「核不拡散条約(NPT)」に加盟せず核兵器開発を続けているインドとの米国の原子力協力協定を発効させるのに必要なインド・「国際原子力機関(IAEA)」保障措置協定についのて審議が8月1日にIAEA理事会で行われます。しかし、同理事会やそれに続く「原子力供給国グループ(NSG)」でインドとの国際的原子力協力が可能になっても、当の米国だけはできなくなるという可能性が議論されています。
これは、インドとの原子力協力を認めた米国原子力協力推進法(ハイド法:2006年12月)が、米印原子力協力協定の発効には、IAEAとの保障措置協定とNSGのルール変更の文書を受け取った後、上下両院が協定支持決議を上げることが必要と定めているためです。
2007年8月に発表された米印原子力協力協定のテキストは、ハイド法に反する内容になっています。ハイド法は、インドが核実験を行った場合には、協力は停止となり、インドに輸出された核物質などを変換することを求める権利を米国側が持つことを協定に明記しなければならないとしています。ところが、テキストにはそのような条項は入っていません。
論理的には、この点だけをとっても、米国議会は協定支持決議を出せないことになります。つまり、インドとの原子力協力が国際的に認められながら、米国だけは、それができないという皮肉な事態が発生する可能性があるのです。
この点についてインドの「核軍縮・平和連合(CNDP)」は、、2007年2月に指摘していました。
非常に面白い点は−−驚くべきことにマスコミの注目をまだ浴びていないのだが−−「米印合意」がNSGの障壁を通過しながらも、何らかの理由により米国議会でうまくいかなかった場合、NSGの他の44ヶ国は、その変更された規則に従い、核関連の商売ができるようになるが、米国はできないということだ。
これこそ、ロシア、フランス、カナダの競争相手が、時々、夢想していることにちがいない。
『ピース・ナウ』 「核軍縮・平和連合(CNDP)」機関誌 2007年2月号 (英文, pdf)
また、米国は核兵器計画に転用さえる恐れのある再処理・ウラン濃縮技術はインドに提供しないと言っていますが、保障措置協定やNSGの規則変更が認められれば、ロシアやフランスなどがこれを提供する可能性があります。つまり、米国自身の原子力協力はできず、米国企業が他国の競争相手に出し抜かれる格好となる中で、核兵器開発に役立つ技術がインドに渡るという事態が生じかねないということです。(日本が米国の圧力で米印原子力協力実施に向けて協力しながら、米国だけ対印原子力貿易ができなくなった場合日本はどうするのでしょう?)
そのため、NSGでの規則変更の際に条件を付けることを米国側が検討しているとインドの『ヒンドゥー』紙が報じています。。
ここで浮かんでくるのは、次の問題です。
1)上の1. 、2. の条項が入った場合、インドは、これを受け入れられないとしてIAEA保障措置協定を拒否するのか?(協定を承認した国は、梯子を外された格好に?)
2)ロシアなどが、上の3. のような条項は主権を侵すものとして拒否するか。
日本は、このような問題を前に右往左往するのではなく、広島・長崎両市長の要請が述べているとおり、最初からNPT未加盟国との原子力協力は認められないとの立場を貫くべきです。
『ヒンドゥー』紙記事
7月30日、広島・長崎両市長は、8月1日に開催の「国際原子力機関(IAEA)」緊急理事会でインドとの原子力協力を認めるための保障措置協定が審議されることについて、インドが核不拡散条約(NPT)と「包括的核実験禁止条約(CTBT)」加盟しない段階で、原子力協力が行われることのないよう主導的役割を果たすことを日本政府に求める要請書を発表しました。
広島市秋葉忠利市長と長崎市田上富久市長連名の要請書全文は、広島市のサイト「米国とインドの原子力協力への日本政府の対応についての要請書 (2008.7.30)」にあります。
2006年の広島市の秋葉忠利市長(12月28日)と長崎市の故伊藤一長市長(12月14日)の要請書は、次のリンクでご覧になれます。広島・長崎両市長の政府への要請書 (核情報:米印原子力協力の意味──入門編)
原水爆禁止日本国民会議(原水禁)は、7月29日外務省に、「NPT体制の原則を完全に覆す米印原子力協力協定について」という外務大臣宛ての要請書を外務省に提出し、8月1日の「国際原子力機関(IAEA)」理事会やその後開かれる予定の「原子力供給国グループ(NSG)」の会合で、反対の立場を表明するよう求めました。
要請書は、8月に急展開の可能性がある米印原子力協定について、次のように述べた後、10項目にわたって、同協定やIAEA理事会で審議される予定の保障措置協定の問題点を説明し、日本が反対の声を上げるよう求めています。
「核不拡散条約(NPT)」に加盟せず、1974年と1998年に核実験を行い、核兵器計画を進めているインドに対し、原子力関連輸出を行うことを認める米印原子力協力協定に国際的承認を与えるための審議が、8月1日開催の「国際原子力機関(IAEA)」理事会で、そして、その後、早ければ8月中に「原子力供給国グループ(NSG)」で、なされようとしています。
被爆国日本は、IAEAの理事国であり、また、コンセンサスで決定を行うNSGのメンバーでもあることから、世界の核拡散防止・核廃絶を願う市民からその態度が注目されています。貴職が5月15日に参議院外交防衛委員会で述べられた「国際的な核軍縮核不拡散体制の維持強化に支障のないように積極的に議論に参加していく」との日本の立場を、先日シンガポールで兒玉和夫報道官がインドの『ヒンドゥー』紙にそのまま説明されたことについても、各国の軍縮関係NGOの間では、日本が強い懸念をIAEAやNSGでも表明するだろうとの期待が高まっています。
7月9日にIAEA理事国に配布されたインド・IAEA保障措置協定は、保障措置の名に値しない内容です。パキスタンは、保障措置協定案がIAEA理事国に配布されてから3週間ほどで(8月1日)協定案について決定しようというのは、異常なペースだと指摘するとともに、協定案の問題点について分析した書簡を、7月15日、IAEA理事会とNS Gのメンバー国に送りました。保障措置協定案の解説に加えて、この文書の翻訳を注付きで載せました。
7月24日、イタリアの主要紙の一つ『コリエーレ・デラ・セラ』紙に、「核のない世界のために」という投稿記事が掲載されました (原文: Per un mondo senza armi nucleari)。署名したのは、左右両派の元外相、国防大臣など4人の政治家と元パグウォッシュ会議事務局長です。5人は、「核のない世界」の実現を訴えたキッシンジャーら米国4人の政治家、それに答えた英国の4人などに続けと訴えています。
7月22日、インド下院において、米印原子力協力の発効を目指すシン内閣信任決議案が、可決されたと各紙が伝えています。シン首相が、協定に反対の態度を取っている左派政党の閣外協力を諦めて、「国際原子力機関(IAEA)」の理事会にIAEAとの保障措置協定案を提出を許可したため投票となりました。同協定案は、インドの核実験再開阻止のための規定がないうえ、保障措置の対象となる民生用施設のリストさえも入っていないものです。
IAEAが、インドとの保障措置協定(英文pdf)について検討するための臨時理事会を8月1日に開くと発表しました。
なお、7月18日には、ウイーンでインドがIAEA加盟国に同保障措置協定について説明するとのことです。
6月にラッド豪首相が提案した国際委員会の件で進展がありました。7月9日、洞爺湖サミットで訪日中の同首相との会談で、福田首相が、共同イニシアチブとして委員会に参加することを決め、日本側共同議長に川口元外相を選んだと伝えました。
参考:
6月30日に「心配し始め、核兵器を厄介払いすることを学べ──簡単ではないが、核兵器のない世界は可能だ」との文章を発表したのは、3人の元外相、元NATO事務総長)です。4人は、『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』紙で「核のない世界」の実現を訴えたキッシンジャーらに続けと述べています。昨年来、WSJ紙の文章を意識した英国の外相(当時)、首相、国防相らによる発言が続いています。
7月5日の『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』紙は、その社説で、米印原子力協力協定発効に必要な措置を任期内に終わらせようとしているブッシュ政権に『急がないで』と呼びかけました(原文)。同協定は、「核不拡散条約(NPT)」に未加盟のまま核兵器開発を続けるインドに核燃料の提供などで協力することを定めたものです。協定の発効には二つの国際機関・グループによる承認措置、それを受けての米国議会の協定批准が必要です。議会は9月に閉会します。