2008年09月07日

インドを例外とするNSGガイドライン修正承認──全文粗訳掲載

9月6日、4日からウイーンで開かれていた「原子力供給国グループ(NSG)」臨時総会は、「国際原子力機関(IAEA)」がその原子力関連活動のすべてを「保障措置」の対象として見張っていない国には原子力関連輸出をしないというガイドラインにおいて、インドを例外扱いする修正案を全会一致で承認しました。総会で承認されたガイドライン修正案「インドとの民生用原子力協力に関するステートメント」を訳出しました

参考

  • クローズアップ2008:対インド核輸出解禁−−供給国総会 核大国の二重基準  毎日新聞 2008年9月7日
  • 各新聞社説
    • インド核協力 NPTを揺るがす「例外扱い」 読売新聞社説 9月10日

       核保有国拡大を阻止するNPTの理念を覆す決定だ。極めて問題だと言わざるを得ない。

      ・・・

      何らの条件もつけなかったことは将来に禍根を残した。

      理解に苦しむ対印原子力協力の解禁 日経新聞社説 9月8日

       インドの核実験を契機につくられた原子力機材の輸出規制が、よりによって同国に対し無条件で解禁されるとは理解に苦しむ。核拡散防止の固い決意は、30年も過ぎれば薄らいでしまうのだろうか。

      ・・・

       NSGの承認で対印原子力ビジネスは活発化するだろう。日印原子力協定を結ぶ議論も起きるだろうが、唯一の被爆国として核廃絶を訴える日本まで、無条件でインドに甘い姿勢を示すのは問題である。

      インド核協力—歴史に残る誤りだ 朝日新聞社説 9月8日

       北朝鮮に続き、イランへも核拡散が強く懸念されている。本来なら、NPTへの信頼を高め、それを基盤に核危機を抑えていくべきなのだ。今回の決定は完全に逆行するものである。

       NPTの信頼を高めることは、北朝鮮に核廃棄を迫る日本の安全にも欠かせない政策だ。それなのに日本政府もインドの特別扱いを容認し、日本の核軍縮・不拡散外交への信頼を深く傷つけた。なぜ容認したのか、政府は国民にきちんと説明する責任がある。

      インド例外化 核不拡散体制を守れるのか 毎日朝日新聞社説 9月7日

       なんとも理解に苦しむ決定である。日本など45カ国が参加する原子力供給国グループ(NSG)の総会は、核拡散防止条約(NPT)に参加していない核兵器保有国インドへの原子力関連輸出を認めた。

       最後まで承認を渋った国々には、ブッシュ米大統領自ら説得工作を展開したという。最終的には日本を含め全会一致で承認されたが、秘密会で承認された瞬間、拍手もわかず会場は沈黙が支配したという情報もある。

       こんな決定は後世に禍根を残す−−そんな不安を参加国の代表たちは感じたのかもしれない。核兵器の不拡散をめぐる国際社会の良識が、米国の圧力によってねじ曲げられたのではないか、と私たちは強い危機感を覚えざるを得ない。




インドとの民生用原子力協力に関するステートメント(英文pdf)

  1. xx日におけるxx総会において、原子力供給国グル—プの参加国は、以下のように決定した。参加国は:
    1. 世界的核不拡散体制の有効性及び健全性と核不拡散条約の規定と目的の可能な限り広範な実施とに寄与することを欲する。
    2. 核兵器のさらなる拡散を避けることを求める。
    3. すべての国々の不拡散のコミットメントと行動とに建設的に影響を与えるメカニズムを追求することを望む。
    4. 平和利用目的の原子力移転のための保障措置及び輸出規制の基本的原則を推進することを求める。
    5. インドのエネルギーの必要に留意する。
  2. 参加国は、以下の不拡散のコミットメントと行動に関しインドが自主的に取ってきた措置に留意する。
    1. その分離計画(INFCIRC/731)に従い、段階的な形で民生用核施設を分離し、その民生用核施設に関し、IAEAに申告することに決めた。 (*注1)
    2. IAEAのスタンダード、原則、及び、慣行(理事会文書GOV/1621を含む (*注2) )に従った「民間核施設への保障措置の適用のためのインド政府とIAEAの間の置協定」についてIAEAと交渉し、2008年8月1日に理事会の承認を得ている。
    3. インドの民生用核施設に関し追加議定書に署名し、これを順守することを約束している。
    4. 濃縮及び再処理技術をすでに有していない国に対し、これらを移転することを控えており、これらの拡散を制限する国際的努力を支持している。
    5. 多国間で規制されている核及び核関連物質・機器・技術の移転を効果的に規制できる国内輸出規制システムを設立している。
    6. その輸出規制リストとガイドラインを、原子力供給国グループのものと一致させ、原子力供給国グループのガイドラインを遵守することを約束している。
    7. 核実験に関する一方的モラトリアムを継続しており、また、多国間の[核兵器用]核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の締結に向けて他の国々と協力する用意があると宣言している。
  3. インドにより2008年9月5日に繰り返された (*注3) 通りの上述のコミットメント及び行動に基づき、参加国政府は、これに関する国の立場に関わらず、IAEAの保障措置下のインドの民生用原子力計画との民生用原子力協力に関する以下の方針を採用した──そしてこれを施する。
    1. Infcirc/254/Rev.9/Part1のパラグラフ4(a), 4(b) 及び 4(c)にかかわらず、参加国政府は、インドに対し、トリガー・リスト品目 (*注4) 及び/または関連技術を、平和利用目的かつIAEA保障措置下の民生用原子力施設での使用のために移転しても良い。ただし、移転がINFCIR/254/Part1(修正)の他のすべての規定に従うものとする。また、機微な輸出の移転はガイドラインのパラグラフ6及び7の支配下に置かれ続けるものとする。
    2. NFCIR/254/Rev.7/Part2のパラグラフ4(a)及び4(b)にかかわらず、参加国は、核関連の二重目的機器、物質、ソフトウエアー及び関連技術を、IAEAの保障措置下の民生用原子力施設において平和目的で使用するために移転しても良い。ただし、移転がINFCIR/254/Part2(修正)の他のすべての規定に従うものとする。
    3. 各総会において、参加国は、INFICIC/254/Part1(修正)にリストアップされたアネックスA及びBの品目のインドへの承認された移転について互いに通告するものとする。参加国は、また、自国のインドとの間の二国間協定も含め、情報を交換するよう要請される。
    4. インドとの対話及び協力の強化の目的で、議長国は、インドと協議・相談し、これらの協議の結果を総会に知らせる。
    5. このステートメントのすべての側面の実施に関連した問題に関して検討する目的のために、参加国は、関連の国際的コミットメント及びインドとの間の二国間協定について考慮しながら、協議グループ及び総会を含む正規のルートでコンタクト及び協議を維持する。1ヶ国あるいはそれより多くの参加国が協議を必要とする事態が発生したとみなした場合には、参加国は会合を開き、ガイドラインのパラグラフ16に従い行動するものとする。
  4. インドのInfcirc/254 のパート1及びパート2の遵守を容易にし、ガイドラインの実施において最新の状態であるようにするために、NSGの議長国は、ガイドラインの修正及び実施についてインドと協議し総会に対し、てインドとの対話の結果を知らせるように要請される。提案された修正に関するインドとの協議は、インドによるその実施を容易にする。
  5. 参加国の要請があれば、議長国は、このステートメントをIAEA事務局長に対し、すべての参加国に配布するようにとの要請とともに、提出するよう要請される。



訳注:

  1. INFCIRC/731(pdf)は、2006年に米印で合意した分離計画の中身の説明。2005年7月18日の米印合意でインドは、その核関連施設を民生用と軍事用に分離し、民生用についてIAEAに申告し、これを自主的に保障措置下に置くことを約束。2006年3月2日、米印は分離の実施計画に合意。2006年5月11日、インド政府はこの米印合意の内容を「2005年 7月18日インド・米国共同声明の実施:インドの分離計画」という文書で議会に提示。2008年7月25日、インドは、このコピーをIAEAに送付。同日、IAEAは、これをINFCIRC/731としてその加盟国に送付。
    参考 分離計画の中身 核情報
  2. パキスタンからIAEA理事会国及び原子力供給国グループ参加国に送られた書簡 核情報 の注3「部外秘文書」GOV/1621(1973年8月)を参照
  3. インド外相の次の声明(英文)Statement by External Affairs Minister of India Shri Pranab Mukherjee on the Civil Nuclear Initiative 05/09/2008
  4. 外務省の「NSGの概要」が次のように説明している。
  5. (3) NSG では、「NSGガイドライン」と呼ばれる原子力関連資機材・技術の輸出国(Suppliers)が守るべき指針(法的拘束力のないいわゆる「紳士協定」:IAEA公開文書)に基づいて輸出管理が実施される。この指針は、原子力専用品・技術の移転に係る「NSGガイドライン・パート1」と、原子力関連汎用品・技術の移転に係る「NSGガイドライン・パート2」に分かれている。

    (4) パート1とパート2では、それぞれ以下の方法で輸出管理が行われる。

    • (イ) パート1:リスト(「トリガーリスト」)に列挙された品目及びその関連技術の非核兵器国への移転は、原則として、当該非核兵器国(受領国)政府がIAEAとの間で包括的保障措置協定を発効させていることを条件に行われることとされている。また、移転の際には、受領国から、(a)IAEA包括的保障措置の適用(ガイドライン・パラ4)、(b)移転資機材等の核爆発装置への不使用(同パラ2)、(c)移転資機材等への実効的な防護措置の実施(同パラ3)、さらに、(d)第三国に再移転する場合には受領国は原供給国に与えたのと同様の保証を当該第三国からとりつけること(同パラ9)、の4条件を確認することとなっている。
    • (ロ) パート2:附属書に列挙された品目及びその関連技術の移転に関しては、輸出許可手続を作成し、輸出を許可する際には(a)移転の用途及び最終需要場所を記した最終需要者の宣言及び(b)当該移転又はその複製物がいかなる核爆発活動又は保障措置の適用のない核燃料サイクル活動にも使用されないことを明示的に述べた保証を取得すべきとされている。

投稿者 kano : 2008年09月07日 16:22