核兵器製造を続けるインドに「平和利用目的」でウランを提供すると、ウラン不足に悩むインドは、輸入ウランを発電用に使い、浮いた国内産ウランを軍事用に回すことによって核兵器製造能力を数倍に増やせるいうことを印パ両国の専門家らが指摘してきました。日本政府はこのようなことはないと主張する一方、インドへの原子力協力の温暖化防止効果を強調しています。インドの専門家が日本政府の主張は事実を無視していると述べています。
インドへの原子力輸出を可能にするためのNSGガイドライン修正案を米国のNGO「軍部管理軍縮協会(ACA)」が入手してそのウェッブサイトに載せました。インドが核実験をした際には協力を停止するとの条項さえなく、米印原子力協力協定や8月1日のIAEA理事会で承認された保障措置協定の問題点を改善するための文言は一切入っていません。
朝日・読売・日経・毎日各紙が社説で米印原子力協力協定はNPTを形骸化させるものだとの議論を展開しています。また、ダナパラ元国連事務次長は、長崎新聞のインタビューで、「米印原子力協定発効ならNPT崩壊へ」と警告を発しました。一方、8月5日、訪印中の高村外相は記者会見で、インドのシン首相に米印協定について明言しなかったと説明しています。
長崎市の平和宣言に米印協定に言及する次のような部分が入りました。
「国連と国際社会には、北朝鮮、パキスタン、イスラエルの核兵器を放置せず、イランの核疑惑にも厳正な対処を求めます。また、アメリカとの原子力協力が懸念されるインドにも、NPT及びCTBTへの加盟を強く促すべきです。」
非常にタイムリーなもので、関係者の努力に敬意を表します。
これは、7月30日に広島・長崎両市長が連名で日本政府に出した要請書「米国とインドの原子力協力への日本政府の対応について(要請)」(広島市のサイト、長崎市のサイト)にある
「IAEAの理事国であり、また、NSGにおいても大きな影響力を有する日本政府におかれましては、インドに対し、NPTや包括的核実験禁止条約(CTBT)への加盟を粘り強く求めるとともに、加盟がない段階で原子力協力が行われることのないよう主導的役割を果たすことを強く求めます。」
という要求を再度表明したものでしょう。ここで、長さの関係から割愛されている後半部分
「加盟がない段階で原子力協力が行われることのないよう主導的役割を果たすことを強く求めます。」
の重要性にも着目する必要があります。
核情報の記事「IAEA理事会でインド保障措置協定を支持した日本 NPT・CTBT加盟の呼びかけはアリバイ確保か——8月21-22日の会合で問われる真価」で触れたとおり、日本政府は、8月1日、「国際原子力機関(IAEA)」理事会は、日本はインド・IAEA保障措置協定を支持しながら、インドにNPTと「包括的核実験禁止条約(CTBT)」への参加を呼びかけました。
協定が無条件で認められてしまった後、日本が呼びかけたといういうだけで、インドがNPTとCTBTに加盟するはずがありません。日本の呼びかけが単なるアリバイ確保的なものだったかどうかは、8月21日と9月初めに予定されているという「原子力供給国グループ(NSG)」の会合での日本の行動で明らかとなります。
日本政府には、米印原子力協力を認める条件として、CTBTの署名・批准、核兵器用生産物質の即時生産停止、非核兵器国としてのNPTへの加盟を要求するよう求める必要があります。
NPTに加盟せずに核兵器開発を続けているインドと「国際原子力機関(IAEA)」の部分的保障措置協定を承認した8月1日のIAEA理事会で、オーストリアは協定の問題点を鋭く指摘しました。同国は、理事会での承認は、包括的保障措置協定を結んでいない国との原子力協力を禁じた「原子力供給グループ(NSG)」の規則において、インドを例外とする可能性についての議論に影響を与えるものではないと述べています。(発言全文訳出)
米国下院外交委員会のハワード・L・バーマン委員長が、8月5日、コンドリーザ・ライス国務長官に書簡を送り、インドが核実験を行った場合には原子力協力はすべて終了するなどの条件を付けるのでなければ、8月末に予定されている「原子力供給国グループ(NSG)」の会合で、インドに対する例外措置を認めないよう求めました。
「核不拡散条約(NPT)」に加盟せず、1974年と1998年に核実験を行い、核兵器計画を進めているインドに対し、原子力関連輸出を行うことを認める米印原子力協力協定に国際的承認を与えるための審議が8月1日開催の「国際原子力機関(IAEA)」理事会で行われ、協定は理事会を「通過」しました。次の審議は、8月21日と9月初めの2回に渡って「原子力供給国グループ (NSG)」でなされようとしています。ここでNPTの運命が決まるかもしれません。