朝日新聞(2月28日)が「MOX燃料の価格、ウランの9倍 高浜原発で1本9億円」と報じました。財務省の貿易統計などから分かったとのことです。これを機会に、これまで核情報で紹介してきた資料を見直してみましょう。プルトニウムの取り扱いが難しいため、プルトニウムをただで貰っても、買ってきたウランを濃縮してもらって低濃縮ウランを作った方が安くつくというのが基本です。
朝日新聞は次のように述べています。
使用済み核燃料を再処理して作るウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料は、通常のウラン燃料より数倍高価なことが、財務省の貿易統計などから分かった。再稼働した関西電力高浜原発3、4号機(福井県)などプルサーマル発電を行う原発で使われるが値上がり傾向がうかがえ、高浜で使うMOX燃料は1本約9億円となっている。
以下、核情報で紹介してきた資料の例です。
- 11/6シンポ「原発と核−4人の米識者と考える」:発表資料掲載
経済性:プルトニウム・リサイクル vs. 使用済み燃料貯蔵 フランク・フォンヒッペル 11ページ
経済性評価の結論
フランス(2000年):プルトニウムとウランのリサイクル・コストは、それによって節約できる低濃縮ウラン燃料の製造コストの5倍*
今日では、この差は10倍ほどになっているかもしれない(外国の顧客がいなくなったため)
再処理コストは仏電力公社(EDF)とAREVAの間で大きな問題となっている。EDFは英国での再処理契約更新を拒否。日本(2011年):プルトニウムとウランのリサイクル・コストは、それによって節約できる低濃縮ウラン燃料の製造コストの約10倍.**
低濃縮燃料コスト: 259,000円/kg
MOX燃料コスト: 3,568,000円/kg [= 8.5 x 372,000円 (再処理コスト) +406,000円 (MOX燃料製造)]それにもかかわらず、両国はともにプルトニウム・リサイクルの継続を選択。政策変更によって生じる混乱が大きすぎると判断されたため。
*Report to the Prime Minister [of France]: Economic Forecast Study of the Nuclear Power Option, 2000.
**JAEC, Technical Subcommittee on Nuclear Power, Nuclear Fuel Cycle, etc. Estimation of Nuclear Fuel Cycle Cost, 2011.
原子力委員会原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会 資料集1核燃料サイクルコストの試算(pdf) (2011年11月10日) p28 - 「核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)」『原子力計画におけるプルトニウムの分離──世界の民生用再処理の現状、問題点と今後の展望』(2015年7月)11章「経済性」(日本語訳)
日本原子力委員会は2011年にそのコスト研究をアップデートし、割引率を年0〜5%とした場合、トゥワイス・スルー[軽水炉でのMOX利用]がワンス・スルーより60〜100%高くなるとの結論を得た(注1)。・・・
上に挙げた例におけるワンス・スルー・サイクルの全般的な優位性は、燃料サイクル全体について示されたものだが、トゥワイス・スルーの第2ラウンドにおいてでさえ、原子炉に装荷される燃料のほとんどは低濃縮ウラン燃料であることに留意すべきである。MOX燃料と低濃縮ウラン燃料についてトン当たりのコストを直接比較すれば、コスト差は非常に大きく拡大する。
上述のシャルパン報告は、MOX燃料がまったく使われないとすると、4300トンの低濃縮ウランが余計に必要になり、そのコストは330億フランに達することを示している。これに対し、再処理シナリオでは、4800トンのMOX燃料が、再処理コストも入れて1770億フランで製造される。これらの数値を使って単位重量当たりのコストを計算すると、低濃縮ウランが7700フラン/kg、MOX燃料が3万6900フラン/kgとなる。この直接的比較においては、MOX燃料のコストは低濃縮ウランの5倍近くとなる。日本の原子力委員会による同様の比較では、このコスト比は12.3倍となっている。六ヶ所の再処理工場とMOX工場によるMOX燃料製造に関するものである(注2)。
- 注1:原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会資料集1核燃料サイクルコストの試算, 2011年11月10日(pdf) 31-32ページ
- 注2:原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会資料集1核燃料サイクルコストの試算, 2011年11月10日(pdf)
スライド28の割引率0%に関するもの。製造される1kgのMOX燃料当たり使用済み低濃縮ウラン7.5kgが再処理されると想定。
- 日本の常識・世界の常識──核不拡散 2005.6.15
『中間とりまとめ』vsスティーブ・フェター(メリーランド大学公共政策教授)
再処理は、確かに幾分かのウランの節約になる。だがそれは、非常に高いコストを伴う。六ヶ所の場合は、節約されたウランは、現在の市場価格の40倍になるだろう。・・・
プルトニウムがただだとしても、MOX燃料のコストは、低濃縮ウランより高いものとなる。・・・
低濃縮ウラン燃料は、キログラム当たり約1200ドルだ。これは、天然ウランの費用(400ドル)、天然ウランの六フッ化ウランへの転換費用(50ドル)、六フッ化ウランの濃縮費用(500ドル)、燃料集合体の製造(加工・組み立て)費用(250ドル)などからなる。これに対し、MOX燃料の方は、製造費用だけでキログラム当たり、約1500ドルとなる。MOX燃料の製造は、低濃縮ウランの製造よりずっと高くつく。なぜなら、プルトニウムは、労働者にとって健康上の害が大きく、従って、遠隔操作機器が必要となるからだ。