核情報

2014. 5. 9

日仏高速炉協力 失敗続きの両国が協力しても、と英仏の専門家

日仏両首脳は、5月5日にパリで開かれた首脳会談後に出された共同プレスリリースで、高速炉協力に関する日仏当局の「取決めの署名を歓迎する」と述べました。会談直後にフランスの高速炉計画と日本のもんじゅ計画の協力関係を取り決めた文書に両国関係機関が署名したことに触れたものです。失敗続きの両国の計画を合わせても成功とはならないと日仏の高速増殖炉計画を追い続けてきたショーン・バーニーとマイケル・シュナイダーが論じています。

この日仏合意については、読売新聞が4月29日の一面で「日仏、高速炉研究を推進…仏計画に日本技術協力」と大きく報じていましたが、日仏首脳会談後のマスコミの扱いは、下に挙げたいくつかの例が示すように、実態を反映してか小さなものとなっています。読売新聞の記事は、「合意文書は、高レベル放射性廃棄物を減らすことに主眼を置いたフランスの高速炉開発計画に、日本が技術協力することが柱だ」と説明していますが、廃棄物の減容・毒性低減を本当に考えているなら、プルトニウム以外の超ウラン元素を他の高レベル廃棄物と共にガラス固化してしまう方式の六ヶ所再処理工場の運転を中止すべきであることは、「絵に描いた餅と今そこにある危機:再処理=核兵器利用可能物質の蓄積」で指摘した通りです。

以下、「国際核分裂性物質パネル(IPFM)」のブログに掲載されたショーン・バーニー(マイケル・シュナイダー協力)の記事Japanese-French fast breeder cooperation(日仏高速増殖炉協力)を訳出するとともに、関連文書を抜粋しました。

  1. 日仏高速増殖炉協力 ショーン・バーニー(マイケル・シュナイダー協力)2014年5月6日 全訳
  2. 日仏首脳会談関連政府文書
  3. 日仏合意関連報道 
  4. エネルギー基本計画ともんじゅ
  5. もんじゅ基礎情報
  6. もんじゅの使用停止命令
  7. もんじゅと活断層
  8. フランスの高速炉関連の日本原子力研究開発機構の説明 (自由民主党資源・エネルギー戦略調査会放射性廃棄物処分に関する小委員会資料)
  9. 高速炉関係国際会議

日仏高速増殖炉協力 ショーン・バーニー(マイケル・シュナイダー協力)2014年5月6日 全訳

高速炉の設計・開発に関する更なる日仏協力が2014年5月5日の安倍総理とオランド大統領の首脳会談において発表された。日本の文部科学省及び資源エネルギー庁とフランスの「原子力・代替エネルギー庁(CEA)」の間で交わされた合意は、両国間の数十年にわたる高速炉技術確立のための協力関係を拡大するものである。

マスコミ報道によると、フランスの新しい実証炉ASTRID(工業用実証のための改良型ナトリウム技術炉)で使う予定の燃料用の新しい実験施設としてナトリウム冷却原型炉もんじゅを使うことについて、仏側が強く要望したとのことである。安倍政権は、2014年4月に承認された新しいエネルギー基本計画において、もんじゅプロジェクトの再確認をしたところである。フランス政府がASTRIDプロジェクトを承認したのは2006年のことである。設計の中心的役割はアレバ社が果たすとされていた。元々の計画では詳細設計は、2014−2017年に完成し、原子炉は2020年までに運転開始となるはずだった。しかし、今回の合意では、ASTRIDの基本設計について、もんじゅを運転する「日本原子力研究開発機構(JAEA)」と三菱重工業が2016年からアレバ社と協力し、建設は2025年に完成することになっている。「仏原子力学会(SFEN)」の最近の文書では、ASTRIDの「詳細なプロジェクト前」設計は、2019年までに完成し、送電網との接続は2026年末の計画となっている。同文書は、次のように述べている。「ナトリウム高速炉(ASTRIDを実証炉とする標準技術)は、実証済みの経験に基づくロジックに対応するものである。産業側パートナーとの密接な協力の下、国際的な協力の枠組み(条件を今後設定)のなかで、2040/2050年頃に実現可能な技術。」

高速増殖炉研究における日仏協力は、何年も前から続けられているが、どちらの国も、定められた予算内で事故を起こさずこの技術を運用できることを実証するのに失敗している。フランスは、大型の商業用高速増殖炉スーパーフェニックスを1998年に放棄した。膨大な費用を伴う技術的・法的・安全性問題、また、原子力の歴史の中で最悪の運転経験を経てのことである。もんじゅは、1994年4月に運転が始まったが、1995年12月にナトリウム漏れを起こして運転停止となった。2010年5月に運転を再開したが、2010年8月にまたしても運転停止となった。燃料の炉内中継装置の落下事故のためである。そして、原子力規制委員会は2013年5月、原子力研究開発機構の度重なる安全性問題、点検漏れ、虚偽報告などのため、もんじゅの運転準備停止命令を出した。このとき原子力規制委員会の委員長は、原子力研究開発機構について、安全文化に欠け、厳重な措置に値すると述べている。

大きな問題を抱えたもんじゅプロジェクト、それに、増殖炉開発全般を生き返らせようとしてのことだろうが、日本政府は日本原子力研究開発機構の改革過程を急ぐことを約束している。これに関してオランド政権の積極的な支持を得た。日本政府はさらに、原子力規制委員会による安全性面での許可を得ようとするだろう。だがこれが可能かどうかは定かではない。福井県敦賀半島のもんじゅの直下にある8つの破砕帯についての調査は続いている。これらが活断層であると確認されれば原子力委員会の規則の下でもんじゅは運転再開が認められなくなる。これらの不確実性やもんじゅの過去の実績から言って、ASTRIDの核燃料のテストに関してもんじゅに依存するというのは、良くいっても、問題がある。

ASTRIDプロジェクトのスケジュールは、2006年に最初に発表されて以来、遅れ続けている。ASTRIDプロジェクトの将来も、年末までに可決される予定の新しいエネルギー法の下で承認されるかどうか不明である。

日仏首脳会談関連政府文書

  • 日仏首脳会談(概要)2014年5月5日 外務省

    両首脳は、経済成長においてはイノベーションが重要であることで一致し、会談直後の署名式においては、安全性の高い新型原子炉ASTRIDを含む高速炉の技術開発協力に関する取決めが署名されました。

  • 安倍晋三日本国総理大臣のフランス共和国訪問の際の日仏共同プレスリリース 2014年5月5日

    安倍晋三日本国内閣総理大臣は,フランソワ・オランド・フランス共和国大統領の招きにより,2014年5月4日から6日まで,フランス共和国を訪問した。この訪問は,2013年6月のフランス共和国大統領による日本国への国賓訪問を受けたものであり,この機会に両国間の特別なパートナーシップを確認するものである。・・・

    (8)両国は,原子力エネルギーに関する全ての分野における二国間協力を更に強化し,原子力エネルギーに関する日仏委員会を通じた対話の深化を歓迎する。

    (9)両国は,両国において,また,世界規模において,最高水準の原子力安全を確保することが優先課題であることを再確認する。両国は,この点に関し,両国の規制当局間の協力を強化すること,IAEAの原子力安全に関する行動計画に対して貢献を継続すること及び当該規制当局が他国の規制当局から受け得る協力の要請に応えていく用意があることを強調する。

    (10)両国は,民生用原子力分野における協力を強化する。両国は,この文脈において,第4世代原子炉ASTRID計画及び高速炉協力に係る日本国当局とフランス共和国原子力庁の間の取決めの署名を歓迎する。また,日本国が海外の経験及びノウハウから教訓を引き出す意思を表明したのに際し,フランス共和国は,そのノウハウの提供並びに廃炉の企画立案及び実施を担う日本国の機関との経験の共有によって,福島第一原子力発電所事故により生じた事態及び廃炉への対応における日本国の取組に貢献する用意があることを確認する。この観点から,両国は,福島第一原子力発電所の廃炉技術開発に貢献するためのアレバ社とアトックス社によるジョイント・ベンチャーANADECの設立に関する文書の署名を歓迎した。さらに,両国は,日本原子力研究開発機構(JAEA)とフランス共和国原子力庁の福島第一原子力発電所廃炉に向けた研究での協力の国際廃炉研究機構(IRID)の一員としてJAEAが実施するものへの拡充を奨励する。両国は,産業面において,日仏企業が共同開発した原子炉ATMEA1の国際市場における展開によってトルコを始めとする第三国における協力を深める。両国は,トルコで予定されているプロジェクトに関して実施された協力にならい,この技術を選択した国のニーズに応え共に歩むために,組織的に連携する。さらに,核燃料サイクル分野については,六ヶ所再処理工場の安全かつ安定な運転実現のための産業分野での協力を深化する。

  • 日仏共同声明 安全保障・成長・イノベーション・文化を振興するための「特別なパートナーシップ(partenariat d’exception)」(pdf) 2013年6月7日 外務省

    民生原子力エネルギーに関するパートナーシップを強化する。両国は、原子力発電が重要であること及び安全性の強化が優先課題であることを共有するとともに、その協力に係る両国の原子力規制当局間の協力を拡大した。両国は、燃料サイクル(特に六ヶ所村の再処理施設の安全かつ安定的な操業の開始、使用済燃料の再利用、放射性廃棄物の減容化・有害度低減)及び高速炉を含む第四世代炉の準備におけるパートナーシップを引き続き深めていく。両国は、産業分野において、世界最高水準の安全性を有する共同開発原子炉アトメア1の国際展開の支援及び第三国の能力強化の支援を含め、第三国における協力を進めていく。さらに、フランス共和国は、東京電力福島第一原子力発電所の事故現場において日本国が行っている努力に敬意を表する。日本国は、それに貢献し得るフランス共和国の知見に対する関心を表明した。

日仏合意関連報道 

  • もんじゅ活用へ 日仏で取り決め検討 NHK「かぶん」ブログ 2014年03月05日(水)

    政府は先月、新たなエネルギー基本計画の案をまとめ、「もんじゅ」について「徹底的な改革を行い、国際的な研究協力の下、研究の成果を取りまとめることを目指す」として存続させる方針を示し、与党内の議論を踏まえて閣議決定を目指しています。これを受けて経済産業省などは、フランスが2025年ごろの運転開始を目指している「ASTRID」と呼ばれる次世代型の原子炉の設計や、この原子炉を使ったいわゆる「核のゴミ」を減らす技術の研究開発に協力するため、同様の研究を行う「もんじゅ」の活用も見据えた政府間の取り決めを検討していることが分かりました。

    関係者によりますと、来月下旬をめどに具体的な取り決めの内容を取りまとめたうえで、正式な合意書を交わす見通しだということです。

  • 日仏、高速炉研究を推進…仏計画に日本技術協力 読売新聞 2014年04月29日(全文を読むには登録要)
    Fast reactor research set with France The Yomiuri Shimbun April 29, 2014(英文)(登録なしで全文が読める)

     合意文書は、高レベル放射性廃棄物を減らすことに主眼を置いたフランスの高速炉開発計画に、日本が技術協力することが柱だ。共同研究では、日本の高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)による試験が求められており、政府は運転再開に向けた準備を本格化させる。 合意文書は、文部科学省、資源エネルギー庁、フランスの原子力・代替エネルギー庁の日仏3省庁の代表者が署名する予定。

  • 日仏首脳会談:防衛装備品、共同開発へ 交渉開始で合意 毎日新聞 2014年05月06日

    両首脳はまた、民生用原子力分野での協力強化を確認。仏はナトリウムを冷却材に使った高速炉「ASTRID」の開発を進めており、両政府は日本の高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)を活用し、放射性廃棄物を減らす研究を進める。

  • 無人潜水機の共同開発で一致 日仏首脳会談 産経新聞 2014.5.5

    原子力分野では、両首脳の立ち会いの下、政府関係者が放射性廃棄物の減量に優れ「次世代の原子炉」と位置付けられる高速炉の共同開発に関する文書に署名した。

  • 日仏、防衛装備品協定締結へ交渉入り 首脳会談で一致 日経新聞 2014/5/5

    経済分野では民生原子力の協力を強化する。フランスの高速炉開発計画に日本の高速増殖炉「もんじゅ」(福井県)の技術などを提供し、放射性廃棄物を減らす研究に取り組み、原子力発電所から出る「核のゴミ」処理の技術開発で連携する。

エネルギー基本計画ともんじゅ

  • エネルギー基本計画 2014年4月11日閣議決定(pdf)

    もんじゅについては、廃棄物の減容・有害度の低減や核不拡散関連技術等の向上のための国際的な研究拠点と位置付け、これまでの取組の反省や検証を踏まえ、あらゆる面において徹底的な改革を行い、もんじゅ研究計画に示された研究の成果を取りまとめることを目指し、そのため実施体制の再整備や新規制基準への対応など克服しなければならない課題について、国の責任の下、十分な対応を進める。

  • エネルギー基本計画 再処理は推進だが柔軟性? 核情報 2014. 2.21

    エネルギー基本計画(pdf)

     2014年4月 (2014年4月11日閣議決定)

    再処理やプルサーマル等を推進する.。・・・プルサーマルの推進、六ヶ所再処理工場の竣工、MOX燃料加工工場の建設、むつ中間貯蔵施設の竣工等を進める。・・・利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を引き続き堅持する。これを実効性あるものとす

  • もんじゅ延命 「増」か「減」かそれが問題だ エネルギー基本計画の小細工 核情報2014. 2.28

    増殖にしても、減容・毒性低減にしても今のところ絵に描いた餅に過ぎません。減容・毒性低減というのは、基本的には、寿命が長く発熱性の超ウラン元素を核分裂させて減らすということです。しかし、六ヶ所再処理工場で使われているピューレックス法では、プルトニウムとウランだけを取り出すので、プルトニウム以外の超ウラン元素は他の高レベル廃棄物と一緒にガラス固化されてしまいます。減容・毒性低減を目指すなら使用済み燃料をそのまま貯蔵し、新しい再処理技術・燃焼技術の開発を待つべきです。

もんじゅ基礎情報

もんじゅの使用停止命令

もんじゅと活断層

フランスの高速炉関連の日本原子力研究開発機構の説明 (自由民主党資源・エネルギー戦略調査会放射性廃棄物処分に関する小委員会資料)

高速炉関係国際会議

  • 高速炉国際会議に出席して 近藤駿介 第122号原子力委員会メールマガジン 2013年3月15日

    今月の4日から7日まで、パリで開催された「高速炉とその燃料サイクル:安全な技術と持続可能なシナリオ」と題する国際原子力機関(IAEA)主催の国際会議FR13に出席した。この会議は、2009年にIAEAが主催し、日本政府がスポンサーとなって京都で開催された高速炉システムに関する国際会議FR09に続くもので、フランス政府(代替エネルギー及び原子力庁)がスポンサーとなり、フランス原子力学会の協力を得て開催していた。・・・

    原子力発電で発生する高レベル放射性廃棄物の毒性や体積、したがって地層処分場の面積を高速炉の特性を活かして最小化する取組については、我が国は当初より重要な開発課題にしてきたが、国際社会においては、処分場面積の大小は単に地下掘削作業の大小、つまり経済性の観点から処分方式の選択に考慮することでよいという意見も、これまでは少なからずあった。しかしながら、今回の会合では、フランスの新型原型炉ASTRIDが、処分場面積の小さいことには経済性以外の社会的意味があるとしてこれを使命に掲げ、具体的に、水溶液を用いるこのための再処理技術の実現に向けての研究成果を示したことから、これが次世代の高速炉システムの備えるべき必須の特性になった感があった。ただし、再処理過程でアメリシウムをプルトニウムと共に回収して燃焼させるだけでも廃棄体の発熱量が大幅に減少し、使用済燃料の直接処分の場合に比べ処分場面積が10分の1以下になることから、当面は多くの核種の分離・転換にこだわるのではなく、この実用化に力を入れるべきであろう。

  • International Conference on Fast Reactors and Related Fuel Cycles: Safe Technologies and Sustainable Scenarios (FR13) (4-7 Mar 2013) IAEA
  • FR13での近藤駿介原子力委員会委員長(当時)のプレゼンテーション(英文)
  • 「もんじゅ」を活用した国際共同研究に関する国際ワークショップ(英)
    International Workshop on International Collaboration Research using Monju April 24-25, 2013 Fukui, JAPAN
    日本原子力研究開発機構敦賀本部

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