核情報

2012. 6. 27 〜

硬直政策「並存」を「柔軟な」唯一の選択肢とする原子力委
 惰性で続くか核兵器利用可能物質プルトニウムのさらなる生産

原子力委員会は、6月21日、2030年までに原子力が発電に占める比率をゼロとするのでなければ、六ヶ所再処理工場の運転を開始を意味する「再処理」と、一部の使用済み燃料をそのまま地下深くに処分する「直接処分」との「並存」が柔軟性の点から適当との見解をまとめました。これだと、七月から一月余り実施されるという「国民的議論」で、選択肢として提示されるのは、原子力の比率だけとなります。再処理政策は、「並存」で決まりです。政策見直しなどといっても、何のことはない、現状追認でしかない並存=再処理政策続行が唯一の選択肢として提示されようとしています。

忘れ去られているのは、再処理で出てくるプルトニウムは核兵器利用物質だという点です。各種委員会では、核軍縮、核拡散・核テロ防止と六ヶ所運転開始の関係についての真剣な議論がほとんどされていません。政府から独立した立場の国際政治学者などからの発言は皆無に近い。そして、使用済み燃料貯蔵プールの満杯化、再処理工場を運営する日本原燃の借入金に関連した金融市場の混乱など、再処理自体の是非とは関係ない理由で再処理政策続行が正当化されようとしています。

以下、現状とその打開策についてまとめました。

まず、再処理政策の歴史を概観した上で、現在の3つの主要な再処理政策正当化論について検討します。最後に、再度、六ヶ所再処理工場運転開始の阻止がいかに核軍縮・核拡散及び核テロ防止の課題であるかを確認します。




  1. 6月21日決定と背景
  2. 概観
  3. 再処理正当化論1 使用済み燃料の行き場の確保
  4. 再処理政策正当化論2 金融市場の混乱の防止
  5. 再処理政策正当化論3 最終処分場の必要面積の削減 「併存シナリオ」の矛盾
  6. 3択方式「併存シナリオ」の矛盾
  7. 真中のジョーカーを引かせるような3択ではなく、2択に
  8. 再処理は、核軍縮・核拡散及び核テロ防止の課題
  9. オバマ 核セキュリティー・サミット発言
  10. 日本の例は他国の再処理の口実に



6月21日決定と背景

本論に入る前に、6月21日の決定について、見ておきましょう。

原子力委員会が推奨するのは、2030年時点での原子力発電比率が1)0%の場合には、「全量直接処分」、2)15%程度の場合には「再処理・直接処分併存」、3)20〜25%程度の場合には、「全量再処理」というものです。そして、3)でも、将来の不確実性に対する柔軟性を確保することを重視するのであれば、「再処理・直接処分併存」政策を選択することが有力だとしています。

これは、基本的には、原子力委員会「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」によるまとめから来ています。

小委では、「基本問題委員会」の方で示された2030年の電力に占める原子力比率、35%、20%、0%について、それぞれ、「全量再処理」、「並存」、「全量直接処分」の選択肢を検討するという作業をしました。

そして、次のようなまとめをしています。

  • 全量再処理
    原子力規模が維持または拡大される場合、使用済燃料管理・貯蔵、高レベル放射性廃棄物の処分面積、資源節約の面から最も有力な選択肢。
  • 並存
    将来の原子力発電規模が不透明な場合には、政策の柔軟性があることから最も優れている。
  • 全量直接処分
    短期的に原子力依存度をゼロにすることが明確な場合に最も有力な選択肢。

出典 「代表シナリオの評価を踏まえた政策選択肢の総合評価」2012年5月23日 原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会 11〜13ページ

上から、35%、20%、0%と比率の数字を入れれば、結論が見えてきます。三択と三択の組み合わせ、両端の選択肢がそれぞれ極端で硬直的ということにして、真ん中の組み合わせが残る可能性が高い。20%と並存の組み合わせです。

このまとめが、原子力村的発想から来ていることは言うまでもありません。

全量再処理が「最も有力」となりうるのは、ウラン資源が世界の原子力の伸びとの関係で枯渇してきて、なおかつ、高速増殖炉の商業化が成功し、しかも、プルトニウムの利用から来る核拡散・核テロ問題などに対処できるという前提があってのことです。どの前提も正当性が立証されていない以上、この評価は、全くの絵空事に過ぎません。

全量再処理が絵空事であることを認めながら、六ヶ所再処理工場の運転によって核兵器利用可能物質の量をさらに増やして、それを経済性のないプルサーマルで燃やし、その使用済みMOX燃料を直接処分するという「並存」が合理的でも柔軟でもないことは、「再処理と直接処分並存が合理的?」で述べたとおりです。

比率の数字については、最終的に、エネルギー・環境会議が6月8日の中間的整理で、1)0%、2)約15%、3)約20〜25%を選択肢を提示しました。そこで、3)については、工夫が必要になりました。35%なら全量直接処分とセットにして極端な選択肢としてあきらめるにしても、20〜25%は捨てがたい。そこで、3)を二つに分けて、全量直接処分の他に、不確実性に備えた柔軟性ある選択肢「並存」が選べるようになっています。

核燃料サイクル政策の選択肢について[概要]

原子力発電依存度に関する選択肢※1 核燃料サイクル政策の選択肢
使用済燃料の取扱いの基本方針当面の政策の進め方高速増殖炉/高速炉※2
選択肢@
新増設を行わずできるだけ早く原子力発電比率をゼロ(2030年時点で原子力発電比率を0%等)
全量直接処分が適切六ヶ所再処理工場等を廃止使用済燃料は長期貯蔵
直接処分の実施に向けた取組を開始
もんじゅにおける研究開発を中止した上で、その成果を取りまとめ、基礎基盤研究のみを推進
選択肢A
原子力依存度低減を基本とし2030年時点で原子力発電の比率を概ね15%程度まで下げる
再処理/直接処分併存が適切六ヶ所再処理工場等を稼働その能力を超える使用済燃料は貯蔵
貯蔵された使用済燃料の再処理に取組むとともに直接処分実施に向けた取組を開始
実証炉実現のフェーズに進まず、実用化を判断するために必要な研究開発を実施。
もんじゅは性能試験と定格運転を実施し技術成立性を確認(5年程度)
選択肢B
震災前よりも低減させるが一定程度維持し、2030年時点での原子力発電比率を概ね20〜25%程度とする
再処理/直接処分併存が有力(不確実性をより重視した場合)六ヶ所再処理工場等を稼働その能力を超える使用済燃料は貯蔵
貯蔵された使用済燃料の再処理に取組むとともに直接処分実施に向けた取組を開始
実証炉実現のフェーズに進まず、実用化を判断するために必要な研究開発を実施。
もんじゅは性能試験と定格運転を実施し技術成立性を確認(5年程度)
全量再処理が有力(全量再処理のメリットは選択肢Aより大きい)六ヶ所再処理工場等を稼働その能力を超える使用済燃料は貯蔵
次の再処理施設に向けた取組を開始する
実用化を前提に研究開発を推進し、実証炉実現のフェーズに移行。
もんじゅは10年程度以内の運転によって所期の目的達成を目指す推進に当たっての重要課題

※1:エネルギー・環境会議「選択肢に関する中間的整理」

※2:文部科学省「高速増殖炉/高速炉の研究開発オプションについて」

推進に当たっての重要課題

  • 技術小委の提言にもあるように、現時点でどの選択肢を選ぶにせよ、将来の政策変更に対応できるような備えを進めることが重要
  • 政策変更決定の責任はすべて国が負うべきものであり、全国の原子力発電所所在自治体、特に国の核燃料サイクル政策に長年にわたり協力し、関連施設を受け入れてきた立地自治体との信頼関係を崩すことのないよう、万全の対策をとることが必要
  • 現在の政策を変更して別の政策を選択し、推進していく場合には、様々な調整が必要になり、そのための投資も必要
  • このほか、技術小委報告での指摘等を踏まえ、下記の課題に取り組むことが必要
    1. 発電所敷地内外に係わらず乾式貯蔵を含めた使用済燃料の貯蔵容量を増強する取組及び高レベル放射性廃棄物の処分場の選定の強力な推進、直接処分を可能とするための技術開発や所要の制度措置の検討に早急に着手
    2. 六ヶ所再処理事業に係る工場の稼働状況、プルトニウム利用の進展状況、国際的視点などを踏まえ、核燃料サイクルに関する事業運営のあり方について総合的な評価の実施(数年以内)
    3. 高速増殖炉の研究開発に対し有効に機能するチェック・アンド・レビュー体制構築、革新的で競争力のある新型炉を生み出せる開発体制の整備、我が国内で完結する考え方にとらわれることなく国際協力を活用し効果的・効率的に研究開発を進める取組の検討。また、直接処分政策を採用した場合でも、高度再処理・高速炉技術等の基礎・基盤研究を継続することが重要。
    4. 世界の原子力発電の安全性向上、核不拡散、核セキュリティのリスク低減に十分配慮した国際的視点に立脚した核燃料サイクル政策の構築
    5. 国が責任を持って政策を決定し、その実施における国と民間の責任分担の明確化、国民との真摯な対話・透明性確保を通じた信頼の維持・向上

出典:第26回原子力委員会臨時会議配付資料 核燃料サイクル政策の選択肢について(案)(PDF:504 KB)

概観

 もともと、再処理で取り出されたプルトニウムは、高速増殖炉で使うためのもののはずだった。高速増殖炉は、発電しつつ、使用した以上のプルトニウムを作り、無尽蔵のエネルギー源となるという「夢の原子炉」だ。「夢」の背景には、原子力発電容量の伸びの過大推定と、ウラン埋蔵量の過小評価があった。だが、ウランの埋蔵量が、実際の発電容量の伸びに照らして十分であることが判明している。意味を失った「夢」は追い続けられたが、原子力委員会が1961年に1970年代としていた高速増殖炉の実用化の予測時期は遠ざかり続け、同委員会の2005年の原子力政策大綱では「2050年頃から商業ベースで導入」となっている。一方、英米に委託した再処理などが進んだ結果、使い道のないまま、日本のプルトニウム保有量は、2010年末現在で約45トンに達している(英米に35トン、国内に10トン)。長崎に投下された原爆の技術で、5000発分以上である。

この溜まってしまったプルトニウムを処理するために試みられてきたのが、劣化ウランを混ぜた混合酸化物(MOX)燃料にして、軽水炉(普通の原子炉)で無理矢理燃やそうというプルサーマル計画だ。

 政府は、資源節約のためとの理由をこじつけている。現行の2005年原子力政策大綱策定作業の際の2004年中間報告では、「軽水炉(プルサーマル)核燃料サイクルにより、1〜2割程度のウラン資源節約効果がある」とされたが、この程度の節約なら、ウラン濃縮の方法など別の手段でも可能だ。いずれにしても、日本だけでやったのでは大した効果はない。

 元の使用済み低濃縮ウラン燃料を再処理しないでそのまま深地下処分場に入れる「直接処分」の方が安上がりなことは以前から明らかとなっている。欧米の電力会社にプルトニウムをただであげると言っても貰ってくれない。MOX燃料製造過程の放射能の問題のため、ウランを買ってきて普通の低濃縮ウラン燃料を作った方が安くつくからだ。金を掛けて節約というおかしな話である。

だが、六ヶ所再処理工場の本格運転開始が決まりそうな状況だ。「プルサーマル」で出てきた使用済みMOX燃料は、再処理で出てきた高レベル廃棄物とともに地下深いところに処分するという「併存シナリオ」だ。

元々の理由の無くなった再処理を正当化する主要な議論は、「使用済み燃料の行き場の確保」、「金融市場の混乱の防止」、「最終処分場の必要面積の削減」の三つである。

下の二つのグラフは、米国「原子力委員会(AEC)」(1974年)と「国際原子力機関(IAEA)」(1975年)の予測とその後の経緯を示したものだ。

AEC予測
1975年と2011年の原発発電容量拡大予測と
推定埋蔵量のウランで40年維持可能な発電容量
原発発電容量拡大予測と推定埋蔵量

1975年と2011年の原発発電容量拡大予測と推定埋蔵量のウランで40年維持可能な発電容量


フォンヒッペルによる上のグラフが示す通り、IAEAの1975年の予測では、世界の原子力発電容量は、2000年には、2089 GWeになるはずだった(GWeは、発電量100万キロワット。つまり100万キロ級原発で約2100基との計算)。低下価格で得られるウランの方は、500GWe[500基]分の軽水炉(普通の原子炉)を40年運転する量しか存在しないとされていた。2012年6月現在の原子力発電容量は約370GWe。現在のIAEAの予測は、2050年に560−1230GWe。低価格で得られるウラン資源の推定量の方は、2500GWe[2500基]分を40年間運転するのに十分な量となっている。


再処理正当化論1 使用済み燃料の行き場の確保

 2005年原子力政策大綱策定で、経済性のない再処理政策の続行を決めた主要な議論は、六ヶ所再処理工場を運転しなければ使用済み燃料の行き場が無くなり、各地の原発の運転を停止しなければならなくなるというものであり、今回も同様の主張がなされている。各地の原発の使用済み燃料プールが満杯になりつつあり、その行く先を確保するために六ヶ所工場の横にある受け入れプールが必要だということである。この容量3000トンのプールもほぼ満杯となっている。このプールの使用済み燃料を再処理工場に送り、使い道のないプルトニウムや回収ウラン、高レベル廃棄物、低レベル廃棄物などに変える作業をすれば、プールに空きができ、また各地の原発からの使用済み燃料を受け入れられるようになるという「論理」だ。

 再処理推進派はまた、再処理モラトリアムあるいは中止を決めれば、青森県が再処理工場にすでに貯蔵されている使用済み燃料を各地に送り返すことを要求するだろうと主張する。しかし、青森県が六ヶ所のプールに貯蔵中の使用済み燃料の「返還」を実際に要求するということは、政府との交渉の決裂を意味する。青森県知事が、再処理工場の固定資産税や核燃料税、関連の交付金などに依存してきた六ヶ所村や青森県の経済をどうするかという協議もせず、一方的に使用済み燃料返還要求をすれば無責任との誹りを免れないだろう。

 プール満杯問題は、硬直化した再処理政策の付けである。日本は、使用済み燃料はすぐに再処理するとの前提に立っていたから、貯蔵問題に正面から取り組んで来なかった。過去においては、英仏の再処理工場が日本にとって実質的な使用済み燃料中間貯蔵所の役割を果たしたが、この「貯蔵方法」はもはや利用できない。日本とヨーロッパの再処理業者との間の契約がすでに完了しているからである。対策を講じなかった側が、こうなってしまったのだから、再処理工場を動かすしかないと主張する。

解決策は乾式貯蔵

 原子力発電の利用の是非はおくとして、プール問題を解決する方法は、他にある。乾式貯蔵施設を各地の原子力発電所につくり、古くなって温度の下がった使用済み燃料をそちらに移すことである(でなければ、むつ市に建設中のような中間貯蔵施設を原子力発電所敷地外に作る)。乾式貯蔵では、空気の自然対流で冷却をする。空冷式なので冷却水喪失事故はない。再処理を放棄した欧米諸国では、古くなった使用済み燃料の乾式貯蔵が一般的となっている。例えば、米国では、現在、全国の原発の総貯蔵量の4分の1が乾式貯蔵となっている。

 たとえ今日すべての原子力発電所を閉鎖するとの決定がなされたとしても、長期に亘って安全に使用済み燃料を保管するという問題は残る。福島第一原子力発電所における使用済み燃料を巡る危機状態は、使用済み燃料の安全な保管という課題に取り組む必要を劇的な形で示した。福島第一には、日本に二つだけある原子力発電所敷地内乾式貯蔵施設の一つがある(もう一つは、東海第二原子力発電所)。この施設には、9つの乾式貯蔵容器(キャスク)が設置されている。キャスク内に保管されている使用済み燃料の安全性問題について懸念を示す報告は今のところない。

再処理政策正当化論2 金融市場の混乱の防止

 今回再処理計画継続のもう一つの有力な論拠とされているのが、再処理を中止あるいは凍結すると、日本原燃や同社の債務保証をしている電力会社の一部が倒産すると同時に、金融市場に混乱を引き起こすというものである。電力会社が主要株主となっている日本原燃が2010年度末に抱えていた借入金は約1兆円。電気事業連合会がこの債務保証をしている。このほかに、電力会社からの直接の再処理料金前受金約8000億円があった。

 各電力会社は、2005年制定の「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律」に基づいて、原子力環境整備促進・資金管理センターに再処理資金を積立てている。同センターの2010年度末受け入れ総額は、約4兆円。運用残高は、2.44兆円。この金は、再処理が実施されなければ払われない。長期借入金の支払期限が順々に訪れる。さらに借金をしようにも、再処理の将来が明確でなければ貸してくれるところがない。再処理工場を凍結したり、再処理政策中止の決定をしたりすると、倒産、貸し倒れが生じ、大変なことになる。だから再処理政策を続行せよ、と業界関係者等が原子力委員会での議論に圧力を掛けているようだ。原子力委員会「原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会」の裏で開かれていたという「秘密会議」での議論の内容は分からないが、小委員会では、証券会社の委員が、「マーケットは敏感に反応します」との発言を繰り返していた。小委員会は「電力会社倒産や金融市場崩壊の責任」という影に怯えながら運営されていた節がある。

政治が制度で解決すべき問題

 これは、再処理政策そのものの是非とは直接関係なく、原子力委員会のような場で考慮すべき話ではない。政治が政策を決めた後、それに合わせて制度を変えて資金の動かし方を考えるのは、政治と官僚の仕事である。制度があるから政策が変えられないと考えてはならないと、経産省資源エネルギー庁放射性廃棄物等対策室 苗村室長が4月12日の原子力委小委の会合で明確に述べている。「法律があること自体が今後の議論の制約であってはならないと思うんです。発電の時点で積立てておく。その上で、電力事業者が再処理サービスを受けることに対しに、積み立ててある資金を使って支払いをする。この仕組みの中で、再処理事業を中止と政策的に判断した場合、その役務を受けられなくなると、その時点でいかなる手当が必要となるかは今後議論が必要。・・・いずれにしても、制度が変われば、法律としてちゃんと見直さなければならなくなる。どうするかというのは、これからの議論だと思いますけれども、ただ、今の積立金の中には、再処理工場の廃止措置費用も案分して入っているので、そう言うのも含めてどういう扱いになるは、政策が決まった後に議論しなきゃいけないことだと思います。」

軛からの脱却を

上の二つの再処理正当化論は、過去の政策の惰性・軛でしかない。まさに原子力村的論理である。民主党の有志議員70人あまりからなる「原子力バックエンド問題勉強会」(会長・馬淵澄夫元国土交通相)は、今年2月、核燃サイクル路線は実質的に破綻しているとし、六ヶ所再処理工場を凍結して、使用済み燃料を乾式貯蔵する方針をとるよう政府に要請する第一次提言をまとめた。馬淵議員は、東京新聞(2月2日)のインタビューで次のように述べている。「使用済み核燃料の再処理[による核燃料リサイクル]は何十年もやってきていまだ完成していない。関係者はいろいろ言い訳するが、これはもうフィクション(絵空事)だったと言わざるを得ない。・・・積み上げてきたものをスパッと変えるのは、政治しかできない。」

再処理政策正当化論3 最終処分場の必要面積の削減 「併存シナリオ」の矛盾

 再処理に経済性がないことを指摘された再処理推進派が最後の砦のように主張するポイントの一つが、最終処分場面積の縮小効果だ。MOX燃料集合体1体を製造するのには、大体、使用済み燃料集合体7体を再処理して分離したプルトニウムを使う。だから、体積では、燃料だけを見ると、7分の1に減る。

 ところが、これを軽水炉で使った後の使用済みMOX燃料は、超ウラン元素を多く含んでいるため、取り出し後数十年経つと、発熱量が普通の使用済み低濃縮ウラン燃料の数倍になってくる。発熱量は処分場の面積の大小に大きく貢献する。使用済みMOX燃料を、再処理で生じた高レベル廃棄物ガラス固化体とともに処分場に入れれば、処分場の面積縮小効果はほとんど期待できなくなる。面積縮小を狙うなら、元の使用済み低濃縮ウラン燃料を地上で保管する期間を長くして熱を下げた方が簡単だ。

3択方式「併存シナリオ」の矛盾

 全量再処理、全量直接処分、再処理・直接処分並存の三つのシナリオについて議論してきた原子力委小委の議論において、並存シナリオが合理的であるかのようなまとめがされた。6月8日に開かれた政府の「エネルギー・環境会議」に細野豪志内閣府特命担当大臣(原子力行政)が提出した資料には、「c.再処理・直接処分併存政策:将来の原発規模が不透明な場合には、政策の柔軟性があることから、最も優れている選択肢」とある。そして、原子力委員会は、6月21日、2030年までに原子力が発電に占める比率をゼロとするのでなければ、並存が柔軟性の点から適当との見解をまとめた。これだと、国民が選べるのは原子力の比率だけとなる。再処理政策は、並存で決まりだ。

 並存シナリオは、高速増殖炉路線が破綻していることを認め、プルトニウムを一回だけMOX利用して、使用済みMOX燃料を直接処分することを示唆している。再処理正当化の頼みの綱の最終処分場面積縮小効果も実質的にないことを認めるということだ。何のプラスにもならないことを承知でわざわざ、核拡散防止や核テロ防止に障害となるプルトニウム分離を進めようというのが並存シナリオだ。

 MOX使用済み燃料をさらに再処理し、分離されたプルトニウムでまたMOX燃料を作るか、高速増殖炉用の燃料を作るという「全量再処理」政策の絵空事が語られてきた。これに対し、再処理反対論者は次のように指摘してきた。「高速増殖炉はいつまで経っても商用化されそうにない。使用済みMOX燃料の再処理は難しく、結局直接処分するしかない、そうなると、処分場の面積縮小という点で元の木阿弥だ。」

 蓄積されてしまったプルトニウムを無理矢理燃やす過程ですでに発生してしまった使用済みMOX燃料については、直接処分するしかないことを認めるのは合理的だろう。そのために、ただちに使用済み燃料の直接処分の準備作業を始めるというのも良い。しかし、すでに45トンもプルトニウムを溜め込んでしまっているのに、さらに六ヶ所再処理工場でプルトニウムを分離し、将来MOX燃料として燃やし、発生した使用済みMOX燃料を直接処分すると想定する。このシナリオの何処に柔軟性や合理性があるというのか。

 ここで忘れてならないのは、プルサーマルも、実施しなければ原子力発電所が閉鎖となると主張されてきたということだ。2001年に新潟県刈羽村でプルサーマル実施に関する住民投票が行われた際に国が村内全戸に配布した平沼赳夫経済産業相の署名入りビラは次のように述べていた。「我が国は、燃料として使う以外にはプルトニウムを保有しないことを国際的に明らかにしています。我が国のプルトニウム利用は、当面原子力発電所における燃料としての利用がほとんどとなるため、プルサーマル計画が進まず、原子力発電所における利用が進まないとなると、使い終わった使用済燃料のリサイクルが困難になります。リサイクルをしないなら、使用済燃料を原子力発電所からリサイクル施設(青森県六ヶ所村)に運び出すわけにはいきません。原子力発電所の中に使用済燃料が溜まり続ける場合、使用済燃料の貯蔵施設が満杯になって、新しい燃料と取替えることができなくなるため、やがては運転を停止しなければならなくなります。」

 プルトニウムの需要があるから再処理をするのではない。使用済み燃料の行先を確保する目的で再処理をするために、プルサーマル計画を受け入れろとの主張だ。元々、プルトニウムが溜まってしまってどうしようもないから無理矢理燃やすために推進されることになったのがプルサーマルだ。ところが、需要のないプルトニウムをさらに分離することを正当化するためにプルサーマルが必要だという。こんな矛盾サイクルのような状況を続けるシナリオは、硬直的で非合理的としか言いようがない。

真中のジョーカーを引かせるような3択ではなく、2択に

 小委員会のまとめは、3択方式になっていて、並存があたかも妥協案であるかのようにこれを選ばせるという形になっている。本当の選択肢は、「理念型」的に言うなら、「全量再処理」対「全量直接処分」だろう。前者が破綻していることは明らかで、選択すべきは後者だ。「現実的」にということなら、「並存」対「全量直接処分」となる。この2択なら、「並存」が決して妥協策でも合理的政策でもなく、破綻した過去の夢の遺物であり、硬直的な政策を意味するとが明確になる。ここで選ぶべきは、当然、合理的な「再処理中止・直接処分」のシナリオだろう。

 そして、政府が1か月余りの国民的議論で選択できないなら、六ヶ所再処理工場を凍結した上で、2−3年かけて原子力村の外の人々による政策検討を行うというオプションを提示するのが一つの手だ。アクティブ試験で発生した高レベル廃液のガラス固化が上手く行っていないことからすると、1年半ほどは、放っておいても本格運転開始ができないのが確実だが、凍結は、年限を決めて本格再処理に向けた動きを中止して、議論するというものだ。ただし、ガラス固化研究開発は安全性確保のために例外とする必要がある。その場合、これを再処理開始に向けた一歩とは位置づけてはならないことは言うまでもない。

再処理は、核軍縮・核拡散及び核テロ防止の課題

 現在世界に存在する核兵器製造に使える二つの核物質(高濃縮ウランとプルトニウム)の量は、大まかに言ってそれぞれ、約1500トンと500トンである。前者には、原子力艦船の燃料用も含まれる。500トンのプルトニウムのうち、軍事用に製造されたものと、原子力発電所の使用済み燃料の再処理で分離されたものの量は、ほぼ同量で、250トンずつである。冒頭で述べたとおり、後者のうち、日本のものが45トンである。日本に置かれた約10トンの保安体制は極めて心もとない。核兵器利用可能物質なのだから本来軍隊が守って当然のものなのである。

世界の核分裂性物質の量

2012年1月現在、世界全体で存在する高濃縮ウラン(HEU)の量は、約1440トンと推定されている。分離済みプルトニウムの量は、約500トンである。大まかに言って、この半分が核兵器用に生産されたもので、残り半分が民生用原子力計画で生産されたものである。

 (詳細は、2011年IPFM報告を参照)


 高濃縮ウラン
トン
核兵器プルトニウム
トン
原子炉級プルトニウム
トン
ロシア73712848.4
米国61091.90
フランス30.6656.0
中国161.80.01
イギリス21.27.687.7
パキスタン2.750.140
インド2.00.50.24
イスラエル0.30.82-
北朝鮮 0.03-
ドイツ -7.6
日本 - 44.9
スイス -<0.05
ベルギー -<0.05
その他20.0 -10.7
合計1440241256

米国及び英国の兵器用プルトニウムの数字は、公式データに基づいている。民生用プルトニウムのほとんどの数字は、IAEAに対する申告に基づいている。他の数字は、非政府筋の推定で、大きな不確実性を伴うことが多い。高濃縮ウランの量は、90%濃縮ウラン等量。詳細は、各国についての記述を参照。

軍事用核分裂性物資の生産が続いているのは、インド(プルトニウムと海軍の推進力用高濃縮ウランの生産)、パキスタン(核兵器用にプルトニウムと高濃縮ウランを生産)、イスラエル(プルトニウムを生産と考えられている)。北朝鮮も、兵器級プルトニウムの生産能力を持つ。

フランス、ロシア、英国、日本、インドは、発電用原子炉の使用済み燃料からプルトニウムを分離する民生用再処理施設を持っている。中国は、パイロット再処理施設を建設中。

11ヶ国−−ロシア、米国、フランス、英国、ドイツ、オランダ(これら3か国は、URENCO加盟)、日本、ブラジル、インド、パキスタン、イラン−−が、ウラン濃縮施設を運転している。

 世界にある核兵器の総数は、冷戦終焉から20年以上経った今日でも、約2万発に達する。核軍縮を進めて、世界の核兵器の総数が1000発となったらどうなるか。現在の米国の核兵器で使われているプルトニウムの量は1発当たり4キログラムである。単純に計算する総量は4トンとなる。軍事用の250トンの残りの部分を如何に処分して、核軍縮を不可逆的なものにするか、如何にして第三国やテロリストの手に渡らないようにするか。これが重要な課題となる。その一方で核兵器利用可能な民生用プルトニウムが増え続けていたのでは、核軍縮、核拡散防止、核テロ防止の障害となる。核兵器国は、非核兵器国が大量の核兵器利用可能のプルトニウムを持つ状況で、自国の軍事用余剰プルトニウムの処分を拒むかもしれない。 

世界における再処理計画の遺産
(軍事用と同量の民生用分離済みプルトニウム 核兵器が何万発もできる量)
世界における再処理計画の遺産

 このような背景の下に六ヶ所再処理工場の運転が始まろうとしていることについての緊迫感が原子力委員会の議論ではまったく感じられない。六ヶ所再処理工場は、計画通り運転されると、年間800トンの使用済み燃料を再処理して、8トンのプルトニウムを分離することになる。長崎原爆当時の技術で1000発を作るのに十分な量である。40年間運転して、プルトニウムを320トン分離する計画である。

 現在、大規模な商業用再処理計画を持っているのは、英仏と日本だけだ。英国は、外国の顧客などとの契約が終わる2018年には再処理を終了しようとしている。六ヶ所再処理工場は、運転開始となれば、非核兵器国では初めての商業規模の施設となる。パイロット工場の建設まで行ったベルギー、ドイツ、イタリアは、経済性の欠如のために計画を自ら放棄している。民生用という隠れ蓑の下で軍事用再処理を進めようとした国々は、外国からの圧力や国内の政治状況の変化によって再処理を放棄したか、核兵器国となってしまっている。米国がその再処理推進策を変更したのは、1974年にインドが平和利用の名目で分離したプルトニウムを使って核実験をしたためである。カーター政権が1977年に日本に対し東海再処理工場の運転開始を放棄するよう働きかけたとき、福田政権は再処理が日本経済にとって極めて重要であり、まさに日本の死活問題であるとして激しく抵抗した。このためカーター政権は、日本の説得をあきらめた。あれから35年たった今、プルトニウムは全く日本経済に貢献していない。

各国の現在の再処理政策

各国の現在の再処理政策
再処理中又は計画中の国
(発電容量にしめる割合%)
(GWe, [109 Watts])
顧客国で再処理を中止した国、中止を計画している国
(GWe)
再処理をしたことのない国
(GWe)
中国 (20%) 11.7アルメニア (露で)0.4アルゼンチン 0.9
フランス(85%) 63.1ベルギー (仏)5.9ブラジル 1.9
インド (≈50%) 4.4ブルガリア (露)1.9カナダ 12.6
日本 (100% 計画) 44.2チェコ (露)3.7イラン 0.9
オランダ (仏) 0.5フィンランド (露)2.7メキシコ 1.3
ロシア (10%) 23.6ドイツ(英仏) 13.1パキスタン 0.7
ウクライナ (5%露で) 13.1ハンガリー (露) 1.9ルーマニア 1.3
英国 (90%, 軽水炉除) 9.9スロバキア (露) 1.8スロベニア 0.7
英国、それに恐らくオランダと
ウクライナ
は、再処理を停止予定。
フランスと日本の再処理の将来は不確か
スペイン(英仏) 7.6南ア 1.8
スウェーデン (英仏) 9.3韓国 18.7
スイス (英仏) 3.3台湾 5.0
 米国 (1972以来) 101.1
合計 (65%) 170.5合計 52.6合計 146.6

オバマ 核セキュリティー・サミット発言

 核セキュリティー・サミットに出席するためにソウルを訪れたオバマ大統領は、3月26日、韓国外国語大学で講演し、「分離済みプルトニウムのような我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない」と述べた。ワシントン・ポスト紙(2012年3月27日)は、この発言を取りあげ、「日本は大量のプルトニウムを持っている──使い道はほとんどない」という記事を掲載した。そして、再処理は時代遅れで危険とするローラ・ホルゲイト米国国家安全保障会議WMDテロ・脅威削減担当上級部長の説明を引用している。同氏は、核セキュリティー・サミット米国サブシェルパを務めていた。ウラン資源の枯渇に備え、再処理によってウランの有効利用を図るという「これら見方が意味をなしたのは3、40年前のことだ。当時は、世界にはあまりウランがないと我々は考えていた。だが、今では、我々は、ウラン不足という概念が時代遅れのものであることを知っている。また、我々は、分離済みプルトニウムがテロリストに狙われやすいということを知っている。」使い道もないプルトニウムを蓄積し続ける日本の政策を変えよというメッセージとなっている。

日本の例は他国の再処理の口実に

 日本の再処理計画は、他の国の政策にも影響を及ぼす。例えば、韓国は、2014年に期限切れを迎える米韓原子力協力協定の改定交渉の中で、1988年日米協定における一括事前承認と同じような形で韓国にも再処理を認めるよう要求している。米国はこれに抵抗しているが、日本にだけなぜ再処理を許すのかとの韓国の問いに答えるのは難しい。日本と韓国が再処理をすることになれば、これを口実として再処理をしようとする国が次々に出てくる可能性がある。プルトニウムを持ち、後は核兵器開発のみという状態の国が増えることは核不拡散体制を脅かす。

 この問題を解決するために韓国の使用済み燃料を六ヶ所で再処理すれば良いではないかという議論がまことしやかに展開されている。細野大臣がこれに類似した六ヶ所国際化の主張をあちこちでしているとの話が聞こえてくる。

 六ヶ所再処理工場は、日本の使用済み燃料をすべて処理する能力もないことからすれば、韓国の使用済み燃料など再処理出来ないことは明らかだ。六ヶ所再処理工場は、例えフル稼働に成功しても、その年間処理能力は年間800トンされている。これに対して使用済み燃料は、年間1000トンほど発生するので、処理出来ない部分は中間貯蔵しておくというのが、フクシマ以前の想定だった。

 韓国の要求の背景にさまざまな要素がある。まず、日本と同じくプールが満杯になっているので再処理が必要だという議論。これは、日本と同じく、乾式貯蔵で対処できる。つまり日韓両国とも再処理をせず、乾式貯蔵を採用すればいい。韓国は、すでに、カナダから導入したCANDU炉の敷地では、大規模な乾式貯蔵を行っている。韓国と協力したければ、乾式貯蔵技術の向上のための共同研究をすればいい。

 一方、新しい再処理技術(パイロ・プロセシング)を開発してみたい研究者らの存在や、北朝鮮の核実験後強くなっている「核主権」の主張がある。これらを考えれば、例え六ヶ所再処理工場が十分な処理能力を持っていたとしても、これを韓国に提供することで韓国側が自国での再処理の要求を引き下げるとはとても考えられない。

日本は、最後の悪あがきのように六ヶ所再処理工場の国際化などという絵空事を唱えるのを止めて、再処理計画を中止し、他の国も止めるようにと働きかけるべきである。核拡散及び核テロ防止、そして、核軍縮に貢献するために日本がすぐできること、すべきこと、それは六ヶ所再処理工場の計画中止の決断である。

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