核情報

2022. 3.14

NATO 4カ国60発の核爆弾を「核共有」
──魅せられる安倍元首相?

 安倍晋三元首相が2月27日のテレビ番組で、日本も「核共有」の議論が必要と発言して話題を呼んでいます。「核共有」というのは、米国と欧州の「北大西洋条約機構(NATO)」加盟国が冷戦時代以来とっている体制です。「米科学者連合(FAS)」の核問題専門家ハンス・クリステンセン氏によると、現在、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダの4カ国に配備されているそれぞれ15発ずつの米国の核爆弾、計60発が共有状態にあります。米国がNATO諸国に配備している核爆弾は、5か国6基地に約100発ありますが、そのうち、イタリアのアビアノ基地配備の20発は米軍機用であり、トルコ配備の20発の投下用に割り当てられたトルコ機はなく、米軍の投下用航空機も常駐とはなっていません。

 以下、簡単に核共有の論点を整理し、クリステンセン氏のデータを紹介します。

  • 4カ国のパイロットたちは定期的に模擬投下訓練を受けていて、いざ、核戦争となると、これらのパイロットが投下するという仕組。
  • 核兵器の非核兵器国への移譲は、核不拡散条約(NPT)第1条で禁じられているが、普段は米国管理下に置いておいて、核戦争が始まったら、条約はご破算だからOKとの発想。
  • 核投下の最終決定を下すのは米国大統領。
  • 4カ国が勝手に核兵器を使えるわけではない。
    (NATOの国々は、これら4カ国以外も(フランスを除いて)「核計画グループ」に入って核使用に関する議論に参加できる。)
  • NATOの核共有は核不拡散条約(NPT)発効以前から存在。
  • 今、日本が採用なら少なくともNPTの精神に反する。
  • 米国が現在、日本に「核共有」を提案しているのではない。
  • 前提として、ウクライナが世界第3位の核保有国だったのに核を放棄したから今ロシアに侵略されているという趣旨の主張がされているが、ウクライナには旧ソ連の核が配備されていただけで、ウクライナが所有していたわけでも、使用できる状態にあったわけでもない。

2021年現在の共有核配備状況

欧州配備の米国B61 型核爆弾2021年(クリステンセン/FAS)
国名 空軍基地名 核兵器 各国運搬航空機
ベルギー クライネブローゲル B61-3/-4 15発 F-16
ドイツ ビュッヘル B61-3/-4 15発 PA-200
イタリア アビアノ B61-3/-4 20発 F-16 (米軍)
ゲディ B61-3/-4 15発 PA-200
オランダ フォルケル B61-3/-4 15発 F-16
トルコ インジルリク B61-3/-4 20発
計:5ヵ国 100発


欧州配備の米核兵器 2021年(クリステンセン/FAS 2021)

 現在配備中の基地    撤去した基地

出典:NNSA Removes F/A-18F Super Hornet From Nuclear Bomb Fact Sheet Federation of American Scientists December 15, 2021

詳しくは、以下の記事を参照。

*上に示した地図と表もこれらの記事に「追記」として載せて現状と合わせて理解できるよう試みてある。


参考

  • 安倍晋三元首相

    [橋下徹氏(番組レギュラーコメンテーター・元大阪府知事・元大阪市長・弁護士):
     日本がいきなり核を保有するのは現実的でないにせよ、非核三原則の「持ち込ませず」は、米国と共同で(見直す)という議論をしていく。自民党はちょっと腰が引けている。この話をすると、一部メディアから思いきりたたかれるから。でも、次の参議院選挙でしっかり争点にしてほしい。日本の防衛はどの方向で行くのかと。核というものを考えていこうという方向でいくのか、いかないのか。選挙で問うてもらいたい。]

    安倍晋三元首相
     核の問題は、NATOでも例えば、ドイツ、ベルギー、オランダ、イタリアは核シェアリング(核共有)をしているんですね。自国に米国の核を置いていて、それを(航空機で)落としに行くのはそれぞれの国がやるというデューアル・キー・システムですね。こういうことをやっているということは、恐らく多くの日本の国民の皆さんも御存じないだろうと思います。日本はもちろんNPTの締約国で、非核三原則がありますが、世界はどのように安全が守られているか、という現実について議論していくことをタブー視してはならないと私は思います。

    [橋下氏:
     日本でもこれから核シェアリングの議論をしていくべきだ。NATO加盟国(の一部)は現実に核シェアリングをしており、ロシアは簡単には手を出せない。核は絶対使ってはいけないが、議論は必要だ。]

    安倍元首相:
     かつてウクライナは世界第3位の核保有国だったんですね。そして、「ブダペスト覚書」によって、核を放棄する代わりにロシア、米国、英国が安全を保障する、国境や独立を守ると言ったんですが、残念ながらそれは反故にされてしまっています。もしあのとき一部戦術核を残して、彼らが活用できるようになっていれば、どうだったかという議論も今行われていますね。ですから、そういう意味で冷静な議論を行う。ただ、もちろん、核被爆国として核を廃絶する目標は掲げなければいけないし、それに向かって進んでいくことは大切なんですがこの(ウクライナの)現実に、日本国民の命、日本国をどうすれば守れるかについては、さまざまな選択肢をしっかりと視野に入れながら議論するべきだろうと思います。

    出典:「核共有の議論必要」で安倍氏と橋下氏が一致
    日曜報道 THE PRIME 国内2022年2月27日 日曜 午後8:41
    3:50頃から
    橋本氏発言は「番組での主なやりとり」から
    安倍元首相発言は、録音からほぼそのまま再現。

  • 岡田克也元外務大臣 (現立憲民主党)2022.03.07

     プーチン発言に関連して、ウクライナはソ連邦崩壊時に核兵器を手離したために、いま核の脅しを受けているとの発言がありますが、これは二重の意味で見当違いです。先に述べたように、プーチン発言はウクライナに脅しをかけているのではありませんし、そもそもソ連邦時代に、その一部であったウクライナに配備された核兵器は、ソ連邦(=モスクワ)のものであり、ウクライナが自分の意思で運用できるものではなかったはずです。ウクライナの核が混乱期に第三国に流出しないよう、ロシアに移管することを米国も合意したのであって、独立したウクライナが核兵器を運用することは、能力的にもあり得なかったはずです。
     核シェアリングについて、安倍元総理が言及し、今週のフジテレビが再度取り上げていました。維新の会も政府に議論を求める提言を行ったと伝えられています。核シェアリングは日本国内に核兵器を保有、又は安定的に持ち込むことが前提で、非核三原則に明らかに反するものです。議論することは認めるべきとの指摘もありますが、いま政治家にとって大切なことは、核の脅しを行っているプーチン大統領を厳しく批判することであって、プーチン発言に刺激され、同じ土俵で軽率に議論することではないと思います。
     私の外相時代の緊急時における核搭載艦の一時寄港に関する発言を、高市自民党政調会長が取り上げました。私の発言は「緊急事態が発生して、かつ核搭載艦の一時寄港を認めないと、日本の安全が守れないというような事態が発生したときは、そのときの政権が命運をかけて寄港を認めるか否かを決断し、その決断について国民に説明すべき」というものでした。この問題の説明は、私の著書「外交をひらく」(岩波書店)の95頁以下に詳しく書いておきましたが、当時考え抜いた結果の結論であり、外相としての職責をかけた発言でした。今でもその考えは全く変わっていません。しかしこれも落ち着いた環境の下で、冷静に、かつ深い議論を行うべきであり、ウクライナ問題が一定の着地点に落ち着いた後で、国会で議論すべきことだと思っています。

    出典:プーチン大統領の核発言-冷静な対応を
    岡田克也TALK-ABOUT [ブログ] 2022.03.07

  • 石破茂元防衛大臣 2022/3/9

    「あまり言われていないことだが、ウクライナは世界第3位の核保有国だったが、ブダペスト覚書(1994)で、核を持つ国は限定するからウクライナも入れと言われて入った。そして“ウクライナの核はロシアに移送する、代わりにロシア、アメリカ、イギリスが安全を保障するから”と。このことを踏まえて、“もし核を持っていたらこんな目に遭わなかった”ということが、ウクライナの中では公然と言われている。
     リビアのカダフィ大佐も、核を放棄したらやられてしまった。イラクのサダム・フセイン大統領もそうだった。北朝鮮の金正恩総書記は、同じ目に遭うのは嫌だと間違いなく思っている。日本はどうなのか。非核三原則がある。しかし、どうやってリビアにならないのか、イラクにならないのか、ウクライナにならないのかということまで言わないと、国民に責任ある説明をしたことにはならない。
     私は核共有の話を、何年も前からしてきた。“そんなことをやっても意味がない”、“最終的にはアメリカが使う権限を持っている。戦闘機に積むタイプのものだから、実際に使うことになっても、ものすごく時間がかかる”など、否定論はいっぱいある。しかし、なぜドイツやベルギーなどの国々がこの政策を採っているのかを突き詰めて理解しないまま“そんなものはダメだ”と言うのは思考停止だ。
     意味がないとするなら、日本はどうするのかということだ。“アメリカの核の傘があるから大丈夫”と言うが、その傘はどれくらい大きな傘なのだろうか。いつ差してくれて、いつ差してくれないのだろうか。穴は開いていないか、つまり有効性を常に確認することも大事ではないか。NATOの国々は、ずっと検証をしている。それをしないで、“いざとなったら核の傘があるから大丈夫”というのは、一種の思考停止ではないか」。

    出典:「“アメリカの核の傘があるから大丈夫”は思考停止ではないか。日米安保があるから大丈夫だと無思考になってはダメだ」石破元防衛大臣がロシアのウクライナ侵攻に危機感 ABEMA TIMES 2022/3/9

  • 西田充長崎大学教授(外務省で長年にわたり軍縮・不拡散を担当)

    (質問:旧ソ連崩壊後の1994年のブダペスト覚書でウクライナは旧ソ連時代の核兵器を放棄し、ロシアは領土保全を約束しました。この経緯をどう見ますか。)
     ウクライナが核を放棄したから、今回のロシアの侵略を招いたというのは事実に反します。当時のウクライナは「世界第3位の核保有国」だったと言われるが、領内にあっただけで管理権も、維持・運用の能力もなかったのです。
     今、ドイツに米国の核爆弾が配備されていますが、そのことをもって、ドイツを「世界第何位の核保有国」と言うようなものです。
     当時のウクライナに核兵器を保有したままでいる選択肢はなく、ロシアに返すしかありませんでした

    出典:ロシア「核の恫喝」ねらう先は 日本の「核共有論」米はどう見る 2022年3月9日 朝日新聞

  • 共同通信社・太田昌克編集委員 2017/09/12
    冷戦期にニュークリア・シェアリングが検討されていた!? 共同通信社・太田昌克編集委員が米統合参謀本部文書を分析「NATOに近いタイプを米軍部は思い描いていたのでは」~岩上安身インタビュー

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