2009年05月25日

日本政府は、非核兵器国への核攻撃禁止(消極的安全保証)を本当に支持するのか?

政府、「基本的支持」の意味を問う辻元議員の質問に回答拒否

日本は、今年五月にニューヨークで開かれた核不拡散条約(NPT)再検討会議第3準備委員会において昨年と同じく、核兵器を持たない国には核攻撃をかけないことを核兵器国が保証する「消極的安全保証(NSA)」の考えを「基本的に」支持すると述べました。「基本的に」の意味を問う社民党の辻元清美議員の質問に対し、政府は、5月22日、核兵器国間での見解の一致がないから答えられないと回答しました。

樽井澄夫軍縮代表部大使は、準備委員会での演説(5月7日)で、日本は一九七〇年にNPTに署名した際に、核兵器国は非核兵器国に対し核兵器の使用及び使用の威嚇をすべきでないと述べたと説明し、日本が「消極的安全保証」の考え方を先頭に立って推進してきたかのような印象を与えています。そして、その立場に変更はなく、日本は「消極的安全保証」の考えを基本的に支持すると述べました。

ところが、通常兵器や化学・生物兵器による攻撃に対しても核で報復する可能性を米国が保つことがそのような攻撃を抑止することになるとの立場を採っており、それは国会答弁などで繰り返し表明されています。

これは、非核兵器国が、通常兵器や化学・生物兵器による攻撃を日本にかけたとき、米国が核兵器で報復する可能性を保っておいて欲しいと望んでいることを意味し、消極的安全保証支持の立場と矛盾します。

実際、1999年に日本が法的拘束力を持つ消極的安全保証の文書の締結を支持するパラグラフに賛成票を投じたことに関し、外務省の担当者は社民党に対し、このパラグラフには生物・化学兵器のことは何も書いていないから、これらの兵器による攻撃に対して核で応じないことを約束することに日本が同意したということではないと説明していました。

質問(全文)は、これらの事実を背景に、「基本的支持」の意味について質し、日本政府が支持できない「消極的安全保証」の文言があればこれを明示するようにと説明を求めたものです。

これに対する日本政府の2009年5月二二日付け回答は、次のようなものでした。

1から3までについて

 政府としては、消極的安全保証について、非核兵器国に対して核を使用しないという考え方は基本的に支持し得るものと考えているが、これを供与するのは核兵器国であり、この供与の在り方等について現時点では核兵器国間での見解の一致がみられていないと承知しており、お尋ねについてお答えすることは困難である。

問われているのは、日本政府の考え方であって、核兵器国の立場ではありません。要するに、表舞台での演説では核廃絶を推進しているかのような印象を与えながら、中身については、別の立場からの交渉を行うつもりだということでしょうか。いろいろな場で政府の説明を求める必要があるでしょう。

注:

*消極的安全保証

 一般的には消極的安全保障という訳語が使われるが、非核兵器国に対しては核を使わないと確約し「安全を保証する」と言う意味で、安全保証の方が訳としては「正しい」。外務省も安全保証の方を使用している。

参考 




消極的安全保証問題に関する質問主意書

右の質問主意書を提出する。

  平成二一年五月一三日

提出者  辻元清美

 衆議院議長 河野洋平殿

消極的安全保証問題に関する質問主意書

 核兵器を持たない国には核攻撃をかけないことを核兵器国が保証する「消極的安全保証(NSA)」に関し、樽井澄夫軍縮代表部大使は、今年五月七日、二〇一〇年NPT再検討会議第三回準備委員会において、日本は一九七〇年にNPT(核拡散防止条約)に署名した際に、核兵器国は非核兵器国に対し核兵器の使用及び使用の威嚇をすべきでないと述べたと説明し、その立場に変更はなく、日本は「消極的安全保証」の考えを基本的に支持すると述べている。

 また、米国は一九九五年四月五日、以下のように宣言している。

「米国は、以下の場合を除き、核兵器の不拡散に関する条約の締約国である非核兵器国に対して、核兵器を使用しないことを再確認する。すなわち、米国、その準州、その軍隊、もしくは、その他の兵員、その同盟国、又は、米国が安全保障上の約束を行っている国に対する侵略その他の攻撃が、核兵器国と連携し又は同盟して、当該非核兵器国により実施され又は支援される場合を除き、それらの非核兵器国に対して核兵器を使用しないことを再確認する。」

 これら消極的安全保証に係わる我が国の認識は、世界の核軍縮を進めるに当たって、極めて重大な意味を持つものである。ついては、日本の「消極的安全保証(NSA)に対する基本的な支持」の意味について質問する。

 一、日本政府による「NSAに対する基本的な支持」というのは、いかなる状況においても、非核兵器国に対する核兵器使用の禁止を日本が支持するという意味か示されたい。それは、生物・化学兵器あるいは大量の通常兵器による攻撃があった場合についても、非核兵器国に対する核兵器使用の禁止を日本が支持することを意味するのか示されたい。

二、日本政府による「NSAに対する基本的な支持」とは、「核兵器国の領土(準州を含む)、その軍隊、もしくは、その他の兵員、その同盟国、又は、同核兵器国が安全保障上の約束を行っている国に対する侵略その他の攻撃が、他の核兵器国と連携し又は同盟して、当該非核兵器国により実施され又は支援される場合を除き」というような条件付きで、非核兵器国に対する核兵器使用の禁止を日本が支持するという意味か示されたい。それは、生物・化学兵器あるいは大量の通常兵器による攻撃があった場合についても、それが「他の核兵器国と連携し又は同盟して、当該非核兵器国により実施され又は支援される場合を除き」、非核兵器国に対する核兵器使用の禁止を日本が支持するという意味か示されたい。

三、日本政府が支持できないNSAとは、どのようなものか示されたい。

右質問する。

投稿者 kano : 2009年05月25日 15:59