包括的保障措置協定を発効させていることを条件に行われることとされている。また、移転の際には、受領国から、(a)IAEA包括的保障措置の適用(ガイドライン・パラ4)、(b)移転資機材等の核爆発装置への不使用(同パラ2)、(c)移転資機材等への実効的な防護措置の実施(同パラ3)、さらに、(d)第三国に再移転する場合には受領国は原供給国に与えたのと同様の保証を当該第三国からとりつけること(同パラ9)、の4条件を確認することとなっている。
- (ロ) パート2:附属書に列挙された品目及びその関連技術の移転に関しては、輸出許可手続を作成し、輸出を許可する際には(a)移転の用途及び最終需要場所を記した最終需要者の宣言及び(b)当該移転又はその複製物がいかなる核爆発活動又は保障措置の適用のない核燃料サイクル活動にも使用されないことを明示的に述べた保証を取得すべきとされている。
9月4-5日に開催される「原子力供給国グループ(NSG)」で議論するために米国が提出したNSGガイドライン修正案(英文pdf)を、米国のNGO「軍部管理軍縮協会(ACA)」が入手してそのウェッブサイトに載せました
その内容は、8月21-22日に議論された修正案(核情報訳)とほとんど変わっていません。
8月の修正案と大きく変わっているのは、その第3項に次の二つの項目が追加された点だけです。
c.各総会において、参加国は、INFICIC/254/Part2(修正)のアネックスA及びBの品目のインドへの承認された移転について互いに通告するものとする。参加国は、また、インドとの間の二国間協定も含め、情報を交換するよう要請される。
e.1ヶ国あるいはそれより多くの参加国が協議を必要とする事態が発生したとみなした場合には、参加国はガイドラインのパラグラフ16に従い行動するものとする。
16(c)
一ヶ国あるいはそれより多くの供給国が、これらのガイドラインから生じる供給国・受領国間の了解の違反−−とりわけ、受領国による核装置の爆発、あるいは、IAEA保障措置の違法な終止または違反−−があったと判断した場合には、供給国は、申し立てられた違反の実態及び程度について判断・評価するために外交的ルートを通じて速やかに協議しなければならない。供給国は、また、IAEAに未申告の核物質または核燃料サイクル活動、もしくは、核爆発活動が明らかになった場合には協議することが望まれる。・・・・
このような協議による事実認定をふまえて、供給国は、IAEA憲章第12条に留意しつつ、当該受領国への核物質の移転終了を含みうる適切な対処及び可能な行動について合意すべきである。
NPT未加盟のインドに原子力協力をしようという米印原子力協力協定への批判が高まっています。
長崎市議会が9月1日の9月定例会開会の冒頭で協定発効に反対するよう政府に求める決議案を採択しました。県議会でも3日「米国とインドの原子力協力に係る日本政府の核不拡散及び核軍縮体制推進を強力に求める意見書」が採択されました。また、最近の各紙の社説も改めて協定批判の議論を展開しています。
市議会の決議は、次のように述べています。
インドに対する例外的な取り扱いが認められれば、インドは事実上の核保有国として認められたにも等しく、NPT体制の形骸化が危惧されるばかりか、核兵器廃絶の取り組みを進める上での大きな支障になることが懸念され、被爆地長崎として容認されるものではない。
よって被爆地長崎の本市議会は、核兵器廃絶と平和な世界の実現を願う立場から、日本政府に対し、NSG総会においてインドを例外的な取扱いとすることに反対するとともに、インドに対し、核不拡散条約(NPT)ならびに包括的核実験禁止条約(CTBT)への加盟を働きかけ、国際社会における被爆国としての使命を自覚し、主導的な役割を果たすことを強く要望する。
県議会の意見書は次のように述べています。
・・・先のNSG臨時総会におけるインドへの特別措置の議論は核軍縮、核不拡散に逆行し、NPT体制の形骸化が指摘されているところであり、県民にも大きな不安が広がっている。
ついては、国においては、核兵器廃絶を目指す被爆国として、引き続きインドに対してNPTへの早期加入と包括的核実験禁止条約(CTBT)への署名及び批准を行うよう働きかけるとともに、NSG臨時総会においては、核不拡散体制の強化に努めてきた立場を踏まえ、インドへの特例措置を世界唯一の被爆国として認めないよう強く要望する。
併せて、国の対応を国民に十分説明し、今後とも核兵器廃絶に向けて積極的に取り組むよう要望する。
長崎の被爆者団体もまた、間もなく再会される原子力供給国グループ(NSG)の臨時総会で、NPT未加盟のインドに核を提供する米印原子力協力協定反対するよう求める文書をNSG内の慎重派六カ国に、送りました。