核情報

2016. 6.22

増やす夢から減らす夢へ

発電に必要なプルトニウムを増やすために必要というはずだった再処理や高速増殖炉「もんじゅ」が最近ではプルトニウムその他の放射性物質の量と毒性を減らす魔法の杖のようにに謳われています。「群分離」と「核変換」による「有害度低減」? この狐につままれたような話の実態を簡単にまとめてみました。

  1. 増殖の夢から廃棄物の減容・有害度の低減の夢へ
  2. 素晴らしい新たな夢
  3. 新たな夢の現実
  4. 「誇大広告」と批判する原子力規制委更田委員長代理

参考

新たな夢(群分離・核変換による減容・有害度低減の夢)の詳細ついては、次を参照。

増殖の夢から廃棄物の減容・有害度の低減の夢へ

使用済み燃料からプルトニウムを取り出す再処理は、元々、プルトニウムを燃やしながら使った以上のプルトニウムを生み出す夢の「高速増殖炉」に初期装荷燃料を提供するために構想されました。心配されたウラン枯渇も起きず、しかも増殖炉の技術は予想以上に難しく、いつまで経っても夢は実現しない。再処理でたまったプルトニウムをウランと混ぜて「混合酸化物(MOX)燃料)」にし、これを無理矢理軽水炉で燃やすことを計画したが、このプルサーマル計画も上手く行っていない。その結果、日本の保有するプルトニウムは、2014年末現在で約48トンに達しています。国際原子力機関(IAEA)の計算方法で核兵器約6000発分です。

それでも再処理計画を継続しようとする政府は、その正当化のために、プルトニウムなどのウランより重い元素──超ウラン元素(TRU)──の有害度を強調し、再処理でこれらの長寿命の物質をすべて取り出して「核変換」すべきだと主張しています。中性子を当てて核分裂させ、異なる元素にするということです。

素晴らしい新たな夢

使用済み燃料を直接処分するとそこに含まれる放射能が燃料の製造に使われた天然ウランのレベルにまで下がるのに10万年かかるが、六ヶ所でやろうとしている再処理ならこの期間を8000年に、さらに、高速炉/高速増殖炉サイクルを使えば300年にできる。つまり、それぞれ、12分の1(10万年÷8000年)、330分の1(10万年÷300年)の有害度の低減が達成できる。そして、高レベル廃棄物の量は、それぞれ、4分1、7分の1に減容できる。これが再処理・核変換による減容・有害度低減という新たな夢です。

新たな夢の第1段階は、現在の再処理とMOX利用ですが、これには限界があります。プルトニウムとウランを取り出す現在の再処理では、地層処分場に送られるガラス固化体の中にプルトニウム以外のTRU(アメリシウム、ネプツニウム、キュリウムなど)が含まれています。TRUはアクチニド(またはアクチノイド)と呼ばれるグループに属しています。TRUの中でプルトニウムは特別扱いでメジャー・アクチニド、その他の元素はマイナー・アクチニド(MA)と呼ばれます。いろいろな元素群を仕分けして取り出す「群分離」方式の新しい再処理システムを開発してMAも取り出し、これも燃やそうというのが新たな夢の第2段階です。第2段階の焼却システムの一つが高速炉。高速「増殖」炉のプルトニウム増殖の役目を担う「ブランケット」という部分を外し、プルトニウムその他の超ウラン元素を燃やす高速炉として活用するという話です。もんじゅもこの新たな夢の実現のために必要だと言います。

新たな夢の現実

しかし、再処理で取り出したTRU(プルトニウム及びMA)は、そのまま消えてはくれません。TRUは核兵器に使えます。この有害で危険な核兵器利用可能物質が地上で大量に出回ることになります。しかも第1の夢は完結しません。使用済みMOX燃料は六ヶ所では再処理できず、しかもその再処理で得られるプルトニウムを普通の原子炉で燃やすのは効率が悪すぎるからです。原子力規制委員会の田中俊一委員長も2014年11月19日の記者会見で「MOXの使用済燃料を再処理するためには新しい再処理工場を造らなくてはいけない……高速炉を動かさない限りは、処理したMOX燃料は使えない」と述べています。つまり、現状では使用済み燃料は処分場に向かうということです。必要な処分場の容積を決めるのはゴミの体積ではなく発熱量です。使用済みMOX燃料は普通の使用済み燃料の3〜5倍の発熱量を持っています。これを処分場に入れることになれば、減容したと言っても元の木阿弥。処分場に送られるMOX工場などのTRU廃棄物を無視しても「減容化」は意味をなさなくなります。おまけにプルトニウム含有率は、使用済み低濃縮ウラン燃料の1%に対して、4%ほどになります。つまり、8000年の目標は、MOX使用済み燃料を再処理する特殊な施設と取り出されたプルトニウムを燃焼するための多数の高速炉の建設を前提としているのです。

「誇大広告」と批判する原子力規制委更田委員長代理

また、300年の目標は、TRUを取り出せる特殊な再処理施設と、TRUを燃やす多数の高速炉の建設を前提としています。普通の再処理でのプルトニウム回収率は99.5%なのに対し、新しいシステムのTRU回収率は99.9%という想定です。

原子力規制委員会の会議(2015年11月2日)で更田豊志委員長代理はこの夢の売り方を次のように批判しています。「もんじゅの利用のアイデアとして、廃棄物の減容であるというような、無毒化というか、核変換のようなことを、これも理屈としてはあり得る話ですけれども、前提として分離をするところもないし、燃料を作るところもないし、ペレット1個作るだけでも大騒ぎの技術ですよね。これをできるかのように、これは10年先、20年先に原理として高速炉で可能なものかもしれないけれども、現状、ペレットを作るようなところも、ペレット1個ですら作るようなところがないわけです。それを、もんじゅが動けばこういった廃棄物問題の解決に貢献するかのように言うのは、少しこれ、民間の感覚でいえば誇大広告と呼ぶべきものではないでしょうか。」

米国科学アカデミー(NAS)は、1996年の報告書『核廃棄物:群分離と核変換の技術』(約570ページ)で新たな夢には方法論的問題があること指摘しています。ネバダ州のヤッカ・マウンテン処分場に送られることになっている6万2000トンの軽水炉使用済み燃料の再処理・核変換について分析したものです。軽水炉運転が終わった段階で一気に多数の高速炉の運転を開始してTRUを燃やす。そこで生じる使用済み燃料からTRUを取り出し新しい高速炉で燃やすというのを繰り返す。このシナリオで地層処分場に送られるTRUの量を直接処分の場合の約100分の1にするのに200年ほどかかるというものです。ゴミを高速炉1基に放り込めば立ちどころに消えてしまうという話ではありません。報告書は言います。「被曝線量の減少はどれをとってみても、核変換の費用と追加的運転リスクを正当化するような大きさのものではない。」


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