核情報

2015.10.25

米大統領補佐官、日本の再処理に懸念表明
──北東アジアでの安全保障への脅威を警告する米国の声

 日米科学技術協力協定関連会議出席のため来日したジョン・ホルドレン米大統領補佐官(科学技術担当)が、六ヶ所再処理工場の運転開始計画に関し、「日本にはすでに相当量のプルトニウムの備蓄があり、これ以上増えないことが望ましい」と述べました。そして、「分離済みプルトニウムは核兵器に使うことができ、我々の基本的考え方は世界における再処理は多いよりは少ない方が良いというものだ」との考えを強調しました(10月12日朝日新聞、英文は13日)。

  1. 日中韓のプルトニウム生産競争の悪夢
  2. 米国の軍事用プルトニウム処分と再処理中止
  3. 背景情報:核兵器利用可の物質の削減を提唱するオバマ政権

参考

 核兵器6000発分に相当する約50トンものプルトニウムを保有しながら、年間8トンの分離能力を持つ六ヶ所再処理工場を動かしてさらにこの核兵器利用可能物質を取り出そうとする日本の計画に対する強い懸念が米国の政権中枢にあることを示す一つの例です。最近の米国の新聞記事も同様の懸念が米政府内外にあることを伝えていますが、このような事実が日米関係を重んじるはずの政治家に影響を与えられないまま、再処理工場の運転が始まろうとしています。

日中韓のプルトニウム生産競争の悪夢

 10月7日付けのAPの記事(US experts warn plutonium stocks could soar in East Asia )は、日中韓3カ国の再処理政策に関する米国の政策が東アジアでのプルトニウムの急増を招く恐れがあると指摘する声を紹介しています。記事の背景にあるのは、中韓両国と米国の間の原子力協力協定改訂問題と、来年3月に完成、その後早急に運転開始という六ヶ所再処理工場の計画です。

 オバマ政権は、中韓両国との改訂協定(案)をそれぞれ、4月と6月に議会に送っています。これらは議会が反対しなければ近いうちに発効することになります。焦点の一つは、米国が提供した核燃料や米国製の原子炉で使われた使用済み燃料の再処理を米国が認めるかどうかです。米中改訂協定は、日米協定にあるのと同じような一括して事前に承認する包括同意を中国に与えています(中国の軍事用プルトニウム保有量は1.8トン)。米韓改訂協定は、韓国が開発をめざしている乾式再処理の全工程の内、軽水炉の酸化物燃料を金属形態にする電解還元まで認めるが、プルトニウムを分離する工程については将来米国が合意することが必要という内容となっています。米韓協定は再処理を認めていないとも、再処理を将来認める可能性を残したとも言えます。

 記事によると、民主党のエド・マーキー上院議員は、「我々は、我が国のパートナーが核兵器の構成要素として使われうる物質を生産するために米国の技術を使う可能性を残してはならない」と議会で発言しています。また、上院外交委員会のロバート・コーカー委員長(共和党)は、米韓協定の内容は、ソウルを「再処理に向けて導いている」ようなものだと述べ、協定は核不拡散という米国の政策目標の土台を損ねると指摘しました。また、このような協定だと将来「もし米国が再処理を許さなければ、韓国は(日本ほど)厚遇されていないということになってしまう」ではないかと懸念を表明しています(同委員長は、以前から、すでにウラン濃縮・再処理技術を持っていない国にはこれを認めるべきではないと主張:Corker: Inconsistency in Civilian Nuclear Deals Threatens U.S. Non-Proliferation Goals )。また、ロバート・ガルーチ元国務次官補・北朝鮮核問題担当大使は、米政府は「増え続けるプルトニウムの津波」の持つ脅威に賢明に対処していないと批判しています。

 同元国務次官補は、『ナショナル・インタレスト』誌(7月8日)掲載の論文(America Punts on Nuclear Security in Asia )で中国に対する包括合意提供について次のように述べています。「中国は核兵器を持っているから、これについては気にしない人々もいる。しかし、核セキュリティーや核テロのリスクの増大について懸念している人々は、余りにも多くのプルトニウムが毎年使用済み燃料から分離されること、そして、これが北東アジアの他の国々に対する前例となることについて心配している」。

米国の軍事用プルトニウム処分と再処理中止

 先日、「米元政府高官ら原子炉での軍事用余剰プルトニウム処分計画中止要請」で紹介したように、9月9日付けのワシントン・ポスト紙の記事が、軍事用余剰プルトニウムを処分するためのプルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料製造工場建設の中止を求めるエネルギー省長官宛書簡について大きく報じました。計画はMOX燃料を発電用原子炉に入れて軍事用余剰プルトニウムを処分するというものです。別の処分方法を導入するよう要請する書簡は度重なる遅延と予算超過に見舞われている「米国のMOXプログラムを中止し、それにより、プルトニウムには経済的価値がないと明確に示」せば、日韓中3カ国に再処理の延期を呼びかける上で説得力を持てると強調しています。元エネルギー・国家安全保障関係米政府高官らの書簡には、日米同盟の強化を提唱してきたジョセフ・ナイ元国防次官補も署名しています。

 オバマ大統領は、プラハ演説(2009年4月5日)において、世界の核物資の量の最小化と保安措置強化を重要課題と宣言し、「核セキュリティー(核物質保安)に関する国際サミットを1年以内に開催」すると約束しました。2010年から1年おきにワシントン、ソウル、ハーグで開かれてきた同サミットの大統領にとっての最後の会議が来年3月にワシントンで開かれます。ガルーチ元国務次官補は、上述の論文で核セキュリティー強化を政策の柱に掲げてきたオバマ大統領が、中国に再処理を認めるのは理解できないと批判し、同じ来年3月に六ヶ所再処理工場の完成が予定されていることの皮肉を指摘しています。プルトニウム処分に手を焼く米国、プルトニウムを増やそうとする日本。核セキュリティー・サミットでの米国のMOX計画中止と日中韓の再処理延期の同時発表を提唱する書簡のアイデア実現に向けて日本の反核運動は貢献できるでしょうか。

背景情報:核兵器利用可の物質の削減を提唱するオバマ政権

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