核情報

2009.10.15

核の先制不使用に反対する川口国際委員会共同議長の論理
──米国の宣言と他国の宣言を混同  10月13日の長崎での記者会見で

「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)」の共同議長川口順子元外相は、13日に長崎で開かれた記者会見で、核保有国すべてが先制不使用を宣言しなければ意味がないが、世界は、直ちに先制不使用と言える状況にはないと主張しました。これは、圧倒的な核及び通常戦力を持つ米国が率先して先制不使用宣言をすることによって、核が有用だという考えをなくしていこうという議論を無視したものです。

参考







1)川口共同議長の発言の要約

  • ICNNDは、有識者グループであり政権の交代は委員会の議論とは関係ない。委員15人は個人の立場で入っている。
  • 世界で先制不使用宣言をしている国は、中国とインドの2つしかない。宣言だから信用できるかどうか。ほかの国が先制不使用を言っていないこと自体が、世界は、ただちに先制不使用を言える状況ではないということを物語っている。これは一国だけが言っても意味がない。みんながそう言わなければ意味がない。核の先制不使用というのは、早く言えればそれに超したことはないけれども、それによって世界の安全が危機に曝されるような状況がないようにしながらそれを言って行かなければならない。
  • 日本をめぐる安全保障は複雑。北朝鮮の問題もある。
  • 先制不使用宣言の条件は、CTBT(包括的核実験禁止条約)の発効や、FMCT(兵器用の核分裂物質の生産禁止条約)締結・発効、化学兵器や生物兵器を検証付きの禁止をする条約の普遍化などいろんなことがたくさんあると思う
  • 2月の記者会見のときには、米政府の要人に対して核の先制不使用を宣言してくれと要望したと報道されているが、「先制不使用そのものではない。核は核の抑止のためである、ということをほかの国と一緒に言えるように検討してほしいという言い方をしたと思う。」

2)川口共同議長の発言要約とコメント、関連する核情報のこれまでの記事

  • ICNNDは、有識者グループであり政権の交代は委員会の議論とは関係ない。委員15人は個人の立場で入っている。

これは、原理的には正しい。ただし、福田政権が、自民党政権の元外相を委員に、核兵器の役割限定、先制不使用策に強硬に反対する佐藤・阿部元外務省官僚を諮問委員に選んだこと自体が極めて政治的。

広島被爆者団体、日本が核廃絶の障害にならないよう要請

日本は、川口共同議長の他、3人の諮問委員を抱えています。佐藤行雄元国連大使、国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターの阿部信泰所長、それに、原子力委員会の近藤俊介委員長。阿部・佐藤両氏は、先制不使用に強硬に反対してきた人々です。川口共同議長も、歴代自民党政権の政策を反映した動きをしているとのことです。

前述の通り、首相や外相は、川口元外相や諮問委員の行動に直接影響を与えることはできませんが、オバマ政権と共同で米国の核政策の変更を実現することはできます。民主党政権が、自民党政権の政策と決別し、「核の役割を他国の核使用の抑止に限定」することに賛成し、先制不使用をも支持するとの立場を早急に表明するようあらゆる手段を使って働きかけることが必要です。



  • 世界で先制不使用宣言をしている国は、中国とインドの2つしかない。宣言だから信用できるかどうか。ほかの国が先制不使用を言っていないこと自体が、世界は、ただちに先制不使用を言える状況ではないということを物語っている。これは一国だけが言っても意味がない。みんながそう言わなければ意味がない。核の先制不使用というのは、早く言えればそれに超したことはないけれども、それによって世界の安全が危機に曝されるような状況がないようにしながらそれを言って行かなければならない。

他の委員が求めているのは、米国が「核の役割を他国の核使用の抑止に限定」と宣言し、続いて、核を先には使わないと先制不使用宣言をすること。他の国の話を持ち出すのは、議論のすり替え。米国は、「核の役割を他国の核使用の抑止に限定」する宣言を検討しているが、日本がこれに反対してきている。

軍縮の障害となる日本の政策:再処理推進と先制不使用反対

 麻生首相は、八月九日の記者会見で、先制不使用宣言をした国の「意図、お腹のなかを検証する方法はない」から、これに頼るのは、「日本の安全を確保する上で、現実的にはいかがなものか」と述べた。これは先制不使用宣言をしている中国を念頭に、これまでの外務省の説明を繰り返したものだが、議論のすり替えだ。先制不使用方針をとっても、中国や北朝鮮による核攻撃に対する米国の核抑止の前提は変わらない。現在求められているのは、圧倒的な核及び通常戦力を持つ米国の先制不使用宣言だ。これもできないようでは、オバマ大統領や日本が目指すという核廃絶に向けて進みようがない。 

必要なのは先制不使用条約と検証?

今必要なのは、他の国の約束ではなく、圧倒的な核および通常戦力を持つ米国の政策転換だ。求められているのは、米国およびその軍隊、あるいは同盟国が核攻撃を受けたとき以外、核兵器を使わないと米国が宣言することだ。そして、その先制不使用政策に基づいて、核態勢を変える(偶発的核戦争を防ぐため、分単位で発射できるミサイルの警戒態勢を解除し、一方的にあるいは米ロ間の合意に基づき核の大幅削減を実施するなど)。米国自身が率先して核の存在意義を薄めることにより、核拡散防止体制の強化のための協力を得る上での説得力が増す。また、他の核保有国とともにさらなる大幅削減を行う準備が整う。



  • 日本をめぐる安全保障は複雑。北朝鮮の問題もある。
先制不使用宣言をしても、抑止力は残る。1)北朝鮮がもし核兵器以外の兵器で日本に攻撃をかければそれには通常兵器で報復するから攻撃をしないようにと警告する通常兵器による抑止。2)核兵器による攻撃には核兵器攻撃で応じると警告する核による抑止。

北朝鮮との関係で先制不使用宣言の持つ意味は?

生物・化学兵器及び通常兵器による攻撃に対して核を使用する可能性を残すよう米国に求めながら、北朝鮮に対して核兵器の放棄を求めるという日本の姿勢では、北朝鮮を含む国々の核拡散を止めようと訴えても説得力がないと言う意味での影響は大きい。



  • 先制不使用宣言の条件は、CTBT(包括的核実験禁止条約)の発効や、FMCT(兵器用の核分裂物質の生産禁止条約)締結・発効、化学兵器や生物兵器を検証付きの禁止をする条約の普遍化などいろんなことがたくさんあると思う。

CTBTやFMCTは核兵器ゼロ実現の条件ではあっても、核保有国が先制不使用宣言をする条件ではない。ましてや、米国の先制不使用宣言の条件ではない。



  • 2月の記者会見のときには、米政府の要人に対して核の先制不使用を宣言してくれと要望したと報道されているが、「先制不使用そのものではない。核は核の抑止のためである、ということをほかの国と一緒に言えるように検討してほしいという言い方をしたと思う。」

実際には、川口共同議長は、2月15日、「ノーファーストユース(先制不使用)」と発言している。

川口元外相の日本人記者用会見

「ノーファーストユース(先制不使用)を言ってくれないかと言うことですけども・・・基本的には、核のドクトリンの今の状況をこのままで良いかどうか考えて少し前に進めてくれと言うことなんです。」

広島被爆者団体、日本が核廃絶の障害にならないよう要請で見たとおり、実は、川口共同議長は、歴代政権の考え方を踏襲する形で、「核は核の抑止のためである」と言うよう米国に求めることにも反対している。

「日本が「核の傘」弱体化に抵抗 米への賢人会議・新戦略勧告で」(共同 9月13日)

核廃絶への道筋を探る賢人会議「核不拡散・核軍縮に関する国際委員会」の報告書草案で、米国に対し、核兵器の「唯一の目的」を核戦争阻止に限定し、核の役割を低下させる新核戦略を採るよう促す勧告が盛り込まれたことについて、「核の傘」の弱体化を恐れる日本の委員が異論を表明していることが13日分かった。

 草案は、来年5月の核拡散防止条約(NPT)再検討会議までにオバマ米大統領が新戦略を宣言するよう求めているが、北朝鮮の生物・化学兵器による攻撃に対する核抑止力堅持にこだわる日本側は、宣言の早期実現に抵抗しているという。複数の委員会関係者が明らかにした。



3)川口共同議長 10月13日記者会見記録

 民主党政権は核の先制不使用支持の立場だが、川口議長の核の先制不使用についての考えは?

川口 ICNNDは政府の有識者グループだから政権の交代は関係ない。委員15人は個人の立場で入っている。私個人の考えは、報告書にどう反映するかは他の委員の議論による。

核をゼロにするのは核の役割をどんどんなくしていくことを意味する。

核が抑止として効くというのは、核の役割を認めていることだから、核の役割を減じていくことは、どこかで抑止という役割を核と切り離さなければならない。抑止はずうっと必要だと思うが、それが問題は核であるか核でないか。

核がなくても安全だということをみんなに理解をしてもらわないといけない。

核が現に抑止として有用だと思っている国がたくさんある。それから、核がゼロということに行くまである程度時間がかかる。

先制不使用というのは、どこかでは出てくることになると思うが、ただちに先制不使用と言える国際社会の状況にあるとは言えない。

できるだけ早くそういうことが言えるような、例えばCTBTを批准をして成立させるとか、いろんなことをやりながらそういう環境を整えていく。核の先制不使用というのは、早く言えればそれに超したことはないけれども、それによって世界の安全が危機に曝されるような状況がないようにしながらそれを言って行かなければならない。直ちに先制不使用と言える国際社会の状況にあるとは言えない。

 日本にとって、核の先制不使用を言えない要素は?

川口 世界で先制不使用と言っている国は、中国とインドの2つしかない。本当にそれを信用していいのか、と言う人もいる。ほかの国が先制不使用を言っていないこと自体が、まだまだただちに先制不使用を言える状況ではないということを物語っている。

日本をめぐる安全保障は複雑。北朝鮮の問題もある。核を持っている国々自体が先制不使用を言えていないこと自体が、ただちには先制不使用は難しいと、国際社会として考えているということだと思う

ただ我々委員会は核をゼロにしようと考えているので、政府と同じことを言っているのでは意味がないと思う。その一歩先を歩いていくことが必要だと思う。

 米国は核の先制不使用を言おうとのスタンスに変わりつつある、という情報もある。そのときに日本政府が言わないでくれ、従来通り核の先制使用は堅持してくれ、と言っていると。それが米国の核政策を変える障害になっているのでは。

川口 私は政府の人間ではない。政府が何を言っているか、米国が何を考えているかは全然分からない。だが、米国は来年早々に政策の発表をすることになっている。「核態勢の見直し(NPR)」という文書だ。そのなかに考え方が出てくるだろうから、それを見て判断することだろうと思う。NPRはもう数カ月後に出てくる。

 米国に従来の先制使用方針をやめる方向で、被爆国として提言をしていくことは考えられないのか。

川口 来年、核をゼロにできるわけではない。廃絶をしたいという気持ちと、「中国とインド以外は先制不使用と言っていない。中国とインドも裏付けがあるかどうか分からない」という状況で、その間のどこに足場を置くかは非常に難しいところだ。この両方を踏まえないと、どちらかに偏っても、やはり実際に動かさないといけないので、難しい。

政府の立場があるだろうし、私個人は個人の立場としてある。やはり、大事なのは、核廃絶をしたいと言うだけでは十分ではなく、そこに行くような具体的な行動計画を作っていくということだ。みんなに動いてもらわないといけない。米国政府もロシア政府も中国政府もそれが受け入れられるような形で進めていくのが大事だと思う。

 委員会は政府ではなく有識者会合だ。日本政府としては核の先制不使用は困るということだが、有識者会議であるならば、核の先制不使用を打ち出してもいいのではないか。

川口 どういう条件がそろったら、核保有国が先制不使用と言えるか。これは一国だけが言っても意味がない。みんながそう言わなければ意味がない。どういう条件がそろったらそう言えるかきちんと考えないといけない。

 現時点でどういうことが整えば、それが可能だと思うか。

川口 たくさんあると思う。例えば、CTBT(包括的核実験禁止条約)が発効する、FMCT(兵器用の核分裂物質の生産禁止条約)の交渉が終わって条約になり、検証メカニズムができている。化学兵器や生物兵器を検証付きの禁止をする条約が普遍化している。いろんなことがたくさんあると思う。いつ実行できるかは別として、そういう考え方でいくんだということを打ち出すことは重要だと思う。

 2月の記者会見のときには、米政府の要人に対して核の先制不使用を宣言してくれと要望したと報道されているが。

川口 先制不使用そのものではない。核は核の抑止のためである、ということをほかの国と一緒に言えるように検討してほしいという言い方をしたと思う。


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