核情報

2012.12. 16〜 

福島燃料プール危機の教訓
 全国の原発でプールから乾式に

 福島第一原子力発電所の事故がもたらした使用済み燃料貯蔵プールの危機状況は、全国の原発の使用済み燃料をできるだけ早くプール貯蔵から自然対流空冷方式の乾式貯蔵に移すべきだということを示しています。

  1. 福島第一の使用済み燃料の状況
  2. プール内にある燃料の移動計画
  3. 他の原発でも早急に乾式貯蔵を
  4. 乾式貯蔵施設内保管のキャスク1基、検査後仮起き場に移動:4月4日
  5. 資料集

福島第一の使用済み燃料の状況

 福島第一原発には、三つの種類の使用済み燃料貯蔵施設があります。@原子炉建屋の高い所にあるプール(それぞれの原子炉にある)。A共用プール:各号機のプールの使用済み燃料を降ろして入れる。B乾式貯蔵施設:円柱状の容器(キャスク)に入れて貯蔵する方式。(現在はキャスク9基が貯蔵。欧米では一般的となっているこの乾式貯蔵方式の施設を持っている日本の原発は福島第一の他は、東海第二原子力発電所のみ。)


乾式貯蔵の写真

4号機プールの写真

 福島原発4号機は、3.11の地震・津波発生当時、定期検査のため運転停止となっており、炉心は空の状態で、炉の損傷による事故の心配はありませんでした。しかし、そのプールには、事故の直前に炉心から取り出したばかりの発熱量・放射能の大きな全炉心分の燃料集合体548体を含め、1331体の使用済み燃料集合体がぎゅうぎゅう詰めの状態で入っていました(この他に新燃料が204体)。このため、冷却水が失われた際に、空気の流れによる冷却が効きにくく、核分裂生成物の崩壊熱によるジルカロイ製の燃料棒被覆管の発火の可能性がそれだけ高くなります。また、発火事故で放出される放射能の量も大きくなります。それで4号機のプールの安全性が事故直後からとりわけ心配されていました。余震を心配する反原発グループが地震や水素爆発で弱体化した4号機のプールから早急に使用済み燃料を運び出せと要求しているのもこのためです。

 一方、海岸に近い乾式貯蔵建屋は津波で破損しましたがキャスクは無事でした。自然空冷なので冷却に問題はありませんが、壊れた建物からキャスクを移動する必要があります。中の408体の検査はこれからです。


プール内にある燃料の移動計画

 東京電力の計画はこうです。

各原子炉の使用済み燃料を地表レベルの共用プールに移したい。各号機にあるのは、新燃料も入れて現在合計3106体(7月18〜19日に4号機の新燃料2体の運び出し実験)。ところが、容量6840体の共用プールには6377体あってほぼ満杯。そこでまずは、共用プールの使用済み燃料を乾式キャスクに入れ、仮置き場に移す。仮置き場には、乾式貯蔵建屋のキャスクも移す。共用プールへの移動は、4号機、3号機、1〜2号機の順に行う。

 仮置き場は、再処理中止を決めたドイツで2000年代半ばに一部の原発で使われたのと同じ暫定貯蔵用コンクリート・モジュール方式を採用。キャスクを1基ずつコンクリートの「箱」の中に横置きに収め、全部で65の「箱」を設置。11月14日発表の東電の計画では、仮置き場の使用は来年3月に始まり、共用プールからの移動は、2014年5月に終わる。4号機からの共用プールへの移動開始時期を決めるのは受け入れプールの状態ではなく、クレーン建設工事の進捗状況。これは、元々あった原子炉建屋の天井のクレーンが事故で破壊されてしまっており、いわば外付けのクレーンを建設する必要があるため。12月3日の発表によると、4号機からの移動開始が来年11月。終了が2014年末。

暫定貯蔵施設概念図
図 3.2.7 暫定貯蔵施設概念図

暫定貯蔵施設概念図

平成22年度中間貯蔵施設に係る最新動向調査に関する報告書(pdf) 平成23年8月 原子力安全基盤機構より


暫定貯蔵施設の写真
図 3.2.8 暫定貯蔵施設の写真

暫定貯蔵施設の写真


他の原発でも早急に乾式貯蔵を

 米国では、9.11同時多発テロ事件の後、テロにより使用済み燃料プールの冷却材が失われれば、ジルカロイの発火事故をもたらし得るとの警鐘が鳴らされました。炉からの取り出し直後は発熱量が大きく水で冷やすほかないが、5年ほど経って空冷が可能となったものは乾式に移して、プールの燃料の貯蔵状態に余裕を持たせるようにとの主張です。原子力規制委員会の田中俊一委員長も、各地のプールについて、「私はどう考えても、乾式タイプの容器に入れるのがより安全だろうと思う」から、乾式への移行を要請したいと述べています。安全確保のための措置ですが、実現すれば、使用済み燃料の置き場がないから六ヶ所に送って再処理するしかないとの再処理推進の論理も崩れることになります。

乾式キャスク仮保管

福島第一発電所1〜4号機の廃炉措置に向けた中長期ロードマップ進捗状況と今後の課題について(pdf) 平成24年12月3日 政府・東京電力 中長期対策会議/運営会議の9ページ左下より


乾式貯蔵施設内保管のキャスク1基、検査後仮起き場に移動:4月4日

乾式貯蔵のキャスクの仮保管設備への移動

乾式貯蔵のキャスクの仮保管設備への移動

東京電力は、4月4日、「福島第一原子力発電所の共用プール建屋にて点検を行っていた乾式貯蔵キャスク1基を共用プール建屋から搬出し、キャスク仮保管設備まで構内輸送を実施しました」と発表しました。

津波で破損した貯蔵施設にあった9基の乾式貯蔵キャスクのうちの1基を共用プールで点検し、問題なしとして、プールから出して新設の仮保管設備に運んで保管を始めたということです。いよいよドイツ型暫定貯蔵方式が始まりました。

共用プール建屋からの搬出

共用プール建屋からの搬出

輸送風景

輸送風景


出典:福島第一原子力発電所共用プール建屋から乾式キャスク仮保管設備への既設の乾式貯蔵キャスク1基の構内輸送について(pdf) 2013年4月4日

参考:



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資料集


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