核情報

2016. 6. 6

どうする「もんじゅ」?──核兵器問題から見た再処理・高速増殖炉計画
 増殖の夢から減容・有害度低減の夢へ? 「核変換」の神話の現実

原子力研究開発機構に「代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有する」運営主体を探すか、「施設の在り方を抜本的に見直す」よう昨年11月に原子力規制委員会から求められていた文部科学省は、5月31日、有識者検討会がまとめた報告書を原子力規制委員会に提出しました。検討会が27日にまとめた報告書は産経新聞が「もんじゅ受け皿先送り 存続ありき、本質議論なく形骸化…『誰でも言える常識的な内容を並べただけの報告書』」(5月28日)と報じたものでした。この機会に「もんじゅ」に関する市民検討委員会提言書(2016年5月9日発表)に収録された核情報担当の各論8に加筆したものを掲載します。

規制委員会は下にあるように「機構はもんじゅの出力運転を安全に行う主体として必要な資質を有していない」として機構に代わる運営主体を「具体的に特定」することなどを文部科学大臣に求めていました。

貴職において、次の事項について検討の上、おおむね半年を目途として、これらについて講ずる措置の内容を示されたい。

一 機構に代わってもんじゅの出力運転を安全に行う能力を有すると認められる者を具体的に特定すること。

二 もんじゅの出力運転を安全に行う能力を有する者を具体的に特定することが困難であるのならば、もんじゅが有する安全上のリスクを明確に減少させるよう、もんじゅという発電用原子炉施設の在り方を抜本的に見直すこと。

出典: 原子力規制委員会勧告文(pdf) 2015年11月13日

しかし、検討委員会の報告書は「運営主体が備えるべき要件」を並べただけのものでした。文部科学省はこれを参考に夏までに運営主体を特定するということです。共同通信は、「もんじゅ、国費で新法人設立へ 現地職員の雇用継続、文科省検討」(5月27日)と報じ、「新法人と現運営主体に大きな違いはなく、『看板の掛け替えによる延命策』との批判が強まる可能性もある」と論評しています。規制委員会の田中俊一委員長は、昨年11月13日に勧告を出した後の記者会見(pdf)で「看板の掛け替え、付け替えというのは、我々はそれを許容するつもりはなく……今日の勧告でも、原子力機構にかわるというふうに明確に書いて」あると述べています。市民検討委員会提言書の各論8の拡大版をここに掲載するのは、この問題について考える参考にして頂けることを願ってのことです。


  1. はじめに
  2. 夢は変わったのか
  3. 再処理と核拡散・核テロ
  4. 国民との話し合いの基礎1ー経済性と資源節約
  5. 国民との話し合いの基礎2──減容・有害度低減の夢
  6. 国民との話し合いの基礎3──減容・有害度低減の夢の現実
  7. 結語

参考


はじめに

「もんじゅ」は、プルトニウムを燃やしながら使った以上のプルトニウムを生み出す夢の原子炉として喧伝された「高速増殖炉」の実用化に向けた一歩として計画・建設された。増殖の夢は、元々、ウラン資源に限りがあり世界中で原子力発電所が急速に増える中で燃料不足が早期に到来するとの予測に基づくものだった。普通の原子力発電所で利用できるのは天然ウランに0.7%しか含まれない核分裂性のウラン235だけである。だが、天然ウランの大半を占めるウラン238の一部は発電過程で核分裂性のプルトニウムに変わる。そこで、原子力発電所の使用済み燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、これを高速増殖炉の初期装荷燃料とすれば、ほとんど無限のエネルギー源となるというわけである。だがウランは当初の推定以上に存在することが判明し、原子力利用の急速な伸びも起きなかった。増殖の夢で解決に挑んだ「問題」が実は存在しないこと判明した。しかも増殖炉の技術は予想以上に難しかった。ほとんどの国は増殖炉の夢は見果てぬ夢として放棄した。

だが日本は「ウラン枯渇問題」が消滅し、高速増殖炉の開発が進まないにもかかわらず英仏に再処理を委託したり、国内での再処理工場での再処理を進めたりした結果、プルトニウムがたまっていった。使い道のないプルトニウムがあまり増えてしまっては国際的にも都合が悪いので、ウランと混ぜて「混合酸化物(MOX)燃料)」にし、これを無理矢理軽水炉で燃やすことを計画したが、このプルサーマル計画も遅れに遅れた。その結果、日本が保有するプルトニウムは2014年末時点で約48トンに達した(国内に10.8トン、英国に20.7トン、フランスに16.3トン)。8キログラムで核兵器1発という国際原子力機関(IAEA)の計算方法を使えば、約6000発分に相当する。

再処理を正当化するための高速炉

こんな中、年間約8トンのプルトニウムを取り出す(分離する)能力を持つ六ヶ所再処理工場がなぜ本格運転に向かおうとしているのか。政府は、ウラン資源の節約に加えて、核廃棄物の減容・有害度低減という新たな夢のために再処理が必要だと強調する。米国を始め、多くの国々は使用済み燃料を長期間保管した後、地層処分場にそのまま入れる「直接処分」の道を選んでいる。直接処分と比べ、処分場に送られる廃棄物の体積を減らそうというのが減容、毒性を減らそうというのが有害度低減である。「もんじゅ」は、今ではこの二つを達成する「高速炉」の研究のために必要だといわれている。

有害度低減の夢を謳う政府は、プルトニウムなどのウランより重い元素──超ウラン元素(TRU)──の有害度を強調する。直接処分の場合に地下処分場に送られるこれらの長寿命の物質を再処理で取り出して燃やすべきだという。現在の再処理ではプルトニウムとウランしか取り出さない。地層処分場に送られるガラス固化体の中にはプルトニウム以外の超ウラン元素が含まれている。アメリシウム、ネプツニウム、キュリウムなどである。TRUはアクチニド(またはアクチノイド)と呼ばれるグループに属している。TRUの中でプルトニウムは特別扱いでメジャー・アクチニド、その他の元素はマイナー・アクチニド(MA)と呼ばれる。MAも取り出せる新しい再処理システムを開発して、これも燃やそうというアイデアである。そうすれば地層処分場に送られる長寿命のTRUがほとんどなくなり、地下の廃棄物の有害度が大幅に減少するとの主張である。

だが、政府はそのために地上で大量に蓄積され流通することになるTRUについては語ろうとしない。増やす夢も減らす夢も、実現に向けて進めば、大量の核兵器利用可能放射性物質の地上での蓄積・流通を伴う悪夢となる。米国の核兵器研究所「ローレンス・リバモア国立研究所」のブルース・グッドウィン博士は1999年の「ワークショップ」で、使用済み燃料内のプルトニウム以外の超ウラン元素も、核兵器の製造に使えると説明している。

2014年「エネルギー基本計画」では「増殖」という文字が消えてしまっているのは何を意味するのか。政府は「高速増殖炉」の夢を捨てたということか。だとすれば、再処理の意義をどう位置づけるのか。もし新しい夢にかけるというのなら、まず増殖の夢の崩壊の経緯と責任を国民の前に明らかにすることから始めなければならない。そして、新たな夢の具体的内容を示して、議論すべきである。どれだけの資金とどれだけの年月のかかる話なのか。米国科学アカデミー(NAS)は、すでに1996年に分厚い報告書(約570ページ)を出し、新しい夢も見果てぬ夢に過ぎないことを示している。

なし崩し的に高速増殖炉を高速炉と呼び変えるだけで、元々「早期のウラン枯渇」という事実誤認から出発した再処理・高速(増殖)炉計画の各構成部分を維持しようという政策決定のありよう自体が問い直されなければならない。

夢は変わったのか

増やすべきか、減らすべきか、それが問題だ

2014年4月11日に閣議決定された「エネルギー基本計画」(pdf)には増殖という文字はない。「高速炉や、加速器を用いた核種変換など、放射性廃棄物中に長期に残留する放射線量を少なくし、放射性廃棄物の処理・処分の安全性を高める技術等の開発」が語られるだけである。そして、「我が国は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本的方針としている」という。高速増殖炉のプルトニウム増殖の役目を担う「ブランケット」という部分を外し、プルトニウムその他の超ウラン元素を燃やす高速炉として活用するという話である(もんじゅ延命 「増」か「減」かそれが問題だ──エネルギー基本計画の小細工)。

1956年以来ほぼ5年毎に発表されてきた「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」は、1994年まで高速増殖炉について「わが国の国情に最も適合」「自立体制を取った場合不可欠」「将来の原子力発電の主力」「将来、原子力発電の主流」「将来の発電用原子炉の本命」「将来の原子力発電の主流」などと表現してきた。そして、2000年には「将来のエネルギーの有力な選択肢」、2005年には「将来における核燃料政策の有力な選択肢」(原子力政策大綱)と、表現は後退したが、「有力な選択肢」は残っていた。

「もんじゅ」建設の目的は「高速増殖炉を我が国において1990年代に実用化する」(設置許可申請書添付書類)のに役立てるためだった。「増殖」が消えてしまって良いのか。

もんじゅ研究計画のトリック

エネルギー基本計画は言う。「もんじゅについては、廃棄物の減容・有害度の低減や核不拡散関連技術等の向上のための国際的な研究拠点と位置付け、これまでの取組の反省や検証を踏まえ、あらゆる面において徹底的な改革を行い、もんじゅ研究計画に示された研究の成果を取りまとめることを目指し、そのため実施体制の再整備や新規制基準への対応など克服しなければならない課題について、国の責任の下、十分な対応を進める。」

2013年9月にまとめられた「もんじゅ研究計画」に言及しているところがカギである。この研究計画では、「高速増殖炉プラントの技術成立性の確認を含む高速増殖炉技術開発の成果の取りまとめ」「原子力発電システムとしての高速増殖炉/高速炉の安全技術体系の構築を目指した研究開発」などが実施されることになっている。(総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会第7回会合 2013年10月16日配布資料「もんじゅ研究計画について」)この研究計画に言及することによって増殖が生き残ったのである。

六ヶ所再処理工場を抱える青森県の地元紙「東奥日報」は、エネルギー基本計画の政府案が2014年2月25日にまとまったことを報じた記事で、「もんじゅ研究計画」が入ったことの意味を次のように解説している。「もんじゅ」の位置づけが揺れたのは「当面は高レベル放射性廃棄物の量を減らす「減容化」の研究にまず活用すべき−との主張が与党内にあったことが要因。結果的に増殖炉の研究計画は継続となったが、減容化への看板掛け替えとなっていれば、本県が中核施設を抱えるサイクル政策は大きく後退していた。現行のもんじゅの技術研究計画は、増殖技術と減容化技術の確立を併記している……。今回は現行のもんじゅの研究計画が維持され、核燃料サイクル政策へ大きな影響を与えることにはならなかった……。」「増殖」が完全に消えてしまえば、いくら何でも再処理政策継続の正当化は難しいとの判断である。青森県の地元紙は「研究計画」が入って「増殖」が残ったから再処理政策が維持されたと見、一般国民は「増殖」はなくなり、ゴミの減容が進められるらしいとの印象を持つ。これは意図的なごまかしと取られてもしょうがあるまい。

再処理と核拡散・核テロ

世界の声と日本

再処理に反対する世界の反核運動の声は大きい。例えばノーベル平和賞受賞団体「科学と国際問題に関するパグウォッシュ会議」の評議会は、昨年11月に長崎で開かれた年次大会の後、次のように宣言している。「プルトニウムを分離する再処理は、それがエネルギー目的であれ兵器目的であれ、すべての核兵器国を含め、すべての国で止めるべきである・・・・・・国際安全保障に与える影響に鑑み、各国は、核燃料サイクルに関する主権に対する制限について相互に合意しなければならない。」(原文:英文pdf

また、「核兵器のない世界」という「夢」を語るオバマ政権は、核拡散・核テロ防止のために再処理を放棄するようにとのメッセージを日本に送り続けている。(オバマ大統領広島訪問と日本の核燃料・核兵器政策再考

だが、日本では世界の状況にまったくお構いなしに「もんじゅ」の延命と再処理政策の継続・強化の方法が議論されている。遠藤哲也元原子力委員会委員長代理(在ウィーン国際機関政府代表部初代大使)は、2012年2月28日の福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)記者発表(ustream)の際に、次のように述べている。「日本の原子力の平和利用、つまり安全あるいは核不拡散あるいは核テロ対策つまり核セキュリティ、そういった面に対する態度というのはどうもですね、ガラパゴス化しているのではないかということを非常に感じたわけでございます。つまり人の言うことをあまり聞かない。つまり自分がやっていることは一番いいんだとこういうことですね。」遠藤元大使は1988年日米原子力協力協定の交渉の日本側代表を務めた経歴を持っており、再処理推進の立場を変えていないのだが、この発言は誠に含蓄に富むものといえよう。

日本の再処理関係者はしばしば、原子力発電所の使用済み燃料を再処理して得られる原子炉級のプルトニウムでは核兵器はできないと主張する。原子炉級ではプルトニウム239の他、「核兵器製造に都合の悪い」プルトニウム240、241、242が多く含まれているからという。文部科学省の原子力教育情報提供サイト「あとみん」の解説書『プルトニウムって何だろう−科学的側面−』も「発電所ではこのプルトニウムを生み出しますが、核兵器用と原子炉で生まれたプルトニウムには同位体の組成に違いがあります。原子力発電所で生まれたプルトニウムは原子爆弾に利用されることはありません」と述べていた(予算の関係でこのサイトは姿を消しているが、上のリンクで確認できる)。それが事実なら、六ヶ所再処理工場でIAEAによる保障措置が実施されていることを文部科学省はどう説明するのか。

1976年11月に米国の核兵器研究所「ロスアラモス国立研究所」の応用理論物理部門のリーダーを務めたロバート・セルデンが数カ国の原子力関係者及び国際原子力機関(IAEA)の代表等を対象に開いた説明会で、原子炉級プルトニウムで核兵器ができることを説明している。この説明会には「原子炉級プルトニウムでは核兵器はできない」との神話の発信源の役割を果たした故今井隆吉元軍縮会議日本代表部大使も参加していた。昨年11月に東京で開かれたシンポジウム「原発と核−4人の米識者と考える」で、同研究所のブルース・グッドウィン国家安全保障・政策研究担当統合副所長がセルデンの資料の改訂版を使って解説した(冒頭で触れたグッドウィン博士である)。

第一世代の核兵器に使われたものと同程度の設計及び技術を使った潜在的核拡散国家又は国家レベル以下の集団は、1キロトン又は数キロトンの威力を確実かつ信頼性のある形で生みだす(そして恐らくはそれよりも相当高い威力を生み出す)核兵器を原子炉級プルトニウムで作ることができる……原子炉級プルトニウムを使っても、出力は1キロトンより大きくなる。この場合の破壊半径は、ヒロシマの爆発の破壊半径の3分の1以上となる。

セルデンらは軽水炉の遅い中性子ではほとんど核分裂しない「プルトニウム240は、高速中性子に関しては、良質の核分裂性物質である。核爆発の原動力は高速中性子である」ことを強調し、原子力関係者の一部の間ではこの点が誤解されていると説明する。

高速増殖炉の使用済み燃料から取り出そうとしているプルトニウムはプルトニウム239の含有度の高い超兵器級になる。超兵器級プルトニウムが大量に出回ることが元々の再処理・高速増殖炉政策の目標であるはずなのに、日本の再処理計画で取り出すプルトニウムは原子炉級だから問題がないと再処理関係者が主張するのは不思議である。高速増殖炉計画はずっと以前から達成不可能と考えられていたのだろうか。

長崎・インド・東海村・六ヶ所──9・11同時多発テロ

1974年にインドが「平和利用」の名の下に使用済み燃料から取り出したプルトニウムを使って核実験を行った。米国はカナダとともにインドに協力していた。この核実験で夢から覚めた米国は、世界の再処理政策を変えさせようと試みた。この時まさに実際の使用済み燃料を使ったホット運転を開始しようとしていたのが東海村再処理工場だった。プルトニウムが利用できなければ日本経済、ひいては世界経済が崩壊すると主張する日本の激しい抵抗にあったカーター政権は矛を収めた。プルトニウム利用はこの後どれほど日本経済を支えてきたというのだろうか。(六ヶ所再処理工場の製品で核兵器ができることを示す米国文書──1977年日米再処理交渉関係カーター図書館文書類

2001年の9・11同時多発テロ攻撃の後、あれが核兵器を使ったものであったならと驚愕したエルバラダイ国際原子力機関(IAEA)事務局長らが2005年の核不拡散(NPT)再検討会議に向けて再処理及びウラン濃縮のモラトリアムを提唱したとき、核兵器を保有していない国として初めての大規模再処理工場のホット試験を今まさに開始しようとしていたのが日本だった。六ヶ所再処理工場は2006年3月31日、ホット試験を開始した。再処理という核兵器に直結する技術の拡散に歯止めを掛ける可能性が日本のために2度も絶たれたのである。

同じく同時多発テロの後米国で巻き起こった核廃絶の議論を背景として2009年にプラハで核兵器のない世界の夢を語ったオバマ大統領は、核物質の量の最小化と保安体制(セキュリティ)強化を最優先課題の一つと捉え、核セキュリティ(核物質保安)に関する国際サミットを1年以内に開催」すると約束した。2010年のワシントンDCでの第1回に続く第2回核セキュリティ・サミットのため2012年3月に韓国を訪れた際、オバマ大統領は韓国外国語大学校での演説で次のように述べている。「分離済みプルトニウムのような我々がテロリストの手に渡らぬようにしようと試みているまさにその物質を大量に増やし続けることは、絶対にしてはならない。」「核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)」によると、世界の民生用の分離済みプルトニウムは約270トンに達する。核兵器を持っていない国の保有量50トン余りのうち、ほとんどが日本のものである。そして、今まさに大規模の再処理工場の運転を開始しようとしているのも日本だけである。(オバマ大統領広島訪問と日本の核燃料・核兵器政策再考

2015年10月に日米科学技術協力協定関連会議出席のため来日したジョン・ホルドレン米大統領補佐官(科学技術担当)は、六ヶ所再処理工場に関し、朝日新聞のインタビューで「日本にはすでに相当量のプルトニウムの備蓄があり、これ以上増えないことが望ましい」と述べた。そして、再処理によって取り出された「分離済みプルトニウムは核兵器に使うことができ、我々の基本的考え方は世界における再処理は多いよりは少ない方が良いというものだ」との考えを強調した。(米大統領補佐官、日本の再処理に懸念表明

再処理を批判し、透明な話し合いを求める米国務次官捕

最後の核セキュリティ・サミットのワシントンDCでの開催を控えた今年3月17日、上院外交委員会公聴会で証言したトーマス・カントリーマン米国務次官補(国際安全保障・不拡散担当)は再処理には経済性も合理性もなく、核拡散防止の観点から「すべての国が再処理の事業から撤退してくれれば、非常に嬉しい」と述べた。その後のオンライン記者会見で日本の核燃料政策を「承認するとか反対するとかというのは米国の役割ではない」と述べたことの真意ついて、4月21日、ワシントンDCの「戦略・国際問題センター(CSIS)で開かれたパネル・ディスカッションで問われたカントリーマン国務次官補は、次のように説明している。

私の発言の一つは、核不拡散の観点から言って絶対的に真実で、それは、プルトニウムの分離に携わる国が一つもなければその方がいい、というものだ。私のもう一つの発言は、これも同じように真実なのだが、核燃料サイクルについての日本の選択は日本が決めるものであり、この選択についてこれを承認するとか反対するとかいう立場には米国はない、というものだ。これらの二つのことは、私にとって完全に矛盾のないものだ……そして、私がさらに言ったことは日本だけでなく、米国の他のパートナーにも当てはまる。すなわち、プルトニウム分離に携わろうとする国は、米国とだけでなく、その国の人々とも、そのような選択に関連する経済性、核不拡散、国の安全保障などの問題について完全かつ透明な話し合いをしなければならない、ということだ。

日本政府は、国民と再処理・高速(増殖)炉・プルサーマル計画の「経済性、核不拡散、国の安全保障などの問題について完全かつ透明な話し合い」をしてきただろうか。

もう一人のパネリスト、ロバート・ガルーチ元国務次官補・北朝鮮核問題担当大使は、カントリーマン国務次官捕の発言を受けて次のように解説している。主権国としての日本のエネルギーについての決定が「米国や北東アジアの安全保障に影響を与えるのだ。これは、国際安全保障の問題だ。だから、政府同士がどのように折り合うかという問題ということだと思う。」

米韓原子力協力協定の交渉過程で韓国が日本と同じ再処理の権利を与えよと主張し、また、中国が民生用再処理の導入を検討していることについて、カントリーマン次官補は公聴会で次のように述べていた。「東アジアの主要国の間には競争があって、それは私の考えでは非合理的レベルにまで至っている。連中が[再処理]技術を持っているんだから、我々も持たなきゃいけないという感じだ──この技術が経済的にまったく意味をなさなくて、世界における地位の向上にも役立たないなんてことはお構いなく。」

ガルーチ元大使は、以前から米国政府は「増え続けるプルトニウムの津波」の持つ脅威に賢明に対処していないと批判している。韓国が再処理を始めれば、再処理とウラン濃縮の禁止を謳った1992年の南北朝鮮の「朝鮮半島の非核化に関する共同宣言」に戻るようにと北朝鮮に迫る米国の対北朝鮮政策は破綻する。さらに日本の例に倣う国が出てくれば、世界の核拡散・核テロの脅威は高まる。日本の再処理(高速炉)政策が東アジアの安全保障に、ひいては米国の安全保障に影響を与えているとはこういうことである。(カントリーマン米国務次官補、再処理批判の考えを再度詳述

懸念なんて聞いたことがないと日本政府

菅義偉官房長官は問題の公聴会直後の3月18日の会見で、米国政府から日本政府に懸念を伝えられたことは「全くない」と述べている。日本が核武装をするつもりではないかという懸念なら官房長官の答えは正しいかもれない。しかし、日本の再処理計画が世界の核拡散・核テロの脅威を高めるという懸念を米国政府は日本政府に何度も伝えている。これは、上述のホルドレン米大統領補佐官の発言からも分かる。またカントリーマン国務次官捕が公聴会での発言と同じ趣旨の懸念を2013年4月に鈴木達治朗原子力委員会委員長代理(当時)に伝えていた。(懸念を伝えられたことはないとする日本政府

岸田文雄外務大臣は3月24日、衆議院本会議でカントリーマン国務次官補の「発言については、一般論として民生用再処理に関する米国政府の従来の見解を述べたものと認識」していると述べている。公聴会での発言は「一般論」ではない。「我々は、本質的な経済性という問題があると考えており、米国とアジアのパートナー諸国が、経済面および核不拡散面の重要な問題について共通の理解を持つことが重要だ──例えば日本との1−2−3協定[原子力協力協定]の更新について決定をする前に」と日本について語っているのである。(外務官僚の用意した答弁を読み上げた岸田外務大臣 どうする日本の反核運動?

懸念は確かに伝えてあると米ホワイトハウス国家安全保障会議上級部長

5月21日の共同通信の記事が、米側は日本に懸念を伝えているとしているジョン・ウルフソル米ホワイトハウス国家安全保障会議(NAS)上級部長の発言について報じた。上級部長は「日本の使用済み核燃料再処理を容認した日米原子力協定の効力延長について「大きな議論を呼ぶ問題になる可能性がある」と指摘したという。ジャパンタイムズ掲載の英文記事は次のように報じている。

「米国と日本は、『明確な使用・処分の道もない』大量のプルトニウムを保有するとの決定が再処理とウラン濃縮を制限しようとする世界的な取り組みにとって持つ意味合いについて議論してきたと上級部長は述べた。もし、日本がプルトニウムのリサイクルを続けるなら『他の国がまったく同じことを考えるのをどうして止められるか』とウルフソルは述べた」(核情報訳)。

プルトニウム最小化のための努力を他国に呼びかけた日本

4月1日、核セキュリティ・サミットで出された日米共同声明は、東海村にある「高速炉臨界実験装置(FCA)から全ての高濃縮ウラン(HEU)燃料及び分離プルトニウム燃料の撤去を完了したことを表明し」この取組は「世界規模でHEU[高濃縮ウラン]及び分離プルトニウムの保有量を最小化する我々の互いの目標を推し進めるものであり、権限のない者や犯罪者、テロリストらによるそのような物質の入手を防ぐことに貢献する」と述べている。2014年にオランダのハーグで開かれた核セキュリティ・サミットでFCAにある331キログラムのプルトニウムを米国に送る計画を発表した際、日米首脳はその共同声明で「高濃縮ウラン(HEU)とプルトニウムの最小化のために何ができるかを各国に検討するよう奨励」している。この2014年のサミットの時点で日本が発表していたプルトニウム保有量は44.2トン(2012年末時点)だった。2015年7月発表の保有量(2014年末)は47.8トンに増えている。この時の原子力委員会事務局の説明によると後1トンが英国で日本に割り当てられる予定だという。つまり、約48.8トンとなり、4.6トンの増加である。そして、日本政府は六ヶ所再処理工場の運転を開始しようとしている。最小化の努力を呼びかけられた国々は驚いているに違いない。以下、このプルトニウム最小化の呼びかけを念頭に、日本政府が国民との「完全かつ透明な話し合い」で明らかにすべきことを考えて見よう。

国民との話し合いの基礎1ー経済性と資源節約

経済性

カントリーマン国務次官捕は再処理政策には経済性がないと強調する。一方、日本政府はプルサーマルをすれば資源節約になると言う。だが、回収されたウランも再利用したとしても最大22〜25%、プルトニウムだけのリサイクルなら12%の節約にしかならないとゴードン・マッケロン(英国政府「放射性廃棄物管理委員会(CoRWM)」の創設委員長[2003〜2007年]は指摘する。(『原子力計画におけるプルトニウムの分離──世界の民生用再処理の現状、問題点と今後の展望』

世界でも再処理回収ウランはほとんど再利用されていない。余りにも経済性がないからである。2011年10月11日、原子力委員会の会合(pdf)で電気事業連合会は「現在、国内での回収ウランの再利用の方策については具体的にどう行っていくか決まっていないというのが実情です」と述べている。ほとんどの国は再処理をしないから12%程度の「節約」を日本がしただけでは世界のウラン需給に影響は与えない。また、この程度の節約はウラン濃縮の方法を少し変えただけで実現できる。

1979年4月25日、科学技術庁原子力局長は国会で、再処理をしない場合より再処理をしてウランとプルトニウムをリサイクルして再利用する方が「一割程度安くなる、つまり経済性が高い」と述べている。2011年11月の原子力委員会の資料(pdf)は、六ヶ所再処理工場に関して再処理費用も合わせたMOX燃料コストは、低濃縮ウラン燃料製造コストの10倍程度になることを示している。予測は大ハズレである。一般社会では10倍もの額を払って不要なことをすることを節約とは言わない。

プルトニウムは資源かゴミか

英国は、2011年12月、その報告書「英国のプルトニウムの管理」(pdf)(p.5及びp.28)において、同国にある外国のプルトニウム(大半が日本の約20トン)を自国のものと一緒に処分してもいいと提案している。英国は、再処理政策の失敗のためにすでに100トン以上の民生用プルトニウムをため込んでしまっていて、再処理を終了する2018年頃までには120トンを抱えることになる。どうせ大量に処分しなければいけないから20トンぐらい引き受けてもいいということである。ただし、日本が十分なお金を払えばという条件付きである。英国はまだ埋設処分するか燃やすか、その処分方法を決めていないのでいくらになるかは分からないが、代金と引き替えにプルトニウム処分サービスの提供を日本に申し出ているのである。プルトニウムはゴミなのである。普通のゴミと同じく燃やす過程で発生する熱を利用することもあるというだけのことである。

米国も、核兵器用に余剰と宣言した約50トンの余剰プルトニウムの処分に手を焼いている。この内、ロシアとの間でそれぞれ処分することに合意した34トンをウランと混ぜてMOX燃料にするための工場がサウス・カロライナ州サバンナ・リバー核施設で建設中である。軽水炉で使用済み燃料に変えてからそれを地層処分するというアイデアである。だが、この計画は工事の遅れと建設費高騰のため頓挫しており、オバマ政権は別の処分方法を検討する意向である。2015年9月、2016年2月と2回にわたって、14人の元エネルギー・国家安全保障関係米政府高官・専門家らが、米エネルギー省長官に対し、軍事用余剰プルトニウムを発電用原子炉のMOX燃料にして処分する計画を中止して別の処分方法を導入するよう要請する書簡を送っている(2回目は一人が亡くなり13人に)。書簡は、六ヶ所再処理工場の運転開始計画や中国・韓国の再処理計画を止めるよう働きかける上で説得力を持てるよう米国のMOX計画も止めるべきだと論じている。署名者の中には、対日政策に大きな影響力を持ち、駐日大使候補にもなったジョセフ・ナイ元国防次官補も入っている。

米英ともプルトニウムをゴミとして処分する一つの方法として、MOX燃料を作って軽水炉に入れ、使用済み燃料とすることを検討してきたのだ(別の処分方法に移行する可能性が高い)。わざわざ新しく再処理工場の運転を開始して、元々使用済み燃料の中にあるプルトニウムを取り出して、それを使用済みMOX燃料にしようという日本の計画はブラックジョークの世界である。

国民との話し合いの基礎2──減容・有害度低減の夢

夢の説明

政府は、下のような図を使って、減容・有害度低減の夢を説明する。

核燃料サイクルの意義@廃棄物の減容・有害度の低減

核燃料サイクルの意義@廃棄物の減容・有害度の低減

出典:資源エネルギー庁原子力政策について
核燃料サイクルの意義(PDF形式:437KB)

説明はこうである。

使用済み燃料を直接処分するとそこに含まれる放射能が燃料の製造に使われた天然ウランのレベルにまで下がるのに10万年かかるが、六ヶ所でやろうとしている再処理ならこの期間を8000年に、高速炉/高速増殖炉サイクルを使えば300年にできる。つまり、それぞれ、12分の1(10万年÷8000)、330分の1(10万÷300)の有害度の低減が達成できる。

なぜなら、直接処分だと「ウラン、プルトニウム、核分裂生成物等を全て含んだまま廃棄物となる」が、再処理をすれば、地層処分場に送る「ガラス固化体からは、ウラン、プルトニウムが除かれるため、放射能による有害度が低減される」からである。「また、高速炉/高速増殖炉では、半減期の極めて長い核種を燃料として使用できるため、更に有害度の低減が可能となる。」そして、高レベル廃棄物の容積は、それぞれ、4分1、7分の1に低減(減容)できるという。

原子力研究開発機構の使う下の図は、夢をグラフで表現している。

使用済燃料の潜在的有害度の減衰

使用済燃料の潜在的有害度の減衰

出典:第9回 原子力機構報告会「変革の時〜新たなる出発に向けて〜」 (2014年11月27日)
報告資料 高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減への挑戦 PDF:7.4MB 戦略企画室次長 大井川宏之

講演テキストがグラフの解釈の仕方を次のように説明している。1tの使用済み燃料の「潜在的有害度」を示すこのグラフは、この燃料をつくるのに9tの天然ウランが必要だったとして、その潜在的な有害度(紫の線)まで廃棄物の有害度が下がるまでの期間を比べたものである。

ここでいう分離(核)変換というのは、パーティショニング・アンド・トランスミューテイション(P&T)の訳である。パーティショニングは、仕分けという感じの言葉で、核廃棄物の中からいくつかの元素をグループ分けして取り出すことを意味し、「(群)分離」と訳される。通常の再処理だとプルトニウムとウランだけを取り出す。マイナーアクチニド(MA)と核分裂生成物は、高レベル廃棄物としてガラス固化され、地下深くに処分される計画である。この廃棄物に行く流れの中から、いくつかの元素を仕分けして取りだそうというのが「群分離」である。上の資料は、MA、白金属(ルテニウム、ロジウム、パラジウムなど)、発熱性の元素(ストレンチウム及びセシウム)、その他の元素の4つの「群」に仕分けするシステムを紹介している。

核変換は、原子核を別の原子核に変えることを意味する。マイナーアクチノイドは、高速の中性子を使って核分裂を起こすことにより、「核変換することができるということで、高速の中性子を供給してやることが必要」になる。「高速の中性子の供給の方法として、現在、高速炉を使う方法と加速器を使う方法の2つが考えられている。」「高速炉を使う方法は、高速炉サイクル利用型と呼ばれ……加速器を使う方法は、集中的に加速器で核変換」するので、「核変換専用サイクル型」と呼ばれる(6ページ)。後者(「加速器駆動システム(ADS)」)については、「2030年ごろまでには次の段階に進めるかどうかを判断できる、そういうデータとか経験を蓄積していきたい」(21ページ)という。

MAは中性子を当てて核分裂させ寿命の短いものにし(短寿命化)、「ストレンチウムとかセシウムは、熱に強い焼成体の形にして冷却または利用」し、白金属は利用する。「核変換をすることで長期リスクの低減を行う、それから発熱性の多い核種を除去することで処分場のコンパクト化を狙う、それから一部の資源化も狙う」というのが夢である。

矢印の意味は、

  1. 直接処分と比べた場合、廃棄物の有害度が天然ウランレベルまで下がる時間を六ヶ所型の再処理なら10万年から8000年になる
  2. プルトニウムに加えて、「マイナーアクチノイドを回収して分離変換技術で核変換」すれば「数百年、約300年ぐらいまで短縮することができる

というものである。(国際原子力機関(IAEA)の資料(Technical Reports Series No.435, pdf)(5ページ)は、地下に行く高レベル廃棄物を核分裂生成物だけにした場合に約270年に短縮できることを示している。約300年というのは100%に近いTRU回収率を前提にした数字であることが分かる。)

そして、高速炉は、時代の要請によって、プルトニウムの増殖用にもつかえるし、「軽水炉から生じるプルトニウムとかマイナーアクチノイドを核変換して何とか処分の負担を減らしてやりたいというとき」にも使える。プルトニウムを含む超ウラン元素をまとめて燃やせるというわけである。後者だと「TRU(TRans-Uranium)管理モード」とも呼ぶべきものになるという(9ページ)。

国民との話し合いの基礎3──減容・有害度低減の夢の現実

現実の直視

だがここで注意しなければならない現実がある。一つは、再処理で取り出したTRU(プルトニウム及びMA)は、そのまま消えてしまわないという点である。有害で危険な核兵器利用可能物質が地上で大量に出回ることになる。また、軽水炉あるいは高速炉で燃やした後、その使用済み燃料をどう処理・処分するのかを考えなければならない。8000年の目標は、MOX使用済み燃料を再処理する特殊な施設とそこで取り出されたプルトニウムを燃焼するための多数の高速炉の建設を前提としている。また、300年の目標は、TRUを取り出せる特殊な再処理施設と、TRUを燃やす多数の高速炉の建設を前提としている。そして、どちらも、高速炉の使用済み燃料の再処理と、プルトニウムあるいはTRU燃焼のサイクルを長期にわたって続けることを必要とする。

もう一つ重要なのは、これらの技術は未開発で、たとえ開発可能としてもいくらかかるか分からない代物だという点である。原子力研究開発機構が自民党への説明で使った資料「放射性廃棄物処分に関する研究開発について」(2014/2/12, pdf)も、高速炉サイクルについては「マイナーアクチノイド(MA)リサイクルの技術基盤を整備中、工学的な実証データの充足が課題」、「加速器駆動システム(ADS)を利用した核変換専用サイクル」については「基礎的な原理実証の実施段階、工学的な実証データの充足が課題」と述べている。日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分に関する検討委員会」(2012年1月24日)でADSの「実用化への大まかな経費」について聞かれた大井川宏之原子力基礎工学研究部門研究推進室長(当時)は「数兆円」と答えている。核変換についての議論 期待と過度な期待に対する戒め)再処理の利点として謳われていることが、実は、単なる夢に過ぎないことを明確にしておかなければならない。夢の実態の検討が必要である。

現在の再処理とMOX利用は減容と有害度低減に役立つか?

まず現在の再処理について見てみよう。これに関する議論が、核セキュリティ・サミットの3週間ほど後の4月20日に衆議院経済産業委員会であった。再処理用新認可法人設立法案を巡る野党質疑の際のことである。経産省資源エネルギー庁の多田明弘電力・ガス事業部長は、使用済み燃料から再処理で取り出したプルトニウムを通常の原子炉で燃やした際に出てくる使用済みMOX燃料の崩壊熱について「数年程度で十分に低くなる」から特別な扱いが必要になるということはない」と述べた。これはプール貯蔵を念頭に置いての発言かもしれない。しかし、現時点では使用済みMOX燃料は一般に地層処分場に送られると見られており、使用済みウラン燃料と比べた発熱量の高さは大きな問題である。必要な処分場の容積を決めるのは、ゴミの体積ではなく、発熱量だからだ。取り出し後50年から300年にかけての使用済みMOX燃料の発熱量は、使用済みウラン燃料の発熱量の約3倍から5倍強という割合になる(下のグラフを参照)。処分場に入れるガラス固化体の体積が小さくても、そこに発熱量の大きな使用済みMOX燃料を入れることになれば、元の木阿弥。処分場に送られるMOX工場などの廃棄物を無視しても「減容化」は意味をなさなくなる。

  • 核種崩壊生成計算コード ORIGEN2を使った姜政敏(カン・ジョンミン)博士(「天然資源防護協議会(NRDC)」)による計算(2016年4月)

出典:使用済みMOX燃料の発生熱は問題ないと経産省──処分場の容量に大きな影響 核情報

多田部長は使用済みMOX燃料の行く先について次のように述べている。

私どもは、使用済みMOX燃料をもう一度再処理したいと思っております。……使用済みMOX燃料をどう再処理するかという点につきましては、これは六ケ所の再処理工場では対象としていないということは申し上げられます。それから、その主体、方法についてはこれからの検討事項であるというふうにお答え申し上げたいと思います。……使用済みMOX燃料の再処理工場の稼働時期について、今現時点で定かに申し上げられることはありません。

新型の再処理工場を造るつもりだというのだ。

新型の再処理工場を造ったとしても、そこで使用済みMOX燃料から取り出されたプルトニウムは高速炉でしか効率的に燃やせない。軽水炉の中の遅い中性子では核分裂しない同位体の割合が増えているからである。原子力規制委員会の田中俊一委員長も、2014年11月19日の記者会見(pdf)

MOXの使用済燃料を再処理するためには新しい再処理工場を造らなくてはいけない……高速炉を動かさない限りは、処理したMOX燃料は使えないという理解の方がいい

と述べている。(使用済みMOX燃料の発生熱は問題ないと経産省──処分場の容量に大きな影響

要するに、たとえ技術的に成功するとしても費用がどのくらいになるか、まったく分からない将来の「計画」(MOX使用済み燃料再処理工場及び高速炉)の実現を前提にしないと現在の再処理計画の意義の説明ができないということだ。将来の「計画」実現まで使用済みMOX燃料を保管しておくという。この計画が破綻すれば減容は実現できない。減容がそんなに重要と考えるなら、将来の計画が進んで「元の木阿弥」状態にはならないことが確実になるまで、膨大なコストを掛けて六ヶ所方式の再処理をするべきではない。使用済み燃料は、「計画」実現まで、他の国々がやっているように空気冷却の乾式貯蔵で保管しておけばいい。

だが、多田部長は、3月9日の衆議院経済産業委員会で、減容化・有害度低減は使用済みMOX燃料の再処理が前提ではないかと問われ、「この効果といいますものは、使用済みMOX燃料の再処理とは独立したもの」で、「使用済みMOX燃料の再処理ということとは切り離して、独立して考えられる」と応じている。そして、再処理すると高レベル廃棄物の有害度が天然ウランのレベルまで低減するのにかかる期間がの「十万年から八千年」になるというのは、「軽水炉で使用済みウラン燃料を一回使ったことに関して出てくる数字」であり、「使用済みMOX燃料、その後のことについてどう考えるのかということについて考えますと、それは、もう一度使っていけば、またそのときに同じように効果が出てくるということになろうかと思います」と言う。

質問の趣旨は、使用済みMOX燃料の再処理ができず、これを地下処分場に入れるなら、それが処分場の必要容量やそこに置かれる物質の有害度に影響を与え、「元の木阿弥」にならないかというものである。将来の計画と切り離しては語れないのではないかということである。それに対する答えが、今は切り離して考えれば良く、将来になって再処理すれば、また減容・有害度低減効果が出るという不思議な禅問答である。

MOX使用済み燃料は低濃縮ウラン燃料よりずっと毒性が低い?

「使用済みMOX燃料が天然ウラン並みになるまでの期間というのはどれぐらいかかるんでしょうか」と4月7日の衆議院原子力問題調査特別委員会と問われた多田部長は、「現時点では定量的なデータはございません」と応じたあと、「直接処分の十万年、これと比較した場合に、それと同等ですとかいうことではなくて、それよりは相当程度短い期間になるだろうと思います」と述べている。

これは不思議なやり取りである。未使用のMOX燃料には、4〜9%の割合でプルトニウムが入っている。軽水炉内でこれを燃やすとその過程でまたプルトニウムが発生するため、差し引きして、元の量の65%ほどのプルトニウムが使用済みMOX燃料に含まれている。原子炉での燃やし方にもよるがプルトニウム含有率は、使用済み低濃縮ウラン燃料の1%に対して、4%ほどになる(燃焼度33MW・日/kgの使用済みMOX燃料の場合で、燃焼度が高くなればこの割合はさらに高くなる)(Plutonium Fuel: An Assessment : Report by an Expert Group (Nuclear Energy Agency, pdf)Table 9, Table 12A, Table 12B)。しかも、半減期約38万年のプルトニウム242の割合が使用済みウラン燃料の場合より高くなっている(プルトニウム239は約2万4000年。プルトニウムの同位体の半減期は次を参照:Reactor Fuel Isotopics and Code Validation for Nuclear Applications(ORNL/TM-2014/464)(pdf) p.11 Fig. 4. )。

原子力委員会の資料にある下の図は、原子炉から取り出し後1万年までの使用済みウラン燃料と使用済みMOX燃料の発熱量を示している(対数目盛が使われていることに注意)。発熱量を毒性の大体の指標として見れば、MOX燃料の方がずっと高いことが分かる。

使用済燃料の潜在的有害度の減衰

使用済燃料の潜在的有害度の減衰

出典:原子力発電・核燃料サイクル技術等検討小委員会核燃料サイクル政策の選択肢に関する検討結果について【参考資料】(PDF形式: 3.79MB)(42/154)

高速炉の減容・有害度低減効果は?

上述のように、政府は、使用済み燃料を直接処分するとそこに含まれる放射能が燃料の製造に使われた天然ウランのレベルにまで下がるのに10万年かかるが高速炉/高速増殖炉サイクルを使えば、300年ですみ、高レベル廃棄物の容積は7分の1に低減(減容)できるという。TRUを燃やして、寿命の短い物質に変えるというのである。だが、このシステムは簡単なものではない。

英国の「国家核研究所(NNL)」の報告書「マイナー・アクチニド核変換」(pdf)は、システムの難しさを次のように解説している。分離・核変換システムでは何度も燃焼と再処理を繰り返すことが必要となることを考えると、それぞれの再処理サイクルで高レベル廃棄物として処分されるTRUの割合を0.1%未満にしなければならない。TRUの「高レベル廃棄物ガラス固化体への残存量0.1%未満を達成するのは、技術的に難題だとみなされる。」

高レベル廃棄物の放射能による潜在的有害度

高レベル廃棄物の放射能による潜在的有害度

原子力研究開発機構による右の図は、現在の再処理技術だとプルトニウムの回収率が99.5%であるのに対し、高速(増殖)炉ではプルトニウムの回収率が99.9%、MAが99.9%と想定されていることを示している。TRU(プルトニウム+MA)回収率99.9%、つまり、ガラス固化体内のTRU残存量0.1%未満である。

出典:原子力科学技術委員会 もんじゅ研究計画作業部会第3回(2012年11月21日)配付資料
資料1−1 廃棄物の減容・有害度の低減のために「もんじゅ」等を活用して行うべき研究開発について(1)(PDF:963KB) 7ページ

また、学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会(第23期・第2回)」(2014年12月18日)では委員が次のようにコメントしている。「核変換を行えば超ウラン元素の半減期が短縮し、対処が必要な期間が数百年となる可能性がある。そうすれば人間の管理で対処することも原理的には可能だ。しかし、完全に変換しきれるかというと、現実にはそうではない。変換を重ねても最後に残る物質はある。もちろん、量が減ることは間違いないのでリスクは大きく減少できるだろうが。また、核変換の技術はまだ理論的検討や実験の段階で、実証的な技術開発の段階にはない。そうした技術のメドが経つのを待って、というのは現状では期待できないと思う。」(核変換についての議論  期待と過度な期待に対する戒め

この問題をもっと具体的に検証した例としては、冒頭で触れた米国科学アカデミー(NAS)の報告書『核廃棄物:群分離と核変換の技術』(1996年)(原文)が、ネバダ州のヤッカ・マウンテン処分場に送られることになっている6万2000トンの軽水炉使用済み燃料の再処理・核変換について分析している(六ヶ所の40年間で再処理されると想定されている量のほぼ2倍の量である)。直接処分の場合に地下水の移動によって地上にもたらされる将来の被曝リスクと、さまざまな再処理・核変換シナリオで達成できるリスク低減やコストについて論じたものである。概念的な計算をしやすくするために考えられた一つのシナリオは、6万2000トンの使用済み燃料を再処理して得られる612トンの超ウラン元素(TRU)がすべての軽水炉の運転を中止した時点で「燃料」として準備できているというものである。軽水炉運転停止とともに、これを燃やすために一群の高速炉の運転が一気に開始される。最短の有害度低減のための「理想的」シナリオである。

シナリオでは、一気に運転開始される高速炉の総発電容量は30.4GWe(3040万キロワット)である。安全性の観点からウランと混ぜた燃料の増殖率は0.65と想定(=転換率・比 消費した核分裂性物資と新しく生まれる核分裂性物質の比)。TRUを燃やす過程で新たなウランからTRUが生まれるため、TRUの量は1サイクルで35%しか減らないのである。612トンのTRUをすべて第1世代の高速炉の30年間の運転で使う。これら第1世代の高速炉の使用済み燃料を再処理して取り出したTRUを総発電容量15.1GWe の第2世代の高速炉で使う。第3世代高速炉は総発電容量7.5GWe となる、という具合で、最終的には高速炉1基だけが使われることになる。このシナリオで地層処分場に送られるTRUの量を直接処分の場合の約100分の1にするのに200年ほどかかるという。費用は当時のドルで5000億ドル程度と推定されている。ゴミを高速炉1基に放り込めば立ちどころに消えてしまうという話ではないのである。最初の軽水炉の使用済み燃料のTRUを取り出す特殊な再処理施設、高速炉、高速炉使用済み燃料の再処理施設、TRU燃料工場などを巻き込んだ長期にわたる壮大な計画である。計画の実施中、大量の核兵器利用可能物質・放射性物質が地上の施設で扱われ続けることになる。このシナリオには直接処分では発生しない地上の被曝リスク、事故のリスク、核拡散のリスクなどが伴う。

報告書は、高速炉によるTRU存在量の低減という方式は、「方法論的な問題を提起する」として、その問題点を次のように要約している。

原子炉[高速炉]の寿命の期間──約30年──において、初期装荷のTRUのほとんどは核変換される。しかし、この過程で新たに発生するTRUがある。このため、それぞれの原子炉の寿命の間に、部分的なネットの低減しか起こらず、核変換されないTRUはさらに低減させるため次の世代の原子炉群に送られる。一部のグループや著者は、軽水炉使用済み燃料に元々あったTRUを再処理し燃やすために必要な時間の方を強調する。この時間は、核変換の過程で生み出されたTRUを含む「純低減」に必要な時間よりずっと短い。また、再処理から処分場に送られる廃棄物に含まれるTRUについて強調するものもいる。その場合、地上の核燃料サイクル施設における地上貯蔵の廃棄物の方は、燃料サイクル物質にはまだ核分裂させられる資源が入っているからとの理由で無視する。しかし、核変換期間の大半の部分においては存在するTRUのほとんどは地上施設内にある。この結果、周辺住民のリスクが、処分場への直接処分の場合と比べ増大する。廃棄物を燃やす追加的活動のためである。

報告書の結論は「被曝線量の減少はどれをとってみても、核変換の費用と追加的運転リスクを正当化するような大きさのものではない」というものだった。この結論で検討されているのは、TRUを燃やすための様々な施設の運転が周辺住民に与えるリスクだけである。実際には、核変換のためのシステムにはこの他に大きな核拡散リスクが加わることを忘れてはならない。

(*核変換について詳しくは次を参照:「核分裂性物質に関する国際パネル(IPFM)」『原子力計画におけるプルトニウムの分離──世界の民生用再処理の現状、問題点と今後の展望』「10章 核変換(トランスミューテイション)

付言すると、前述のとおり、プルトニウム以外の超ウラン元素は、六ヶ所再処理工場では廃棄物の流れの方に入ってガラス固化体にされ、地層処分場に向かう。新型の再処理工場と高速炉による有害度低減がそんなに重要であり、技術的可能性があると考えるのなら、未熟な方式の六ヶ所再処理工場を動かすべきではない。

プルト君はどこへ?リスク再考

有害度の低減を強調する経産省や原子力研究開発機構は、直接処分によって地層処分場に入れられるTRUが心配だという。これこれの量の有害物質が地下数百メートルの所に置かれるというのはそれだけの潜在的リスクがそこにあるということを意味するに過ぎない。その有害物質が地下深部の還元状態の水に溶け出し地上まで上がって来て初めてヒトの健康に対するリスクとなる。潜在的リスクを問題にするのであれば、それだけの大量の有害物質を地上に置くことの潜在的リスクも当然論じなければならない。

学術会議の報告書「高レベル放射性廃棄物の暫定保管に関する技術的検討」(2014年9月19日)は言う。「有害度は高レベル放射性廃棄物が持つ潜在的なハザードの大きさを示しているだけで、放射性物質が環境中に漏えいして引き起こすリスクそのものではない。リスクは健康被害を起こす被曝の確率を考慮して評価すべきもので、TRUの分離・回収や核変換の工程が加わることによってかえってリスクが高まる可能性もある。」(核変換についての議論 期待と過度な期待に対する戒め

「もんじゅ」を運転する原子力研究開発機構の前身「動力炉・核燃料開発事業団(動燃)」が1993年に作成したアニメ(ビデオ)に登場する「頼れる仲間プルト君」が「今悪者たちが僕を貯水池に投げ込んだとしてみましょう。ボクは水に溶けにくいばかりか重いためほとんど水底に沈んでしまいます。万一水と一緒に飲みこまれてしまっても胃や腸からはほとんど吸収されず身体の外に出てしまいます」と請け合っていたことを考えると経産省や機構が地下のTRUについて心配するというのは不思議である。TRUは地下数百メートルの所に置くと地上に出てくる可能性があるので危険だが、最初から地上に置いておいて貯水池に投げ込むのは安全だとでも言うのだろうか。

また、高レベル放射性廃棄物の処分の責任を負う「原子力発電環境整備機構(NUMO)」はその「高レベル放射性廃棄物の地層処分について」(pdf)において「人工・天然の多重バリアにより放射性物質の移動は極めて遅くなり、その間に放射能レベルが大きく減少するため、地表に到達した際の放射線量が一番高くなる数十万年後でも、人間に影響はありません」と述べている。この主張に問題があると経産省や機構が言いたいのであれば、NUMOと討論会を開いて議論する必要があるだろう。

そして、最後に忘れてならないのは、TRUは核兵器利用可能物質だという事実である。夢に浮かれて世界を破滅に導いてはならない。

原子力規制委員会の更田豊志委員長代理も夢から覚めろと言う。

もんじゅの利用のアイデアとして、廃棄物の減容であるというような、無毒化というか、核変換のようなことを、これも理屈としてはあり得る話ですけれども、前提として分離をするところもないし、燃料を作るところもないし、ペレット1個作るだけでも大騒ぎの技術ですよね。これをできるかのように、これは10年先、20年先に原理として高速炉で可能なものかもしれないけれども、現状、ペレットを作るようなところも、ペレット1個ですら作るようなところがないわけです。それを、もんじゅが動けばこういった廃棄物問題の解決に貢献するかのように言うのは、少しこれ、民間の感覚でいえば誇大広告と呼ぶべきものではないでしょうか。

原子力規制委員会臨時会議議事録 2015年11月2日(pdf)

結語

地球が平面だと考えられていた時代に、航海に出た船が海の果てにある滝から落ちてしまうのを防ぐための研究開発プロジェクトが始まったとしよう。大航海時代が来て、地球は実は丸かったことが立証される。ここでプロジェクトは終わりである。

日本の核燃料サイクルは解決すべき「ウラン枯渇問題」がなかったことが分かってからもいろいろ理屈を付けて続けられている。班目春樹原子力安全委員会委員長(当時)は、国会東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(2012年2月15日)で次のように述べている。たとえば米国では全電源喪失について対策が立てられていたが日本では「そこまでやらなくてもいいよという、言いわけといいますか、やらなくてもいいということの説明にばかり時間をかけてしまって、幾ら抵抗があってもやるんだという意思決定がなかなかできにくいシステムになっている。このあたりに問題の根っこがあるのではないかというふうに私自身は考えてございます」(国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 第4回委員会(2012年2月15日)会議録(pdf)動画)「全電源喪失対策」を「核セキュリティ対策」や「核燃料サイクル計画の中止決定」と言い換えてみればいい。再処理推進論者はしばしば「不退転の決意」を語る。だが、撤退すべき時には撤退する勇気がなければならない。日本軍の歴史が示す通りである。

「もんじゅ」を巡る議論は、外界から遮断されたような思考体系の中で行ってはならない。大きな世界状況に目をやらなければならない。核拡散、核軍縮、核テロなどの世界の安全保障に関わる問題である。もう一つの大状況は福島第一原子力発電所の事故である。国民は何世紀にもわたる高速(増殖炉)計画を求めているのか。日本の原子力関係者が総力を挙げて取り組むべきは事故の対処や原因究明であろう。原子力規制委員会の人的・物的資源も「もんじゅ」の運転再開のための規制作り、検査などに割かれるべきではない。


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