核情報

2011.11.21

再処理推進への懸念示す島村研究会資料 20年前の当事者等の会合記録から

島村武久元原子力委員会委員が1985年から94年にかけて主宰した「原子力政策研究会」の録音記録及びその文書化資料を使った報道が、今年の夏から秋にかけてありました。この資料の中からプルトニウム利用に関する部分をいくつか拾ってみました。

  1. 概観 夢と現実
  2. 島村原子力政策研究会資料抜粋



島村武久氏(故人)は、科学技術庁原子力局長、古河電気工業取締役副社長、原子燃料工業代表取締役社長、原子力委員会委員などを歴任した原子力の世界の重鎮でした。

録音記録を使って33のテーマについて文書化したものが2008年8月に印刷製本版(A4版620ページ)とCD版の両方で作成され、「文部科学省内原子力関係者等に配布」されたのですが、残念ながら一般に公開されていません。税金を使ってせっかく文書化したのですから、CD版を文部科学省のサイトで公開するべきです。

以下、資料から見えてくるプルトニウム利用の本音について概観した後、いくつか関連部分を抜粋して紹介します。

参考

概観 夢と現実

再処理は、元々、発電しながら使った以上のプルトニウムを作り、無尽蔵のエネルギー源となるという夢の原子炉「高速増殖炉」の初期装荷燃料として使うプルトニウムを提供するためのものとなるはずでした。しかし、「長計の見果てぬ夢──高速増殖炉のための再処理」(2006年1月17日)で見たように、その実現予想時期は時とともに遠ざかっていきます。再処理だけが進んだ結果、核兵器の材料となり得るプルトニウムが貯まっていく。それを無理矢理消費することで再処理計画に合理性があるかのように取り繕おうとして推進されてきたのがプルサーマル、つまり、軽水炉でのプルトニウム利用です。

研究会の記録は、当事者等がこの問題について認識・憂慮していたことを示しています。

講師として参加した当時の通産省と科学技術庁の担当者が朝日新聞の取材に対し次のように答えています。

谷口富裕氏(1991年夏講師) 1990〜93年通産省資源エネルギー庁技術課長 現東工大特任教授

「高速増殖炉を進める建前論と電力ビジネスの実質論がかみ合っていないと心配だった」「技術的、客観的事実より、それまでの経緯や立場が大事になってしまう傾向がある」

坂田東一氏(1991年6月講師)科技庁核燃料課長 のちに文部科学事務次官

「国家を挙げて進めてきた。担当課長にとって(継続は)大前提だった」

「世界でプルトニウムに厳しい目が注がれていることにもっと注意を払うべきだと思っていた」

坂田課長は、1991年当時原子力委員会核燃料リサイクル専門部会報告書「我が国における核燃料リサイクルについて」(1991年8月2日)の作成に当たっていました。(原子力委員会は、1956年から2001年の省庁再編成まで総理府外局の科学技術庁が事務局の役目を果たし、委員長は科学技術庁長官が務めていました。)

報告書は、次のように結論づけました。

 以上の軽水炉による利用計画を実施するに当たって必要なプルトニウム量を見積もると,2010年頃までの累積量として50トン程度になる。この軽水炉によるリサイクル規模の具体的な拡大のテンポに関しては,FBR及びATRによるリサイクル利用の今後の展開等を踏まえて,弾力的かつ着実に運用していくことが重要である。

・・・・

 以上から2010年頃までの総供給量を推算すると,東海再処理工場から約5トン,六ヶ所再処理工場から約50トン,海外再処理から約30トンの計約85トンとなる。実際のプルトニウムの需給計画においては適正なランニングストックが必要であること等も勘案すると,総需要量が80〜90トン程度とみられることから,この約85トンという総供給量は,今後のリサイクル計画を遂行していく上で必要な量であると判断される。

「MOX・プルサーマルの基礎知識」(2005年12月12日)の「過去のプルトニウム需給予測はどうなっていたのか」で同報告書について次のように述べています。

過去のプルトニウム需給予測はどうなっていたのか。

大幅にはずれてきた。

たとえば、1991年に原子力委員会核燃料リサイクル専門部会が出した報告書「我が国における核燃料リサイクルについて」にある需給見通しでは、2010年までに累積供給量85トン、累積需要量82−93トンでちょうどバランスがとれると言うことになっていた。供給側も予測がはずれたが、需要はさらにはずれて、2004年現在のプルトニウム保有量は43.1トンとなっている。参考(pdf)

1991年の需給見通し:2010年まで

供給
 東海再処理施設5トン
 六ヶ所再処理工場50トン
 海外再処理施設30トン
 85トン
需要
 高速増殖炉実験炉「常陽」、原型炉「もんじゅ」12−13トン
 高速増殖炉実証炉と実用炉10−20トン
 新型転換炉原型炉と実証炉10トン弱
 軽水炉利用50トン
 82−93トン

なんのことはない、六カ所再処理工場の供給50トンと軽水炉利用(プルサーマル)50トンの両方を消してしまえば、上の表の需給関係はそのままトントンとなります。供給の分に合わせて何とか需要を作り出して辻褄を合わせようとしているのです。(なお、表にある新型転換炉計画の原型炉ふげんは2003年3月で運転終了、大間に建設予定だった実証炉は1995年8月に中止決定。)

このような状況について、島村元原子力委員は、坂田氏を講師に迎えた研究会でこう述べています。

今までの原子力政策を、後からなんとか理由をつけて尤もらしくすることに、一所懸命になっておられるような印象もないわけじゃあない。


島村原子力政策研究会資料抜粋

プルトニウムと日米原子力協定

講師 坂田東一 科学技術庁原子力局核燃料課長

1991年6月

[原子力委員会核燃料リサイクル専門部会での議論に関する坂田課長による説明の後]

p.466

島村

核燃料リサイクル専門部会での審議が中心になって、いろいろお話になったわけですが、印象としては、世界及び国内のいろんな情勢から、今までの原子力政策を、後からなんとか理由をつけて尤もらしくすることに、一所懸命になっておられるような印象もないわけじゃあない。一体専門部会では、そういうごとに熱心な方々ばかりであって、一所懸命やってきたけど、FBRもずっと先に伸びちゃうし、ウランは一杯あることだし、強いて無理してプルトニウムに一所懸命にならんでもいいじゃないかという思想を持った、プルトニウム利用に対する反対論者は、1人もいないんですか。

坂田

そうですね、いらっしゃるかもしれませんけど、議論するときにはそういう意見はあまり出ません。一応は、いろいろプルトニウムをやっていこうという人達の集まりですから、そういう意見は出ませんが、ただ、議論のプロセスで、外国でいろいろ日本のプル利用政策に対する批判が出、それをお配りしたりしてこういう意見に対してどう答えるか、というようなことはやってきました。

島村

坂田さんはアメリカ通でもあるし、経験もあるし、国際輸送の問題の話なんかも、今のところは特に障害となるほどのこともなくて進んでいるということですし、専門部会の審議も近く終わるということで、順調で非常に結構なことだと思うんですけれども、どうもこの10年ぐらい、私が見ておりますと、私が原子力委員を辞めた直接の動機もそうなんですけれども、基本的なところに立ち戻っての議論がなくて、後始末的な後から理由付けるみたいなことばっかりに終止している傾向があると思うんです。その点、折角坂田さんみたいに立派な方がおられるのに残念なことだなあと。私が原子力委員しているときになにした最大の問題は、プルトニウムの問題なんです。その需要の見通しから出発すべきだということが、私の基本的な考え方であったわけなんです。

ところが、そうじゃなくて、山口さんもおられるからちょっと差し障りがあるかもしれないが、最初から800トンありきと言うとこで出発して、需要が余る分はみんなプルサーマルにぶち込んで計算を合わしたという経緯があるんです。こんなこと発表はしないけど、私が見るところではそうなんです。そんなことでは駄目だということで、それを理由に辞めたわけじゃないけれど、もうねートルでお役に立たんからということで。その頃よりさらに事態は、プルトニウムにとってよく動いていないわけです。

それは何かというと、その頃はまだフランスが、かなり元気だったんです。勿論フランスはさっき坂田さんがおっしゃったように、日本にFBRを止められたら、フランスはやってゆけないから、日本もシッカリやってくれと言ってくるんです。フランスってのは中央集権的な国で、なんでも思いどおりしてるようだけれど、やっぱり野党があるし、フランス側の国会議員がやってきたこともあるしさ、そのとき野党も混じっておって、日本の原子力委員会はFBRの経済性はどう思うかとかなんとか、ちょっと変な質問すると思ったらそれは野党だったわけですな。野党もおるし、最近は情勢も変って、すっかり諦めたわけじゃあないけれども停滞気味ですわね。

そういう風に変ってきとるということも、これはちょっと見当違いかもしれないけれども、核不拡散の問題が角度を変えて、新しい問題として大きく持ち上げられそうになってきている。それに日本の国内事情としては、前の状況のときからではあるけれども、FBRは更に遠のく、ATRもなかなか進まないという状況で、状況はあまりよくなってないので、根本に立ち戻って、リサイクルの必要性その他をどういう風に説明するかということではなくて、リサイクルそのものが必要かどうかということを、もう少し議論しておいてもらえばよかったという気がせんでもないんです。

坂田

リサイクルそのものが必要かどうかは、もっと基本論です。この専門部会をつくった時に、そういう問題意識も踏まえてつくられておれば、そこの議論もあったと思いますけれど、恐らくつくった時にはリサイクルありきで、全量かどうかば別にして、六ヶ所の工場の計画も進んでいるし、そこが可逆現象にできるんであれば、正にリサイクルやる必要があるのかという議論もできたと思うんですが、まあ不加逆だということから、リサイクルをするという従来の方針は堅持してゆく必要があるという中で、それじゃ改めてどういう考え方で、どういう計画をつくって行くのかと言うことから始まったと思うんです。だから今先生おっしゃった点は、一番目の必要性と意義について、目本にとって必要性なんだ、意義があるんだと強調すればするほど、ある意味では全量再処理すればいいんじゃないかということになるわけなんです。ところが、実際はそうじゃなくなりつつある、こういう矛盾があるわけです。

実は作業分科会でも、そこのところは1回議論しかかったんですけれども、そこまで行くとやや議論が収束できない。だから姑息なんですけれども、長期計画の議論も間もなく始まりますし、その中で再処理する部分と再処理しない部分があるとすれば、未来永劫再処理しないかどうかは別にして、当面しないということであれば、どう考えるのかということは、従来とは違った考え方をもって来ないと、整理がつかないと思います。

「原子力産業と電力産業」

講師谷口富裕(通商産業省、OECD科学局次長、通商産業省資源エネルギー庁技術課長)

1991年夏

p.356

谷口

むしろ難しいのは、実際に800トンの再処理プラントをつくって、そのプロダクトをいかにうまく活用し、それについての国際的なアクセプタンスをどう得ていくかというのが、単純に輸送問題とか高レベル廃棄物の変換・貯蔵問題とかという個別の問題では議論されていますけど、どうも全体的な展望なり戦略に欠けてて、こんな経済的に引き合わなくて、政治的には最近の皆が日本に警戒心を高めている中で、うまくいくわけがないっていう心配をしてるのが率直なところです。

・・・

本来なら原子力の開発の初期から、開発の先端に立っている国は、大統領や総理大臣を中心に、基本的な方向をきちっと識者を集めて議論しながら進めてきたというのが実態だと思うんです。日本は、そういうことが求められている割には、そういう体制つくりの議論が、あるいは中身の議論を含めて動いてなくて、原子力開発30年の惰性の上に乗っかりすぎてるというのが、極めて率直な感じであり、不安なり心配の材料だということです。・・・

p.370

島村

[研究体制について]

政府もまた、原子力委員会が基本計画を立てるってことになっているけど、従来決まっとるやつの中に、その後の情勢の変化を少し加味する位の程度で、抜本的な何を考える事態にないでしょう。

原子力外交と日米原子力協力協定

講師 遠藤哲也(外務省科学技術審議官、在ウイーン国際機関代表部大使)[後に原子力委員会委員長代理]

1989年10月22日

p.407

島村

私が一番心配しとるのが、まだ[六カ所]再処理工場は建設にも入っていないのだからなんなんですけど、再処理工場が無事に、皆が願うように完全に動き出したら、プルトニウムが余ってしょうがない。ランニングストックとして必要なものなら、アメリカも認めるだろうけど、当面、使用の見込みのないプルトニウムをどんどん再処理工場で分離抽出することは、アメリカが黙って見てるだろうか。

私が大丈夫かと聞いたら、協定上アメリカには反対する根拠がないと言っているけれども、実質的にはそれこそ遠藤さんがさっき言われたように、問題はアメリカの行政府じゃなくて議会ですから。議会が騒ぎ出して、日本のはプルトニウムを貯めとるないかということになってくると問題だし、多額の建設費を投入した再処理施設が、プルトニウムが余ってフル操業ができないというようなことにでもなれば、その損失は相当な問題なると私は思うんです。・・・

使用済み燃料を向こうに運ぶということ自体が問題だった時代が去って、プルトニウムをもって帰らなきゃいかんという問題になってきたんです。・・・そう言う状況にありながら、相変わらずじゃないかもしれんけど、各発電会社からどんどん使用済み燃料が船積みされて、送られていくわけです。これ何とかならんか、大丈夫なのかいなと。・・・

p.409

島村

協定が片付いただけで、プルトニウムを実際持って帰れるかどうかわからんという状況にありながら、さらに英仏と何百トンとか契約を結ぶということになると、どういうことになるかな。

田中好雄[元科学技術庁原子力次長:四国電力顧問]

だけど、おそれながらお言葉を返すんですが、使用済燃料は再処理することっていうのが、全く役所において原則になっているんです。5年前にやっと少し変えてもらったけど、いまだにあの精神を変えてくれないんで困っている。いかんね、これ言っちゃいけないかな。(笑)・・・

もう一つ。使用済み燃料のプールが一杯になりつつある。これは全然皆さんにも言っていないけれど、敦賀の1号機の燃料がいっぱいになる。2号機のプールが空いているからそちらに移そうと思ったら、その容器は海外輸出するときのキャスクと同じキャスクに入れて、1号から2号へ持っていかなゃいかん。そうすると費用がまた掛かって、何のために、何やっているのかわからない。だからそのまま外に送り出しちゃった。

使用済み燃料の貯蔵プールは小さいわけです。だからすぐ満杯になっちゃう。だからもうしょうが無いですから、1号から2号へは持って行けない。持って行くことは、ちょっと周りの情勢が悪いから。それじゃちょうど枠を増やしてくれる、しかも再処理の費用は従来のまあ何分の1くらいに下がっちゃってるから、それじゃこれでお願いしよう、とこう思って送り出したんです。それでも2〜3年しか余裕ありません。だから今の下北の再処理施設で、ちゃんとプールができてくれるのを待ってるわけです。余裕がないですあkら。川島[芳郎科学技術庁原子力局国際協力課長、日本原燃サービス]さんのんびりしてないで、つくってください。いつできるんですか。(笑)

[プルトニウムをMOX燃料の形にして輸送しても護衛がいるのか件について]

田中

IAEAのカテゴリ−でも燃料の形体によって分かれていない。要するにプルトニウムの総量だけです。

島村

これから交渉になるだろうけど、少なくとも今までの公的な仕分けから言えば、MOXにしてあろうがなんであろうが、プルトニウムはだめだとこういうことになっているわけだ。これから交渉して、MOXだからいいじゃないかと目をつぶってくれということが、通るか通らんかというのが将来の問題。まだ、いいとも悪いとも言われていないけれど。公式に言やあ、だめだとこういうことでしょう。

遠藤

もしIAEAなんかがカテゴリーを分けていないとすると、こっちは違うと言ったって、余計議論が難しくなります。

A:

昔、動燃の再処理をやるとき、プルトニウム単独抽出でなくて、ウランを混ぜればいい(参考:六ヶ所再処理工場の製品で核兵器ができることを示す米国文書)という知恵を出した人がいて、それで日米問題は解決したって話になっている。だから、ウランを混ぜれば良いと思っている人がいるわけです。

田中

今は交渉している相手がDOE(エネルギー省)だったり国務省だったりして、その後ろにまた。

遠藤 

後ろに議会とDOD(国防省)がおりますから。

「電気事業と核燃料サイクル」

講師 豊田正敏 (東京電力、日本原子力発電、東京電力、日本原燃サービス社長)

1994年夏

374

豊田

なぜこんな高い再処理サイクルに固執するのか。日本の場合は、今のところ技術的にも直接処分を十分安全にできるという確信はまだ無い。また、再処理しないで直接処分する場合には、燃料を中間貯蔵しないと行けない。原子力発電所の中で中間貯蔵するのは、認めてやろうという地元もありますが、福井県みたいにすぐ持って行け、いつまでも置いておくのは目障りだと言われるところもあり、発電所サイトに置いておくことは難しい。多少は貯めることはできても、2010年までに再処理しなきゃ、使用済み燃料は2万トンくらい貯まります。従って、資源が乏しい日本では、再処理することが長い目で見れば一つの方法であります。

・・・

日本では使用済み燃料の直接処分が難しいし、40年間中間貯蔵するのも現状では不可能に近いと言うことを一つの理由として強調してもいいと考えています。

次に、再処理しないで使用済み燃料を中間貯蔵して、40年後に再処理する場合には、すぐに再処理する場合の費用を1としますと、大雑把に言って、高レベル廃棄物を処理してガラス固化体にして40年間貯蔵する費用が5分の1、全体では、1.2(表2)。これに対して、40年間中間貯蔵するための中間貯蔵費と40年後の再処理について、40年後を現在価値換算するすると、換算率2.5%としてもかなり安い。40年後に再処理するということにすれば、残存放射能が10分の1ぐらいに下がるので、再処理プラントの行程の建設費も安くなる。それを考えれば、4分の1とか5分の1くらいになる。現在価値換算だけでも0.5から半分ぐらいになる。従って経済性から言うと、40年間中間貯蔵した方が電力会社としては得だということになります。

使用済み燃料の再処理については、昔は原子炉の設置許可に際し、設置許可申請書の中に再処理はどこでやると約束させられた。最初は動力炉・核燃料事業団の東海再処理工場を使ってと書いていたわけです。しかし、東海再処理工場は容量210トン/年で、しかも60〜70トンしか実稼働しなかった。そこで、海外再処理をやらざるを得なくなった。私は、本当は貯めるのが一番良いので、ああいう政策は止めたもらった方が良いと思う。もっとも、それを主張しようにも、実際問題として貯めることは国内的には難しい。従って海外に再処理委託をお願いしたわけです。

再処理委託をしたけれども、それでも余った部分があり、原子力発電所によっては自分の所のプールに入らなくなってまた海外再処理の委託量をまた増やしたりして、しのいでいます。先ほどの経済性とは別に、この部分をどうするかという問題がある。従って商用第一再処理工場をつくっても、余分のこの部分の中間貯蔵は、原子力発電所敷地内貯蔵だけでできるのかどうか、という問題がある。現在六カ所は使用済み燃料の貯蔵は3000トンプールですけれども、数年経った時には6000トンにして欲しいとか1万トンにして欲しいとか言うことになるんじゃ無かろうか。

アメリカでは、アウェイ・フロム・リアクター、要するに原子力発電所のある所と別の場所に大きな中間貯蔵施設をつくるという考え方がありますが、そういうのを新たにつくると、そこまで燃料を運んで行って、そこに貯蔵してまたそれを再処理工場まで運ばなきゃならない。輸送費が二倍かかる。できれば原子力発電所で貯蔵するのか再処理工場に直接持っていって、そこで貯蔵するのが一番良い。ただ、それで余分ものを賄えるか、場合によれば海外再処理工場委託契約の量を少し増やすと言うことで電力会社さんの方に話しています。国の方でも、再処理が基本方針だということだけでなく、貯めるのも同等のオプションだと言うことを言ってもらいたい。発電の地元の方は、再処理するなら使用済み燃料を再処理工場に持って行けと言う話に必ずなる。

再処理すればプルトニウムが出てくるので、プルトニウムのリサイクルを考えなきゃ行けない。高速増殖炉の実用段階はかなり遠のいた。ATRのリサイクルもありますけれども、大部分は軽水炉でリサイクルすることになる。英仏に再処理を委託して出てくるプルトニウムは、ヨーロッパでMOX燃料に加工して日本に運んでくる。日本の六カ所村で再処理するものについては、そこにMOX工場を造ることになる。

その場合経済性は、先ほどのOECD/NEAの時に説明しましたように、もともと日本ではウランの成形加工費が高い。そのさらに3〜4倍ということになると、プルトニウムの価値がマイナスになる。負の価値しかないものをなぜやるのかというアメリカあたりの批判が相当強くなって来る。従って、再処理費がゼロと考えて、トントンか多少プラスになるような方向に持って行くことが必要であり、そのためにはMOX燃料工場の建設費を安くして、MOXの成形加工費を下げる必要がある。・・・・

プルトニウム加工工程では、粉を吸ったらまずい。また、ウラン燃料の燃焼度が4万5000MWD/トンを超えて、プルトニウム238が2%を超えると、自発中性子がガンマ線と同様に強くなって来るので、中性子を遮蔽することを考え、あるいは粉を吸わないようにすることを考えた遠隔操作が必要になってくる。特に、トラブルで故障した時が問題です。

私も、フランスのメロックス工場を見たんですが、あれでは燃焼度4万5000トンの燃料の再処理は、燃料の成形加工にトラブルがあった時難しいんじゃなかろうか。遠隔保守については、グローブボックスの中に移す方法とか、グローブボックスじゃなくてシェル・タイプにすることも考えなきゃいけない。スペースを含めて、コストはできるだけ安くすることをかんがえなきゃいけない。・・・

p.383

島村

再処理能力ってものは全然不足するような形にはなっておりますけれども。不足するような再処理の規模においてすら、プルトニウムがうまくはけていくんだろうかと、それが技術的にすべてのものがうまくいったと致しましても、コストの面から、とてもじゃないけど付いていけないという問題が、電力内部であるんじゃなかろうかという気もするんです。その辺どのようにお考えでしょうか。

p.383─384

豊田

コストというとさっきのような話で、確かに倍とか何とかにはなっていますけど。プルトニウムリサイクルのコストというものは20─30銭くらいで、原子力発電コストが13円ぐらいに対してそれほどの影響はない。しかもこれは、プルトニウムリサイクルをやっている部分だけの話で。他の所ではウランの燃料を使っているわけですから。全体のウランのコストに対しては5分の1ぐらいのコスト、30銭だって6銭ぐらいになっちゃう。・・・

ただし、プルトニウムの価値がマイナス18ドルとか30ドルとかっていうところがありますので。そう言った点に焦点を当ててアメリカあたりからやられると、これは相当難しい局面に立たされる恐れがある。私はそっちの方を心配している。・・・プルトニウムの価値がマイナスじゃあ、ともかくアメリカに対しても説明できないんじゃないですか。

島村

前からアメリカは経済性もなにも無いのにどうして日本はやるんだと、そういうことを言っておるわけです。それも安全保障の問題もありますから、ある程度は考えないといかんにしても。プルトニウムの比重がだんだんに高まっていく。

豊田

ただそれにしたって、ウランが大部分で、プルトニウムは2割は超えないと思います。だから、資源の乏しい国で、ともかくこれは是非つかわなきゃいけないんだって言うけど、1割か2割のところしか節約できないんです。・・・

p.388

田中好雄(元科学技術庁原子力局次長) 

・・・再処理してプルトニウムをFBRでもう一遍繰り返して使って以降とすると、FBRで使った燃料をまた再処理しないといけません。そっちの方の研究と、こっちの開発の方とタイアップがうまく行くんでしょうか。

豊田 

FBR燃料の再処理というのは。確かに。

田中 

プルサーマル用MOX燃料の再処理と同じでいいんですか。

豊田 

プルサーマル用MOX燃料の再処理とはちょっと。プルトニウムの量がかなり違ってきて。ただ、MOX燃料の場合は、プルトニウムの同位体の生成で、だんだんと価値が減ってしまう。だけど高速増殖炉の場合はブランケットがあって、そこではプルトニウム239がかなり多くできますんで。だからそちらの方は価値が出るでしょう。やっぱり相当放射能も高くなるし、再処理の技術としては難しくなるんだけど。プランケットの方と一緒にして再処理すればそれほど、放射能高くならない。だだ、それにしても、高速増殖炉の再処理は、今のピューレックス法じゃなくて高温冶金法かなにか、そちらの方の技術開発もっとやって、それをちゃんと経済的になるようなことをやらないと、なかなか難しいです。

田中 

私は、動燃にしょっちゅうお願いしたのはそっちなんです。そっちのバックがないと、前の再処理なんのためにやったのかわけわかない。(笑い)。

豊田 

高速増殖炉の実用化の時期までそれが間に合うのかどうか。

田中 

間に合わしてもらわなきゃ。(笑い)。

p.394

[以下は、2006年7月24日、豊田氏による意見表明と表(3及び4)]

豊田 

・・・要するに、原子力委員会は長期計画を審議し、策定することには熱心であるが、計画通り進んでいるかどうかのフォローアップはなおざりにされているといわざるを得ません。

・・・

最後に結論を要約しますと、現状は、世界的な原子力発電開発のスローダウンなどにより、新規の高品質ウラン鉱山の発見などにより、ウランの需給は緩み、価格は50ドル/kgU程度にとどまっています。一方、再処理費及びMOX燃料加工費は、20年前の推定値の数倍に上昇しており、また、高速増殖炉の実用化の見通しは極めて不透明になっている状況変化を考慮すれば、当然、原子力サイクル政策の見直しを行うべきであると考えます。

表3 原子燃料サイクルコストの変遷
項目INFCE
(1980年)
OECD/NEA
(1993年)
EWI(1)(西独)
(1994年)
日本の現状
(2002年推定)
US
ウラン精鉱
($/kgU)
250
(2000年)
50385050
転換($/kgU)88885
濃縮($/kgSWU)100110120120100
ウラン燃料加工
($/kgU)
200275470(2)
(800DM)
600~700250
MOX燃料加工
($/kgHM)
5001,1002350(2)
(4,000DM)
2,400~3,0001500
再処理費
($/kgHM)
300720ECU(3)/kgU1,400(2)
(2,400DM)
2500~35001000
高レベル廃棄物
処分費($/kgU)
11090 ECU(3)/kgU600200
直接処分費用
($/kgU)
150610ECU(3)/kgU400
高速増殖炉
実用化時期
1990~20102040~2050? 
(注)
  • (1) EWI:西独、ケルン大学エネルギー経済研究所
  • (2) 1.7DMを1$と換算
  • (3) lECU(ユーロ) = 1$
第4表 40〜50年後再処理、トリウム発電炉の経済性 (単位: ミル/kWh)
項目ケース1ケース2ケース3ケース4計算の前提
ウラン燃料
直接処分
ウラン燃料
即時再処理
・プルサーマル
ウラン燃料
40~50年後
再処理
トリウム発電
直接処分
燃焼度
(MWD/T)
45,00045,00045,00080,000 
ウラン精鉱1.131.131.13 50ドル/kgU
トリウム 0.0850ドル/kgTh
転換0.110.110.11 5ドル/kgU
濃縮1.671.671.67 100ドル/swu
燃料成型加工1.671.671.67 600ドル/kgU
 4.673000ドル/kgTh
フロントエンド
小計
4.584.584.584.75 
再処理費 8.331.90~2.56 3000ドル/kgU
現在価値換算
処理、処分費1.67 (1)1.32 (2)1.11 (3)0.94 (1) 
中間貯蔵費0.78 0.780.44280ドル/kgU
バックエンド
小計
2.459.653.79~4.451.38 
プルトニウム
クレジット
 1.11(4)0(5) MOX燃料加工費
2000ドル/kgU
総計7.0315.348.35~9.036.13 
(注)
  1. 処理、処分費
    • (1)直接処分600ドル/kgU
    • (2)ガラス固化体及びTRU廃棄物 475ドル/kgU
    • (3)40~50年後再処理 TRU廃棄物の処理が40~50年後となり、またガラス固化体及
      びTRU廃棄物の貯蔵費が不要となるので 400ドル/kgUと仮定する。
  2. プルトニウム・クレジット
    • (4)MOX燃料加工費2000ドル/kgUとし、OECD/NEAと同じ計算手法により算出。
    • (5)回収されるプルトニウムはトリウム発電炉に無償供与されるとして0とした。

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