2009年05月28日

先に使うは御法度となぜ言えぬのか外務省──廃絶唱えるその陰で

核問題委員会エバンズ共同議長の残していった宿題

ギャレス・エバンズ(Gareth Evans)元豪州外務大臣に日本語ができたとしたら、こんな歌?を詠んで東京を後にしたのではないだろうか。日豪共同イニシアティブ「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」(ICNND)の共同議長を務めるエバンズ氏が5月27日、各政党関係者やNGOとの話し合いで一番強調していたのはこのことだった。

核廃絶を唱える一方で核兵器が大好きだと言っていたのでは、世界からまともに相手にされない 。核兵器以外の兵器──生物・化学兵器、それに通常兵器──による攻撃に対しても核兵器で守って欲しいと米国に望む政策をとりながら、核廃絶を唱えるというのは根本的に矛盾している。米国の拡大抑止力に頼るのは良い。だがその抑止力の傘は、二つに分けて考えるべきだ。核での攻撃には核の傘。核以外の攻撃には通常兵器の傘。核攻撃があれば核で報復すると警告することで核攻撃を抑止する。核以外の攻撃に対しては通常兵器による報復の警告で抑止する。このように傘を二つに区別し、核の傘は核に対するものだけにするということだ。これができなければ、核廃絶への道は進みようがない。核が日本にとってそんなに良いものなら、自分たちが持ってなぜ悪いという国が出てくる。この問いには答えようがない。委員会の大半のメンバーは、核兵器がなくなるまでの間は、核の唯一の役割は、他国による核攻撃を抑止することだけに限ると核兵器国が宣言することが核廃絶への第一歩だと考えている。つまり、日豪の同盟国である米国が、核を先には使わないとの政策を宣言し、その政策に合わせて核態勢を構築しなおすべきだと言うことだ。ところが、日本政府はこれに反対している。これが、エバンズ氏の発言の趣旨だ。

川崎哲(ICNND・NGOアドバイザー/ピースボート共同代表)やICNND日本NGO連絡会の働きかけで26日夕刻台北から東京に到着したエバンズ氏は、27日、早朝から慌ただしい日程を精力的にこなし、この主張を繰り返した。そして夕方には、日本の政策変更が核廃絶の鍵だとのメッセージを残して、福岡に向けて発っていった。日本の政策を変えよとの宿題を日本の反核運動に出したとも言える。10月には、ICNNDの最終会合が広島で開かれる。そのときまでに、日本の反核運動は、宿題を果たしていられるだろうか。

参考:記事切り抜き


投稿者 kano : 14:15

2009年05月25日

日本政府は、非核兵器国への核攻撃禁止(消極的安全保証)を本当に支持するのか?

政府、「基本的支持」の意味を問う辻元議員の質問に回答拒否

日本は、今年五月にニューヨークで開かれた核不拡散条約(NPT)再検討会議第3準備委員会において昨年と同じく、核兵器を持たない国には核攻撃をかけないことを核兵器国が保証する「消極的安全保証(NSA)」の考えを「基本的に」支持すると述べました。「基本的に」の意味を問う社民党の辻元清美議員の質問に対し、政府は、5月22日、核兵器国間での見解の一致がないから答えられないと回答しました。

樽井澄夫軍縮代表部大使は、準備委員会での演説(5月7日)で、日本は一九七〇年にNPTに署名した際に、核兵器国は非核兵器国に対し核兵器の使用及び使用の威嚇をすべきでないと述べたと説明し、日本が「消極的安全保証」の考え方を先頭に立って推進してきたかのような印象を与えています。そして、その立場に変更はなく、日本は「消極的安全保証」の考えを基本的に支持すると述べました。

ところが、通常兵器や化学・生物兵器による攻撃に対しても核で報復する可能性を米国が保つことがそのような攻撃を抑止することになるとの立場を採っており、それは国会答弁などで繰り返し表明されています。

これは、非核兵器国が、通常兵器や化学・生物兵器による攻撃を日本にかけたとき、米国が核兵器で報復する可能性を保っておいて欲しいと望んでいることを意味し、消極的安全保証支持の立場と矛盾します。

実際、1999年に日本が法的拘束力を持つ消極的安全保証の文書の締結を支持するパラグラフに賛成票を投じたことに関し、外務省の担当者は社民党に対し、このパラグラフには生物・化学兵器のことは何も書いていないから、これらの兵器による攻撃に対して核で応じないことを約束することに日本が同意したということではないと説明していました。

質問(全文)は、これらの事実を背景に、「基本的支持」の意味について質し、日本政府が支持できない「消極的安全保証」の文言があればこれを明示するようにと説明を求めたものです。

これに対する日本政府の2009年5月二二日付け回答は、次のようなものでした。

1から3までについて

 政府としては、消極的安全保証について、非核兵器国に対して核を使用しないという考え方は基本的に支持し得るものと考えているが、これを供与するのは核兵器国であり、この供与の在り方等について現時点では核兵器国間での見解の一致がみられていないと承知しており、お尋ねについてお答えすることは困難である。

問われているのは、日本政府の考え方であって、核兵器国の立場ではありません。要するに、表舞台での演説では核廃絶を推進しているかのような印象を与えながら、中身については、別の立場からの交渉を行うつもりだということでしょうか。いろいろな場で政府の説明を求める必要があるでしょう。

注:

*消極的安全保証

 一般的には消極的安全保障という訳語が使われるが、非核兵器国に対しては核を使わないと確約し「安全を保証する」と言う意味で、安全保証の方が訳としては「正しい」。外務省も安全保証の方を使用している。

参考 




消極的安全保証問題に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  平成二一年五月一三日

提出者  辻元清美

 衆議院議長 河野洋平殿

消極的安全保証問題に関する質問主意書

 核兵器を持たない国には核攻撃をかけないことを核兵器国が保証する「消極的安全保証(NSA)」に関し、樽井澄夫軍縮代表部大使は、今年五月七日、二〇一〇年NPT再検討会議第三回準備委員会において、日本は一九七〇年にNPT(核拡散防止条約)に署名した際に、核兵器国は非核兵器国に対し核兵器の使用及び使用の威嚇をすべきでないと述べたと説明し、その立場に変更はなく、日本は「消極的安全保証」の考えを基本的に支持すると述べている。

 また、米国は一九九五年四月五日、以下のように宣言している。

「米国は、以下の場合を除き、核兵器の不拡散に関する条約の締約国である非核兵器国に対して、核兵器を使用しないことを再確認する。すなわち、米国、その準州、その軍隊、もしくは、その他の兵員、その同盟国、又は、米国が安全保障上の約束を行っている国に対する侵略その他の攻撃が、核兵器国と連携し又は同盟して、当該非核兵器国により実施され又は支援される場合を除き、それらの非核兵器国に対して核兵器を使用しないことを再確認する。」

 これら消極的安全保証に係わる我が国の認識は、世界の核軍縮を進めるに当たって、極めて重大な意味を持つものである。ついては、日本の「消極的安全保証(NSA)に対する基本的な支持」の意味について質問する。

 一、日本政府による「NSAに対する基本的な支持」というのは、いかなる状況においても、非核兵器国に対する核兵器使用の禁止を日本が支持するという意味か示されたい。それは、生物・化学兵器あるいは大量の通常兵器による攻撃があった場合についても、非核兵器国に対する核兵器使用の禁止を日本が支持することを意味するのか示されたい。

二、日本政府による「NSAに対する基本的な支持」とは、「核兵器国の領土(準州を含む)、その軍隊、もしくは、その他の兵員、その同盟国、又は、同核兵器国が安全保障上の約束を行っている国に対する侵略その他の攻撃が、他の核兵器国と連携し又は同盟して、当該非核兵器国により実施され又は支援される場合を除き」というような条件付きで、非核兵器国に対する核兵器使用の禁止を日本が支持するという意味か示されたい。それは、生物・化学兵器あるいは大量の通常兵器による攻撃があった場合についても、それが「他の核兵器国と連携し又は同盟して、当該非核兵器国により実施され又は支援される場合を除き」、非核兵器国に対する核兵器使用の禁止を日本が支持するという意味か示されたい。

三、日本政府が支持できないNSAとは、どのようなものか示されたい。

右質問する。

投稿者 kano : 15:59

2009年05月08日

中国の核戦力2009

オバマ政権の登場で核軍縮への期待が高まる一方、日本では中国の「核増強」について焦点が当てられることが多くなっています。世界の核兵器を追い続ける「米国科学者連合(FAS)」と「自然資源防護協議会(NRDC)」のデータを中心とし、2009年3月25日に米国国防省が議会に送った2009年版「中国軍事力年次報告書」(「米国国防長官官房(OSD)」)などで補足しながら中国の核戦力について整理しました。

詳しくは…

投稿者 kano : 00:01

2009年05月07日

核軍縮国際委報告書案が米国の先制不使用宣言を求める─外相の委員会支持の約束は?

日豪主導の「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」が今秋まとめる報告書の草案が米国による先制不使用宣言を求めていると毎日新聞(5月6日)が報じました。中曽根外相は、4月27日の演説で、同委員会に対して「最大限の支援を継続」すると約束していますが、先制不使用の支持によって「最大限の支援」の約束を果たすのでしょうか。

詳しくは…

投稿者 kano : 11:46

2009年05月01日

米国向けミサイルと集団的自衛権─絶対当たらないと言っていた外務省

北朝鮮の「人工衛星」発射問題や集団的自衛権の関係で、米国に向けたミサイルを日本は打ち落とすべきか否かという議論がされていますが、情報が錯綜しているようです。ここで想起すべきなのは、以前外務省は、法的解釈以前の問題として、日本のシステムでは将来にわたって米国向けのミサイルを打ち落とせるようにはならないと説明していたという点です。

詳しくは…

投稿者 kano : 10:50