1月17−21日、フランク・フォンヒッペル教授(プリンストン大学)ら「核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)」関係者が青森県や日本政府に対し、これ以上、核兵器利用可能物質の生産をしないこと、危険な状態にあるプール貯蔵の使用済み燃料をもっと安全な乾式貯蔵に変えることを要請しました。民主党の「原子力バックエンド問題勉強会」第12回(1月20日)会合では、世界各国が再処理から撤退している状況を説明し、非核兵器国として日本だけが大規模再処理を行おうとしていることが世界の核拡散防止を難しくしていると訴えました。
民主党の「原子力バックエンド問題勉強会」第12回(1月20日)でのプレゼンテーションは民主党「原子力バックエンド問題勉強会」六ヶ所凍結を提言 核情報に掲載しています。勉強会での主たる発言者は
- フランク・フォンヒッペル
核物理学者。プリンストン大学公共・国際問題教授。非政府団体「国際核分裂性物質パネル(IPFM)」共同議長。1993─94年、ホワイトハウス「科学・技術政策局」国家安全保障担当次官として、ロシアの核兵器物質セキュリティー強化のための米ロ協調プログラム策定に関わる - ゴードン・トンプソン
資源・安全保障問題研究所(IRSS)所長。クラーク大学ジョージ・パーキンズ・マーシュ研究所上級研究員。英仏の再処理工場における放射能リスクについて研究。
以下、問題の背景、IPFM関係者の主張、青森県及び政府への要請内容などを整理しておきます
- 米専門家2人、再処理路線の見直し求める デーリー東北 (2012/01/18)
- 六ケ所村の核燃再処理工場:米学者らが知事に要請、国際評価委設置を 「再処理は不必要」 /青森 毎日新聞 2012年1月19日
再処理計画の歴史と現状
再処理の目的は、もともと、高速増殖炉の初期装荷燃料用のプルトニウムを生産することでした。高速増殖炉の開発が遅れ続け、また、再処理で分離されてしまったプルトニウムを無理矢理軽水炉で燃やす「プルサーマル」計画も進まない中で、日本は、国内と英仏とに合わせて約45トン(核兵器5600発分以上)ものプルトニウムを保有するに至っています。それにも拘わらず、各地の使用済み燃料貯蔵プールが満杯になろうとしていることが、その燃料の送り先としての六ヶ所再処理工場の運転開始への圧力となっています。
IPFM関係者等は、この圧力を解除するために乾式貯蔵を進めること、そして、六ヶ所再処理の運転をしないことなどを、講演会や青森県及び日本政府関係者との面談で訴えました。原子炉から取り出してから5年以上経った使用済み燃料をプールから取り出して乾式貯蔵にすることは、フクシマが世界に知らしめたプール貯蔵の危険性に対処するためにも必要です。
韓国は、2014年に期限切れとなる米韓原子力協力協定の改正交渉の中で、日米協定におけるのと同じ再処理の権利を韓国に認めるよう主張しています。日本と韓国が再処理をすることになれば、これを口実として再処理を進める国が次々に出てくる可能性があります。
青森県及び日本政府への要請
青森県の三村申吾知事宛の書簡では、このような状況を説明するとともに、六ヶ所再処理工場について、ドイツのニーダー・ザクセン州政府が1970年代に組織したような独立の国際的専門家による安全性評価を行うことを提言しています。
また、細野豪志環境大臣兼原発担当大臣へプレゼンテーション(pdf)(2012年1月21日、右に簡易表示)では、次のように、再処理の凍結とプール貯蔵の使用済み燃料の乾式貯蔵への移行を要請しました。
- 少なくとも、現存の分離済みプルトニウム処分がもっと進むまでは、新たな分離はしない
それまでは、六ヶ所での活動は、工場の安全性を高めることに集中
現存の高レベル廃液のガラス固化
六ヶ所のプールの3000トンのうち2000トン以上を乾式貯蔵に移す- 原発での乾式貯蔵の確保に集中:
稠密な貯蔵方式のプールの危険性を減らす
六ヶ所での再処理の拙速な再開への圧力を減らす
訪日グループ
- 「国際核分裂性物質パネル(IPFM)」
2006年1月に設立。核兵器国と非核兵器国両方を含む17カ国の軍備管理・拡散防止問題の専門家からなる独立したグループ。
今回、IPFMとプリンストン大学が訪日を組織した再処理問題検討チームのメンバー:
- フランク・フォンヒッペル(米国 プリンストン大学教授)
- アナトリー・ディアコフ(ロシア 軍備管理・エネルギー・環境問題センター研究員)
- M. V. ラマナ(米国 プリンストン大学教官)*インド出身
- ゴードン・トンプソン(米国 資源・安全保障問題研究所長)
- マイケル・シュナイダー(フランス 原子力問題アナリスト)*ドイツ出身
- ゴードン・マッケロン(英国 サセックス大学科学技術政策研究所長)
- (このほか、横浜の脱原発世界会議出席のために来日した「憂慮する科学者同盟(UCS)」のエドウィン・ライマン博士も参加。)
講演会リスト:
- 1月17日
- 青森市アピオ青森イベントホール講演会
- 1月19日
- エネシフジャパン 第15回「福島第一原発事故を受けて:核燃料サイクル再考」
- 1月20日
- 「核燃料サイクルと核不拡散問題の今後」研究会軍縮学会および(財)日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターとIPFMの共催
三村申吾青森県知事宛書簡
2012年1月17日
青森県知事 三村申吾殿
私達は、日本政府に対し、福島第一原子力発電所での事故を受けての原子力政策見直しの中で、その再処理計画を再検討するよう促すために日本に参りました。
日本は、原子力発電で生じる使用済みからプルトニウムを分離している唯一の非核兵器国です。これは、国際的な核不拡散体制の土台を揺るがすものです。例えば、現在、韓国政府は、日本と同様に再処理する権利を含む「核主権」を主張しています。
私達は、今も再処理を行っている核兵器国における再処理にも反対しております。二つの核兵器国──フランスと英国──が、大規模な再処理を行っていますが、英国は、再処理の放棄を決めています。再処理工場を維持・運転する経費が高すぎるからです。フランスでも、「フランス電力公社(EDF)」が、再処理の高いコストを支払うことについてその抵抗を強めています。
私達は、再処理の安全性問題について話し合いたいと思い、青森にやって参りました。私達は、特に、世界の再処理工場にある高レベル廃棄物貯蔵用大型タンクと大容量の使用済み燃料貯蔵プールに関連した安全性及びセキュリティー・リスクについて懸念しております。私達のうちの一人(ゴードン・トンプソン)は、英国の再処理工場の安全性に関する独立の評価、それに、ドイツで計画されていた再処理工場の国際的評価に関わった経験を持っています。一つには、これらの評価の結果、ドイツの再処理工場の建設は放棄され、英国の再処理工場に貯蔵できる高レベル廃棄物の量に制限が設けられることになりました。ドイツでの国際評価作業を主催したのはニーダー・ザクセン州政府です。
私達は、青森県が、独立の国際的な専門家の参加を得て六ヶ所再処理工場に関する同様の詳細な安全性評価を主催するよう要請します。
いずれにせよ、再処理は、高くつき、不必要で、危険です。私達は、日本政府に対し、再処理を放棄し、原子力発電所敷地内、あるいは、むつ市で建設中の施設のような集中的貯蔵施設におけるはるかに安くつき、かつ、より安全な使用済み燃料乾式中間貯蔵を選択するよう要請する予定です。
敬具
ゴードン・トンプソン
資源・安全保障問題研究所(IRSS)所長
フランク・フォンヒッペル
核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)共同議長
プリンストン大学公共・国際問題教授
参考
高速増殖炉と再処理計画 「核情報」による政府関係者用説明メモ
高速増殖炉と再処理、プルサーマルの関係
- 高速増殖炉とは:発電しながら使った以上のプルトニウムを作り、無尽蔵のエネルギー源となるという夢の原子炉。原子力計画が始まった頃からずっと「夢」となっている
- 元々の再処理の目的:高速増殖炉の初期装荷用のプルトニウムの提供
- 再処理計画の結果
- 使用済み燃料をすぐに再処理することになっていたことから、原発サイトに安全な大きな容量の貯蔵施設を作らずに来た結果、六ヶ所再処理工場の運転の遅れにより各地のプールが満杯になってきた
- 高速増殖炉計画はもっと遅れているため、プルトニウムが国内外で貯まってしまった
- プルサーマルの目的:再処理で貯まってしまったプルトニウムの消費
- 現在の再処理の目的:六ヶ所にある容量3000トンのプールから使用済み燃料を再処理工場に移し、プールに空きを作って、そこに各地の原発の使用済み燃料を持ち込むこと
別の道は?
現在より少数でも、原発を運転することを前提とするなら、各地の原発に乾式貯蔵施設をつくり、古い使用済み燃料を保管する。
プール貯蔵は危険性が高いため、たとえ、今日原発をすべて停止しても、乾式貯蔵施設を作って、プールの使用済み燃料を移した方がいい。
原子力委員会の長期計画における高速増殖炉の位置づけ
1956年 | わが国の国情に最も適合 |
1961年 | 自立体制を取った場合不可欠 |
1967年 | 将来の原子力発電の主力 |
1972年 | 将来、原子力発電の主流 |
1978年 | 将来の発電用原子炉の本命 |
1982年 | 将来の原子力発電の主流 |
1987年 | 将来の原子力発電の主流 |
1994年 | 将来の原子力発電の主流 |
2000年 | 将来のエネルギーの有力な選択肢 |
2005年 | 将来における核燃料政策の有力な選択肢 |
高速増殖炉の実現時期
1961年 | 1970年代後半以降 | 15 |
1967年 | 1985-90年 | 23 |
1972年 | 1985-95年 | 23 |
1978年 | 1995-2005年 | 27 |
1982年 | 2010年頃 | 28 |
1987年 | 2020年代-2030年頃 | 38 |
1994年 | 2030年頃まで | 36 |
2000年 | 柔軟かつ着実に検討 | |
2005年 | 2050年頃から | 45 |
長期計画に現れた再処理計画
1956年 | 初期は日本原研 |
1961年 | 原子力発電規模増大した段階においては国内で |
1967年 | 国内で行う原則。 |
1972年 | 燃料安定供給・安全確保に重要。新型炉に不可欠。国内が原則。 |
1978年 | ウラン資源に乏しいわが国に不可欠。国内が原則。 |
1982年 | 自主性の他廃棄物の適切な管理・処分にも重要 |
1987年 | 自主性確保ため、原則、国内で。エネルギー安定供給。廃棄物の適切管理 |
1994年 | 自主性確保ため、原則、国内で。 |
2000年 | 供給安定性の向上、原子力の長期供給を可能に。 |
2005年 | 供給安定性の向上、原子力の長期供給を可能に |
再処理は義務か
「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法)」における原子炉設置許可と、再処理の扱いについて
行政庁は、発電の用に供する原子炉の設置・変更の許可に当たっては、「原子力の開発、利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと」の具体的な解釈として、核燃料サイクル政策の基本的な考え方を定めたエネルギー基本計画(閣議決定文書)、「当面の核燃料サイクルの推進について」(閣議了解文書)、原子力長期計画などを総合的に踏まえ、民間事業者が再処理することを確認しているところである。
法律上、具体的な内容が明定されていない許可基準の解釈・運用に当たり、政府全体の方針である上記閣議決定、閣議了解なども総合的に勘案し、再処理の確認を行うこととしているのは合理的であると考える。
出典 新計画策定会議委員からいただいた御意見に対して 平成16年11月1日新計画策定会議(第11回)資料第3号(pdf)
参考 「再処理義務」の根拠となった原子炉等規制法の条項の削除案(2012年1月31日閣議決定) 核情報
MOX・プルサーマル計画とは
プルトニウム利用計画の本命である高速増殖炉が実用化されるまで、脇役としてつなぎ的役割
- 1967年長計
プルトニウムの需給は,昭和40年代には,研究用の需要が生成量を上まわるが,昭和50年代には,逆に生成量が研究用の需要を上まわると予想される。
このため,昭和40年代には不足分を輸入し,昭和50年代には過剰分を熱中性子炉用燃料として利用することとする。
- 1972年長計
再処理によって得られるプルトニウムについては,消費した以上のプルトニウムを生成することができ将来の原子力発電の主流となると考えられる高速増殖炉で利用することを基本的な方針とし,2010年頃の実用化を目標に高速増殖炉の開発を進める。
しかしながら,高速増殖炉の実用化までの間及びそれ以降においてもその導入量によっては,相当量のプルトニウムの蓄積が予想される。このため,資源の有効利用,プルトニウム貯蔵に係る経済的負担の軽減,核不拡散上の配慮等の観点から,プルトニウムを熱中性子炉の燃料として利用する。・・・1990年代中頃までには,その実証を終了し実用化を目指す。
なぜプルサーマルが必要なのか
各地の原発で使用済み燃料貯蔵施設が満杯になってきており、これを六ヶ所村再処理工場に運び出すため。
この奇妙な状態を、新潟県刈羽村でプルサーマル実施に関する住民投票が行われた際に国が村内全戸に配布した平沼赳夫経済産業相の署名入りビラが次のように説明している。
プルサーマルは、原子力発電を末永く続けていくために必要です。
我が国は、燃料として使う以外にはプルトニウムを保有しないことを国際的に明らかにしています。我が国のプルトニウム利用は、当面原子力発電所における燃料としての利用がほとんどとなるため、プルサーマル計画が進まず、原子力発電所における利用が進まないとなると、使い終わった使用済燃料のリサイクルが困難になります。
リサイクルをしないなら、使用済燃料を原子力発電所からリサイクル施設(青森県六ヶ所村)に運び出すわけにはいきません。原子力発電所の中に使用済燃料が溜まり続ける場合、使用済燃料の貯蔵施設が満杯になって、新しい燃料と取替えることができなくなるため、やがては運転を停止しなければならなくなります。柏崎刈羽原子力発電所もリサイクルの一環を担っているのです。
我が国の電力の3分の1以上を発電する原子力発電所が停止するようなことになれば、電力不足のような問題が発生します。
この「風が吹けば桶屋が儲かる」式因果関係を整理すると次のようになる。
主に海外再処理で発生したプルトニウムが有り余っている。
日本は余剰プルトニウムを持たないとの国際公約をしている。
各地の原発で使用済み燃料貯蔵施設が満杯になって来ている。2004年3月末現在で、全国の貯蔵量の合計は約1万1000トン。容量は約1万7000トン。数年で満杯になるところが次々とでてくる
あふれ出た使用済み燃料を送り込む場所は現在のところ六ヶ所村再処理工場の受け入れ貯蔵プール(容量3000トン)しかない。
このプールの容量は後半分しか残っていない。(05年12月まで搬入量1524トン)。
このプールに余裕を持たせるには再処理工場に送り込んで処理するしかない。つまり、早く再処理を開始しなければならない。
再処理工場を運転すると余剰プルトニウムの量がさらに増える。
国際公約から言って、プルトニウムを消化しないと、再処理工場が運転できず、そうすると、再処理工場の受け入れ貯蔵プールが使えず、各地の原発の燃料貯蔵施設が満杯となって、原発からでてくる使用済み燃料の行き場がなくなり、原発が止まるから、プルサーマルを認めて欲しい。
1991年の需給見通し 2010年まで
供給 | ||
東海再処理施設 | 5トン | |
六ヶ所再処理工場 | 50トン | |
海外再処理施設 | 30トン | |
計 | 85トン | |
需要 | ||
高速増殖炉実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」 | 12−13トン | |
高速増殖炉実証炉と実用炉 | 10−20トン | |
新型転換炉原型炉と実証炉 | 10トン弱 | |
軽水炉利用 | 50トン | |
計 | 82−93トン |
なぜ今再処理が必要か
「多くの原子力発電所が使用済み燃料を抱えており、中には貯蔵能力の限界に近づいているものも少なくありません。そこで六ヶ所村に運び込んで再処理する必要があるわけです。もし同工場の運転を中止すれば国と青森県との合意事項が白紙に戻されることになり、すでに搬入済みの使用済み燃料も各発電所へ返却されねばなりません。そうなると、日本の原子力発電所は次々に操業停止に追い込まれ、大変な事態になります」
金子熊夫初代外務省原子力課長(1977−82年)『エネルギー』2005年11月号
2005年原子力政策大綱で再処理推進を決定した理由
- 現時点においては我が国の自然条件に対応した技術的知見の蓄積が欠如していることもあり、プルトニウムを含んだ使用済み燃料の最終処分場を受け入れる地域を見出すことはガラス固化体の最終処分場の場合よりも一層困難であると予想される。
- これまで再処理を前提に進められてきた立地地域との信頼関係を再構築することが不可欠であるが、これには時間を要し、その間、原子力発電所からの使用済み燃料の搬出や中間貯蔵施設の立地が滞り、現在運転中の原子力発電所が順次停止せざるを得なくなる状況が続く可能性が高い、といった『立地困難性』や『政策変更に伴う課題』がある。
出典 核燃料サイクル政策についての中間取りまとめ 平成16年11月12日原子力委員会新計画策定会議