核情報

2022. 8. 3

再処理に反対するビル・ゲイツがもんじゅ関連機関・企業と協力?
──恋のから騒ぎ?

今年(2022年)の元日の読売新聞が「米高速炉計画に日本参加へ──『もんじゅ』の技術共有、国内建設にも活用」 [1]と報じて話題を呼びました。著名な米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が設立した米テラパワー社の高速炉建設計画への参加ということで、特に関心が高まったようです。もんじゅの地元の福井新聞は「もんじゅの廃炉で地元自治体や住民の期待は一度裏切られたものの『ポストもんじゅ』をにらみ、再期待感が膨らみ始めている」と報じました 。[2]

しかし、テラパワー社は、元々、再処理を必要としないから核不拡散に役立つというはずの特殊な原子炉を開発するために設立された企業です。その炉の開発に失敗した後に登場したのが、今回の日米協力の対象となった高速炉「ナトリウム」ですが、同社はこちらも再処理を必要とせず、核拡散のリスクを制限する炉だと説明しています。ここでは、「再処理批判」のビル・ゲイツと、再処理推進の日本の機関・企業の協力という奇妙な呉越同舟状況について検討してみましょう。

<追記> 核情報主宰の関連記事が週刊エコミスト オンラインに掲載されています。


もくじ
  1. 高速炉推進のから騒ぎ
  2. 再処理は核拡散をもたらすと主張のテラパワー社が再処理推進国日本と協力?
  3. テラパワー社の高速炉「ナトリウム」の起源
  4. 豆知識 高速増殖炉の夢と挫折
  5. 増殖炉から「ナトリウム」へ──中を取り持つ「統合型高速炉(IFR)」・PRISM
  6. 「多目的試験炉(VTR)」計画に選ばれたPRISM──テラパワーが「協力」、そして「ナトリウム」へ
  7. 「ナトリウム」の特徴の整理──もんじゅと比較
  8. もんじゅ・「ナトリウム」比較表
  9. テラパワー社の高速炉「ナトリウム」は安全か?
  10. 再処理するかしないか、それが問題だ
  11. 拙速な「計画」の歪み露呈
  12. HALEU製造工場問題
  13. いつもの顔ぶれで「日米協力」推進──機構と三菱重工は一心同体?
  14. 「研究費をもらう側が、意見を集めて政策を決める時代は終わりである」–恋は盲目
  • 詳細・背景編
    1. テラパワー社設立当初の「夢(進行波炉)」の変遷
    2. 「ナトリウム」の溶融塩・エネルギー貯蔵システム──2次冷却系?
    3. テラパワー、経産省会議で「ナトリウム」の使用済み燃料は直接処分と説明──2022年5月19日
    4. EBR-II使用済み燃料の乾式再処理状況
    5. 再処理が不要とみなされたブランケット使用済み燃料
    6. GE日立は、英国のプルトニウムをPRISMで処分することを提案──使用済み燃料はどうする?
    7. HALEU「需要」供給問題
    8. HALEUの「戦略的意味」と低いウラン利用効率
    9. 「多目的試験炉(VTR)」日米協力覚書日本語訳不在問題──日本語訳を公表しない外務・経産・文科省
  • 略年表編
    1. 概観
    2. もんじゅ~「原子力関係閣僚会議」・高速炉開発会議

    参考:

    『「先進型」の方がいつもいいわけではない』(2021年3月)“Advanced” Isn’t Always Better
    *「憂慮する科学者同盟(UCS)」原子力安全性部長エドウィン・ライマン(Edwin Lyman)による報告書。テラパワー社の計画を始めとする米国の高速炉・小型炉に関する詳細な分析。以下、ライマン報告書あるいは単にライマンとして言及している場合はこの報告書を指す。

    高速炉推進のから騒ぎ

    元旦の読売報道の後、1月6日には萩生田光一経済産業相が米エネルギー省のグランホルム長官とオンライン形式で会談し、小型炉・高速炉での協力を表明する [3]。26日には、日本側3者(日本原子力研究開発機構、三菱重工業、三菱FBRシステムズ)とテラパワー社の間で協力に関する覚書が締結された [4]。だが、協力の具体的な中身についての情報は乏しく、高速増殖炉、高速炉、小型炉、先進型炉、革新型炉などの用語が、何となく新しくていいものという雰囲気を伴いながら独り歩きしている感がある [5]

    テラパワー社の高速炉「ナトリウム」についての報道で伝えられた情報は大体次のようなものだった。

    運転開始予定
     2028年
    建設費
     約40億ドル(約4500億円)。テラパワー社とエネルギー省が半分ずつ拠出
    建設予定地
     米国西部のワイオミング州の西部に位置する炭鉱町ケメラー[州名は先住民の言葉で大平原の意]。2025年に閉鎖予定の石炭火力発電所跡地 [6]

    「ナトリウム」の電気出力は現在の普通の原発の3分の1ほどの規模なので、この初号機(実証炉)に続く商業用の段階になるとコストを10億ドルまで下げられるとテラパワー社は主張している。だが、世界で4番目の富豪(資産:1300億ドル)のゲイツ氏と世界で5番目の富豪(資産:1290億ドル)のバフェット氏 [7]がパートナーを組んでいても、実証炉建設にエネルギー省の20億ドルの支援が必要だという。

    追記:

    2022年6月時点での「ナトリウム」許可申請計画は以下のとおり。

    建設許可申請 23年8月

    運転許可申請 26年3月
    *同社が米原子力規制委員会に送った2022年6月8日付けの書簡で示したもの

    出典:
    TerraPower circles 2023 for Natrium construction permit World Nuclear News, 18 June 2021
    Regulatory Engagement Plan for the Natrium Reactor TerraPower, June 8, 2021


    再処理は核拡散をもたらすと主張のテラパワー社が再処理推進国日本と協力?

    テラパワー社の設立(2006年)の目的は、「進行波炉(トラベリング・ウェーブ・リアクター:TWR)」という特殊な炉を開発することだった。(同社サイトによると「原子力革新企業としての公式立ち上げ」は2008年)。

    TWRは、ろうそくの火がじわじわ燃えるように、劣化ウラン(または天然ウラン)を炉内で次々とプルトニウムに変え、これを燃やすというナトリウム冷却高速炉(劣化ウランはウラン濃縮の過程で生じる「廃棄物」)。最大100年ほど燃料を取り出さず運転可能。1958年にソ連の核物理学者が最初に提唱し、米国の「水爆の父」エドワード・テラーが1996年に論文を発表したことで知られる [8]。「火種」部分には10%程度の濃縮ウラン(「高含有低濃縮ウラン(High-Assay Low-Enriched Uranium=HALEU)」)を使う。炉の寿命が尽きた時点で取り出される使用済み燃料はそのまま処分。再処理を必要とせず、核不拡散に役立つはずだった。日本では2010年に東芝が協力を検討しているとのニュースが流れ、注目された [9]。だが、この計画は、2020年9月以来、「中断」となっている。⇒詳細・背景編 <設立当初の「夢」(進行波炉)の変遷>

    今回、日米協力対象となっている「ナトリウム」は、核分裂で生じた中性子の速度を減速せず、発生時のエネルギーを維持したままの「高速中性子」を利用する「高速炉」ではあるが、日本のもんじゅと違い、再処理計画を基本とする「高速増殖炉」ではない。燃料は濃縮度20%弱のHALEUで、使用済み燃料は再処理しない計画となっている。このため、テラパワー社は、「ナトリウム」についても、「再処理を必要とせず、ワンススルーの燃料サイクルで運転するため、核拡散のリスクを制限する」ものだと謳っている [10]

    2022年5月19日の経産省のオンライン会議でも、テラパワー社のエリック・ウィリアムズ副社長(エンジニアリング・ディレクター)が、使用済み燃料について問われ、再処理せず、そのまま直接処分すると答えている。経産省の原子力小委員会に設けられた「革新炉ワーキンググループ」の第2回会合(オンライン)でのことだ。要約するとこんな説明だった。ナトリウムの使用済み燃料は10年間プール貯蔵した後、乾式貯蔵に移す。米国規制委員会(NRC)の方針は、オンサイトでの乾式貯蔵を100年間程度認めるというもの。処分場ができたら、そこでそのまま保管する。ただ、現在米国には最終処分場がまだないのが課題だ。⇒詳細・背景編<テラパワー、経産省会議でナトリウムの使用済み燃料は直接処分と説明>

    再処理批判の姿勢を標榜しながら、高速炉の経験を持つからと再処理推進国日本と協力しようというビル・ゲイツ。この協力関係が高速(増殖)炉計画の復活の起爆剤になればと期待しているかの日本側。どちらも、いよいよなりふり構わずという状況に至っていることを象徴する事態と言えよう。

    テラパワー社の高速炉「ナトリウム」の起源

    テラパワー社は、その高速炉が、もんじゅと同じく冷却材に液体ナトリウムを使うのを理由に同炉は「ナトリウム」と名付けた。あたかもテラパワー社が初めて液体ナトリウム冷却炉を思いついて開発したかの如く。

    この炉は、米「ゼネラル・エレクトリック(GE)」が開発した「発電用革新的小型モジュール炉(Power Reactor Innovative Small Module=PRISM)」 [11]に依拠するもので、その起源は、1964年から94年にかけて米国の「アルゴンヌ国立研究所(ANL)―-West」(現「アイダホ国立研究所(INL)」)で運転された「第2増殖実験炉(EBR-Ⅱ)」に遡る [12]。米国の高速増殖炉の開発は、現在一般的となっている「軽水炉」の開発に先立つ。世界で最初に意味のある発電をしたのは、EBR-Ⅱと同じサイトで先に建てられたEBR-Iだ。1951年12月20日に4つの電球を点灯させた [13]


    出典:「もんじゅ」廃止措置評価専門家会合資料(第2回2017年7月19日)米国DOEのEBR-2とFFTFのD&Dに関する事例 アンドリュー シラギー 米国エネルギー省環境管理局(pdf)

    豆知識 高速増殖炉の夢と挫折

    高速増殖炉開発が早期に始まった理由

    原子力開発の黎明期においては、ウランの資源量は乏しく、天然ウランに0.7%しか含まれていない「燃えるウラン235」に頼っていたのでは、すぐに枯渇してしまうと見られていた。原子炉の運転の際に「燃えないウラン238」が中性子を吸い込むことにより、燃えるプルトニウムが生まれることを利用し、消費した以上のプルトニウムを生み出す炉を作らねばと考えられた。「高速中性子」を核分裂に利用する「高速」プルトニウム増殖炉だ。初期装荷燃料用のプルトニウムは他の型の原子炉の使用済み燃料の再処理で取り出せばいい、と。

    しかし、ウランは当初想定よりずっと多く存在することが判明する一方、高速増殖炉の技術は難しく、放棄されていく。1995年のナトリウム火災の後、まともな運転ができないまま2016年に廃炉決定となったもんじゅがその象徴的な例だ。

    インドの核実験後、米国で政策変更

    米国では、もんじゅ計画の破綻よりずっと早く、再処理・高速炉開発政策が放棄された。きっかけは、1974年にインドが「平和利用核爆発」実験を行った際に使われたプルトニウムが、米国の協力の下で進めていた「民生用」再処理計画で取り出したものだったことだ。77年に登場したカーター政権が政策の見直しを実施し、その結果、高速増殖炉は、核兵器の材料となるプルトニウムを使うことから核拡散をもたらす可能性がある上、技術的に難しく経済性もないとの理由で、米国は、再処理・高速増殖炉建設推進計画を放棄することになる。

    日本は、1969年から英仏に再処理委託を開始。東海村のパイロット再処理工場の運転を開始したのは77年。カーター政権による中止要請をはねのけてのことだ。

    増殖炉から「ナトリウム」へ──中を取り持つ「統合型高速炉(IFR)」・PRISM

    イリノイ州に本拠を置く「アルゴンヌ国立研究所(ANL)」では、米政府の再処理・高速増殖炉推進政策変更後も残されていた基礎的研究計画の一部として、1984年から94年にかけて「統合型高速炉(IFR)」という概念の研究が行なわれた [14]。金属燃料高速炉と、そのための「乾式再処理」・新燃料製造・廃棄物処理施設を一カ所に置いて「統合的」に運用するというものだ。「アルゴンヌ研究所WEST」(現「アイダホ国立研究所(INL)」)のEBR-Ⅱがこの概念の実験に使われた。この研究に関わった「ゼネラル・エレクトリック(GE)」社が提案した「発電用革新的小型モジュール炉(Power Reactor Innovative Small Module=PRISM)」が80年代末、米エネルギー省の「先進型液体金属高速炉(ALMR=Advanced Liquid Metal Reactor)」の下で開発を継続すべき概念として選ばれた。


    PRISM概念図


    出典:New Mexico Digital Collections
    PRISM IFR
    *「ニュークリア・エンジニアリング・インターナショナル(NEI)」誌1987年11月号に掲載の図。NEI誌とGEの共同作成との注記がある。

    このころにはプルトニウムの増殖ではなく、プルトニウムを含む「[ウランより重い]超ウラン元素(TRU)」を「燃やす」こと(消滅)へと力点が移されていた(もんじゅの末期に、日本政府が「高速増殖炉」ではなくTRU燃焼用「高速炉」について語り始めたのと同じだ。もんじゅに関するこの宣伝文句については、更田豊志原子力規制委員会委員長代理(当時)が、「もんじゅの利用のアイデアとして、廃棄物の減容であるというような、無毒化というか、核変換のようなこと」を言うのは、「民間の感覚でいえば誇大広告」と批判している [15])。

    このALMR高速炉計画はクリントン政権時代の1994年に停止されたが、GEは研究を続けた(ちなみにGEは、福島第一原子力発電所を設計した会社だ。1号機は建設もGE)。そして、GEと日立製作所が2007年に設立したGE日立ニュークリア・エナジー(GEH)がこれを引き継ぐ((日本法人の方は、日立GEニュークリア・エナジー) [16]

    「多目的試験炉(VTR)」計画に選ばれたPRISM──テラパワーが「協力」、そして「ナトリウム」へ

    2018年11月、米エネルギー省が、各種高速炉の材料試験などに使う「多目的試験炉(VTR)」計画の対象としてGE日立とPRISMを選定した [17]。この後、テラパワー社がPRISMにしがみつく流れとなる。2020年1月21日、テラパワー社とGE日立が、VTR設計・建設で協力と発表する [18]

    続いて、GE日立とテラパワー社が手を組んで提唱したのがPRISMに基づく「ナトリウム」だ。ただし、燃料には、PRISMとは違い、使用済み燃料の再処理で取り出したプルトニウム(およびTRU)ではなく、「高含有低濃縮ウラン(HALEU)」を使う(ただし、HALEU燃料製造工場は現在、米国には存在しない。⇒HALEU製造工場問題)。

    前述のとおり、 テラパワー社は、「ナトリウム」では使用済みHALEU燃料の再処理もしない方針だから核拡散の抑制に役立つと喧伝している。 エネルギー省が、この炉を2020年10月、「先進型原子炉実証プログラム(ARDP)」の下で、今後5~7年以内に運転可能となる原子炉」の一つに選び、「実証炉」の建設費の半額(約20億ドル)を提供することになった。これが今回の日米協力につながる。(選定されたもう一つの炉は、X-エナジー社のペブルベッド式高温ガス炉「Xe-100」) [19]

    「ナトリウム」の特徴の整理──もんじゅと比較

    ここで、もんじゅと比べながら、「ナトリウム」の特徴を再度、整理しておこう。

    もんじゅ(電気出力28万kw:所内電力消費量を差し引く前のグロス出力)は、軽水炉の使用済み燃料を再処理して取り出したプルトニウムを燃料に使いながら、消費した以上のプルトニウムを生み出すという高速増殖炉の原型炉だった。普通の原子炉の使用済み燃料を再処理して取り出したプルトニウムを劣化ウランと混ぜた混合酸化物(MOX)燃料を使用。プルトニウム含有率は約20パーセント。プルトニウム燃料を囲むブランケットと呼ばれる部分に劣化ウラン燃料を配置し、ここでプルトニウムを発生させ(「増殖」し)、再処理工場で取り出す計画だった。(このための再処理工場は日本にはない。六ヶ所再処理工場では再処理できない。もんじゅの使用済み燃料は、2034年度から37年度にかけてフランスに送る計画だ [20]。)

    「ナトリウム」は、もんじゅと同じく液体ナトリウム冷却「高速炉」だが、前述のとおり、増殖炉ではないし、プルトニウム(およびTRU)の燃焼炉でもない。もんじゅの燃料は、プルトニウムを劣化ウランと混ぜた混合酸化物だが、「ナトリウム」の方は、「高含有・低濃縮ウラン(HALEU)」を使った金属燃料だ。この金属燃料を軽水炉と同じように18~24カ月ごとに取り換える。その使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出す計画もない(炉内で発生したプルトニウムは、軽水炉の場合と同様、そのまま発電に貢献することが期待されてはいるが)。上述の福井新聞の記事には「もんじゅと同様ナトリウムで冷却し、プルトニウムを効率よく燃やす次世代の原子炉」とあるが、これはよく言っても誤解を招く表現だ。

    もんじゅでは炉心を通る一次冷却系と蒸気発生器に熱を運ぶ二次冷却系の両方で液体ナトリウムを使っていた。「ナトリウム」は、炉心を通る1次冷却系では液体ナトリウムを使うが、蒸気発生器に熱を運ぶ2次冷却系では溶融塩を使う。これを「エネルギー貯蔵システム」として利用することで34.5万kWより低い電気出力で運転することも、逆に「貯蔵された熱」を使って50万kWの出力で5.5時間以上運転することも可能。つまり、負荷追従運転ができるから、太陽光や風力など出力が変動しやすい再生可能エネルギー源の補完機能を持てるというのが謳い文句だ [21]

    ただし、ワイオミング州ケメラーに建設予定の初号機では、漏洩が生じた際に1次系と溶融塩系の相互作用を避けるため、液体ナトリウムを使う「中間系」を導入し、それと溶融塩系との間で熱交換を行う設計となる。2022年5月19日に開かれた経産省オンライン会議でテラパワー社がそう説明している[22] (⇒詳細・背景編<「ナトリウム」炉の溶融塩エネルギー貯蔵システム──2次系?>)。

    もんじゅ・「ナトリウム」比較表

    下の表は、上記の整理をまとめたものだ。

     もんじゅ「ナトリウム」
    設計の基本的考え・主張再処理・プルトニウム利用推進。大型商業用高速増殖炉導入へ向けた準備段階という位置づけ。再処理を伴わず、プルトニウムによる核拡散リスクを下げる。小型炉で、初期投資を減らす
    炉型液体ナトリウム冷却高速(中性子)増殖炉液体ナトリウム冷却高速(中性子)炉
    電気出力28万kw34.5万kW(標準的軽水炉は100万kW級)
    運転1994年臨界 2016年閉鎖決定2028年運転開始予定
    燃料プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料(プルトニウム含有率約20%)「高含有低濃縮ウラン(HALEU)」燃料(ウラン235濃縮度20%弱)。国産HALEU燃料製造工場は、炉の完成目標に間に合いそうにない
    再処理必要?イエス。軽水炉の使用済み燃料から取り出したプルトニウムを燃料に使う。使用済み燃料も再処理してプルトニウムを取り出す計画。ノー。燃料(HALEU)の製造は再処理を伴わない。使用済み燃料も再処理せず直接処分の計画。「再処理を必要とせず、ワンススルーの燃料サイクルで運転するため、核拡散のリスクを制限する」が謳い文句
    増殖炉?イエス。プルトニウムを燃料として使いながら、消費した以上のプルトニウムを生み出す炉ノー。そもそもプルトニウム燃料を使わないから、増殖炉にはなりようがない。使用済み燃料も直接処分の計画。
    燃焼炉?イエス? 元は増殖炉だが、廃炉危機に直面し、再処理でたまりすぎたプルトニウム+その他の超ウラン元素燃焼に便利との喧伝が始まるノー。プルトニウムを燃料としないから燃焼炉ではない。ただし、炉内で発生したプルトニウムは、軽水炉の場合と同じく、炉内にある間は「燃えて」発電に貢献する
    冷却材炉心を通る1次冷却系と、蒸気発生器に熱を運ぶ2次冷却系の両方で液体ナトリウムを使用1次系はナトリウム、2次系は溶融塩使用──これを熱貯蔵用にすることで、電気出力の調整可能に。初号機では、中間系を導入し、溶融塩系に繋ぐ計画。

    テラパワー社の高速炉「ナトリウム」は安全か?

    「ナトリウム」は、事故時でも自然に異常状態が収束する「受動的安全性」を持つと、推進派は言う。「ナトリウム」の基になったPRISMの「受動的安全性」がEBR-Ⅱを使った試験において実証されているからとの論理だ。だが、この「実証されている」との主張は二つの炉の規模の違いを無視しているなど、いろいろ問題がある。「米原子力規制委員会(NRC)」は1994年に、「ナトリウムの沸騰が炉心全体で始まれば、[PRISMは]深刻な暴走を起こす可能性が高い」と述べている [23]

    再処理するかしないか、それが問題だ

    問題は使用済み燃料にもある。金属合金燃料は密度が高く、高速中性子の活用に適し、プルトニウムを生み出すには都合が良いのだが、炉内で膨張し被覆管の破損をもたらすという問題がある。EBR-Ⅱではこれに対処するため、燃料棒に入れる金属合金の量を減らし、それによりできたすき間にナトリウムを充填した。だが、ナトリウムは水や空気と触れると激しく反応して発熱するため、その使用済み燃料は「地下処分も、硝酸溶液で溶かす普通の再処理もできない」とエネルギー省は主張してきた。そのため、溶液を使わない「乾式再処理」をすることになった。だがEBR-Ⅱの使用済み燃料25.5トンのうち、1996年から2021年9月までに乾式再処理ができたのは5.1トンでしかない。「ナトリウム」の年間排出量の1.5倍程度だ。⇒詳細・背景編<EBR-II使用済み燃料の乾式再処理状況>

    テラパワー社は、前述のとおり、「ナトリウム」の使用済み燃料は直接処分すると主張している。だが、エネルギー省が上述の立場を変更しない限り、同種の燃料を使った高速炉プロジェクトでは、「ナトリウム」の場合も含め、使用済み燃料はすべて乾式再処理をしなければならないことになる(将来、充填用の「ボンド・ナトリウム」を使わない新しい燃料が開発され、それを使用しても膨張問題は生じず安全だと承認されることになれば別だが)。乾式再処理が必要という結論になった場合、乾式再処理技術は完成するのかどうか。完成するとしていつになるか。その見通しが立たないと炉の運転はできなくなる。

    一方、乾式再処理は必要ないとなると、「アイダホ国立研究所(INL)」での乾式再処理事業はなんのためにやってきたのか、という問題が生じる。そうなると、ナトリウム冷却炉を推進しようとしているエネルギー省とINL・ANLの主張全体の信憑性が改めて問われることになる。EBR-Ⅱの使用済み燃料の処分のために乾式再処理が必要だとのエネルギー省の主張は、「統合型高速炉(IFR)」プログラムのキャンセルの後、INLに対する「残念賞」として乾式再処理作業を継続させるためのものだったのだろうとライマンは推測している。
    詳細・背景情報編 < EBR-Ⅱ使用済み燃料の乾式再処理状況>

    追記

    問題をさらに複雑にしているのが、テラパワー社が2022年3月10日にエネルギー省から「溶融塩再処理(乾式再処理)技術開発」用に855万ドルの補助金を獲得したという件だ。エネルギー省内の「ARPA-E」という部局が、先進的原子炉から出る放射性廃棄分の発生量削減(10分の1に)や処分の促進を目指して拠出を決めた11件のプロジェクト(合計3600万ドル)のうちで最大のものだ。このプロジェクトでは、高温下での塩化物塩を活用し、使用済み燃料からウランを回収する実験的方法について研究すると同社は説明する。ニュークリア・エンジニアリング・インターナショナル誌(2022年7月21日)によると、「使用済み燃料の代替物から始めて、実際の使用済みウラン酸化物燃料へと進み、金属燃料、酸化物燃料、溶融塩燃料に活用できるプロセスの実証を目指すという。」同社は、「溶融塩高速炉(Molten Chloride Fast Reactor: MCFR)」も開発している。同炉の溶融塩燃料、「ナトリウム」の金属燃料、軽水炉のウラン酸化物燃料などが再処理できるようになるということだろうか。「ナトリウム」の燃料を再処理した場合、プルトニウムをどうするつもりかは明確ではない。

    ARPA-E(Advanced Research Projects Agency)(「先進的研究プロジェクトツ・エイジェンシー(ARPA)」-Energy)は、インターネットやGPSの誕生をもたらしたとして知られる「国防高等研究計画局(DARPA=Defense Advanced Research Projects Agency)」をモデルに2009年に設立(DARPAの一般的訳語に合わせて「エネルギー高等研究計画局」という訳語が使われる場合が多い)。成熟度が低く、リスクが高すぎて投資が得られにくい「死の谷」にあるプロジェクトを主に支援している。DARPAは開発された技術を軍が買い上げるが、ARPA-Eの場合、エネルギー省が買い上げるわけではない。テラパワー社のプロジェクトが「進行波炉」と同じく、夢のまま消えていくかどうかはもちろん、同社が何に向かって進んでいるのかも不明だ。

    参照

    拙速な「計画」の歪み露呈

    このところ、エネルギー省の拙速な高速炉推進政策の歪みが露呈してきている。ひとつは、各種高速炉の材料試験などに使うという「多目的試験炉(VTR)」(熱出力30万kW)の建設計画の行方だ。

    VTRは、前述の通り元々は2026年運転開始予定だった。だがその後、22年建設開始なら26年から31年の間に完成となった★注。最大60億ドルの建設費の全額を政府が提供する計画だ。問題は、この炉の建設を任されたのがテラパワーとGE日立のコンビであることだ。VTRは、燃料がプルトニウムであり、また、発電をしないという点で「ナトリウム」と異なるが、どちらもPRISMを基礎としている。
      ★注 ライマン報告, p.55

    エネルギー省が2022年度予算案で、建設決定の27年までの延期を示唆した [24](建設予定期間は最高5年)ことがさらに話を複雑にした。実用炉である「ナトリウム」の完成予定は28年だ。実用炉の開発のために試験炉が必要との議論が成り立たない。それで、上下両院の予算委員会が21年7月にVTR予算を削除してしまった(要求額1億4500万ドル)。バイデン政権の22年度予算(21年10月~22年9月)が21年10月までに成立しなかったため、VTR計画も21年度予算の水準(4500万ドル)を維持という「つなぎ予算」の下で継続状態に置かれることになった。だが、22年3月になって、VTR予算ゼロで確定となった [25]。これにより、VTR計画はつなぎ予算の半分程度(?)を使った後、4月に店じまいとなってしまった。

    エネルギー省は、何とか予算を復活させようと3月末に発表の23年度(22年10月~23年9月)予算案で21年度と同じ額(4500万ドル)を要求した。だが、2022年6月28日、米下院関連委員会の予算法案は、VTRの予算をまたゼロとしてしまっている [26]

    日本は、2019年6月に米国とVTRの開発協力覚書を交わしている[27] (⇒詳細・背景編<「多目的試験炉(VTR)」日米協力覚書日本語訳不在問題>)。日本政府は、16年のもんじゅ廃炉決定に際して、フランスの高速炉計画に参加すれば、もんじゅがなくとも高速炉開発に支障はないと主張していた。その計画が縮小・無期限延期となった後に結ばれたのがこの協力覚書だ。もんじゅ廃炉でも仏高速炉計画ASTRIDがあるさ、と言うもASTRID がこけ、今度は、ASTRIDがなければ米「多目的試験炉(VTR)」があるさ、と米との協力発表という流れだ。ところが、それもほぼこけた、という格好だ。

    HALEU製造工場問題

    エネルギー省の政策の歪みを示すもう一つの問題は、同省が、2019年11月5日に、セントラス社と結んだHALEU製造パイロットプラント建設契約を巡る混乱だ [28]。前述のように米国にはHALEU製造施設がない。このため、エネルギー省は各種先新型炉の燃料として使う予定のHALEUの国産化を目指している。同省のオハイオ州パイクトンのポーツマス・サイトで16台の「AC-100」新型遠心分離機を連結した「カスケード」を設置するというセントラス社との契約は、HALEU国産化実現に向けての一歩となるはずだった。「ナトリウム」は、初期装荷炉心用に15~20トンのHALEUが必要であるため、テラパワー社は20年9月にセントラス社との協力を発表していた [29]

    ところが、エネルギー省のこの建設契約が競争入札でなかったとの批判がでて、2021年末に契約破棄となった。22年3月までにHALEUの微量のサンプルを示すとの契約はそのままだが、22年6月までに200キログラムの製品提供という契約はなくなってしまったのだ[30]。結局、22年5月中旬に前者の契約が11月まで延長となり [31]、6月末に、後者の公開入札が発表された [32]。前者は、セントラス社が「カスケード」を完成直前の状態にするというもの。後者は、最初の1年ベース期間と、その後3年ずつ3期の契約に分かれる。最大10年の契約だ。最初の1年ではまず、この「カスケード」を完成させ、運転して20㎏のHALEUを製造し、続いて900㎏を製造する。その後の3年ずつのオプションは、年間900㎏で3年間生産というものだ。公開入札と言っても、この内容ではセントラス社以外は競争のしようがないから、簡単に一件落着となるかどうか。

    いずれにしても、HALEU推進派も、現在のHALEU燃料製造計画は、それぞれ、2027年と28年に完成予定のXエナジー及びテラパワー両社の原子炉の調達起源(24年及び25年)には間に合わないと認めている。軍事用高濃縮ウランの希釈で間に合わせるという案もあるが、これも簡単ではない。ロシアは製造能力を持つが、米エネルギー省の計画では、元々、高速炉開発と燃料国産化はセットになっている。それに加えて、22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略の状況からも、近い将来、ロシアからの輸入はあり得ない [33]

    経産省の「革新炉ワーキンググループ」の第3回会合(2022年7月1日:オンライン)に出席した米国の産業団体「原子力エネルギー協会(NEI)」の代表も、HALEUの供給問題に触れ、次のような趣旨の発言をしている。「入手方法についてはあまり選択肢が短期的にはない。少量を2027年ぐらいから、25トンぐらい作るということを計画するという話だが、今のところ解決策はない。2027年までどうするかはまだ見えていない。今、取り組んでる最中だ。[34]

    カーター・クリントン両政権で核不拡散政策に関わったプリンストン大学のフランク・フォンヒッペル名誉教授は、HALEU施設契約に関するエネルギー省原子力エネルギー局の意見募集 [35]に応えて2022年2月中旬に提出した意見書の中で次のように述べている。HALEUの「需要」は同局の高速炉建設への助成プログラムによって人為的に生み出されたものだ。これらの炉に商業化の見込みはなく、HALEUがテロリストに使われる危険性があることを考えれば、こんな燃料の製造に納税者の資金を投入すべきでない、と。そして、これらの炉について、45年前にカーター政権が行なったように、商業的成功可能性についての独立の評価を実施することを提言している[36]

    この人為的「需要」問題について、前述のNEI代表は次のように述べている。「商業的なサプライヤーと話をすると、彼らは投資をする気はないと。つまりHALEUを作るための投資は十分な需要が出てくるまではやるつもりはないと言っております。そして原子炉を作って、あるいは炉を作って、需要を喚起しなければいけない。そうすると鶏が先か、卵が先かみたいな話になってしまうわけです。」商機に目ざといはずの企業が事業に乗り出さないのには理由があるだろう。フォンヒッペル名誉教授の提言にある商業的成功可能性についての独立の評価が重要となる所以だ。
    詳細・背景情報編 < HALEU「需要」供給問題>

    いつもの顔ぶれで「日米協力」推進──機構と三菱重工は一心同体?

    2022年4月1日に日本原子力研究開発機構理事長に就任した小口正範氏は、前任(15年~22年)の児玉敏雄氏と同じく、元三菱重工業副社長の肩書を持つ。ただし、児玉氏は、15年2月に常務から副社長になった直後の理事長就任だった。

    就任当日の記者会見で、小口理事長は、テラパワーとの技術協力について「高速炉は将来性がある。技術的課題もあり、ブレークスルーするために世界の知見を合わせる」と述べるとともに、原型炉もんじゅ(福井県敦賀市)の廃炉は「残念だ」とも語っている 。[37]

    これは、直前の肩書「三菱重工顧問」としての発言か、機構の理事長としての発言か微妙だ。三菱重工は、もんじゅの主要機器を製造した会社で、機構と同じく、もんじゅの失敗に責任を負う立場にある。

    ここで、2016年9月21日に原子力関係閣僚会議がもんじゅに関する決定を年内に行うことを決めた際のことを思い出しておこう。15年11月に原子力規制委が原子力研究開発機構はもんじゅ運転の資質がないと宣言 [38]してから10カ月ほど経った時点でのことだ。この時、同閣僚会議は、「高速炉開発会議」設置方針を明らかにした。要するに、いよいよもんじゅ閉鎖を決めるにあたって、もんじゅが消えた後も高速炉開発を続けるべきだし、続けることができると主張するのに必要なお膳立てをするために、「高速炉開発会議」が設置されたということだ。翌10月7日に第1回会議を開催。12月19日 第4回会議で、もんじゅ廃炉方針を示すとともに、仏ASTRID計画と協力するから、高速炉開発に支障はないと、廃炉決定を正当化する。これを受けて、12月21日、原子力関係閣僚会議がもんじゅ廃炉と高速炉開発会議「戦略ワーキンググループ(WG)」設置を決定という流れとなる [39]
    略年表編<もんじゅ~「原子力関係閣僚会議」・高速炉開発会議>

    10月7日の第一回「高速炉開発会議」[40] 開催時点でのメンバーは次の通りだ [41]

    経済産業大臣 世耕 弘成
    文部科学大臣 松野 博一
    日本原子力研究開発機構理事長 児玉 敏雄 (元三菱重工副社長)
    電気事業連合会会長 勝野 哲
    三菱重工業株式会社代表取締役社長 宮永 俊一

    もんじゅの失敗をもたらした当事者達が集まって、もんじゅに引導を渡すと同時に、もんじゅがなければASTRIDがあるさ、と高速炉推進継続を決めたのだ。ところが、仏ASTRIDもこけ、次にしがみついたのが「多目的試験炉(VTR)」。今や、そのVTRもほぼこけるに至っている。

    冒頭で見たとおり、2022年1月26日にテラパワー社との間で協力覚書に署名したのは、日本原子力研究開発機構、三菱重工業、三菱FBRシステムズの3者だ。この時点での機構の理事長は、16年当時と同じ児玉敏雄氏(元三菱重工副社長)だった。三菱重工社長もやはり16年当時と同じ宮永俊一氏だった。

    そろそろ別の枠組みで高速(増殖)炉・再処理計画について検証すべき時だ。

    「研究費をもらう側が、意見を集めて政策を決める時代は終わりである」–恋は盲目

    最後に、引用がちょっと長くなるが、岡芳明前原子力委員会委員長の含蓄に富んだ言葉に耳を傾けておこう。

    研究費をもらう側が、意見を集めて政策を決める時代は終わりである。国が開発して民間が使う時代(原子力国産化時代)は、はるか昔に終わっているのに、いまだこのような意識が原子力関係者に残っているのはいかがなものであろうか。・・・
    原子力の研究開発は日本に限らず、国の大きい研究開発機関で行われている。研究開発に係る研究員の数も多く、予算も、組織力も発信力も大きい。軽水炉から高速炉に移行するとか、放射性廃棄物の有害度低減が可能であるとかの声は、主に日仏の研究開発機関から発信されている。日本のように国の研究開発費に依存する企業が存在する場合には両者の声が連動して、声がますます大きくなる

    第3世代炉から第4世代炉に移行するとは限らない
    国際機関で研究開発を議論する場合も、各国の研究開発機関からの参加者が多く、彼らは組織的に活動するので、検討結果が偏ることがあり注意が必要である。第3世代炉から第4世代炉に移行すると思っている方が多いかもしれないが、第4世代炉が市場の条件を満たして使われるかは不明である。使われるためには、「死の谷」を超える必要がある。超える責任は国ではなく、開発者にある。国民の負担と便益の観点で無理なものを、国が負担して利用し続けることはできない

    推進側は研究開発予算獲得の為、研究開発の理由づけをしがちである。これを「為にする議論」という。長年研究していると愛着が出来て、好き嫌いで考えてしまっているのに気がつかない場合もある。好き嫌いは恋愛と同じで議論できない。根拠の文献を探して論理的に考えるのが科学の作法であるはずであるが、それがなされない場合が多い。考えるためにはそのための学問的素養や経験と俯瞰力も必要である。

    出典:岡芳明原子力委員会委員長 核燃料サイクル、プルトニウム、高速炉、有害度低減原子力委員会メールマガジン 2018年7月20日号


    詳細・背景編

    テラパワー社設立当初の「夢(進行波炉)」の変遷

    「進行波炉(トラベリング・ウェーブ・リアクター:TWR)」とは?

    再処理を必要とせず、核不拡散に役立つはずだった炉。
    ろうそくの火がじわじわ燃えるように、劣化ウラン(または天然ウラン)を炉内で次々とプルトニウムに変え、これを燃やすという「ナトリウム冷却高速炉」。「火種」部分には10%程度の「高含有低濃縮ウラン(HALEU)」を使用し、最大100年ほど燃料を取り出さず運転。使用済み燃料はそのまま処分というアイデア。

    1958年にソ連の核物理学者が最初に提唱。「水爆の父」エドワード・テラー(米国)が1996年に論文を発表。

    テラパワー社進行波炉(TWR)図


    出典: TRAVELING WAVE REACTOR TECHNOLOGY
    TerraPower, FACT SHEET:TERRAPOWER’S TRAVELING WAVE TECHNOLOGY (pdf)

    TWRの仕組み

    下の図がTWRの仕組みを示している。火種(左端の赤いドーム)の「燃焼」に従って、劣化ウラン(緑)の中にプルトニウムの部分(赤)が生じ、その「燃焼」で発生する中性子により次の劣化ウラン部分がプルトニウムに変わる。燃えた部分は「使用済み」(黒)に変わる。この変化が中心部から外周部に向け、波のように「進行」していく。
    概念図1


    出典:ビルゲイツと東芝が目指す次世代原子炉
    TrendsWatcher, Aug.1,2015

    下の図は、進行の様子を切り取ってみたもの。
    概念図2


    出典:The travelling wave nuclear reactor
    Credible Carbon

    第一次「転進!」から「第二次「転進!」へ

    テラパワー社は、設立(2006年)当初、このTWR開発を目指したのだが、うまく行かず、2012年頃には、1年半ごとに燃料を炉内で移動させる方式(シャフリング)に切り替え、古くなった燃料を外に取り出すのを避けるために炉内に貯蔵スペースを確保する設計に変えてしまった。にも拘わらず、テラパワー社はTWRの呼称を使い続けた(転進!)。が、これもうまく行かず、同社は20年9月に計画中断(転進!)を発表した(業界誌ニュークレオニクス・ウイークのインタビュー(20年9月3日)における同社担当者Tara Neideの発言)。

    米エネルギー省ヘルツェック次官補代理(原子力技術研究開発担当)は、2018年3月1日に開かれた経産省の高速炉開発会議戦略ワーキンググループ第8回会合で、30年間運転できるTWR(550MWe)は「非常に成熟に近づいておりまして、ゼネラル・エレクトリックのPRISMに近づいてきております」と述べていた。続けて、「燃料のシャフリング、増殖、燃焼でできるのではないかと考えています。難しいのが材料になります。まだ適切な材料が揃っていません。30年間、炉心の中で使えるものがまだ確立していません」とも説明した [42]。要するに、シャフリング方式だから、すでにTWRではないし、「できるのではないか」も希望的観測にすぎない。セールスマン・トークを聞かされただけのことだ。上述の更田豊志原子力規制委員会委員長代理(当時)風に言えば、「民間の感覚でいえば誇大広告」であったことは、2年半後のテラパワー自身のTWR中断発表が示している。

    なお、テラパワーは、2015年に中国核工業集団公司(CNNC)とTWR開発のための覚書に署名し、17年には開発のための合弁会社を設立する契約を結んでいる [43]。電気出力600MWeの炉を20年代に建設という計画だった。これも、上述のシャフリング方式の設計で、本来のTWRではない。最終的に18年に、トランプ政権の新貿易規制政策によりキャンセルを余儀なくされた [44]。いずれにしても、高燃焼度に耐える燃料の開発に至っていないこと、その後のテラパワー自身が「中断」を決定したことを考えれば、いずれキャンセルされていただろうことはあきらかだろう。

    「ナトリウム」の溶融塩・エネルギー貯蔵システム──2次冷却系?

    2次冷却系は、将来、溶融塩エネルギー貯蔵システムとすることを計画

    「ナトリウム」では、炉心を通る一次冷却系は、もんじゅと同じように液体ナトリウム冷却だが、下の図にあるように、蒸気発生器に熱を運ぶ2次冷却系では溶融塩を使うことになっている。これを「エネルギー貯蔵システム」として利用するという設計だ。


    出典: 第2回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ(2022年5月19日)
    資料4 TerraPower社の高速炉開発について(英語/日本語(仮訳))(TerraPower社提出資料)(PDF形式:6,832KB); 議事録(PDF形式:473KB)

    だが、初号機では1次冷却系(液体ナトリウム)と「エネルギー貯蔵系(溶融塩)」との間に「中間系」を導入した設計

    ワイオミング州に建設予定の初号機では、下の図にあるように、漏洩が生じた際に1次冷却系のナトリウムと溶融塩の相互作用が生じるのを避けるために、「中間系(Intermediate Loop)」(液体ナトリウム)を設ける設計になる。溶融塩系との熱交換は、この「中間系」との間で行われることになる。


    出典:テラパワー社から米原子力規制委への提出文書 Natrium™ Decoupling Strategy February 4, 2022 (pdf) p.7 NRC

    テラパワー、経産省会議で「ナトリウム」の使用済み燃料は直接処分と説明──2022年5月19日

    ○松久保委員[松久保肇:原子力資料情報室事務局長]

    ありがとうございます。ご説明ありがとうございます。お伺いしたい点は2点です。1点が、プロジェクトスキームについてです。御社、たぶん製造工場お持ちでないというふうに理解しているんですけれども、パーツなどはどのように調達されて、どのように組み立てされるのかというところがお伺いしたいです。もう1点が、燃料に関してです。使用済み燃料、乾式貯蔵に最終的には移行されるというふうに理解しているんですけれども、移行できる燃料なんでしょうか?そこについてちょっとお伺いしたいというふうに思います。

    ○Williamsエンジニアリングディレクター

    ありがとうございます。最初のご質問ですけれども、TerraPower、おっしゃるとおり製造機能は持っておりません。その製造能力を開発するという計画もございません。技術イノベーターをしようしておりまして、製造は専門家に任せたいと。ただ、調達はわれわれがちゃんと責任を持ってやります。ということで、カスタムエンジニアドされたコンポーネント、適切なサプライヤーからそれを調達する。よりコモディティ型の設備に関してはBechtelの協力を得るということになっております。もちろん、工事、建設のほうのリードもBechtelということになります。ということで非常にうまくいくと。もちろん、調達というのがプロジェクト全体にとって非常に重要なところになります。2つ目のご質問ですけれども、あれ?質問は何でしたっけ?

    ○松久保委員

    使用済み燃料の貯蔵に関して、将来的に乾式貯蔵に…。

    ○Williamsエンジニアリングディレクター

    はい、そうです。現在、貯蔵、使用済み燃料プールのほうで貯蔵する、これは今、現行炉と同じような形になりますが、10年そこで保管したあと乾式貯蔵ということになります。これは今のやはり現行炉と同じになります。アメリカのNRCの方針としては、この使用済み燃料のオンサイトでの乾式貯蔵をかなり長期認められるということになっております。確か100年ぐらいのインスペクションだったというふうに思います。かなりの長期になります。契約としてはそれをする。コンテナの中でも、容器の中でも、それを輸送し、そして最終処分場できたところで、そこでそのまま保管するということになりますが、今、アメリカにはそういう場所がないということで、その能力がないので、そこが課題ということになります。

    出典: 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ第2回会合(2022年5月19日)、 議事録(PDF形式:473KB); 動画外部リンク

    EBR-II使用済み燃料の乾式再処理状況

    EBR-IIの使用済み燃料25.5トンのうち、1996年から2021年9月までに乾式再処理できた量は、わずか5.1トン。
    計算は次の通り。
    ★1996年時点での量:下の表1「当初量(Start amount)」から 「FFTF(高速中性子束試験施設(Fast Flux Test Facility:ワシントン州ハンフォード)」の量を除くと、25.5トン
    内訳 ドライバー使用済み燃料3.1トン(HEU)、ブランケット使用済み燃料22.4トン
    ★1996年~2021年9月までに処理された量
    「ドライバー1500㎏合計(図1から」+ 「ブランケット3628kg(表1のTotal:再処理は2010年で停止)」=計5128㎏
    ★元の総量約25トンに対する割合は:
    5128÷25000=0.201=約20%
    ➢ ドライバー燃料だけだと:3.1トンのうち1.5トン=約半分
    ➢ ドライバー使用済み燃料の年間平均処理量:1.5トン÷26年=57.6㎏ 約60㎏/年
    (エド・ライマンによると、VTRは年間1.8トンのドライバー使用済み燃料を生み出す。「ナトリウム」はその約2倍となる。)


    出典 Appendix B History of Processing For the Experimental Breeder Reactor II at the INL (pdf)
    UCS


    出典 Merits and Viability of Different Nuclear Fuel Cycles and Technology Options and the Waste Aspects of Advanced Nuclear Reactors: Meeting #10, September 28-29, 2021 (Public Sessions)
    The National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine: Patterson_Update on EBR-II Used Fuel Treatment_LRS version_INL-EXT-21-64586_2021-09-28.pdf (pdf, 4.6 MB)
    slide 8

    再処理が不要とみなされたブランケット使用済み燃料

    2000年にエネルギー省は、EBR-IIの使用済み燃料(ドライバーもブランケットも)全量、乾式再処理するとの決定を下したが、実はこの時点で、「燃焼度」の低い「ブランケット使用済み燃料」(全量の90%近く)では、ほかの処理方法があることを認めていた [45]。上の表は、2011年以降、ブランケット使用済み燃料が再処理されていないことを示している。

    GE日立は、英国のプルトニウムをPRISMで処分することを提案──使用済み燃料はどうする?

    ここで興味深いのは、GE日立が、英国のプルトニウムを処分するためにPRISMを使うよう売り込んできたことだ。英国には、再処理政策を続けたために、外国籍のもの約24トン(うち、約22トンが日本保有分)を含め、約140トンの民生用プルトニウムがある [46]。英国が現在保管中の酸化プルトニウムの粉末を金属プルトニウムに変え、PRISMを使って燃やし、使用済み燃料はそのまま処分という案だ。これができるのであれば、PRISMの基になったEBR-IIの使用済み燃料を「アイダホ国立研究所(INL)」が乾式再処理してきたのは何のためか、ということになる。2019年3月に英国は、PRISMをそのプルトニウム処分の実行可能なオプションから外すことを決定している [47]。実は11年にすでにPRISMの「燃料、原子炉、リサイクル・プラントの技術的成熟性は相当低い」と英国内部文書が論じていた [48]

    日立によると、「日立GEは2018年12月に経済産業省により策定された高速炉開発ロードマップの高速炉導入方針に従い,経済性と安全性を兼ね備えたPRISMを2040年代に日本へ導入することを目標としている」という [49]。INLでの乾式再処理作業は、使用済み燃料の処分に必要なものとみなしているのかどうか、日立GEの見解の確認が必要だろう。

    HALEU「需要」供給問題

    「(一般社団法人)海外電力調査会」(業界+元通産・経産省官僚)の2022年3月28日の資料は、疑似「需要」供給問題を次のようにまとめている。


    出典
    総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会
    第25回会合(2022年3月28日)資料4 「世界の革新炉 開発動向」(一般社団法人 海外電力調査会資料)(PDF形式:2,158KB)、22ページ

    HALEUの「戦略的意味」と低いウラン利用効率

    「ナトリウム」は核拡散を抑制するとのテラパワー社の主張の危うさ

    軽水炉の燃料のウラン235の含有率(濃縮度)が3~5%であるのに対し、HALEUは濃縮度が5%~20%の間と報道されている。だが、米エネルギー省が推進している高速炉のほとんどでは、20%に近いものが使われる。このレベルだと、低威力の核爆発装置ができる。米原子力規制委員会は、10~20%のものを「中程度の戦略的意味を持つ特殊核物質」としている。20%以上は核兵器に直接使え、「高濃縮ウラン」と呼ばれる。

    また、濃縮度を18.75%として計算すると、単位出力当たり軽水炉の約2.5倍の天然ウランが必要になり、燃料効率は軽水炉より悪いとライマンは指摘する。さらに、使用済み燃料に含まれるプルトニウムを始めとする超ウラン元素(TRU)の年間排出量も、単位出力当たりで軽水炉の約2倍になり、廃棄物問題の解決にもならないとの分析だ。つまりメリットはなく、開発者らはTRUを燃料にした炉に向かう「入口炉」と「ナトリウム」をみなしているのだろうというのがライマンの見解だ。

    「多目的試験炉(VTR)」日米協力覚書日本語訳不在問題──日本語訳を公表しない外務・経産・文科省

    日本政府は、なぜか、この覚書の日本語訳を公表していない。英文は米エネルギー省のサイトで公開されている:日米覚書(英文) 署名2019年6月12日

    日本側では、以下のような形で言及しているだけだ。「G20持続可能な成長のためのエネルギー転換と地球環境に関する関係閣僚会合を開催しました」 経済産業省 2019年6月18日

    3)米・ブルイエット・エネルギー副長官との会談
    ブルイエット・エネルギー副長官とは、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けた日米協力の一つとしてLNG分野の協力を継続していくことを確認しました。また、原子力分野では、米国が建設を検討するVTR(多目的試験炉)計画への研究協力に関する覚書への署名を歓迎し、最終処分、廃炉等の協力を含め、日米の原子力協力の更なる強化について議論しました。

    なお、日本原子力研究開発機構主催の第4回日米原子力研究開発協力シンポジウム(2020.10.22)では、VTRについて米側から紹介があり、機構は、その中の日米覚書による協力体制に関する部分について、次のように要約している。

    アルゴンヌ国立研究所 ログランス=リバス VTRプロジェクト事務局次長から、DOEが進めているVTRプログラムについて紹介がありました。米国には現在高速中性子スペクトル領域の試験炉が存在しないが、2026年までに完成させるため、4つのマイルストーンを設定していることが報告され、中性子束(4 x 1015 n/cm2-s)などのパラメーターや、完成予想図、多目的な実験に対応する炉心設計予定図などが紹介されました。また、アイダホ国立研究所が中心となり、19の大学、10の企業、6つの研究所が共同して計画を進めていることが紹介されました。

    アルゴンヌ国立研究所 ログランス=リバス VTRプロジェクト事務局次長発表資料 (2020.10.22, pdf)


    *前述のとおり、この段階では、2026年までに完成という話だったが、エネルギー省の2022年の予算要求では、2027年以降に建設決定となっている。下に示したのが、同予算案の該当部分。

    Department of Energy FY 2022 Congressional Budget Request (pdf)
    pp.89-90

    Highlights of the FY 2022 Budget Request
    In FY 2022, activities will focus on preliminary design and safety basis development, fuel design and production capabilities,
    and risk reduction. Prototyping and testing will be performed to decrease project risk by proving the supply chain and ensuring performance of potentially challenging components. FY 2022 activities will also include establishment of the baseline and full implementation of the Earned Value Management System. Finally, funding will be used to support development of the CD-2 package, Approve Performance Baseline/Approve Start of Construction, anticipated for the 4Q FY 2027.

    協力覚書に何と書いてあって、現状どうなっているのか説明する責任が経産省・文科省にはある。




    略年表編

    <GE日立・テラパワー・日本>及び<EBR・PRISM・VTR・「ナトリウム」>の関係整理のために

    概観

    参考:

    前史

    1951年12月20日
    米国の「第1増殖実験炉(EBR-Ⅰ)」、世界初の実験的原子力発電
    「アルゴンヌ国立研究所(ANL)」-West(現「アイダホ国立研究所(INL)」)で
    1964年
    同施設「第2増殖実験炉((EBR-Ⅱ)」運転開始──1994年まで [50]
    1984年~94年
    ANLで「統合型高速炉(IFR)」の概念開発
      米GE社はこれに参加。
    1980年代末
    「米エネルギー省(DOE)」、「先進型液体金属高速炉(Advanced Liquid Metal Reactor=ALMR)」計画に民間参加を呼びかけ。
    *GE社、「PRISM((Power Reactor Innovative Small Module:発電用革新的小型モジュール炉)」を提唱。最終的に選択される。
    1994年
    米国の高速炉計画(ALMR/IFR計画)中止(米国議会の決定により)
     *GE社は研究開発継続

    2000年以降

    2000年
    1月
    DOE、「第四世代原子炉(GEN-IV)」計画発表
    2009年
    3月
    GE日立、PIRSM設計申請を2011~2012年に提出と発表
    6月
    GE日立、米国議会にPRISM提案
    2018年
    3月1日
    ヘルツェックDOE次官補代理、経産省会合でテラパワー社の進行波炉について楽観的見解披露(高速炉開発会議戦略ワーキンググループ第8回会合)。ただし、適切な材料が揃っていないとも。
    9月28日
    米議会、新世代のナトリウム冷却炉用の材料および燃料の試験に使うナトリウム冷却炉の建設を義務付け [51](これがのちにVTRと呼ばれることに)。
    11月13日
    DOE、GE日立とPRISMを「多目的試験炉(VTR)」計画の対象として選定 [52]
    2019年
    2月28
    R.ペリーDOE長官、先進型炉技術の研究開発で重要な役割を担う高速中性子の照射施設として、VTR開発プロジェクトに着手と発表(翌3月1日には、DOE原子力局ウェブサイトが、2026年初頭にVTRを完成させるべく、概念設計に入るとの方針発表) [53]
    6月12日
    日米政府、VTR開発協力に関する覚書締結 [54]
    11月5日
    米セントラス社、HALEUの生産実証でDOEと3年契約
    2020年
    1月21日
    テラパワー社とGE日立、DOEのVTR設計・建設で協力と発表 [55]
    5月14日
    DOE、「先進型原子炉実証プログラム(Advanced Reactor Demonstration Program=ARDP)」を開始 [56]
    8月27日
    テラパワー社とGE日立、DOEのARDP用に、商業用の「発電・エネルギー貯蔵システム」を共同で開発と発表 [57]
    *テラパワー社の溶融塩エネルギー貯蔵システムとGE日立のPRISMの組み合わせ。
    9月15日
    テラパワー社、ARDPの下での商業規模のHALEU国産製造加工施設建設のため、セントラス・エナジー社との協力計画発表。同社の先進的電力貯蔵システムがARDPの対象設計に選定された場合に備え [58]
    10月13日
    DOE、ARDPの下で、「今後5~7年以内に運転可能となる原子炉」として支援する2つのプロジェクトの1つに「ナトリウム」選ぶ [59]
    *もう一つの炉は、X-エナジー社のペブルベッド型高温ガス炉(Xe-100)
    2021年
    5月
    DOEとテラパワー社、前年のARDP対象選定に基づき協力協定 [60]
    6月2日
    テラパワー社、「ナトリウム」をワイオミング州建設で知事らと合意 [61]
    11月16日
    テラパワー社、「ナトリウム」建設地として、ワイオミング州ケンメラー選定(完成予定2028年まで。最初は27年) [62]
    2022年
    1月1日
    読売新聞記事「日本原子力研究開発機構と三菱重工業が技術協力し、日本の施設で安全試験も行う。1月にも協力の合意書を取り交わし、2028年に米ワイオミング州での運転開始を目指す」
    1月6日
    萩生田光一経済産業相、米エネルギー省グランホルム長官とオンライン形式で会談。高速炉・小型モジュール炉(SMR)実証に日本政府として取り組む方針表明。
    1月26日
    日本原子力研究開発機構、三菱重工業、三菱FBRシステムズの日本側3者とテラパワー社の間で協力に関する覚書締結

    もんじゅ~「原子力関係閣僚会議」・高速炉開発会議

    参考

    もんじゅ略年表

    1985年10月
    着工
    1994年4月
    臨界
    1995年8月
    初送電
    1995年12月
    ナトリウム火災

    原子力関係閣僚会議<高速炉開発会議>


    2013年12月13日
    「原子力関係閣僚会議」設置
    2015年11月13日
    原子力規制委が原子力研究開発機構はもんじゅ運転の資質がないと宣言
    2016年9月21日
    原子力関係閣僚会議、年内のもんじゅの措置決定と、「高速炉開発会議」 設置方針を発表
    2016年10月7日
    高速炉開発会議 第1回開催
    2016年12月19日
    高速炉開発会議、もんじゅ廃炉方針をASTRID協力などで正当化。
    2016年12月21日
    原子力関係閣僚会議、もんじゅ廃炉と高速炉開発会議「戦略ワーキンググループ(WG)」 設置を決定
    2018年12月3日
    戦略WG、「戦略ロードマップ骨子」案 発表
    2018年12月18日
    戦略WG、「戦略ロードマップ」案 発表。高速炉開発会議に提示へ
    2018年12月20日
    高速炉開発会議、「戦略ロードマップ」案 正式とりまとめ。閣僚会議に提示へ
    2018年12月21日
    原子力関係閣僚会議「戦略ロードマップ」、案の通り決定


    初出:◎「プルトニウム延命?──高速炉開発への日米協力の深層」(核情報主宰)
    『世界』2022年4月号 
    出典などを入れるとともに大幅に加筆修正



    1. 【独自】米高速炉計画に日本参加へ…「もんじゅ」の技術共有、国内建設にも活用 読売新聞 2022/01/01 ↩︎

    2. 米と連携、研究開発加速 技術継承も実用化見えず 原子力と福井共生の先に_第3部サイクルの現場(11) 福井新聞 2022年3月26日 ↩︎

    3. 日米、原子力で連携強化 高速炉や小型炉の実証 福井新聞 2022年1月6日 ↩︎

    4. カーボンニュートラル実現に貢献するナトリウム冷却高速炉技術に関する日米協力の推進について(米国テラパワー社との協力) 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 三菱重工業株式会社 三菱FBRシステムズ株式会社 2022年1月27日 ↩︎

    5. これらの概念については、例えば以下を参照。世界の革新炉 開発動向(pdf) 海外電力調査会 2022年3月28日;海外におけるSMRの開発・導入動向(2021.10.14掲載)国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 高速炉・新型炉研究開発部門;第4世代原子炉の概念 アトミカ;先進燃焼炉 アトミカ ↩︎

    6. [米国] テラパワー社、Na冷却高速炉実証炉の建設地をワイオミング州に選定 電事連 2021年11月30日;米テラパワー社、ワイオミング州でのナトリウム冷却高速炉の実証炉建設で州知事らと合意 原子力産業新聞 04 Jun 2021 ↩︎

    7. フォーブズ誌の世界の富豪番付 英文 ↩︎

    8. COMPLETELY AUTOMATED NUCLEAR REACTORS FOR LONG-TERM OPERATION II: Toward A Concept-Level Point-Design Of A High-Temperature, Gas-Cooled Central Power Station System Stanford University & University of California Lawrence Livermore National Laboratory ↩︎

    9. 東芝、ビル・ゲイツ氏と次世代原子炉開発を検討 AFPBB News 2010年3月23日 ↩︎

    10. "The Natrium Program" Terrapower,18 May 2021. “Natrium plants will not require reprocessing and will run on a once-through fuel cycle that limits the risk of weapons proliferation.” ↩︎

    11. 「PRISM」 アトミカ ↩︎

    12. 「PRISM」アトミカ; Idaho National Laboratory Argonne National Laboratory; Reactors Designed by Argonne National Laboratory Wikipedia ↩︎

    13. Reactors Designed by Argonne National Laboratory Argonne National Laboratory

      “It accomplished this feat on December 20, 1951 by lighting four light bulbs. The next day, EBR-I’s output was boosted to 100 kW(e).”

      ↩︎
    14. Integral Fast Reactor Argonne National Laboratory (次から引用。“Plentiful Energy: The Story of the Integral Fast Reactor” by Charles E. Till and Yoon Chang, CreateSpace, ISBN 1-4663-8460-3 (2011); Reactors Designed by Argonne National Laboratory Argonne National Laboratory; Idaho National Laboratory Wikipedia ↩︎

    15. どうする「もんじゅ」?──核兵器問題から見た再処理・高速増殖炉計画──増殖の夢から減容・有害度低減の夢へ? 「核変換」の神話の現実 核情報 2016. 6. 6 ↩︎

    16. 日立の説明がここに。日立の原子力ビジョンと新型炉開発 日立評論 2020 vol.102 No.2, 4.小型液体金属冷却高速炉PRISM ↩︎

    17. 「米エネ省、多目的試験炉[VTR]の開発支援でGEH社と「PRISM炉」を選定」 原子力産業新聞 2018年11月16日;
      GEHとPRISMが米国エネルギー省の多目的試験炉プログラムに選定 GE日立, 2018年11月13日

      「2018年11月13日 - バテルエナジーアライアンス(BEA)社は、 米国エネルギー省(DOE)の多目的試験炉(VTR)プログラムを支援する技術として、GE日立・ニュクリアエナジー(以下、GEH)のPRISM技術を選定しました。」
      公益財団法人原子力安全研究協会 平成 30 年度文部科学省委託事業 原子力平和利用確保調査(諸外国における原子力の平和利用に関する状況の調査)成果報告書, 第 3 章 参考資料(pdf) 文部科学省, 2019年3月, p.22 ↩︎

    18. GEHとテラパワー社が、多目的試験用原子炉プログラム支援への協力を発表 GE日立 2020年1月30日 ↩︎

    19. 米エネ省、先進的原子炉実証プログラムの支援対象企業2社を発表 原子力産業新聞 22 Oct 2020 ↩︎

    20. 核燃料、34年度から仏へ搬出 もんじゅ廃炉作業―文科省 時事通信 2022年03月30日 ↩︎

    21. テラパワー社とGEH社、ナトリウム高速炉技術による発電・貯蔵システムの開発開始 原子力産業新聞 03 Sep 2020 ↩︎

    22. 第2回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ 2022年5月19日, 資料4 TerraPower社の高速炉開発について(英語/日本語(仮訳))(TerraPower社提出資料)(PDF形式:6,832KB); 動画 ↩︎

    23. Preapplication Safety Evaluation Report for the Power Reactor Innovative Small Module(PRISM) Liquid-Metal Reactor. NUREG-1368. Washington, DC.(pdf) NRC (Nuclear Regulatory Commission). 1994.
      *ライマン報告書p.65 に引用 ↩︎

    24. It’s time to cancel the Versatile Test Reactor (BY EDWIN LYMAN, OPINION CONTRIBUTOR) The Hill 07/27/21

      “But even believers in the technology would have a hard time justifying why taxpayers should pay the same companies billions to build two nearly identical fast reactors at the same time. The DOE, in a major shift, revealed in its fiscal 2022 budget request that it may not even decide whether to build the VTR until late 2027 in order to “sequence” its schedule to follow the Natrium. Optimistically, assuming the VTR takes five years to build and requires two years of start-up testing, the reactor wouldn’t be available for research until the mid-2030s — far too late for all the graduate students that DOE is funding to develop VTR experiments, who will likely have moved on long before then.”

      FY 2022 Congressional Budget Request (pdf) Department of Energy, p. 90. ↩︎
    25. DIVISION D- ENERGY AND WATER DEVELOPMENT AND RELATED AGENCIES APPROPRIATIONS ACT. 2022(2022年度予算案最終版2022年3月12日?, pdf) p.133

      DEPARTMENT OF ENERGY(2023度予算要求:White House, Mar. 28, pdf) p.12

      FY 2022 March Status, Versatile Test Reactor 米エネルギー省, 2022年3月.

      Tom O’Connor, Federal Program Director, “On March 15, 2022, President Biden signed into law: H.R. 2471, the “Consolidated Appropriations Act, 2022,” which provides full-year funding through September 30, 2022, for projects and activities of the Federal Government. Unfortunately, no funding was provided for VTR…”]
      ↩︎

    26. 17TH CONGRESS 2d Session, HOUSE OF REPRESENTATIVES, ENERGY AND WATER DEVELOPMENT AND RELATED AGENCIES APPROPRIATIONS BILL, 2023 (pdf)(2023年度予算案下院) p. 182
      ↩︎

    27. 日米覚書(英文) DOE 2019年6月12日 ↩︎

    28. 新型原子炉用HALEUの生産実証で米セントラス社がエネ省と3年契約 原子力産業新聞 07 Nov 2019 ↩︎

    29. 米テラパワー社、国産HALEU燃料の供給に向けてセントラス社と協力 原子力産業新聞 16 Sep 2020; TerraPower announces plan to invest in domestic advanced nuclear fuel production to ensure U.S.-based fuel supply for advanced reactors  TerraPower September 15, 2020 ↩︎

    30. DOE Cancels Plans for Centrus to Operate New Uranium Enrichment Cascade at Portsmouth Nuclear Security and Deterrence Monitor, 17 Dec. 2021 ↩︎

    31. DOE extends Centrus HALEU deal at Portsmouth into winter Exchange Monitor May 12, 2022;背景情報がこちらにCentrus “American Centrifuge Plant” project in Piketon, Ohio (last updated 19 Mar 2022) WISE Uranium Project ↩︎

    32. DOE solicits bids for HALEU operations contract at Portsmouth Exchange Monitor June 30, 2022 ↩︎

    33. Developing Domestic HALEU Supply Spells Freedom from Russian Dependency THIRD WAY April 6, 2022 ↩︎

    34. 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 原子力小委員会 革新炉ワーキンググループ第3回会合(2022年7月1日)動画外部リンク ↩︎

    35. Request for Information (RFI) Regarding Planning for Establishment of a Program To Support the Availability of High-Assay Low-Enriched Uranium (HALEU) for Civilian Domestic Research, Development, Demonstration, and Commercial Use Federal Register Energy Department 12/14/2021 ↩︎

    36. Frank von Hippel, Response to Request for Information (RFI) Regarding Planning for Establishment of a Program to Support the Availability of High-Assay Low-Enriched Uranium (HALEU) for Civilian Domestic Research, Development, Demonstration, and Commercial Use
      ↩︎

    37. 米高速炉開発、技術協力に意欲 原子力機構の小口新理事長 共同通信 2022/4/1 ↩︎

    38. どうする「もんじゅ」? 核兵器問題から見た再処理・高速増殖炉計画 核情報 2016. 6. 6 ↩︎

    39. 政府、高速炉開発の10年計画発表―夢破れてなお 核情報 2019. 5.28 ↩︎

    40. 高速炉開発会議 経済産業省 ↩︎

    41. 高速炉開発会議(第1回会合)‐配布資料 資料1 高速炉開発会議の設置について 経済産業省 平成28年10月7日 ↩︎

    42. 高速炉開発会議戦略ワーキンググループ, 第8回会合(2018年3月1日)(議事録, PDF) 経済産業省 ↩︎

    43. [中国] 中国の核工業公司、進行波炉開発で石炭大手の神華集団と投資協力協定 電気事業連合会 2017年10月20日 ↩︎

    44. ビル・ゲイツ支援の次世代原発、米中貿易戦争でピンチに 日経ビジネス  2019.1.16 ↩︎

    45. The Pyroprocessing Files (Ed Lyman) UCS All Things Nuclear August 12, 2017 ↩︎

    46. 英国は、2020年末現在、国内にある分離済みプルトニウムを139.8トン、うち外国籍24.1トンと発表している。国際原子力機関(IAEA)への提出資料; 日本は、同年末、英国に21.8トン保有と発表、「令和2年(2020年)における我が国のプルトニウム管理状況」(PFD) 原子力委員会 2021年7月9 日 ↩︎

    47. Integral fast reactors rejected for plutonium disposition in the UK and the US (Jim Green) Nuclear Monitor Issue: #876, 27/05/2019 ↩︎

    48. Can PRISM solve the UK's plutonium problem? The Ecologist 2014/2/26, Jim Green/ Nuclear Monitor ↩︎

    49. 日立の原子力ビジョンと新型炉開発 『日立評論』(2020 vol.102 No.2) ↩︎

    50. Andrew Szilagyi, U. S. DOE Experience with D&D of EBR-2 and FFTF US Department of Energy, Office of Environmental Management for the Second Expert Panel on Monju Decommissioning Tsuruga, Japan, 19 July, 2017;日本語仮訳 アンドリュー シラギー(米国エネルギー省環境管理局) 米国DOEのEBR-2とFFTFのD&Dに関する事例 (PDF)  *「もんじゅ」廃止措置評価専門家会合, 第2回 2017年7月19日)会合配布資料 文部科学省 ↩︎

    51. NUCLEAR ENERGY INNOVATION CAPABILITIES ACT OF 2017 (PUBLIC LAW 115–248—SEPT. 28, 2018, pdf) 米国政府 ↩︎

    52. 米エネ省、多目的試験炉(VTR)の開発支援でGEH社と「PRISM炉」を選定 原子力産業新聞 2018年11月16日; GEHとPRISMが米国エネルギー省の多目的試験炉プログラムに選定 日立GE  2018年11月13日 ↩︎

    53. [米国] エネ省、新型炉技術開発で多目的試験炉プロジェクトに着手 電気事業連合会 2019年4月5日 ↩︎

    54. 英文日米覚書 (pdf) DOE 2019年6月12日 ↩︎

    55. GEHとテラパワー社が、多目的試験用原子炉プログラム支援への協力を発表 GE日立 2020年1月30日 ↩︎

    56. [米国] DOE、2億3,000万ドル規模の先進型原子炉実証プログラムを開始 電気事業連合会 2020年6月8日 ↩︎

    57. テラパワー社とGEH社、ナトリウム高速炉技術による発電・貯蔵システムの開発開始 原子力産業新聞 03 Sep 2020 ↩︎

    58. 米テラパワー社、国産HALEU燃料の供給に向けてセントラス社と協力 原子力産業新聞 16 Sep 2020 ↩︎

    59. 海外におけるSMRの開発・導入動向 日本原子力研究開発機構 2021.10.14 ↩︎

    60. 米テラパワー社、ワイオミング州でのナトリウム冷却高速炉の実証炉建設で州知事らと合意 電気事業連合会 2021年6月16日 ↩︎

    61. 米テラパワー社、ワイオミング州でのナトリウム冷却高速炉の実証炉建設で州知事らと合意 原子力産業新聞 04 Jun 2021 ↩︎

    62. [米国] テラパワー社、Na冷却高速炉実証炉の建設地をワイオミング州に選定 電気事業連合会 2021年11月30日 ↩︎


     
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