核情報

2008. 8. 27

インドに核兵器増強を許す原子力協力──温暖化への影響はわずか
 日本政府の主張にインドの専門家反論

核兵器製造を続けるインドに「平和利用目的」でウランを提供すると、ウラン不足に悩むインドは、輸入ウランを発電用に使い、浮いた国内産ウランを軍事用に回すことによって核兵器製造能力を数倍に増やせるいうことを印パ両国の専門家らが指摘してきました。日本政府はこのようなことはないと主張する一方、インドへの原子力協力の温暖化防止効果を強調しています。インドの専門家が日本政府の主張は事実を無視していると述べています。

インドへの原子力協力は、インドの核兵器増産を助けるだけで、温室効果ガス排出の削減にはほとんど役立たないと説明するのは、M・V・ラマナ博士(バンガロールの環境・開発学際研究センター上級研究員)です。ラマナ氏は、米印原子力協力がインドの核兵器計画に与える影響を分析した論文(英文pfd)の共同執筆者であり、また、米印原子力協力に反対するよう求めて日本政府に提出された印パの研究者・活動家らの書簡の署名者の一人でもあります。説明の根拠となっているのは、インド核安全保障諮問委員会による「核ドクトリンに関する報告書(ドラフト)」(英文)(1999年8月17日)やインド政府計画委員会の「統合的エネルギー政策(2006年8月)」(英文pdf)などです。

9月4-5日に予定されている「原子力供給国グループ(NSG)」の会合で「核不拡散条約(NPT)」非加盟のインドへの原子力協力を認める決定をすれば、それは、1995年のNPT加盟国の決定に違反するだけでなく、実際にインドの核兵器増産に手を貸し、印パ軍拡競争の火に油を注ぐことになりうるのです。そして、喧伝されている温暖化防止効果は、焼け石に水のようなものでしかないということをラマナ氏の分析が示しています。

以下、背景情報と、ラマナ氏の簡潔な説明(2008年8月24日付けメール)の訳文です。

  1. 背景──核兵器増産につながるウランの提供
  2. 日本政府の主張
  3. インドのM・V・ラマナ博士の反論
  4. 日本政府の取るべき行為──NSGで米印原子力協力に反対を
  5. 参考


背景──核兵器増産につながるウランの提供

印パの活動家・科学者らの日本政府あて書簡(2007年2月1日)がこう言っています。

民生用と宣言されて保障措置の対象となる施設の公式リストには、運転中あるいは建設中の国産発電用原子炉のうち8基しか入っていません(インドには、外国から購入したために保障措置の対象となっている原子炉が6基あります。)インドの残りの8基の発電用原子炉、さらには、すべての研究炉、プルトニウムを燃料とする高速増殖炉などは、軍事用プログラムの一部とされ、IAEAの保障措置から外されたままとなります。インドはまた、将来作る原子炉を民生用と分類するか軍事用と分類するかはインドに決める権利があると宣言しています。「核分裂性物質国際パネル」(15ヶ国の核問題専門家からなる独立グループ)用に作成された報告書(英文pdf)は、核施設のこのようなかたちの分類と、協定で可能となるウランの輸入とによって、インドは、その気になれば、その兵器級プルトニウムのストックの伸び率を、現在の核兵器約7発分/年から40−50発分/年にまで速めることができると推定しています

また、インド政府の関係者が、次のように述べています。

「実際のところ、我々は必死だった。核燃料は、二〇〇六年末までの分しかないんです。この合意ができなければ、原子炉を停止することになっていたかもしれない──そして、その延長として、原子力計画を。」

インドの政府関係者──BBCの2005年7月26日付け記事 Indian PM feels political heatより

つまり、インドは、核兵器製造にウランを回すか、原発に回すかという選択を迫られているのです。

日本政府の主張

外務省は、例えば、2008年8月15日に外務省軍備管理軍縮課を訪れた市民グループに対し、インドにウランを供給しても、それはインドの核兵器の増産につながらないと主張しています。その関連で、インドの原子力発電容量の小ささに触れていますが、これが主張の根拠に全くならないどころか、逆に原子力援助は温暖化防止対策上ほとんど意味をなさないことを示すものであることは、ラマナ氏の説明から分かります。

高村正彦外務大臣は訪印中の記者会見(2008年8月5日)でこう述べています。

私(大臣)の方からは、インドが凄まじい経済発展をする中で、CO2排出が増えないようにする、あるいは削減するために原子力の平和利用、民生利用が必要であるということを理解している一方で、日本は唯一の被爆国として、核の不拡散、核軍縮といったものを通じて究極的に核の廃絶ということを目指している国である。その両面から、原子力供給国グループ(NSG)での議論に参加していくということを私(大臣)の方から申し上げました。

町村信孝官房長官は2008年8月19日の記者会見で次のように述べています。(産経新聞)

IAEA(国際原子力関)の保障措置のもとにおける原子力施設の数が増えるという意味では、NPT(核不拡散条約)体制の強化にもつながる。一概に協定がNPT体制に逆行するとという判断だけをするのは一面的に過ぎる。

インドのM・V・ラマナ博士の反論

「インド核ドクトリンに関する報告書(ドラフト)」(1999年8月17日)は、陸上発射ミサイル、海洋発射ミサイル、航空機という三つの運搬手段(トライアド=3本柱)を含む上限のない野心的な核兵器保有計画を提示している。これらの計画を短期間で達成するには、核兵器用の核分裂性物資の生産を大幅に拡大する必要がある。インドのウラン資源の限界のために、核兵器用の核分裂性物質を増やすことは、原子力発電量を減らさなければならなくなることを意味していた。そもそも、原子力発電は、発電量の3%以下しか発電していないのである。

このような逼迫状況の中にあるインドは、ウランの輸入が認められれば、核兵器用の核分裂性物質の生産を増やすことができる。

インドの発電計画は、さらに野心的なものだが、それは主として、現在と同じく石炭火力を基礎とするものである。例えば、インド政府計画委員会は、石炭火力発電を2030年までに3倍に増やすことを計画している。委員会の報告書「統合的エネルギー政策(2006年8月)」(英文pdf)の分析は、原子力が10倍に伸びても、それは石炭の消費を2%しか減らさないことを示しているが、需要側の対策を強力に推進すれば、石炭の消費量を14%減らすことができる(報告書の表3-7から算出)。再生可能エネルギー技術を大規模に拡大すれば、同じような石炭消費量の削減をもたらすことができる。

このように、原子力は、非常に楽観的なシナリオにおいても、インドにおける温室効果ガス排出量の削減にわずかしか寄与しない。

日本政府の取るべき行為──NSGで米印原子力協力に反対を

1995年NPT再検討延長会議の決定は、NPT未加盟国への原子力協力を禁じていますから、この決定の基礎となったNSGの方針を変更してインドだけ例外扱いにすることを決めるのは、NPTに違反する行為です。これだけでも、日本が米国のNSGのガイドライン変更案を全面的に拒否すべきであることは言うまでもありません。しかも、インドの例外扱いを正当化しようとする外務省の主張が根拠のないものであることはラマナ氏の説明からも明らかです。インドの一部の原発だけを見張って、その他の施設での核兵器製造を放置する措置が「NPT(核不拡散条約)体制の強化にもつながる」などというのは言語道断です。9月4-5日でのNSG総会で、日本は、明確に米印原子力協力に反対すべきです。

また、日本の温暖化問題専門家やマスコミには、インドとの原子力協力の「温暖化防止効果」についての客観的分析をするとともに、日本政府に対して、その主張の根拠提示を求めることが期待されます。

参考


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